65話
サブタイトル考えるの面倒になったんで今回から数字で何話と書くことにしました。
カスミの姿が見えた事で大きな声を出しそうになってしまったが、まだ外に誰が居るか分からないのだ、慎重にならなければ。
カスミは私の姿を確認して笑った直後、ハッとしたように唇に立てた人差し指を当てる。私はコクコクと頷き、しかし安心感から笑みが零れる。カスミは無事だった、きっとどこかで上手い事逃げ出していたのだろう。そして助けに来てくれた。
カスミは小さな体を活かして格子を簡単にすり抜けると、私の腕を縛る縄をグイグイと引っ張り始めた。
「カルデノの様子は見た? どうだった?」
小声で伝える。しかしカスミはそもそもカルデノが入れられた小屋に入ってもいないらしい。まだタンテラがいて、忍び込む事も出来なかったと。
「そっか……」
縄はカスミの小さな手で解く事はそもそも無理だったらしく、カスミは縄を見つめたままアゴに手を当てて考え始めた。私も任せきりでなく考える。
「外に何か、ロープを切れそうな物とか無かったかな?」
コソコソと小声でカスミに聞いてみる。だが聞いてみてから、その辺に刃物が転がっているわけもないと言葉を取り消そうとした。しかしカスミは心当たりがある、と言いたげに格子の外へ出て、窓を指差してから外へ出て行った。
どうやら心当たりがあるらしいが一体……?
それから五分ほどして、両手に抱えるほどの大きさの石を持って戻ってきた。形は割った石の一片のように鋭利な角度がついたもの。それをロープに押し付け上下に動きが感じられる。どうやらこの石でロープを擦り切ろうと言うことらしい。石などで切れるものなのかと思っていたが、カスミの力でたった数分後あっけないほど簡単にロープが切れた。
「と、取れた……!」
絡み付いたロープを取り払い腕をだらりと下げる。肩や手首に痛みがあるが、解すように何度か動かす。
「ありがとう、カスミ。本当に、本当に助かったよ」
赤みと熱を持つ手首を摩りながらそう告げると、カスミは嬉しそうに何度も頷いた。
両手が自由になったのは大きいだろうが、それにしても閉じ込められている状況に変わり無い。
試しに格子に手をかけて力いっぱい押してみるが、びくともしない。牢屋の入り口の扉も同じ。錠も大きく頑丈で、例えば何かで殴ったとしても壊せるかどうか。
「もー、どうしよう……」
思わず頭を抱え、その周りをカスミが心配そうに飛び回る。
「カスミは何か思いつかない? ここから出る方法。私も今考えてみてはいるんだけど、道具も何もないし」
カスミは腕を組んで首を捻る。悩んでいるようだが、簡単に回答は得られそうも無い。
「あ……」
床に放られたレシピ本が目に入り、格子の間から腕を伸ばしそれを取ろうとする。別に今無ければ困る物ではないが、手元になければ落ち着かない。持って行かれた荷物の中で唯一この場に残された物でもある。
「もうちょっと……」
ぐっと格子に肩が触れるほど腕を伸ばすが、寸の所でレシピ本まで届かない。こんなときこそカスミに頼もう、とカスミに振り返ったが、そもそもカスミの小さな体でレシピ本を動かす事が出来るだろうか。
「あのさカスミ、一応聞いてみるけど、あの本こっちに持ってこられそうかな?」
聞かれるとカスミは考えるより先にレシピ本の真横に立ち、ぐーっと押してこちらとの距離を詰めてくれた。
「わあ、ありがとう」
カスミのお陰でレシピ本が手元に戻ってきてほっと安心する。だがそれがどうしたと言われてしまえばそれまで。もう一度格子を揺すってみるも結果は同じ。
レシピ本を膝に抱えて格子を睨むように座り込む。
「早くここから逃げないと、何されるか分からないよね」
うんうんと意見に賛同してくれるカスミ。カスミも私を助けようと尽力した事で疲れが出たのだろう、私の肩の上に腰を下ろした。
「……カルデノ、大丈夫かな」
何か目的があってカルデノを連れてきたなら酷いことをされていないだろうと、かなり楽観的ではあるが考えてみる。そうしないと気が気ではなくて、それなのに身動きが取れない。いつも助けてもらっているカルデノを助ける事が出来ない事が苦しい。
牢屋から出られなければやれる事は少なく、また物も置かれていない事で手段は完全に絶たれた状態である。大きなため息を一つ吐き、レシピ本のページを適当に開いて見た。
思えばポーションしか作らない私でもレシピ本には様々なレシピが載っている。単純な材料から名前も知らない材料、そして薬ではなく武器の類も生成する事が出来るのだと、今目にするまですっかりと忘れていた。
「……木と、鉄」
そんな二つの材料でダガーが作れるらしい。随分前の記憶ですっかり忘れていた。
ぽんぽんと肩を数回叩かれる。カスミは私の肩から飛び立っていて、私が振り向くとクイクイと格子の方を勢いよく指差すので、まさか誰か来たのかと目を見張るがそんな事はない。
そうではなく、カスミは格子の扉を施錠する錠を指差していた。
「それがどうかしたの?」
何をしたいがための行動なのかと首を傾げるが、カスミは必死になってレシピ本のダガーと錠を交互に指し、さすがに私もピンと来た。
「この錠の鉄と格子の木材でダガーを作って、施錠を外すって事……!?」
カスミは激しく何度も頷き、私は勢い良く立ち上がった。
片手にレシピ本を持ち、しっかりと必要な材料を確認。確かにレシピには鉄と木があればダガーが作れると書いてある。しかし鉄も木も、材料となる物は既に物としての形やも役割も持っているのに、ダガーを生成する事は可能なのか。
「か、考えてる暇なんてないよね……。生成」
光が溢れ、眩しさから目を瞑る。窓は高い位置に小さな物があるだけ、それに夜でもない今ならそう目立ちはせず、むしろ誰にも気づかれていないはずだ。
眩しさに瞑っていた目を開くと、あの大きく頑丈そうな錠と格子の一部の木が無くなり、外側にダガーが一本落ちていた。
「……成功、した?」
指先が若干震える手で出入り口を押すと、キイッと蝶番が小さく軋む音を立て、抵抗なく開いた。
私は目を見開き、唇を噛んだ。成功した、この牢屋から脱出出来たのだ。
大声を上げて喜ぶ事は出来ないが、カスミはその成功を全身で表しながら室内を大きな動きで飛び回る。
私は生成したダガーをそっと拾い上げた。鞘がなく刀身が剥き出しなのが気になるが、これのお陰で出られたのだから文句はない。
せっかく生成したのだから、いくら刃物を扱えない私とは言え放置するとは考えなかった。片手にダガーとレシピ本を持ったまま、そっと外へと続く扉に耳を当てる。少しでも外の様子を窺えないかと思っての事だったのだが、あまりに静かだった。聞こえてきても自然的に発生する風の音や、鳥の鳴き声くらい。
このまま扉を開けてしまおうか。しかし万が一にも誰かが居ればここまでした行動も無駄になるだろう。一度扉から離れ、唯一この小屋にあった椅子を窓の下に移動し、その上に上がる。そうすると少し背伸びするだけで、外の様子を覗く事が出来た。
窓から見える範囲には私がいる小屋と同じような作りの建物がいくつか見えるが、そのいずれにカルデノが閉じ込められているか分からない。そして誰もいない。声もしない。不気味なほど静かだった。
「カスミ、扉の前に誰もいないか見て来てもらえるかな?」
カスミは先程から私に頼まれてばかりだが、嫌な顔一つせず、様子を見るため窓から外へ出た。
一分もせず戻ってきたカスミは両腕で大きな丸を見せた。誰も居ないようだ。私は大きく頷いて再度扉の前へ。そのタイミングで肩にカスミが乗ってきた。
出来るだけ静かに、ぎゅっとダガーを握り締め扉を開く。
扉に鍵がかかっていないのは幸いだった。ささっと壁伝いに歩き、小屋の角では自分なりに細心の注意を払いつつ、そっと覗き込むようにして死角の確認を行うが、どうやらその役目はカスミが担ってくれるらしく、そっと壁伝いに飛んでゆく。
「誰もいない、よね?」
ぽつりと独り言を呟いた瞬間、後ろから大きな手が勢い良く口を塞いだ。
「んん!?」
ドッと心臓が跳ね上がり、驚きのあまり手に持っていたレシピ本とダガーを落としてしまった。だがここで抵抗しなくては逃げ出した苦労が水の泡。腕を振り上げて暴れるもそれを止められ、音を聞きつけたカスミが風のごとく戻り、そして目を丸くした。
「お、おい落ち着け。俺だガジルだ。静かにしろ」
ガジル、と名を聞き、ぴたりと抵抗の手を止める。相変わらず口は塞がれているが、その手に拘束の意思は感じられず、後ろを振り返る事が出来た。
「俺の顔覚えてるよな?」
確かにガジルさんだった。
「手を離すからとりあえず話を聞け、な?」
私はコクコクと大袈裟なほど頷いて、それからそっと口を塞ぐ手が離れた。
「ごめんなさい、また捕まるかと思って……」
「いや、突然声をかけたら声を出すだろうと思ってやった事だったんだが、俺も悪かったな」
ガジルさんは気まずいと語る表情で、会話に不自然な間が空いてしまったため、落としてしまったダガーとレシピ本を拾い上げながら聞いた。
「ガジルさんは、どうしてここへ?」
「ああ、カルデノが捕まったって耳にして来たんだが、コソコソ行動してたらあんたを見つけた。あんたもカルデノを助けに来たんだろ?」
「実は私も捕まってて、今この小屋から抜け出したばかりなんです」
ガジルさんは驚いたように目を丸くし、へえ。と声を漏らした。
「その妖精の手伝いでって感じか」
今はココルカバンがなく、姿を隠す事無くここにいるカスミを指差した。カスミは指を差された事が気に食わなかったのか、すすっと私の肩の上に移動した。
「好かれてるんだな。まあ抜け出せたなら丁度いい。カルデノを助けるのを手伝え。急がないとまた奴隷にされちまうぞ」
「!? そ、そんな……」
「嘘じゃねえ。明日には奴隷商が来るぞ。殺すよりずっと苦しい事させようって考えなんだ」
冷や汗が滲む。すぐにでもカルデノを助け出さなければ。
「で、カルデノがどの小屋にいるか分かるか?」
「私はどこの小屋に入れられたか見れなかったんですけど、カスミが分かってるはずです」
そう言ってカスミを見る。
「カスミってのか、頼もしい妖精。じゃあカルデノの居場所を教えてくれるか?」
カスミは大きく頷いて、そっと小屋の角まで場所を移動した。私とガジルさんは頭を半分出す形で並ぶ小屋を見やる。
カスミが指を差したのはここから一番離れた所。つまり一番端の小屋だ。なるほど声も物音も聞こえなかったわけだ。
「でも、さっきカスミが様子を見ようとした時は、まだタンテラが中にいたらしいんです。普通に行っても見つかりますよね? どうやって助けましょう?」
「あー、どうすっか?」
私とガジルさんはお互いを見やり、しかしそれで考えが浮かぶはずもない。中に見張りがいるなら見張りを外に出さなくてはならない。もしくは気絶させる手もあるかも知れないが、そんな暗殺者みたいな事を私は出来ないし、念のためガジルさんに聞いてみても、俺にそんな技術はないと返された。
「タンテラ達に気付かれないようにカルデノの所に行けたとしても、そもそも牢屋の鍵がねえしな。所であんた、どうやって牢屋から出たんだ? 確か立派な錠が使われてたと思ったんだけどな」
「えーと……」
どう説明しようか、頭を捻る。
「こう、カスミの魔法みたいなもので……ええと、錠を消した……、みたいな」
「……?」
だがガジルさんは首を傾げるだけで納得してないようだ。
「俺は魔法に詳しくないんだがそんな、物を消し去る魔法があるのか? ならカルデノを助けるのもすげー楽になるんじゃねえか!?」
前傾姿勢で若干興奮した様子だが、そんな期待を持たせてしまった事を後悔する。とりあえず無意識にだろう大きくなった声量を抑えるよう言う。
「あ、悪いな」
「い、いえ。その、ええー、ええと……」
どうしようか。カスミにチラリと目を向ける。カスミはまるで私の考えを読み取ったかのように、ガジルさんへ見せ付けるように大きく頭を左右に振る。無理だという意思表示のようだ。
「……無理なのか?」
そしてカスミが何を言いたいのか察したガジルさんは残念そうに肩を落す。とどめとばかりにカスミがもう一度大きく頷く。
「そうか……。魔法も万能ってわけじゃねえんだな」
話は戻り、どうやって見張りを遠ざけるか。まずはその一点に絞る。
「カルデノがいる小屋の中にタンテラもいるって言ってたが、タンテラ一人だけか?」
カスミは悩む事も無くコクリと頷きそれを肯定した。
「そうか。じゃあタンテラだけ外に出せりゃあいいが、途中で他の奴が来たりすると面倒になる」
そうか。タンテラに追われていた時には、もう二人男がいた。その男達が今何かしらの理由で離れているだけだとすると誤魔化せなくなる。
「外で物音鳴らすとかしたら、気になって出て来ますかね?」
「あー、それだと外の様子を少し見るくらいで終わるんじゃねえか? 遠ざけるまでは難しいだろうな」
「それは、そうですね……」
自分の考えは自分でも納得出来るほどあっさりと意見を返され、では次を、と考える。
「遠ざけるならやっぱ、ここじゃなくて家のある方で何かあるくらいじゃねえと無理だろうな」
「家の方?」
と言うと、ここはテンハンクの人達が住む場所とは少し離れているので、恐らくはここに来るまでに通り過ぎた居住区のような場所の事だろう。
「例えば……、タンテラの奴の家を燃やすとか?」
冗談交じりのその言葉に、私は引きつった顔をしていただろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ぜんぜんまったく小説と関係ないんですが、どうぶつの森はじめました。ずっとジンメンカメムシ捕まえて借金返済の毎日です。
島へ見知らぬ虫であるタランチュラを初めて見つけたあの日から毎晩連続で気絶させられ苦節五日。とうとうタランチュラの捕獲に成功し売ると高いらしいと聞いていたものの博物館へ寄贈。それ以来自分の島でタランチュラが現れず、きっとあれが島唯一のタランチュラだったんだと思い込み妄想。多分違う。
カブで欲張って大損。おしつけられるいらない衣類。気に入らない住人の移住。何もない島へしか飛んでくれないロドリー。かわいいたぬたぬズ。
人生初どうぶつの森を楽しんでいます。ぼっちで。




