汽車は時代の叡智である(300字短編)
いつの間にか何かを忘れてきてしまった気がする。そう感じたのだとしたら、本当はそんなもの知らなかったはずだ。それを認めてはいけないのだよ。知っていたことにしなければ駄目なのだよ。
散々駄目だと言ったのに、君は変わってしまった。認めてしまった。
この後どうなるか、君も知っているだろ。
そうさ、窓の外を見てごらん、汽車が君にどんどん迫ってくる。
無駄さどんなことをしても。そもそも君は知っていたのじゃないかね、願っていたのじゃないかね、この結果を。
汽車は危害を与えない、君を轢き殺しもしない。ただただ近づくだけさ。
この危機感、いや快感の元は君の倦怠であると誰が知ろう。
「全ての原因は、汽車は時代の叡智だからさ。」