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嫌われてなかった。

更新がおそくなりました、すみません。

 アイスさんの部屋から魔力ポーションを持って出て、歩く足取りは重かった。

 アイスさんが用意してくれた部屋は私とカルデノ二人で使っている。つまり部屋に行けばカルデノがいるのだ。

 カルデノのいる部屋の前に到着した。全身だるいみたいに緩慢な動きで扉を開けると、中で窓から外を見ていたカルデノがこちらを向いた。


「戻ったか、遅かったな」

「うん、アイスさんと少しおしゃべりしてた」

「そうか」


 私はカルデノの顔をじっと見る。

 きっとアイスさんにあんな事を言われなければ、今も何も思わずカルデノと会話をしていただろう。

 カルデノはいつまでも見られているのを居心地悪く感じたのか、首をかしげた。


「所で何を話していたんだ?」

「あ、そうだ。魔力ポーションの事なんだけど、私一人で作るのは負担だからレシピを売るって形にして、他の人も作れるようにして欲しいって」

「他も? それは作り方を探りながらってことか?」

「みたい」


 窓のすぐ近くに設置されたテーブルに魔力ポーションを置き、そのまま椅子に座った。カルデノにはレシピのこと、売り方を任せるというのを話した。


「大丈夫なんだろうな?」

「え、何が?」

「あいつに任せて」

「アイスさんなんだから、大丈夫だよ」


 むっとしたように向かいの椅子にカルデノが座った。私がいいなら別にいいと言われ、私のせいで機嫌を損ねたのだと落ち込んだ。


「あのさ、カルデノって自分の家に帰りたいって思う?」

「自分の家?」

「うん。確かテンハンクって所が故郷なんだよね?」


 私が今でも親のいる家に帰りたいのと一緒で、カルデノも当然帰りたいに決まっている。そう思っていたが、カルデノの答えは想像とは違っていた。


「帰れるなら一度くらい帰ってもいいが、帰れないなら帰らなくても別にいい」

「なんで?」


 疑問が口からこぼれた。


「何でって、逆に何でだ?」


 カルデノにしては少し間の抜けた顔をして驚いたようだ。


「だって、今はカルデノは奴隷だからこうしてここにいるけど、きっと帰れるってなったらすぐに帰りたいんだって思って、カルデノはあんまり他人と関わりたくなさそうってアイスさんも言ってたし、そうなのかなって……」


 自分で言っていてなんだか虚しい。しゅんとして目を下げる。


「つまり、カエデは私が奴隷ではなくなったら故郷に帰ると思っているのか?」

「う、うん」


 控えめに頷くと、カルデノは小さく息を吐いて首輪に指を引っ掛けた。

 何かするのだろうかと見ていると、あっさりとそれを取ってみせた。その瞬間にアイスさんに教えてもらった奴隷の首輪の話が頭をよぎり、思わず椅子から立ち上がった。


「えっあの、え!?」


 首輪は許可がなければ取れない。そう言われたはずなのに目の前の光景はそれに反していた。

 驚く私。カルデノは手のひらで外した首輪を遊びながら、座ったらどうかとなだめられる。

 おずおずと椅子に座り直すと、カルデノが口を開いた。


「これは普通外れない、奴隷の証だ。少し前から外せるのに気づいてた」

「そ、そ、そうだったんだ」


 私はだんだん顔を俯け、下を見る。


「それで、そのさ」


 歯切れの悪い私の言葉を、カルデノは何も言わずただ黙って聞いている。


「それ、主人の許可がないと取れない奴隷の首輪でしょ? 取れるって事はカルデノは自由なんだよね?」


 カルデノは悩むように腕を組んだ。


「まあ、そうだな。行動は自由だが私自身が奴隷として登録されているのに変わりない」


 私は俯けていた顔を勢いよく上げた。


「登録? じゃあ首輪が取れたからって、どこかに行ったりしないの?」


 私の言葉にピンときたのか、カルデノは少し笑った。


「首輪が外れるから私がいなくなると思ったのか」

「だって、奴隷として買ったから、少なからず嫌な気持ちもあるだろうし、最初はやっぱり嫌々な感じだったし。だから自由だって分かったらいなくなるだろうと思って」


 いつもより早口にそうまくし立てると、珍しいことに声までだして笑った。


「ハハハッ、それなら私はもうここにこうして居るはずが無いだろう」

「いや、そうかも知れないけどさ」

「だが……」


 カルデノは笑うのをやめ、いつもの表情に戻った。


「何故外せるのか、気がついた時から疑問でしょうがなかったが、何か心当たりはないのか?」

「そう言われてもなあ」


 心当たり、そう言われても全く思い当たる気がしなかった、原因はなんだろうかと考える。カルデノも同じように考えているらしく、窓から空を見ていた。

 一方私はアイスさんに教えてもらった首輪の話を反芻していた。購入証明書を書いた時に魔力が首輪に馴染む。書類と首輪はセットとして扱われるらしい。


「魔力が、馴染む?」

「ん?」


 空を見ていたカルデノが目をこちらに向けた。


「私、魔力がないのにどうして首輪に馴染むの?」

「なんだ、どういう事だ」


 よく考えなくたって分かる事だった。私はもともとこの世界にいたわけじゃない、この世界では魔力があるのが当たり前のようだが私にとっては違う。森の泉にいるラティさんにも言われていた。私には全く魔力がない。

 だからいくら購入証明書を書いた所で首輪に馴染む魔力が無ければ、それはカルデノにとってただの首輪。なんの効力もないのは当たり前だ。

 その事をカルデノに言うと、喉のつっかえが取れたように納得した顔を見せた。


「そうか、そうだったか」


 カルデノが自分の手で遊んでいた首輪をじっと見つめ、それを首につけ直した。


「どっちにしても私がカエデの奴隷であるのに違いはない」


 それはそうなのだが、どうにも腑に落ちない。ではやはり奴隷ではなくなったら私の前から姿を消すのだろうか。

 それが不満なわけではない。奴隷でなくなればカルデノは自由。自分の好きな事をして自分が好きなように生きる。それを止める権利は私には無い。奴隷としてカルデノを買ったが、しかし私は友達のように思ってすごしてきた。その友達とある日突然別れる事になれば、寂しいだろう。それは口に出さなかった。


「そういえばカエデの部屋の窓、どうにかしないといけないな」

「あー、そうだね。いつまでも穴が開いたままには出来ないから」

「それと、魔力ポーションの詳しい話はもう済んだのか?」

「詳しくはまだ。それは明日になるのかな?」


 と言っても実際はアイスさんの考えたことを聞くだけになるだろう。何せ私はアイスさんに売り方を任せると言ってしまったから。

 それから夕飯に呼ばれて一緒に食事をしたが、その時は魔力ポーションの話は一切しなかった。




 今朝はパチッと目が開き、体を起こした。とても目覚めがいい。カルデノはまだ寝ていたが、私のあくびで起きてしまったらしく、のそりと体を起こした。


「おはよ」

「ああ、おはよう」


 カルデノは私と同じくあくびをし、ベッドから立ち上がる。


「今日はどうする、いつ帰るんだ?」


 カルデノの聞き方は責めるようなそれではないが、さすがに今日にでも帰りたい。


「アイスさんの話を聞き終わったら帰ろうか」

「ああ」


 ただ少し気になるのはサージスのことだ。人を脅すためならず、殺すためにもナイフを突きつけることの出来る人物だ。そんな人が家に仕返しなんかに来たらと想像すると、ぞっとする。


「カエデ、どうした?」

「え?」


 不安が顔に出ていたのか、カルデノに肩を叩かれたことでハッとした。


「何か気になることでも?」

「うん、サージスの事がちょっとね」

「サージスか。そう言えば昨日、廊下でアイスがカエデの事を脅してたな」

「お、脅すって……。あれは心配してくれて、ただの注意でしょ?」

「注意だろうが、それでカエデは今怖いんだろう」


 カルデノは一度立ち上がったベッドに、再度腰を下ろした。


「まあ、ちょっとは……」

「でもだからっていつまでもここで世話になるつもりもないだろう」


 私はうなずいた。

 コンコンと、会話が途切れたのを見計らったように部屋の扉がノックされた。


「はい。どうぞ」


 失礼します、と一言あってから扉が開くと、メイドさんが顔を見せた。


「アイス様がお呼びですので、準備が整い次第部屋に来てくれとの事です」

「わかりました」

「では、失礼いたしました」


 メイドさんが出て行きパタンと扉が閉まったあと、身なりを整えてアイスさんの部屋をカルデノと共にたずねた。

 アイスさんの部屋の扉をノックし、どうぞと声のあった後に扉を開ける。


「失礼します」

「おはようカエデちゃん」


 アイスさんはいつものように部屋の中心のソファーに座っていて、にこりと笑いかける。


「おはようございます」


 アイスさんの正面のソファーに座り、カルデノが私の隣に座る。


「朝早くにごめんね。昨日のことをもう一度話し合おうと思って」


 昨日のことと言うと、当然ながら魔力ポーションのレシピのことだろう。


「昨日口で軽く了承を得たとはいえ、もしも何かあった時のために、これにサインしてくれる?」


 そう言ってアイスさんがテーブルに出したのは一枚の紙。


「これは?」


 その紙を目の前まで持ち上げ、まじまじと見る。

 それには、魔力ポーションのレシピを私からアイスさんへ、間違いなく売りますと書かれた契約書のようなものだった。

 金額は5万タミル。


「5万タミル!?」


 書面に記された、レシピの値段は5万タミル。何かの間違いかとアイスさんの顔を見るも、相変らずニコニコしていて、どうやら間違えではないらしい。


「こ、これは……?」

「もちろんカエデちゃんに売ってもらう魔力ポーションの値段よ。大金だと遠慮するならそれは無用よ。作ることが出来ればこれ以上の利益が入ってくるし、逆に言えば作れるかどうかが分からないからこんな値段、と言ったところかしら」

「は、はあ……」


 紙面の下に、出されたペンで名前を書き、それらを返す。


「ありがとう」

「あの、レシピだけで、具体的にどうやって作るんですか?」


 するとアイスさんは少し悩む風に足を組み、唇に手を当てる。


「薬師を集めて、どうしたら作ることが出来るのか、色々な組み合わせを試してみるのよ」

「組み合わせ、ですか」

「そう。例えばポーションは薬草をただ煮たりして出来るのではなく、薬草の粉末を煎じて作るでしょう? それらと同じように、色々な方法を試していくのよ」


 私には薬師としてのなんら特別な知識はないが、それでも気の遠くなる話だ。


「もう顔見知りの薬師何人かには声をかけているし……」


 コンコンと、部屋の扉がノックされた。


「入って」


 アイスさんの許可が下りると、メイドさんが挨拶をしてアイスさんの傍らに歩み寄り、そっと何かを耳打ちした。カルデノの耳がぴくりとわずかな動きを見せ、メイドさんが用件を伝え終わり部屋から出た後、アイスさんはテーブルに少しだけ身を乗り出した。


「薬師の何人かには声をかけているし、それにサージスも使おうと思っているわ」

「……え?」


 今出てくるとは思いもしなかった聞きなれた名前に、思わず首をかしげた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
最初は安いと思ったんだけど、レシピを売っただけで権利を売ったわけじゃないならまぁ…という感じ そもそもレシピって言っても作り方がわかるわけじゃなくて材料が分かるだけで分量すらあやふやな物なら、妥当かち…
やっぱアイスも胡散臭い
めちゃくちゃ安い…
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