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20/21

少年の愛

 その空間の氷の足場はほぼ崩れ去り、中央には巨大な穴が空いていた。

 鋭い氷の槍の群れのようなステージの真ん中には金髪の少年がボロボロの状態で倒れていた。意識は無く上半身の衣服は吹き飛び、かろうじて生きている状態にある。

 すでに勝負を決したと思うユキはこれから外の現実世界への侵攻を考えた。

「私は無垢な悪意で全てを壊す」

 白いハイヒールを砕けた氷に突き立てユキは歩いて行く。

 すると、形のいい小さな耳に聞きなれた声が聞こえる。

「……戦う上での無垢は悪だ。考えない暴力は……悪でしかないぜ」

 HPゲージがゼロになりいつ死んでもおかしくないライトは動かせない身体をのまま天を見上げ言う。ギリッ……と歯を食いしばり両拳を握るユキは背を向けたまま答える。

「考えないのは悪でもなんでもない」

「人を殺すのはダメだ……けど覚悟を持って……自分も殺される覚悟を持って世界を変えようとしてるならまだ理解は出来る。だが、人を殺すのに意思を無くしたら勝ち取った未来も一瞬にして崩れ去る」

 瞬間、ユキはライトの上半身裸のボロボロの皮膚にまばらな光が灯るのを見た。

「思考は迷いを生む悪魔。今の世は何にでもなれるが、選択肢が多すぎて何にもなれない人間ばかりの世の中では考えない方が多数の人間にとっては幸せなのよ。貴方だって本当は課金チートの自分が好きなはず」

「……」

 そのまばらな光は全身を包んで行き、金髪の少年を加護するように包んで行く。

 すでに限界を超えている少年の瞳には惚れた女を助けるという一心以外には無い。

「考える事を放棄した人間には、もう何も残ってない。それは壊れて捨てられた廃棄物だからだ」

「何をさっきから言ってるの……何……何よその光は。一体その光は何なんなのよ――」

 何物にも染まる事の無い清らかな天衣の光。

 それは紛れもなくクラスチェンジの光だった。

 激烈な疾風の嵐が空間を駆け巡り天に伸びる一筋の光を守護するように荒れ狂う。

 そして、途方もない光の粒子が収まっていくと金色に輝く一人の少年が立ち尽くしていた。オーバーライトニングを超えるライト自身が生み出したオンリーアバター。

 ゲーム世界の理を超え現実の自分の祈りと愛する者への思いで生み出した力。

 ライトニングパラディン――。

 その衣装は白を基調にした聖騎士風の短ランであった。常に身体の周囲にはキラキラとする星が散っており光のオーラが展開し続けている。

 両肩には星のマークがあり、背中にはイナヅマのエンブレムが黄色い閃光のように発していた。

 閉じていた瞳を開き、ライトニングパラディンを生み出したライトは動き出す。

「……」

 その純然たるオーラを纏い千手観音の如き黄金色の覇王に対し、後ずさるユキは戦慄する。

「超閃速を誇る俺のスピードには、もう誰もついてこれねーぜ」

「プログラム規定値最大のスピードとて見切れるフューチャーカンニングにお前のライトニング如きが」

 隙だらけのライトに対し、今までタメていた白い星の大砲であるドリームバスターを放つ。それに対応出来ないライトは白い光に呑まれた。

(あえてくらってからのカウンターね。クラスチェンジしてもやる事は同じ……)

 技を放ったと同時にスッと背後に出たユキはカウンターを狙おうと構えるライトの背後から始末しようと迫る。

「……?」

 目の前の敵の背中をブチ抜いたと思うと同時に、肩に手を置かれゆっくりと振り向く。すると、そこにはライトの姿があり人差し指がユキの頬に当たっていた。

「俺が動いた残像をカンニングしたのか? システムアシストが追いついてねーよーだな」

 ユキの伸ばした腕にはライトをブチ抜いた感触は無い。確実にフューチャーカンニングはこの場所でとどまり攻撃を受けてからカウンターに入るライトの未来地図を示していた。

「まさか……フューチャーカンニングの未来予知を上回った? まさか……」

「所詮システムアシストだからな。現実の肉体や精神力が反映される不安定な状態のインブレじゃ、もうお前も氷の女王じゃいられないって事だろ?」

「――黙れ!」

 スパッ! と回し蹴りがライトに炸裂するが、またもや感触が無く残像を切るだけである。今度はどこに移動したのか周囲にライトの姿は無い。

「今日は赤か。俺は黄色のスケスケとか好きなんだけどはいてくれるか?」

「!?」

 その声はユキの真下から聞こえた

何と、ニヤけ顔のライトはユキの真下で寝転がりスカートの中をのぞいていたのである。カッ! と顔が赤くなり真下の変態を蹴飛ばすが、またもや蹴りは相手を捉えられない。唖然とするユキは、クラスチェンジした少年の底力に平常心を保てず、ツツーッと一筋の冷や汗が流れる。

「能書きは終わりな。ちょっくらかますぜ」

 すでに光がチカチカするだけで目では捉えられず、フューチャーカンニングのスキルでさえ役に立たないライトのスピード任せの超閃光の乱打がユキを吹き飛ばした。宙を舞うユキはやっと自分が攻撃を受けたというのを理解し、

(これが真のライトニング――これがライトニングパラディン……これが超閃速のライト――)

 瞬間、クルッと空中で回転し地面に着地する。

「でも! その程度の一撃じゃ必殺のライトニングカウンターのように相手を倒すだけの力が無い。スピードは増したけど、それに力が対応してないようね」

 そのユキの言葉は正解だった。ライトの攻撃の全ては超閃速のスピードに対応出来ずに打撃力が大幅に落ちていた。フッと笑うライトは早く動いて乱れた髪型を直し、

「威力が弱いなら、百でも千でも万でも叩き込む。万ぐらい叩き込めばスライム一匹くらい倒せるかな。どう思うユキ? 俺の愛を受け取りやがれ――」

「……私に愛があるわけが無いでしょ!? 消いいっえぇぇぇろぉぉーーーっ!」

「ライトニングフルクロス・フィーバーノヴァーーーーッ!」

 ただ無数の花火のような光が散り、全てを込めたライトの愛の告白が空間に満ち溢れた。その光の愛と共に全ての思いが開放され静寂が満ちた。





 この一月における――いや、この三年に渡る日々の決着がついた。

 氷と夢の聖域は女王の氷の意思が崩壊した事によりその機能を保てず崩れ去った。

 元のマネーキャッスルそのものも無くなり、金髪の少年と茶髪の少女は更地になる空間にただ二人存在していた。

 瞳を閉じたまま大きく溜息をつくライトはライトニングパラディンのオンリーアバターも解除され、元のライトニングに戻る。渾身のライトの愛情に敗北したユキは地面に倒れたまま仰向けになり真っ白な天を見上げる。その左手はボロボロになる胸元のドレスから一本のナイフを取り出していた。切れ味鋭い刃は躊躇い無く自分の首筋に立てられる。

「……おいおい、俺を独りにしといてどんな自殺プレイだよ。相棒がいなきゃこれからやってけねーだろうが」

 瞳を丸くするユキの首筋は血だらけになっている。その血はナイフを握り締めているライトの血だった。ユキはこの少年の行動と言動が理解出来ず、理解したくもなく聞き返した。

「私は……貴方を独りにしたなんて……」

「お前の存在が俺を独りだと気づかせたんだよ!」

 ハッ! と涙を流しているライトの顔にユキの心は打ちのめされた。

 戦いでも負け、心まで折られてしまった故にもう完全敗北を認めざるを得なかった。

 そして、この金髪の少年を愛してしまっている自分自身の愛情さえも――。

「俺と一緒に帰るぞ……お前と無限学園での日々は始まったばっかなんだからな」

「……負けたわよ。貴方には」

 痛んだ身体を抑えながらユキはライトに起こされる。

 ふと見つめ合う二人の顔は接近していき唇と唇が求め合う。

 重ね合わされる唇には何故か感触も体温も感じられなかった。

 すると、ユキの身体が二重に見え金縛りにあったように動けないでいる。

「?」

 ブブブブッ……と残像のようにブレるユキに近づくと、まばゆい光が発光しライトは目を閉じる。それは攻撃的な光ではなく、とても優しい光であった。ゆっくりと目を見開くライトの目に前に二人の別人である少女がいた。

「ユキ……ユメ!?」

 吸収されたユメはユキからはじき出され元に戻った。

 完全体として存在していたユキはライトの最後の一撃によりダメージを受けすぎて∞のHPゲージもスキルゲージも通常に戻っていた。それにより吸収されたユメも分裂する事が出来たらしい。

『……』

 別々の固体として存在している同じ顔の少女は自分の顔を見つめるように話す。

 まるで全てを諭すような、許すような、受け入れるかのような表情で互いは互いを理解する。一時的に同化してた事で全ての感情を知っているが、やはり面と面を向けて言葉を話す事が相手に自分の思いを伝えるのが一番らしい。茶色く長い髪を揺らすユメが言う。

「……真の目的は問題を作り誰かと冒険したかった。みんなと同じように生活できないなら仮想現実でね。元は貴女なんだから、貴女と同じ事なのは当然でしょう?」

 同じ顔の違う二人は互いの意思を知った。

 その中、ユキは真冬に舞い散る雪をもう一度見て見たいとして、ユメにキョードリームで空間に粉雪を再現させた。穏やかな雪は三人の頬に当たり、解けていく。

 電子の空間に舞い散る白銀の優しさに三人の少年少女は見とれた。

(そろそろね……)

 そうユキが思うと同時にユメのキョードリームにより生み出された雪が嵐に変化する。

 そして、その嵐は電子を纏う大渦として勢いを増していった。

 確実に全てを破壊するであろう雪の大渦にユキは微笑む。

「……これはアンインストールの雪よ。生贄が無ければこのインブレは雪の女王の勝利で終わってしまうの」

 その言葉にユメは驚くが、ライトは間髪入れずに答える。

「生贄が必要なら俺をやるよ」

 ライトは自分自身を生贄にすると言い、ユキを現実へ戻す事にするよう覚悟を決めた。

 それはユキの心を打ち、ユキの覚悟は定まった。

「ありがとう……ライト」

 大粒の涙を流し、鼻水をすするユキは自分を生み出した少女と、こんな氷の世界まで自分を助けに来た少年に感謝した。グッ……と握り締められる拳は強く、強く握り締められていき、まるで何かの答えを出すように全身は震える。

(……)

 ゆっくりと開かれるユキの涙で濡れた口元から予想外の言葉が放たれる。

「――それでも私は! 今の私でありたい!」

 全てが終わった戦いはユキの叫びにより再開された。

 それにすかさず反応するライトはアゴを引き、腰を深く沈める構えに出る。

「人生とは一瞬の光――。その光をどれだけ輝かせるかが人間の世界への誠意。閃光のように駆け抜けてやる」

 もうコンピューターに呑まれている事を思うライトは最後の思いをぶつけるように殺意を持って動き出しているユキに叫んだ。

「俺の脳が光って走る。閃速の身体が弾けて動く。くらえ! ライトニングカウンター!」

 シュパァ! と放たれるライトの光のカウンターは閃速でユキの胸元へと向かう。

 右手を犠牲にして閃光の一撃に耐え、スキル発動直後の硬直を死を纏う左拳をたたきつける。だが、その拳は虚しく現れた数人の男女の群れを突き抜けた。何故かその幻は暖かかった。

「幻? この幻は――」

 一撃目のライトニングカウンターであるはずの光はサクヤ、モコータ、ミーナ、ユメの幻であるフェイクだった。そして、背後に現れた本物のライトにユキは振り返る。本来のライトニングカウンターがユキの身体に炸裂する。

「うおおおおおおおおおーーーーーーっ」

 サクヤ、モコータ、ミーナ、ユメの思いを乗せたライトニングカウンターが決まった。

 そして、雪の渦に呑まれて行くユキの姿を見てライトは直感した。

 今の最後の抵抗は自分を生贄にする為にした自作自演だと――。

「バレちゃったならそんな顔しないでよ。別れが辛くなるじゃない」

 ユキの今の行動は自作自演であり、あえて味方に攻撃する事でライトニングカウンターを引き出させ自分ごと始末させる算段だった。その計画はユメに自分の全てを返す事でユメは現実にて大きな障害も無く復活しユキは消滅するという自己犠牲により成り立つものであった。すでに身体が消滅しだすユキは微笑みながら呟く。

「……元々、私は存在しない存在なのよ」

「俺の中にも、みんなの中にもいたんだ! 京乃ユキという女は! 居たんだ!」

「……」

 泣きじゃくるライトに何も答えないユキは無言のままアンインストールの嵐に巻き込まれ渦に吸い込まれて行く。その最中、マクロ使いと戦っていたサクヤとモコータが駆けつけた。崩れ落ちるライトの背中に、強い意思が篭るか細い少女の叫びが響く。

「――閃光になりなさいライト!」

「――?」

 真後ろにいるユキの本体であるユメの言葉に励まされ、もう一度ライトは立ち上がる。

 サクヤはフフッと笑い、モコータは上半身の筋肉を左右にピクピクと動かす。

 ライトはもう何も考える必要は無い。

 一つの思いを込めて閃光になればいいだけである。

「行くぞユキーーーーーーーーっ!」

 閃光の少年は雪の渦に呑まれて行くユキに向かって真っ直ぐ進んで行く。

 すると、アンインストールを邪魔する存在を消すプログラムが発動しホワイトナイト達がライトの行く手を阻む。

 しかし、どんなに相手が群がろうともひたすらに真っ直ぐ進む。

 倒れても、倒れても何度も何度も真っ直ぐ体当たりするように行く。

 傍から見ればこれはバカの一つ覚えでしかないが、これが一番効果的な進行方法だった。ただ太陽の微笑をするかつての相棒のユキの事だけしか考えないこの金髪の少年の閃速の特攻に、やがてホワイトナイツ達は全て蹴散らされた。しかし――時は待たない。

「愛してたわよ……ライト……黒主電閃っ!」

「ユキーーーーーーーーーーっ!」

 最後の言葉を残し、一粒の流れた涙をライトの頬に当てた京乃ユキはアンインストールに巻き込まれた。

 これによりインフィニティ・ブレインの全ては収束して終結する。

 光よりも早く駆け抜けた金髪の少年は茫然と立ち尽くす。

「好きな女一人……好きな女一人俺は守れねーのかよ! 俺はこのインブレで最強の……チートで廃課金で無敵に素敵な閃光よりも早いライトニングの黒主電閃なんだぞーーーーーーーーーーっ!」

 その電閃の叫びと共に、インフィニティブレインの全サービスは終了した。

 天を見上げ泣き叫ぶライトの背中をユメは力強く抱きしめた。

 かすかな煌きと共にインブレの金庫番をしていたミーナは現れる。

 ミーナは消滅する空間から四人の人間を強制ログアウトさせた。

 そして、ライトの――黒主電閃の恋は終わり、新しい明日が幕を開けた。



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