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怖い人

今回少し短いです。

 図書館に通いつめ3日目、色々なものに手が伸びつつ、魔力ポーションを探してみたのだが、さっぱり見つからなかった。

 だがしかし、魔力の溜まりやすい土地とやらについては少しだけ分かった。

 何故魔力が溜まりやすいのかは分かっていないが、魔族領は特に多く、そういった土地にはモンスターも多く危険視されている。

 魔族領以外で今現在分かってるだけでも魔力の溜まりやすい土地は112箇所あり、王都の近くには無い、一番近い場所でも王都から25キロ離れている。


「カエデ、他にも何か本はいるか?」

「うーん、そうは言っても薬の専門書は読んでもイマイチ分からないし」


 今は魔力ポーションについて書いているものを探しているのだが一向に見当たらない。

 薬師が読むような専門書も覗いてみたのだが分からない言葉が並ぶばかりで内容は理解できないし、魔力ポーションも書いていない。

 私はため息をついた。


「カルデノ、もういいや、他の本見る」

「そうか」


 座っていた椅子で座ったまま背中をぐーっと伸ばし、立ち上がった。


「やあ」


 びくりと、体が反応した。

 その声は後ろからした、聞き覚えがある。


「今日は何を読んでるの?」


 私は跳ねる心臓を無視して振り返った。


「無視するなよ」


 サージスは笑顔でそう言い、まだ返していないテーブルの上の本を覗いた。


「薬の本?」

「あ、はい…」


 一応頷いては見たが、鼓動が耳にまで聞こえて一刻も早くここから立ち去りたい気持ちで一杯だ。この3日間鉢合わせなどしなかったのに、初対面の恐怖心が残っていた。


「この間はごめんね」

「は?」


 慌てて口を塞いだ。

 しかしサージスは私のその態度を笑って流した。


「家に帰ってから、反省したんだ。庶民でも努力さえすれば図書館に来ることは出来るのに、僕はそんな事に頭が回らなくて本当に失礼な事を言ったよ。だからごめんね」


 サージスは本当に申し訳なさそうにして謝ってきた。


「カエデちゃんっていうんだったよね、君の露店はとっても有名だよ」

「そ、そうなんですか?」

「うん」


 優しげな笑顔だが、何か裏があるのではないかと疑念は消えない。それにいくら露店が有名になっても、名前まで知られているものなのだろうか、今までお客さんに自己紹介したような記憶はないのだが。


「将来はお店を持ちたいとか思ってるの?」

「え、いや、別に…」

「そうなんだ、そういえば今いくつなの?」


 次々に質問を投げかけられ、思わず一歩下がる。椅子にぶつかった。

 カルデノに目を向けるも、何もできない。


「ねえいくつなの?」

「え、と、17です」

「へえ、以外と大人だね、奴隷も買ってるし、もう立派に独り立ちしてるって事だね」

「そ、ですかね」


 すすっとサージスと椅子の間から出た。


「あ、もしかして、僕の事怖い?」


 サージスは自ら後ろに下がったが、その言葉に若干引いた。この間の事がありながら怖がられていないとでも思っていたのだろうか。


「すいません、もう帰る所なので」

「そうだったの? 引き止めてごめんね」


 大人しく引き下がったが、内心では謝るくらいなら最初から話しかけてくるなと強気な事を叫ぶ。


「行こうカルデノ」


 本を返し、そそくさと図書館を出た。

 時間は3時過ぎ、サージスのせいでずっと早く図書館を出る事になってしまいため息をつく。


「あの人なんだろうね、この間と随分態度が違ってさ」


 辺りに人がいないのを確認し、さらに注意して小声でカルデノに聞いて見た。

 これと言った回答は帰ってこなかったが、いぶかしげな表情で首を傾げた。


「そういえばカエデはマンドラゴラの花を欲しがってたが、薬草を取り扱う店には売ってないだろうか」

「え、そんな便利なお店あるの?」


 先ほどのいぶかしげな表情が今度は私に向けられた。その顔はやめて欲しい。


「な、なんならこれから行かない? 誰かのせいで時間余ったし」

「……まあ、いいが」


 お店の場所は大体把握しているらしいのでカルデノの案内に任せることにする。






 西南方向の大通りの中ほどで馬車から降りると、カルデノは迷い無く歩き出し、大通りに比べて少し狭い道に入った。私はそれに大人しく付いて行くだけだ。


「確かこの辺に店があったはずだ」

「この辺? カルデノって詳しいよね」

「ああ、結構歩き回ったことがあるからな」

「そうなんだ」


 その通りは大きなお店が多く、馬車での荷の積み下ろしや立ち話をする人など、賑やかな場所で、決まった場所にしか行かない私は人を避けながらついつい辺りをキョロキョロと見回してしまう。


「楽しいのか?」

「うん、来たことがない場所だしね」

「そうか、けどもう店だ」


 そう言ってカルデノは立ち止まった。


「ここ?」


 真横に迫っていた店は、八百屋か何かのように壁ほぼ一面が入り口になっていて、奥行きのある店内がほどんど見渡せる造りになっている。


「ここが、そうなの?」


 コンビニのような商品配置、しかしそのどれもが乾燥した植物や、何かの種らしき物など、ここは薬草屋と呼ぶことにしよう。


「ここに、あるのかな?」

「聞いてみないと分からないな」


 人がちらほらとしか居ない店内に足を踏み入れると、棚の陰から猫のような女性がひょこりと顔を出した。


「いらっしゃいませこんにちは!」

「あ、こんにちは」


 女性は店員だったようで、本当に二足歩行の猫に近いような感じだ、顔からトラ模様が見てとれる。猫耳をきゅっと上に向けてこちらに笑いかけてきた。


「はじめてのお客様ですね、なにかお探しですか?」

「えっと、マンドラゴラの花ってありますか?」


 一応見える範囲にはそれらしいものはない。


「マンドラゴラの花ですか、それはまた変わったものをお探しですね」


 変わったもの? なんとなく首を傾げると、女性店員は私が詳しくないのを察し、簡単に説明してくれた。


「マンドラゴラはそりゃ結構買う人はいますけど、花だけって言うのは珍しいですよ」

「じゃあ、花を買うならマンドラゴラごと買うって形になりますかね?」

「そうですね、心苦しいですけどそうなってしまいます」


 花だけで売っていないと分かったので、ついでに少し店内を見て歩くことにした。

 といっても、あれもこれも見たことの無いものばかりで、何となくアオギリ草を買うだけにした。


「そういえば、天龍草って売ってないんですか?」


 紐で括られた束を10本、会計する時に先ほどの女性店員に聞いて見た。


「あー、天龍草ですか。あれはもっと大きなお店に行かないとないんじゃないですかね」

「うーん、そうですか」

「なんと言っても高いですし」


 確か図書館で天龍草について調べた時にも、高級だったか希少だったかと書いてあったはずだ、それなら高くても仕方が無い。


「もし興味があるなら、一度見に行ってみたらどうです?」

「まあその内にですね。色々教えてくれてありがとうございました」


 お金を払い、ココルカバンにアオギリ草を入れた。


「いえいえ、気になったら何でも聞いてください。またのお越しをお待ちしてます」


 若干退屈そうにしていたカルデノと財布を手で遊びながら店の外に出ると、やはり暇だったのか小さくあくびをした。


「花だけ、無くて残念だったな」

「うん、まあでもあるって分かっただけで違うよ」

「そうだな」


 来た道を戻ろうと踵を返すと、手で遊んでいた財布が突然無くなった。


「えっ」


 無くなったのではない、後ろから走ってきた猫族の少年が私から掠め取って行ったのだ。


「って! えええ財布!」

「ここで待ってろ!」


 カルデノは素早く猫族の少年を追い、人の間を縫って見えなくなってしまった。


「ど、どうしよ…」


 一歩踏み出したが、いざカルデノが戻ってきた時に私がいなかったらきっと探して、二度手間になる、それなら言われた通り待っていたほうがいいだろうか。踏み出した一歩を戻した。

 ぽん、と、肩に手を置かれ、びくっと肩を跳ねさせ慌てて後ろを向いた。


「やあ」


 サージスがにこやかに立っていた。


「ど、どうも」


 自然と足はサージスから一歩離れ、しかしそれを詰めるように一歩歩み寄られる。


「今はあの奴隷がいないんだね、少し話があるんだけど聞いてくれないかな」

「いえ、今から探しに行こうと思ってて…」

「いいから」


 右腕の手首を掴まれ、私の意思と関係なくどこかへ歩き出すので、慌てて手を振りほどこうとするが、力強く掴まれた腕は離れない。踏みとどまろうとしても引きずられる。


「離して!」


 大きな声を出すと立ち止まり、煩わしそうこちらを振り返った。


「少し黙れよ」

「は、話なら、ここで聞きます」


 目だけで周りを見るが、誰もがこちらの様子を見ているだけで、助けようなんて雰囲気は何も無い。いつも一緒にいるカルデノはいなくて、足がすくむ。


「君は露店でポーションを売ってるね」


 その質問に小さくうなずいた。

 サージスは口を開きかけ、しかし言葉の続きは出てこない。


「やっぱりここじゃ話せない」

「どうしてですか?」


 ぼそっと、人が多いと漏らし、改めて力を込められた手首が痛んだ。


「じゃあ、カルデノが来るまで待ってください」

「カルデノってあの奴隷? それじゃダメだ。他の奴になんて聞かせられない」


 人を気にしているのか、声は先ほどのように小さく、表情も苦々しい。

 会って間もない私に深刻な悩み相談などするはずもないし、かといって他になにがあるのかと考えても何も思い浮かばない。


「君のポーションは本当に結構有名なんだ、ポーションが効きづらい体質の人にも通常と遜色ない効果を発揮する」


 何故突然私のポーションについて話し始めたのか、それを聞こうと口を開くと同時に言葉が続く。


「それが欲しいんだ、どうしても」


 睨むように私の目を見て、私はその目から顔を背けた。


「欲しいならいくつか譲りますから、手を…」

「そうじゃない!」


 荒げた声が耳に刺さり、一瞬周りの空気が固まった気がした。


「そうじゃなくて、そのポーションの作り方を…!」

「手を離せ」


 いつの間に戻ってきたのか、カルデノがサージスの手を捻り上げた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


前書きにも書きましたが、今回は少し短いです。

それというもの仕事が忙しい時期にさしかかり、小説を書く時間があまりないのです。

なので恐らくお盆を過ぎるまであまり更新できなくなるかもしれませんが、時間があれば進めたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。


あまり長らく間を空けないようにはしたいと思います。

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