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時は流れてお金の話し

ガタガタ揺れる馬車の中にいた。

今はもう午後を回っただろうか。すこし温度の高い車内で、私はぐたっと隣りの女性、アイスさんに寄りかかっていた。

「カエデちゃん具合どう?」

「あんまり良くないです」

「もう少しで王都に着くから、頑張って」

「はい」

そう、私は馬車で約一ヶ月間酔いと戦いながら王都までもう少しというところまで来たのである。

結局セリーさんとランジさんに挨拶できなかったのが心残りだが、よく考えれば2回護衛の仕事を引き受けてもらっただけの間柄だ、気に病むこともない。

と言いつつ、ここひと月気にしっぱなしである。

「あ、ほら見えてきたわよ」

「本当ですか」

窓から景色を見てみると、高い壁が見えていた、あれが王都なのだろう。

遠くからでも分かるほど高く、円を描いているのだろうがほとんど壁にしか見えない城壁、それを見たら少し元気が出た。

「どうカエデちゃん、たのしみ?」

「はい、とっても」

そもそもこのアイスという女性は一体誰なのかというと、ドラゴンハンターを束ねるリーダー的な存在なのだそうだ。

なぜこのまだ若い女性が? と思ったが、アイスさんは鬼人族というとても強い種族なのだとか、しかし私から見たらただの巨乳美女だ。

中継の村で髪用石鹸を貸したら私を気に入ってくれて一番乗り心地のいい、この馬車に乗せてくれるようになった。

私もその好意に甘えて今日まできたのだ。

「着いたらまずギルドに行くから、そこで報酬の話しをするのよ。そしたら落ち着くまで私のお家に泊まっていいからね」

「まだどうなるか分からないけど、ありがとうございます」

「いいのよ、最終手段とでも考えておいて」

「はい」

笑って返事をしたかったがやはり酔って気分が悪くて、またアイスさんに寄りかかって目を閉じた。




「カエデちゃん、着いたわよ」

「え、あ、はい」

目を閉じているだけのつもりが、まさか寝ていたらしい。

アイスさんに手を貸してもらって馬車から降りると、すでに他のドラゴンハンター達はギルドと思わしき建物に入って行く途中だったようだ。

「うわー、おおきい……」

ぱっと見ただけでもリクフォニアのギルドの3倍ほどの広さがあって、更に5階建てのようだ。

「こっちよ、付いてきて」

「はい」

付いてきてと言うわりに手を握ってくれて、中に入った。

中はやはり広く、人も沢山いて、それにともない受付の窓口と思わしきものが多く設置されていた。

手を引かれたまま5階にまで上がると、そこは一本の道と、脇に部屋がいくつかあるだけの場所だった。

そのいくつかある中の、一番近くの部屋に皆入っていく。

部屋の中は広くて大きな窓が2つ、長いテーブルが一つ用意されているだけの部屋で、アイスさんは上座に近い位置に座り私はその隣りに座らせられた。

「あのアイスさん、私いていいんですか?」

「いいのよ、討伐隊には入ってなかったけど立派な功績があるもの、ね?」

「は、はい……」

何が始まるのか分からず、緊張のあまりキョロキョロすると、離れた位置でダリットとアスルがおしゃべりしているのが見えた。なんだかとても楽しそうだ。

私達がこの部屋に入って5分ほどした頃、出入り口から黒いマントを羽織った老人が入ってきた。

「待たせたな、さて話しをはじめようか」

「遅かったじゃないギルド長」

「えっ」

ギルド長というと、この大きなギルドで一番偉い人ということだろう、そんな偉い人が来るような場所に、やはり自分は場違いに感じた。

「おや、その子は?」

「カエデちゃんっていうの、討伐隊には参加してなかったけど、しっかりした功績があるから追い出さないでね」

「は、はじめまして、カエデといいます」

「うむうむ、礼儀正しいのはよい事だ、追い出したりしないから安心しなさい」

「はい、ありがとうございます」

どうやらこの集まりは先ほどアイスさんが言っていた、報酬の話し合いだったようだ。

一番活躍したのは当たり前のようにアイスさんだったようで、報酬は10万タミルだった。

次にアスルで7万タミル、次々と高額が耳を過ぎていき、どこからそんな金が出てくるのかと思うほどだ。

「それで、カエデはどのような働きを?」

「あ、えーと」

なんて言えばいいのか全く分からない。

困ってアイスさんを見ると、自分の行動をそのまま伝えればいいと言われた。

「えーと。雷晶石を投げました」

自分の行動をそのまま伝えたのだが、ギルド長は理解していないし、アイスさんは苦笑いしていた。

「アスル、あなた確かしっかり見てたのよね?代わりに説明してくれる?」

「はい」

まったくもって説明が下手だったらしい、恥ずかしくて穴があったら入りたい。

街にドラゴンが入って来て、私が女の子を守りつつ放った雷撃がいかに助かったか、アスルが分りやすく丁寧に説明した。

「あの怒り狂ったドラゴンをひるませたのです、どれほど強力なものだったか想像に難くないはずです」

「うむ、確かに。では4000、いや5000タミルが妥当と思うが、どうだ?」

その質問はアイスさんに向けられているようだ。

「5000ねえ、まあそれくらいかしら、でもあと500くらいあると私の気も済むわねー」

「なら5500にしておくか。まったく我がままが直らんな」

「あ、それとカエデちゃんに家をあげられない?もちろん5500の報酬とは別で」

「ちょちょちょアアアイスさん!?」

5500タミルの報酬が決まっただけですごく嬉しいのに、これ以上何かを望むなど出来るわけがない、それなのにアイスさんはにこりと笑うだけで何も言ってくれない。

「さすがにそれは無理だアイスよ。家まで望むなら5500タミルの報酬はなくなる」

「そう、なら仕方ないわね」

ごめんねと謝られたが、そんなのはどうでもいい、むしろもう変なことは言わないで欲しい。

命の危険は感じたが、それでも晶石一つ投げつけただけで5500タミルも貰えるなら、本当に他は何もいらない。

どうやら私で最後だったようで、簡単に挨拶だけして部屋を出た。

報酬の支払いは明日になるらしいので、今日はアイスさんの家に泊まらせてもらう事にした。

再び馬車に乗り込んで、窓から外を見た。

簡単に見ただけだと、王都は中心に向かって少し高くなっているようで、様々な建物が建っている。

馬車が走り出してからも外を眺めたまま観察していると、人種も様々いる。

「アイスさん、あそこにすごく大きな人がいます」

丁度外に身長3メートルはあろうかと言う少年が目に入った。

「ああ、巨人族ね。他にも獣人やドワーフなんかもこれから沢山見ることが出来るわよ」

「へえ、獣人ってどんな人たちなんですか?」

いったん外からアイスさんに目を移した。

「そうね、獣人って一括りにしているけど、猫族や犬族、あと羊族はよく見かけるわ。私は鬼人族だけどとても人間に近い見た目よね?けど父は典型的な鬼人族の見た目だったの。そんな風に見た目では分りにくい事もあるかも知れないけど慣れるわ」

「そうなんですかー」

また外に目を向け、アイスさんの家に到着するまでずっと質問を繰り返した。




アイスさんの家は豪邸だった。

馬車から降りた後の開口一番はでけえ、だった。

本当に驚いて、ひょっとしてすごい所のお嬢様なのかと思ったが、この家は自分の稼ぎで買ったらしい。

まあ報酬の金額を聞いていればそれも難しくなかったのかもしれない。

玄関にメイドさんが2人控えていて、アイスさんと私が通る時にまるで自動ドアのように開けてくれた。それだけでなく中にもメイドさんが4人いて、2人が私の荷物とアイスさんの荷物を持って何処かへ行ってしまう。

「荷物はカエデちゃんの使う事になる部屋において置くように言ってあるから大丈夫よ」

「あ、そうなんですか」

少し不安に思ったがそれなら安心だ、それになによりここはアイスさんの家なのだから行方不明になることもないだろう。

「さてカエデちゃん」

「はい?」

「疲れてる所申し訳ないけれど、私の部屋で少しお話ししましょうか」

「はい」

何の話しだろうかと疑問に思いながら、二階に上がったアイスさんの部屋に招かれた。

一面に紺色の絨毯が敷かれた20畳ほどの広い部屋、その真ん中にテーブルとソファがあって、向かい合うようにお互い座った。

「何の話しかっていうと、カエデちゃんの家の話しなんだけど」

「家ですか、まだ現実的じゃないので……」

「そうよね、それにいくらで買えるかもわからないし」

「はい」

「知り合いにね、家を売ってる人がいるから、明日訪ねてみない?」

「え、でも私の全財産合わせたって買える家なんてきっと無いですよ」

日本でも数十万で買える家を見たことがないのと同じで、今までの金銭感覚から言って5000タミルでは家など買えない。

しかしアイスさんはにっこり笑う。

「聞いてみないと分からないじゃない?行ってみましょう?」

有無を言わせない威圧感を感じ、頷いてしまった。

「それと服も買ってあげるわ」

「え、でも……」

服は初めて買った服2着とセーラー服をずっと着まわしていて、もうくたくたなのは一目見てわかるほどだ。

「髪用石鹸ずいぶん使わせてもらっちゃったから、そのお返しよ」

「それだったら、お言葉に甘えて」

私の家の話しはそれで終わって、これから王都で暮らすならと、わざわざ地図を出して色々説明を受けた。

地区の名前や、この辺がお店が多いとか、ここら辺は治安が悪いから行くなとか。アイスさんは本当にいい人だ。




「あら、もう暗くなっちゃったわね」

ふと顔を上げると、窓の外は夕日が浮かび、室内も暗かった。

「こんなに長く話すつもりなかったのにごめんなさいね」

「いえ、沢山お話し聞かせてもらって助かります」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

その後豪華なご飯を食べて、お風呂に入って、ふかふかのベッドで就寝。ぐっすり眠った。

朝にはメイドさんに起こされて、眠い目をこすって朝食の並ぶテーブルに座らされた。

「おはようカエデちゃん」

「おはようございます、気持ちのいいベッドでぐっすり眠れました」

「それはよかったわ。これを食べたら早速出かけましょうね」

「はい」

朝食はサラダとパンとジャムがあったので、アイスさんの真似をしてパンに黄色いジャムを塗って食べた。

なんの味か全く分らないがすごく美味しい、甘くて酸味も利いてて感動してしまうほどだ。

「そういえば、昨日言ってたお知り合いのところまで、どれくらいかかるんですか?」

「そうねえ、馬車で10分くらいかしら。留守じゃないといいけれど」

よく留守にしているひとなのだろう、とその時は気にしていなかった。

しかし。

場所は変わって普通の民家の前に私とアイスさんは立っていた。

アイスさんはドアをノックしたが、一向に誰かが出てくる気配が無いし、ドアも鍵がかかっている。

「留守なんですかね?」

「そうね……」

アイスさんは鍵がかかっていて開かないはずのドアのノブを掴んだ。

何をするのかと思うと、木製のドアがミシミシと歪められる音を立て始めた。

「え!?あのなんでドア……」

「押し戸なのかと思って」

言った瞬間バリンとノブがドアの向こう側に突き抜けた。

「あああああ!お前何やってんだよ!」

中から男性の声がして、アイスさんはにこりと笑った。

「お前何回ドア壊せば……」

声の男性が役目を終えたドアを押して姿を見せたのだが、アイスさんの笑顔を見てサーっと顔色を悪くした。

「やっぱり押し戸だったのね、リック?」

「え、いや、あの。押し戸、だったんだね、俺も知らなかったよはははは……」

腰までありそうな長い黒髪で、それとは違い目は大きな紫色の、見た目では男性か女性か分らないような若い人だが、声は低いので男性だろう。

リックと呼ばれた男性が空笑いでこちらを見た。

「えーと、その子は?」

「カエデちゃんっていうの、家を買いたいそうでね」

「そうか、俺はリックだ、よろしく」

「あ、はじめまして、カエデです」

アイスさんと話していた時とは打って変わって、とてもさわやかに挨拶してくれた。

「で、予算はどれくらいで?」

「いや、予算って言うか、いつか買おうかなって思ってるだけで……」

家を買うようなお金はないのだといわなければならないのに、アイスさんが

横から割って入ってきた。

「一番安い家でいくらなの?」

「一番か、本当に値段だけ安いんだったら廃屋同然の家が2000タミルで売ってるぞ」

「誰が廃屋を紹介しろって言ったの?私は安い家って言ったわよね?」

顔面を鷲掴まれて何度も謝るリックさんの姿が痛ましくてこっちが泣きそうになった。

「じゃあ普通に使えて安いのだと、3万2000タミルの家かな、見に行くか?」

「じゃあ見に行きましょカエデちゃん」

「……はい」

リックさんにあんな目に合わせて、まさか予算足りないんで無理です。とは言えなかった。

来たときに乗ってきた馬車に乗り込んで、リックさんが案内しながら10分ほど走った所で馬車は止まった。

家自体はこじんまりしたものがちらっと見えたが、はっきりしないので三人で降りた。

「うわ、すごいわねここ」

空き家の周りにはご近所と言える様なよその家がなく、草や木が生え放題で空き家に近づくのも苦労しそうなだけ鬱蒼としている。

「家の中は見れるんですか?」

「ああ、見る?」

「はい」

リックさんが草を踏み倒しながら空き家に突き進み、その後を私とアイスさんが付いていく。

鍵を開けてドアを開けると、空気が流れたせいでホコリが舞い上がった。

中に足を踏み入れて一目で気に入ってしまった。

入ってすぐにリビングがあってドアのすぐ横には階段、リビングの奥にはドアがひとつ、隣りの壁にもひとつあり暖炉もある。リビングは10畳より少し広いくらいだろうか、アイスさんの部屋よりも狭い。

何かほのぼのした映画で見たことのあるような作りに思わず笑みがこぼれた。

「あの、奥も見ていいですか?」

「好きに見ていいよ」

ホコリが舞うのを気にせず、まず奥のドアを開けてみた。

大きな窓がひとつあるだけのそこそこ広い部屋だ。本来なら沢山の光が取り込まれているはずの窓は木に光を遮られていた。

次にその隣りの部屋を覗くと、1畳ほどのスペースの先に黒くてツヤツヤしたドアがあったので、恐る恐る開けてみると、浴槽があった。

「はー!」

思わず叫んだ。

洗い場も浴槽も足を伸ばして入れるだけ広い。

テンションが高いまま次は階段で2階に上がると、少し天井が低くてなんの仕切りもない広い空間が広がっていた。

下におりると、アイスさんもリックさんもニコニコ笑っていて、首をかしげた。

「楽しそうね、気に入ったの?」

「あ、はい」

きっと知らずにはしゃいでいたからこんなに笑顔でいたのだろう。

すごく気に入ってしまった、私はリックさんと向かい合うように移動した。

「あ、あの」

「うん?」

「この家、分割払いでもいいですか?」

「もちろん。ただ注意ね」

リックさんが人差し指を立てた。

「この家にはキッチンがない、トイレは外、井戸も少し汚れてる。それでもいい?」

私は迷わず頷いた。




お気に入り登録数が200を越えていました、ありがとうごさいます!

一体どうしてでしょうか昨日まで2桁だと記憶していたのですが。

しかし嬉しくてそれどころではありません、これからも出来るだけ早い更新を心がけようと思います。

本当にありがとうございます。


ここまで読んで頂きありがとうごさいます。

何かあれば知らせて下さると助かります。


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若い女の子がトイレが外の物件を気に入るとは思えん
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