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また一緒に行こう

シギ達と約束していた3日後、私とカルデノはギルド内のテーブルに座って時間を持て余していた。

午前中には来ると約束していたのだが、ちらりと大きな壁掛け時計を見ると12時を30分超過していた、確か私達が来たのは午前10時頃だったと記憶している。


「遅いね」

「遅いな」


カルデノはさっきから何度も足を組み替えたりテーブルを指先で叩いたりしてる、よほど暇なのだろう。


「カルデノ、お金渡すから、何か食べてきたら?」

「後でいい、カエデをひとりにするのは心配だ」

「それは、まあ…」


呟いた言葉はギルド内の喧騒に消された。


「もしかして、忘れてたりして」

「あるかもな」


 簡単に肯定してくれたが、それは嫌だ。

 まさかまた死にかけているのでは、とも思ったがそれは考えないことにした。

 さらに30分経ったころ、カルデノが、来たと一言だけ言った。

 立ち上がって中を見回してみると、3人が大きな袋を抱えているのが見えた。


「ああ居た! よかった!」


 シギがこちらに気付いて寄って来た。


「ごめん、待ったよね」

「待ったね」

「本当にごめん、寝坊して…」


 まさかの寝坊にため息をついた。

 しかし反省しているようなので良しとする。


「実は昨日、アオギリ草が沢山採れて、あんまり夢中になって帰るのが遅くなったんだ」

「へえ、そんなに沢山採れたの?」

「すごいぞ、期待してろよ」


 シサが得意げに袋を下ろし、絞っていた口を開けて見せた。


「見ろよ、3袋だ、かなりだろ?」

「これ一杯に入ってるの? すごいね」


 そうだとすると相当な量だ、本当に全部貰ってしまっていいのだろうか。


「こんなので恩を返せるか分からないけど、足りなかったらまた採って来るよ」

「いやいや十分だよ、ありがとう」

「うん…」


 頷いてから、シギがなんだかモジモジし出し、後ろではシサとギトの2人が頑張れというオーラを送っているように見える。

 一体なんなんだ。


「そ、その、迷惑じゃなかったら、今度俺達と一緒に森に行かないか?」

「え、森?」


モジモジして何を言うのかと思えば、これがパーティへのお誘いと言うやつだろうか。


「俺達がイノシシに襲われた日、本当はもっと奥の泉に行く予定だったんだ」

「泉? どうして?」

「妖精の泉って呼ばれてて、水の妖精が住んでるって噂があるんだ。泉の水はどんなに重い病気でも治すって話で、どうしても欲しいんだ」

「……嘘くさい」


 カルデノがポツリと呟いた。


「確かに嘘くさいけど、でも、どうしても欲しいんだ」


 真摯に訴えるシギ、カルデノは何も返さなかった。


「カルデノが行けば心強いだろうけど、私は足手まといにしかならないよ」

「うーん、なんの攻撃手段もないの? 初めて会った時も武器はカルデノしか持ってなかったよね」

「うん、…うん?」


 待てよ、私には攻撃手段があったはずだ。

 王都に来る理由にもなった、ドラゴンを怯ませた晶石。

 あれなら作れるし、攻撃の威力はランダムだが剣を振り回したり出来ない私には十分な武器になる。


「晶石も、攻撃の手段だよね?」

「まあそうだな、けど威力がなあ」


 シサは腕を組んで何かを考え始めた。

 しかしそれを邪魔するようにギトがシサの腕を叩いた。


「兄ちゃん、カエデさんなら僕がフォローするよ。魔法があるから何とかなると思う」

「ギトが?」

「うん、どうかなカエデさん」


 足手まといにしかならないというのに、逆にその申し出はありがたい。

 その話に出てきた泉は私も興味がわいて来たので、出来れば見てみたい。


「ねえ、カルデノはいい?」

「ああ、カエデが行くなら」

「よかった、カルデノが行かないと話にならないから」

「じゃあいつ行く?」


 シギが言う。

 私はアイスさんにハイポーションの事を頼まれているので、少し時間が欲しい所だ。


「シギ達はいつでも良いの?」

「うん、まあ装備をキチンと整えなおす時間はあった方がいいかな」

「なら、また3日後の午前って事にしようか」


 シギ達もそれに納得して頷いた。


「今度は寝坊しないように気をつけるよ」


 自分で皮肉を言って苦笑いするシギ。

 今回の寝坊は前日に遅くまで帰れなかったのが原因なのだから、もう一度同じことがあれば悪意があるとみなそう。

 カルデノにアオギリ草の入った袋を2つ持ってもらって、もう一度お礼を言った。


「その袋は次会った時に返してくれたらいいから」

「わかった、それじゃ3日後ね」


 シギたち3人はギルドに用事があって残るようなので、ここで別れてギルドを出て、馬車の乗り合い所に向かう。


「沢山貰ったね、これならアイスさんに渡すハイポーションも満足なだけ作れそうだし」

「そうだな、まさかこんなに採って来るとは思わなかった」


 けど、と一旦言葉を区切り、その続きが中々聞こえてこない。


「けど、どうしたの?」


 続きを催促してみると、口が開いた。


「さっき言ってた妖精の泉、泉の水に病気を治す効能があるんじゃなく、妖精の水がそうなんじゃないか?」

「妖精の水、って…」


 どこかで聞いたような、いや見たことがあるような気がする。

 喉まで出かかる言葉が、急にポンと出てきた。


「マキシマムポーションの材料だ」


 そうだ、確かマキシマムポーションの材料は天龍草と妖精の水、その片方だ。

 千切れた腕も生える効果のあるマキシマムポーション、それの材料として使われるくらいなのだから、その妖精の水がどんな病気も治すというのはあながち嘘ではないのかもしれない。


「ポーションの材料なのか?」

「うん、妖精の水って高価なの?」

「高価もなにも水の妖精にしか生み出す事の出来ない水だ、そう手に入る物じゃない」

「そうなんだ」


 でもリクフォニアにいた時に、ランジさんにマキシマムポーションを使うところを見たと話を聞いたのだから、妖精の水は手に入るものなのだろう、手段は知らないが。

 それにしても私は本当に勉強したほうが良さそうだ、カルデノに疑問を投げかけることも少なくないし、せめて自分に関係のある事は頭に入れて置かないと後々大変だろう。


「帰ったらすぐにハイポーション作るから、手伝ってくれる?」

「ああ、アイスとか言うのに頼まれてたんだったな」


 普段はあまり表情に出ないカルデノが、何故かアイスさんが話にでも出てくると目に見えて不機嫌になってしまう。


「カルデノ、アイスさんの事嫌いなの?」

「…別に」


 君は何尻エリカ様なんだ。


「人を値踏みするのに慣れた奴だと思ったから、気に入らないだけだ」

「アイスさんが?」


 そうだろうか、私にしてみたらの話だが、品定めするような目は見たことがないし、打算的な人にも思えない。

 けれどカルデノがそう感じているのも、なにかそう思わせる事があったからだろう。


「カエデもだろう」

「え?」


 主語がなく、頭の中で話が繋がらない。


「カエデも、ポーションの事があって親切にして貰ってるんじゃないか?」

「ポーションの?」


 そういえばアイスさんも私が変わったポーションの作り方をしていると知っている。


「でもそうなのかな、ただの親切な人にしか見えないんだけど」

「そうか?」

「うーん、多分」


 曖昧に笑って返すと、カルデノは眉間に皺を寄せた。


「カエデ、あまりポーションの事で目立つな」

「え? でも今のところ収入はポーションが頼りなんだけど」

「そう思うならまずポーションの価格を見直せ」

「価格? でもアイスさんはあれで問題ないって…」

「それも」


 私は言葉を遮られ、ずいっと迫られて顔を引いた。


「そ、それって、なにが?」

「アイスの言葉を鵜呑みにするのは止めろ」


 あまり理解もしていないのに小さい声で謝ると、カルデノはやれやれといった風に息を吐き、袋を背負いなおした。





 寸胴鍋にだばーっと水を移す。

 清め石を中に入れて色が広がり切ったところで沢山のアオギリ草と生成する。

 出来上がったハイポーションをカルデノが拾いながら数え、名前を呼ばれた。


「今作ったので500個を越えた」

「やっとかー、もういいかな」


 家の裏の井戸は日も当たらないので涼しいはずなのに、じとっと汗をかいていた。

 リクフォニアにいた時、季節は暖かくなり始めたころだったので、順調に季節が巡るならこの暑さはもう夏に近い。

 暦が無いのではっきりはしないが、こちらに来てから結構経っただろう。


「もういいなら休もう」

「そうだね」


 アイスさんが置いていった大きなココルカバンをカルデノに運んでもらい、家に入った。

 家の窓は開けてあって、風通しがよくなっている。


「暑くなって来たね」

「そうだな」


 椅子に座って一息つく。


「真夏になったらアイスでも食べたいね」

「アイス?」


 カルデノの歪められた顔から、今何を考えているのか容易に分かってしまった。


「アイスさんとは関係ないからね、食べ物だから」

「食べ物か、ならいい」


 どうやら本当にアイスさんを思い浮かべていたらしい。


「ちなみにどんな食べ物なんだ?」

「えーと、甘くて冷たいかな」

「…食べたいな」

「もっと暑くなったらね、あと少ししたらアイスさんにハイポーション届けに行こっか」

「ああ」


 喉が渇いたのでポットに井戸水を汲んできてもらって、コップに注いでからぐーっと一気に飲み干す。


「はー、冷たい!氷があればもっといいのにね」

「なら届けついでに色石を買おう、私も氷が食べたい」

「色石って氷作れるのあるんだ、何色?」


 買ったことのある色石は赤石と紫石だけなので、他も気になる、それ以前に色石を使う所を見たことがないので気になる。


「氷は白石だ」

「へー」


 もう一杯水を飲んで、立ち上がった。


「あんまり休憩できてないけど行こうか」

「ん、わかった」


 カルデノは何も言わなくてもハイポーションの入ったココルカバンを手に持ってくれた。

 アイスさんの家はここから遠いのだが、馬車を知った今はそこまで苦にならないだろう。

 そうしてアイスさんの家を訪ねたのだが、肝心のアイスさんは仕事で居なかったのでハイポーションはメイドさんに渡し、報酬は後日と言われた。

 色石を買うためにギルドに訪れ、ギルドの4階に上がった。

 様々なものが売られている中から色石を探していると、カルデノがとんとんと肩を叩いてきた。

 何かと思い振り返ると、手には金色の細いブレスレットが乗せられていたので、なんなのかと聞く。


「身代わり、一度だけ体に結界を張ってくれる物だ」

「へえ、そんなのあるんだね」

「ああ、シギ達と森に行くんだ、万が一を考えて買っておいたらどうだ?」

「そうだね、その万が一は無いといいけど」


 カルデノから身代わりのブレスレットを受け取り、その後色石探しを再開した。

 色分けされてビンに入っているのを見つけ、白石をひとつ取った。


「すぐ壊れるから多めに買っておこう」

「何個くらい?」


 言われて、3つ手に取ってみたが、カルデノがさらに2つ追加してきた。


「これでいいんじゃないか?」


 私は値段を確かめず会計した。


「5つで50タミル、ブレスレット2つで80タミルです」


 リクフォニアとは値段が全然違っていて、一瞬動きが止まってしまった。

 お金はあるからいいのだが、今度からちゃんと値段を確認しよう。




ここまで読んで頂きありがとうございます。


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