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「テンハンクとアンレンの間の森?」

 テンハンクというのは確か、カルデノが育った土地。そしてテンハンクとアンレンの間にティクの森がある。

「じゃあ、もしかしたらカルデノのいた土地に行けるかも知れないね」

「……ああ、そうだな。行けない距離じゃない」

 返事とは裏腹に嬉しそうでもない。以前も帰える必要はないと言っていたような気がする。

「バロウの別荘、ですか? よくご存知でしたね」

 ロレンツィさんは関心したようにリタチスタさんを見ながらアゴに手を当てた。

「当然さ。良く遊びに立ち寄っていたからね。まあ、ここ数年はとんと姿を見ないけど」

「どこを探しても?」

 ロレンツィさんは眉を顰めて首をかしげた。

「ああ、どこを探しても」

 気だるげな声だった。

 人から話を聞けば存在する人物だと理解出来るのに、何故か誰からも“最近見た”とは決して聞かない。私の目で拝める日ははたして来るのだろうかと、果てしない広野の先を見つめる気分だ。

「見つからない理由がもし隠れているからだとすると、その理由も気になってきますね」

「そうかい? そこまで気にならないなあ、昔から何を考えているか分からない奴だったじゃないか」

「……あなたがそれを言いますか」

「おや、なにか問題が?」

 リタチスタさんは楽しそうに目を細めた。ロレンツィさんは小さく息を吐き、いいえと短く返した。

「とにかくカエデさんは、今リタチスタに聞いた場所を調べに行くんですか?」

「はい。今聞いた資料庫なら王都に帰るだけですし、他にも使っている人がいるなら、最近バロウを見かけたかも聞いて見たいと思います」

 そしてその後は手がかりがなければホノゴ山の方にもアンレンにも行きたい。

「リタチスタさん、さっきはホノゴ山に行くなら同行してくれるって言ってましたけど」

「ああ、構わないよ。その時になったら連絡が欲しいけど、どうしたものか」

「お住まいは王都から遠いんですか?」

「まあ家はあるにはあるけど、ずっと帰っていないからどうなっている事やら」

 まるで不可抗力を嘆くように眉尻を下げて悲しそうな表情を見せた。ずっと帰っていないという事は、今は別の場所で宿暮らしでもしているのだろうか。

「なんならしばらくの間王都に滞在してもいい。ただ君も、ホノゴ山に行くとしてもいつになるのか分からないんだろう?」

「そうですね、いつになると約束は出来ないです」

「それまでは、暇になりそうだなあ」

 トントンとリタチスタさんは指先でテーブルを叩く。恐らくどう暇を潰すか考えているのだろう。目がロレンツィさんの方へ向いた。正確にはロレンツィさんがテーブルに置いた、ジェイさんからの手紙に。

「そうだ、ジェイは今王都で、えーと……」

 何をしているか忘れているらしい。ロレンツィさんが横から答えた。

「魔法を教える教室を開いています」

「そうそう、そうだったね。そこでしばらく遊んでいる事にするよ。カエデはジェイの教室の場所なら分かるんだろう?」

 数日前にお邪魔したばかりだ。忘れるわけが無い。

「だからホノゴ山に行く予定が立ったらジェイの教室に来てくれたらいい」

 リタチスタさんは言いながら椅子からゆっくりと立ち上がった。いち早くそれに反応したのはロレンツィさんで、テーブルに右手をついて自分の座っていた椅子から腰をわずかに浮かせる。

「どこへ行くのです」

「どこへ? この会話の流れだ、行く場所は分かるんじゃないか?」

 回りくどい言い方だ。ロレンツィさんは、ジェイの教室でしょう。と即座に答えた。

「今すぐ王都へ向かうと言うなら、王都の資料庫を管理している者へ話が通じるように、一筆したためるなど……」

「心配しなくても、王都に着いたら散歩がてら直接伝えて来るよ」

 コツコツとわざとらしい足音を立てながら、用事が済んだとばかりに部屋から出て行こうとする。

「あの、色々教えて下さってありがとうございました」

「気にする事はないよ。直接私と関係あるかと言われれば関係ないけれど、アイツのせいで困っているならこれくらいどうと言うことない」

 ここまで親切にしてくれるのは、本当にバロウが兄弟弟子だから、というだけなのだろうか。それともよほど仲がよかったのか。

「では、また王都でね」

 リタチスタさんは今度こそ部屋から出て行った。足音が遠ざかり、ロレンツィさんはふうっと息を吐いた。

「出来れば私もバロウを探す手伝いがしたいのですが、生憎仕事がありまして、家にもあまり帰っていない状態なのです。ですからカエデさんが私の家に来たのが今日で、本当に幸運でしたね」

「忙しいんですね。なんのお仕事を?」

「仕事は、簡単に言えば魔除けを作ったり、それを整備したりですね」

「魔除け……」

 マルナクで見た魔除けをふと思い出す。

「あの、ここへ来るまでにマルナクという所へ立ち寄りました。そこの町を囲う塀に、布に巻かれた魔除けがあったんですが、ロレンツィさんが作っているのはああいう物ですか?」

「ああ、ウルブロの魔除けですね」

「そう、たしかそんな名前の」

 出されてだいぶ時間が経ってしまったが、温くて口に含みやすくなった紅茶を飲む。

「そうですね、私の作ったものです。王都からお越しになられたのなら、あまり見たこともないのではありませんか?」

「はい、マルナクで初めて……。魔除けってどんな効果があるんですか?」

 ロレンツィさんは困ったように眉尻を下げた。

「おかしなことを言いますね。魔除けですから勿論、魔物を寄せ付けなかったり侵入を防ぐ効果があるのですよ」

 魔除けとはつまり、魔物除け、という意味らしい。

「あ、でもそれは、どこの街にも設置されているんですか?」

「そうですね、私も国内すべての町を見て回った事があるわけではありませんので、断言は出来ませんが」

 そうなると一つ、私には気になることがあった。リクフォニアはそこそこ大きな街だった。ならば魔除けが設置されていた可能性も高い。それなのに何故あの日、ドラゴンが街の中に侵入してきたのか。

 それを聞いてみればロレンツィさんは少し答えに詰まってから答えた。

「勿論魔除けの効力は弱いものではありません。しかしそれでも想定以上に強い力で押されれば壊れてしまうのです。魔物になったドラゴンなどを防ぐのは大変難しいでしょう」

 脆いとまで言わないが、それでも魔物に対して万能ではないらしい。

「それに魔物とは、魔力になんらかの影響を受け巨大化や凶暴化した動物の事を言います。ドラゴンはもとから個々の力が強く、小さな個体だとしても魔力に影響される事は少ないので、リクフォニアに侵入したというドラゴンには魔除けがそもそも効力を発揮していない可能性がありますね」

「じゃあ、街がただの野生動物に襲われるような事があれば、どうなるんですか?」

「その時は人の手で対処しなければならないでしょう。もっとも野生動物はわざわざ街へ向かう事など、そうそうあるとも思えませんが」

 言われればそもそも、魔物は魔除けで防げたとして、ただの野生動物で危険なものと言えば狼や、あとはイノシシやヘビなどだろうか。それらの野生動物は街に侵入以前に周りを囲う塀を乗り越えられない。

 可能性の話として聞いたが、人々の暮らしは案外安全なもののようだ。

「そうだ。私はバロウ探しを手伝うことが出来ませんが、せめて魔除けを一つ差し上げます」

 名案とばかりに調子の上がった声。言葉が終わるや否や椅子から立ち上がったロレンツィさんが扉の方へ歩いて行くのを私が呼び止めた。

「え、あの魔除けって、私がマルナクで見たものですか?」

「ええ、そうですね。しかしあそこまで大きなものではありませんよ。もしホノゴ山へも行くというなら是非受け取ってください」

「あ……」

 ホノゴ山。そう、塀の外は危険があり、それが生き物の多く住む山や森などなら、その危険は大きく増す。

「ありがたく頂戴します!」

 そうと理解すれば迷うことはなかった。ロレンツィさんの好意を心の底から感謝して受け取ることにした。

 魔物に襲われる心配がなくなると言うなら、それほど心強いものはない。

「では今お持ちしますので、少々お待ちください」

 ロレンツィさんは私の返事が嬉しいと言うようにニコリと笑い、部屋を出た。すぐ近くの部屋に保管してあったのか、数分としない内に何かを手に戻ってきた。

「これです」

 言いながらロレンツィさんは先ほども座っていた椅子に腰を下ろした。手に持っていたのはサラリとした上質な白い布生地。どうやら細長い物を包んでいるようだった。

「見ると少々不気味に感じるとは思うのですが、持っているからと言って害のある物ではないのでご心配なく」

「魔除けですし、持ってるだけで何かあっても困りますしね……」

 ロレンツィさんは布に包んだままの魔除けを手渡してくれた。

「どうぞ、見てみて下さい」

「し、失礼します」

 布越しに触った感覚としては、指先から手のひらを少しはみ出して手首かかるくらいで、でこぼこした棒の先に何かがついているようだ。

 ゆっくりと布を取り払う。

「……眼球?」

 隣でカルデノが呟いた。私も自分で手に持つ魔除けを見て一瞬顔をしかめてしまった。カルデノの言う通り眼球に見えるものがあるのだ。

 布越しに触ったのは硬く編まれた何かのツルだろうか、そのせいで表面はでこぼこしており太さは親指ほど。その先に続くツタに絡めるように眼球があった。

「確かに眼球に見えますがそれはウルブロという石です。ですからウルブロの魔除けと言うんです」

「ほ、本当に石なんですか?」

 疑ってしまうほどで、不気味なんてものじゃない。まるで本物の眼球だ。少しくすんでいるというのか、色は白が茶けた感じ。そして眼球に見える原因である角膜や虹彩、瞳孔に似た赤い部分が不気味なのだ。

 石だと分かったところでもう一度目を向けても、赤い目がじっとこちらを睨んでいるような錯覚を起こす。

「本当に石ですよ。触って見れば堅いですし、その見た目から魔を睨み怯ませる効果があると昔から言われているのです。もちろん人の手は多いに加えられていますが」

 ウルブロの石は自然にこう丸い形をしているのではないらしい。木の幹の年輪が中心が瞳孔になるよう球体に削ればそれなりに眼球に見えるように、ウルブロの石も眼球に見えるよう削りだしているのだそう。なので人の手が加わるというのは、石を眼球に見えるよう加工したり、それ以外にもウルブロの石に魔力を籠めるなど。手間のかかった物だった。

 魔除けと分かっていながら気味悪く思ってしまうのだ、マルナクでウルブロの魔除けが布に包まれていたのは、人々が私と同じように怖がることを防ぐためだったのかも知れない。

「簡単に貰うなんて言ってしまいましたけど、本当にいいんですか? 思っていた以上に高価なものなんじゃ?」

「気にせずお持ちください。きっと役に立ちますから」

 ロレンツィさんはロレンツィさんで、一緒にバロウの行方を探す事が出来ないのを本気で悔やんでいるらしい。もう一度丁寧にお礼を言い、布に包み直した。

 ロレンツィさんへの用事が済んだ後は、特にやることもなく、結局すぐに王都へ帰ることになったが、長い時間をかけて来た割に滞在時間は短いものだったなと、少しだけ残念に思った。

お久しぶりです遅くなってしまいましたね。内容がおいついちゃったー。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
いつ死ぬか、殺されるか、分からない世界で、お返しとか考える余裕なんてないだろうな。 高校生だし。
お礼は?!お礼に魔力ポーションを渡すとか! 見た目が13歳前後に見えるから きっと許されているんだろうなー 好意を受け取りっぱなしはダメダメよーヽ( ̄д ̄;)ノ
街での行動とか加味したら目に隈のある姿見た時点でポーション差し出してそうなキャラなのにそれをしてない、設定ぶれてきてます?
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