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ダリットの家へ

 家のテーブルで肘をつき、片手に昨日貰った地図を持ちながら考えていた。その地図というのは勿論ジェイさんに貰った、ロレンツィさんの家の地図だ。

 じーっと地図を眺めていたからだろう。カスミが不思議そうに横から覗き込んできた。

「何か疑問に思うことでもあるのか?」

 二階からカルデノが下りてきて、私の姿を見るとそう言った。私は首を横に振った。

「なんでもないよ。ただ、行く場所がふたつあるなあって」

「ん。どっちから行くんだ?」

 カルデノは私の座る席の正面に座る。私は手に持っていた地図をテーブルの上に置いた。

 ダリットとは知り合いだし王都に住んでいるだろうから、距離の問題で言えば勿論ダリットに頼んで、エリオットさんに会わせて貰ったほうがはやいだろう。しかしどこに住んでいるのかまでは知らないし、共通の知人であるアイスさんに尋ねることになるだろう。

 一方ロレンツィさんの家はどこにあるか分かっているので迷いなく行くことが出来るだろう。しかし距離が離れているのでそれはそれで時間がかかる。

 迷うほどのことでもないだろうが、一応カルデノにも意見を求める。

「まあ、それならダリットとかいうのを訪ねるべきだろうな」

「だよね」

 そうなると行動は早いほうがいい。それだけレシピ本を作った人に会えるまでの時間が縮まるだろう。そう思うととにかく行動しなければと椅子から立ち上がった。

「アイスさんのところに行こう。ダリットの家を教えてもらうように頼まないと」




 アイスさんの家の前まで行くと、丁度アスルがアイスさんの家の敷地内から出てきたところだった。

「アスル久しぶり。でもないか」

「ああ。カエデもアイスさんに用事か?」

 私はアスルの質問に頷いた。

「残念だがアイスさんなら留守だ。あと二週間は家を空けているらしい」

「そうなの?」

 困ったな、と思いアイスさんの家を見つめる。その感情がどれほど表情に表れていたのか、どうかしたのかとアスルに聞かれた。

 ダリットの家の場所を聞きたかったのだと正直に理由を告げると、アスルは人差し指を立てた。

「それなら俺も知ってるぞ」

「えっ、本当?」

「ああ。なんだ久々に顔でも見たくなったのか?」

 アスルは私とダリットがよく話している姿を見ていただけに、そう思ったらしい。それも嘘ではないが。

「うん。まあね。それから少し聞きたいこともあって」

「そうか。なら行くか」

 そう言ってスタスタと歩きだしたアスル。私はアスルが三歩ほど足を進めた所で慌てて呼び止めた。

「ちょっと、え? 今から行くの?」

 不思議そうな顔をしたのはアスルだった。立ち止まってこちらに振り返ると、違うのか? と首をかしげた。

「いや、まさか今すぐだとは思わなかったから……」

 そう思ったのは私だけではないだろうと、カルデノに目を向けた。

「ああ。だが早いに越したことはないんだろう?」

 それはそうだ。




 ダリットの家は王都中央のロータリーを北に抜けて数十分歩いた場所にあった。綺麗に切りそろえられた背の高い生垣に囲われた家で、豪華な雰囲気ではなく、古い洋館と言った方がしっくり来るような佇まいで、広く場所を占めている花壇には沢山の花が咲いている。

「ここがダリットの家だ。いるといいが」

 アスルが玄関まで歩き、その後ろを私達も付いてゆく。

 ドアのノッカーをカンカンと鳴らすと、少し離れた場所から、はい。と女性の声がした。パタパタと駆けて来る足音は家の中ではなく、家の裏のほうから聞こえてくるようだ。

「お待たせしました。ってあら、アスルさん」

 現れたのは年配の女性で、土で若干汚れていた前掛けを外しながら、アスルの顔を見た。

「お久しぶりです。どうしたんですか?」

 次に私とカルデノの顔を見ると、笑顔で会釈され、私も会釈を返した。

「お久しぶりです。急に申し訳ありません。ダリットはご在宅でしょうか?」

「ダリットにご用が? ごめんなさいね、今はいないのよ」

「ああ、そうでしたか」

 アスルに、どうする? と言われ、私は悩んだ。本当は待たせてもらえれば確実なのだろうが、それはさすがに迷惑だ。日を改めるのがいいだろう。だが女性はアスルが私にそう声をかけたことで、私の方が用事があるのだと気がついたようだ。

「あなたがダリットにご用なの?」

「は、はい」

 そうなのね。と言うと、女性はやさしげに笑う。

「ダリットは夕方には帰ってくるはずなのだけれど、もしよかったらそれまで、一緒にお茶でもいかが?」

「いえ、あの、ご迷惑ですから。また日を改めようかと……」

「そう言わずに、付き合ってもらえないかしら? 丁度話し相手が欲しかったのよ。ご迷惑かしら?」

 私はブンブンと横に首をふった。

「迷惑だなんて。むしろ私が迷惑じゃないかと思っていたくらいで」

「うふふ、それじゃあ心置きなく。アスルさんもご一緒出来ますか?」

 だがアスルは申し訳なさそうに、いいえと返事した。

「明日の準備もありますので俺はこれで。お誘いありがとうございます。というわけでカエデ、帰り道は大丈夫だろうな?」

「だ、大丈夫だと思う。カルデノもいるし」

「そうか。じゃあな」

 アスルは挨拶をすませると帰り、その後女性に案内され客室へ通されると、すぐにお茶とお菓子が出された。

 案内される途中に見た家の中もそうだが、この客室も鮮やかな色の花やドライフラワーなど、植物が多く飾られてある。

 テーブルにお茶を出され、女性と向かい合う形で座る。カルデノは私の隣で同じく部屋を見ているようだ。

「綺麗なお花ですね」

「あらありがとう。私の趣味なの」

 あまり部屋を見すぎるのも失礼かと、女性の方へ向き直る。

「あの、私はカエデといいます。こっちはカルデノです」

「カエデちゃんに、カルデノちゃんね」

 私はともかく、カルデノちゃん。という、なんとも違和感の拭いきれない呼び方は初めてだ。カルデノも自分で違和感があるのか、耳がぴくぴくとわずかに跳ねる。

「私はダリットの母親なの」

「あ、そうだったんですね。優しそうな雰囲気がそっくりです」

 ダリットのお母さんは照れたように笑う。

「カエデちゃんはダリットとはお友達なの?」

 私はダリットと知り合ったきっかけを簡単に説明した。王都へ来る途中親切にしてもらったことや、兄が大好きなのだと語っていたことなど。

「息子の話が聞けて嬉しいわ。ありがとう」

 ダリットのお母さんはお茶をひとくち飲んだ。

「いつも、恥ずかしがってあまり話してくれないから」




 ダリットのお母さんとの話は意外にも弾んだ。聞くと息子しかいないので、女の子と話すのが楽しいらしい。

「娘がいたら、きっと毎日楽しいでしょうに」

 テーブルに沢山用意してもらったお菓子も全て無くなった頃、ただいまと声がした。

「あ、帰ってきたわね。ちょっと待ってて」

 どうやらダリットが帰ってきたらしい。部屋を出ていくダリットのお母さん。

 カルデノと二人だけになると、カルデノがぽそりと口を開いた。

「カエデもひとりでいた時期があったんだな」

「え?」

 なんの話かと考えたが、さきほど話したダリットと知り合ったきっかけの話だろうと結論付ける。

 カルデノを買いに行った時から、すでにアイスさんと一緒だった。それからアスルもいたしカスミもいた。カルデノからしたら、私がひとりで居たときなんてものは想像出来ないだろう。

「いや、当然か」

「ひとりって言っても、リクフォニアでは親切にしてもらった薬屋のおじさんもいたし、あとギルドでお世話になった人達もいるし」

 それに、リクフォニアには長い時間いたわけではなかった。今まで王都で過ごした時間のほうが遥かに多い。

「カエデもギルドを使ったことがあるのか?」

 カルデノは意外そうに首をかしげる。

「まあ、今は特に使ってないけどね」

「そうだな」

 カルデノに言われて少し考える。今までギルドへ何かしらの採取の依頼をしようと思わなかったわけではない。だが悠長に待っていられなかったり、依頼を出す程のことではなかったりと、利用しなかった理由はある。しかしこれから何か必要になったときには利用するのもいいだろう。

 扉越しに、ダリットとダリットのお母さんの話し声が近づいてくるのに気がつくと、急に緊張してきた。

 何せ最後に話したのは随分前だ。やはり短期間仲良くしてもらっていただけで、突然家を訪れて失礼ではなかっただろうかと後悔してきた。

 客室の扉が開く。そちらを見ると、ダリットが笑顔で歩み寄ってきた。

「わあ、久しぶりだねカエデ!」

「うん、久しぶり。ごめんね突然」

 ダリットは先ほどまでダリットのお母さんが座っていた椅子に座った。ダリットのお母さんはお茶を用意してくると言ってテーブルの上のポットだけを持って客室出る。

「元気だった? カエデの話はたまにアスルから聞くよ」

「うん元気だよ。ダリットも変わりはない?」

 ダリットは笑って頷く。それから、当然だが何か用事があるのかと聞かれる。

 私もそれに頷いた。

「ええと、ダリットのお兄さんの話、リクフォニアで話してくれたよね?」

「ああ、エリオット兄さんの話ね。もしかして詳しい話を聞きたいとか!?」

 ダリットはもうそれしかありえない、そうだろうそうだろうと口を開きかけたとき、私は慌ててそれを遮った。

「あ、いやちょっと違うの。ダリットのお兄さん自体の話じゃなくて、その周りの人の話かな」

「周り?」

 私はエリオットさんがかつて魔王討伐の際、共に行動していた人たちの中に、バロウという人がいなかっただろうかと質問した。

 ダリットはすぐに、うんと言う。

「確かにいたね。でもバロウさんがどうかしたの?」

「その人に会いたい用事があるの。兄弟子さんに話を聞いたんだけどどこに住んでるのかは知らないらしくて、だからもしかしてダリットのお兄さんなら居場所を知らないかと思って」

「なるほど、それで今日訪ねてきたんだね」

 ダリットは気にした様子もなかったが、私は謝った。

「ごめんね、勝手な理由で」

「それはいいんだ。カエデが直接兄さんに会おうなんて難しいだろうし」

 ダリットは笑顔で了承してくれた。

「あ、でも返事を貰うのに時間はかかるよ。やり取りは手紙だから」

 やり取りの方法が気になった。具体的にどれくらいの時間がかかるのかと聞いてみると、長くてひと月、だそうだ。

「思ったより、かかるんだね」

「うん。すぐに返事が来る時は本当に早いんだけど、まちまちだから。だから明日手紙を出したとして二十日も待てば返事が来るんじゃないかな」

 ダリットのお兄さんのエリオットさんは、確かお姫様と結婚していると以前聞いた気がする。すると王族の一員となったエリオットさんも忙しいのだろう。手紙の返事はひと月後と思っていいだろう。

「じゃあ兄さんに聞くことは、バロウさんが今どこにいるか知らないかって事だけでいいのかな?」

 それ以外に聞くことは特に無いだろうと、頷いた。

 それから久々に会ったんだからと、どうしていたのかとか、今何をしているのかとか、世間話に花を咲かせた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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