知らぬ土地で目を覚ます
「ん、ちょ、あれ?」
気がついたら路地裏に寝転んでいた。
意味が分からない。
「なにこれ、どういう事さ」
すっくと立ち上がり辺りを見回すが、全く見覚えがない。向こう20メートルほど先に路地裏から出られそうな所があったので走った。
「は、え?」
明らかにそこは地球ではない、そう思った。
いつの時代の海外かと思うようなレンガ作りの建物が並び、道は石畳。二足歩行のしゃべるトカゲ、ほうきに乗って飛ぶ女性。
私は足がすくみ、しかしなんとか後ろに下がった。来た道を戻り倒れていた場所まで戻ると、そこに座り込んだ。
「なによ、これ」
汚い路地裏に寝そべっていたせいか、紺色のセーラー服が汚れていた。
「か、カバン、カバンどこ?」
何故ここにいるのか、まったく記憶にないが制服を着ているくらいだ、登校中や下校中だったらカバンを持っていたはず。
キョロキョロと辺りを見ると、ごみの下からストラップが見えた、それを埋めるごみを除けると見慣れたカバン、まあ見た目はリュックサックか。リュックサックを抱き寄せた。
しばらくリュックサックを抱きしめたままどうしてこんな所に一人でいるのかと心細くなり、気休めになるかとリュックサックの口を開けた。
教科書やノート、筆記用具、ペットボトルのお茶、スマホ、音楽プレーヤー。それと見慣れない、分厚い本。
「なにこれ」
まるで洋書のような見た目をした本は5センチ以上の厚さがあり、ずっしりと重い。とりあえず1ページ目を開いてみると、なにか書いている。
【あなたは選ばれました、ゲームのように楽しんでください。しかし死ねば死にます、怪我は痛いです、レシピを活用して生きてください。売れます、頑張って下さい】
そう書かれていた、腹の立つ文章だ。
そして2ページ目へ捲ると、ページいっぱい使って大きく「薬」と書かれ、3ページ目には色のついた薬品だろうか、それが三つ縦に描かれていて、それぞれの横にはレシピと思わしき物も記されている。
上から、緑色の薬品にはポーション、青色の薬品にはハイポーション、黄色い薬品にはマキシマムポーションであることが名前から分かった。
「これを作って、売れと?」
パラパラページを捲るがしばらく白紙が続き、途中に「武器」と大きく書かれ、隣のページにダガーが描かれていてまたしばらく白紙。
また途中に「防具」と大きく書かれ隣のページには布の服……
「布の服なんか今着てんじゃない!」
思わず突っ込んだ。
しかしそれ以降は見出しがあっても「?」と書かれたものがいくつかあるだけで白紙だ。最後のページにたどり着いた。最後のページにはまた何か書かれている。
【はてなの項目はまだ閲覧できません。アイテムを作るには材料を集めて「生成」と唱えてください。通貨は1タミル半銅貨一枚です。10タミル銅貨1枚です。100タミル小銀貨1枚です。1000タミル銀貨1枚です。1万タミル金貨1枚です。10万タミルで白金貨1枚です】
と書かれている。価値観がイマイチ分からん。1タミル1円と思っていいのだろうか。
私はため息をついて、お茶を一口飲んだ。
「死にたくない……」
ポーションのページに戻った。
「えーと、ポーションの材料は草と水ね。え、草ってなんの草?」
疑問だが、地面に生えていた雑草を引っこ抜いて水を探した、水はすぐに見つかった。雨水の溜まった汚い水だが。
「生成」
手に持っていたままだった雑草と汚い雨水が光ったかと思うと、四角いビンに入ったポーションが出来上がった。
「ビンの要素はどこから来たのさ」
突っ込んでしまった。
手に持っていた雑草はなくなったが、水はまだ余っているのでまだ作れるようだ。
握りこぶし位の大きさのポーションをリュックサックにしまい込み、その辺から雑草を手いっぱいに引っこ抜き、雨水と生成した。
「とりあえずポーションが7個、いくらになるかな」
すべてリュックサックにつめこみ、セーラー服の汚れを叩き落して路地裏から出た。
少し人の目が気になるが、変わった魔女服だとの呟きに安心した。
薬屋なんてあるのかと一抹の不安を抱いたまま歩いていると、さっき作ったポーションと似たような絵が描かれた看板を発見した。これは可能性が高そうだ。
急ぎ足で店の前に立つと、ドアを引いた。ちりんとドアベルが鳴り、すぐ横のカウンターに座るおじさんがこちらを向いた。
「いらっしゃい。どうしたお使いか?」
「あ、どうも、えと……」
見た目は50歳ほどだろうか、白髪交じりの黒髪と少し怖い顔、見た目で思わず言葉に詰まった。
「うん?どうした?」
リュックサックからポーションを一つ出した。
「これ、売れますか?」
「ポーションか、どれ」
おじさんはポーションのビンを軽く振ると、頷いた。
「いいだろう、8タミルでどうだ」
「8、8タミルですか……」
8?8円ってこと?え?安くない?
「どうした?不満か?」
「あ、いや、よく分からなくて」
しどろもどろな私に、おじさんはニカっと笑った。
「そうか、おじょうちゃん小さいから無理ないか」
「ちいさ……い」
どうやらよほど小さい子に勘違いされているようだ、しかし好都合、乗らせてもらおう。
「うちはポーション一つ13タミルで売ってる、ハイポーションなら30タミルだ、売りに来たなら20タミルくらいで引き取ってる」
「えーと、13タミルでお菓子いくつ買えますかね?」
「ははは、おじょうちゃんにしてみたら沢山じゃないか?」
「そ、そうですかー、ははは」
子供にしたら沢山?なんだそれわからん。1タミル100円だと思うと13タミルは1300円。ポーション1個1300円って高いのかな、なにもかも分からん。とりあえず売ろう。
「じゃあ、全部買ってくれますか?」
残りを出すと、おじさんはうんうんと頷く。
「いいぞ、ポーションはいくらあっても困らないからな。なにせ命がけの職業には必需品だ」
「ありがとうございます」
おじさんはお金を私に手渡す。全部で56タミル、銅貨5枚と半銅貨6枚だ。
それをリュックサックの中の筆記用具入れに入れて、ついでにと聞いてみる。
「あと、このへんに安く泊まれる場所はありませんか?」
「あー、裏の宿は安いぞ、ぼろいがな」
「ありがとうごさいます、また来ますね」
「ああ、よろしくな」
私は店から出て、店の脇の道から裏に回った。確かにぼろい宿があった、しかし営業しているのだろうか?
薄暗いがとりあえず中に入ると、受付と思われるカウンターで昼間から突っ伏して寝る女性。
「あの」
「んぇ!?あ、いらっしゃいませ!」
女性は勢い良く起き上がりニコニコしているが、口から出たヨダレで台無しだ。
「ここって素泊まりだと、いくらですか?」
「はい、素泊まりですと一泊10タミル、三食食事つきですと一泊17タミルになります」
「じゃあ素泊まりでとりあえず二泊お願いします」
「かしこまりました、ではこちらにサインお願いします」
さっとカウンターに出されてた紙は何本か横に線を引かれたもので、上のほうにカタカナで他の人の名前が書かれている。安心して名前を書いた。
「かえで、やくも……と」
いまさら私の名前が出てきた。
「カエデ・ヤクモ様ですね、こちらお部屋の鍵です。カエデ様のお部屋は二階に上がって最初のお部屋ですのでお間違えのないようお気をつけください」
なんだか簡単に真似できそうな形の鍵だな。ドラクエに出てきそうな形。
「ありがとうごさいます。それと、部屋で水が飲みたいんですけど……」
「はい!お待ちください」
女性は駆け足でカウンターの奥へ引っ込み、すぐに戻ってきた。
「こちらをどうぞ」
30センチくらいのでっぷりした花瓶のような物と木のコップを渡された。
「ありがとうごさいます」
よたよた歩いて二階に上がり、部屋に入った。
部屋は4畳ほどの広さで、ベッドとテーブルがあるだけの質素なものだ。
水とコップをテーブルに置き、リュックサックを床におろした。
「水は確保した、あとは雑草」
今しがた床に置いたリュックサックの口を開け、中身をすべて出した。すっからかんにしたリュックサックに用があるのだ。
空のリュックサックを背負い、部屋を出て鍵を閉めた。下におりるとカウンターの女性と目が会い。
「お出かけですか?」
と話しかけられた。
「はい、散歩に」
「でしたら鍵をお預かりしますね」
鍵を渡し、いざ雑草探しへ。あと街の散策も。
街には色々なものがあり、露店もしているので目移りしてしまう。散策は後回しにして、先に雑草を探すことにした。
人に見られないようにすると必然的に路地裏なんかの薄暗い場所になってしまうので、怪しい人が居ないかを注意深く確認してから手近な所で雑草を毟り出した。
手当たり次第なので土がついたままだが気にしない、リュックサックに放り込んだ。沢山生えているのでリュックサックはすぐにいっぱいになり、これだけあればポーションも大量に作れそうだと、安心して街を見て回ることにした。
食事のとれるところや服を売る店、武器やペットが売っている店もあった。ふと目に留まった露店で大きめのショルダーバッグに150タミルの値札が貼られていた。
「このバッグ高いですね」
「バカ言っちゃいけねーよじょうちゃん、これはココルカバンだぜ?」
「ココルカバン?」
見た目は柔らかな薄茶色の大きなショルダーバッグ、それ以外に何も言うことがない。
「知らないのか?これは見た目とは違って大量の荷物が入るんだ」
「へえ、だからこんなに高いんですね」
「おうよ」
「ちょっと手を入れていいですか?」
「いいぜ」
了承を得たので、口を閉めているボタンをはずし、手を突っ込んだ。
「おお!?」
いくら手を入れても底に手が届かない。カバンを引っ張りつつ肩まで押し込むと、やっと底に手がついた。今持っているリュックサックの4倍はあるだろうか。すごく欲しい。
残念ながらお金もないのでしょんぼり帰ることにする。途中で見つけたパン屋でパンを二つ買い、3タミル使って宿に戻った。
「お帰りなさいませ」
「あ、どうも」
鍵を受け取って部屋に戻った。
「さっそくお金の元を……」
リュックサックを開けてテーブルに置き、水と並べる。
「生成」
水と雑草が光ると、床にポーションがごろごろ転がっていた。
「うわー」
数えると11個、同じ金額で買い取ってもらえれば88タミルになる。
しかしリュックサックの雑草は余っているが水がない、足りなかったようだ。カウンターに行ってもう一度水を貰ってくると、今度は12個出来た。雑草はまだ残っているが、また水を貰いに行く勇気がないので今日はこれで終わりにする。
その日はパンを食べて寝た。まだ夕方だったが、思ったより疲れていたようで、次の日起きると太陽は真上に上がっていた。
大きくあくびをして、昨日放置していたポーションを売るために、リュックサックから一旦雑草を出し、代わりにポーションを詰め込んだ。薬屋はすぐそこなので、ビンが割れないように慎重に歩く。
「お、また来たのかい?」
「はい」
おじさんは私を見るや否や嬉しそうに笑った。
「じゃあポーションだな?」
「はい、今日は多めです」
リュックサックから丁寧にポーションを取り出していく。
「はは、そんなにおっかなびっくりしなくても割れないよ、普通のビンとは違うんだから」
「え」
そうなのか、恥ずかしい。
「全部で23個か、184タミルだな」
おじさんはちゃっちゃとお金を用意し、手渡してきた。小銀貨1枚と銅貨8枚、半銅貨4枚だ。いそいそと筆記用具入れにしまう。
「ありがとうごさいます、また来ます」
「また頼んだよ」
小さい子の成長を見守るかのような眼差しをされる。実際小さい子と思われているので仕方ないだろう。
184タミルだ、今回手に入ったお金は184タミルなのだ、つまり手持ちのお金は昨日余ったのと足して217タミル。あのココルカバンが買える。
「でも折角こんなに手に入れたのになあー」
しかし決断は早かった。
「すいませんココルカバンください」
「はいまいどあり!」
買ってしまった。
宿に戻った私はベッドでうなだれていた。
「買っちゃった……」
私の隣でペタンと置かれているココルカバン。欲しかったのだ。
早く金を稼がねば。まだ雑草は沢山残っているので、また水を貰って10個作った。
しかし同日に売りに行くのは気まずいので行けない。とりあえずあのなぞの本を見てみようと思う。
パラっとめくると、前に見たポーションのページだ、ハイポーションのレシピを見てみると、材料はアオギリ草と清水とある。
「さすが高いだけあって知らん材料だわ、つーか清水て、え?今までの水汚かったの?」
それかアオギリ草じゃないからポーションになるか、だ。マキシマムポーションにいたっては天龍草と妖精の水。なにそれ。
何気なく1ページ捲ると、ひとつ増えていた。
「お、なになに毒消し?なんか安そう」
今は売値が大事なのだ。材料はコウモリの羽と森の雫、無理だ分からん。
ふと思った、こんなファンタジーならギルドとかあるのかな。
よくギルドに登録すると身分証も兼ねたギルドカードが発行出来るとかあるけど、どうなんだろう。
唸りつつ、明日はポーションを売りつつ世間話でもしようと思う。
「おじさん、ギルドとかあるんですか?」
ココルカバンからポーションを10個出す。
「ギルド?ああここが南門の通りだから、西門の通りにあるよ、どうかしたのか?」
おじさんからお金を受け取る、ポーション10個売ったので80タミルだ。
「欲しいものがあって」
「そうか、でも身分証欲しさに集まったチンピラには気をつけろよ」
身分証!やっぱり貰えるんだ!
「それと、清水って知ってますか?」
「清水?」
「はい」
「うーん、確か清め石を使って作る水だな。清め石なら魔法石店に売ってると思うぞ」
「そうですか、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。
「ああ、またな」
「はい、また」
清水とアオギリ草が揃えばもっと楽に稼げる!
とか思ったのは甘かった、その清め石が同じ南門通りの魔法石店で1000タミルもしていた、高すぎ。
清水は後に回すとして、ギルドは西門の通りと言う話しを頼りに探す。
読んでいただきありがとうございます。
素人の初投稿小説ですので、つたない文章は大目に見てください。