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現実の痛み

 三種の神器に囚われて復活したライトは、クラスチェンジした力である閃速で攻撃を食らわしていくが、初めの一撃が運良く当たっただけでそれからは来托に打撃を与えられていない。全てを両手、両足を使い完璧にガードされる。

「ユキはユメに戻る……負けるのは君だよ黒主電閃」

「……」

「君のシステムコマンドは全て見えるのだ。私がどれだけこのゲームのスキルを知り尽くしていると思っている?」

 それにライトは答えず、ひたすらに閃速で動いて数多の拳と蹴りを繰り出すが、足を引っ掛けられ転んでしまう。

「計画を乱してくれた罰は受けてもらうぞ。そのイナズマのマークは京乃イマジンの象徴。誰よりも早く、誰よりも光り輝くための道標。君には相応しくないものだ」

「なら、何で俺はこのイナズマで助かった? ユメは俺にかけてたんだろ……地獄の鳥籠に囚われてしまった俺を助けてくれる王子様の存在として俺を選んだ。選ばれたからにゃ、助けなきゃならねーだろーがよ」

「君が王子様? 笑えない冗談はやめろ! ユメを助けるのは私だぁー」

 その来托の歪んだ叫びを動けないユキは見据えた。すでにライフゲージもスキルゲージも尽きつつあるライトは、この一日の激戦続きでふと、瞳を閉じてしまう。その瞳は開かれる事は無く、深い自己の世界へと落ちて行く――。

(格ゲーは読み合いだ……けど今は考えるな。現実は感じる事が優先……)

 瞬間、ライトの心が無我の境地になる。同時に重厚なる三種の神器を纏う来托の光の剣がライトの心臓目掛けて迫る。瞳を閉じたままのライトは死が迫っている感覚すら無いように呟く。

「ノーブレイン・イエスインフィニティ」

 その光の剣の突きをそのまま背後に倒れ込むように回避したライトは、両手で地面を弾くように飛んで来托の顔面に両足蹴りをかました。

「こやつ……」

 ライトの行動を読めなかった来托はアゴに痛みを感じる前に背中にライトニングカウンターをくらう

 ドガッ! とブッ飛んだ来托はわけもわからぬまま正面に現れたライトがまだライトニングカウンターの構えに入っている事を知る。

(システムがライトの行動を全てカウンターと認識している。ライトニングカウンターの場合はスキルが一しか消費しないメリットがあったな……)

 クラスチェンジした能力でもない動きに来托はなす術も無くひたすらに殴られ続け、HPゲージはみるみるうちに減って行く。

 ノーブレイン・イエスインフィニティ――。

 それはオートともいえる本能での格闘術であった。

 ライトが無我の境地になり、編み出したオリジナルスキルの脅威的な閃速に、ゲームマスターである来托は身動きも取れずに打撃を全身に受ける一方だった。

「舐めるな小僧っ!」

 ドン! と自分を殴りライトに殴り飛ばされる軌道を無理矢理変えて立ち止まる。そして、光の剣に水鏡の鎧と湯煙の盾を組み合わせて投げる。

「この三種の剣に貫けぬものは無い!」

 ライトの閃速以上の早さを持つ三種の神器の力を合わせた三種の剣に反応が出来ず、心臓が串刺しになる――瞬間。ライトの心をいつも軽くしてくれる女の声が響いた。

「ライト! イナズマをかざして!」

「――!」

 その声のままユメからもらったイナズマを首の紐を引きちぎり水戸黄門の印籠のように出す。

 ズババババッ! という閃光と共に三種の剣は防がれた。

 これにて来托の切り札は尽きる。

 声を失う来托は自分の愛娘であるユメを思い出す。

 今は電磁水槽の中で眠っているが、この無限螺旋城の三種の神器を解放するイベントでライトの命と引き換えに不治の病から解放されるはずだったユメ。

 味方である自分ではなく、敵であるライトを守る御守りとして機能している壊れたイナズマに来托の自信は崩壊した。

「ユメが……愛娘であるユメが私を邪魔するはずが無い。邪魔をしているのはお前だよユキ。このコピードールがあぁぁっ!」

 最後の力で来托はユキの首を締めた。それはユキの身体を消滅させて行く。

「この野郎!」

 ガッ! と来托に蹴りを入れ二人を引きはがすが、すでに消滅プログラムはユキの体内で躍動して一気に消滅へといざなっていた。

「ユキ! どうにかしろよ!」

「どうにも出来ないわよ! 私はユメと離れ自由になる為に来托に協力して来た! 私の存在はユメの理想とする女の子だから来托は私を受け入れられず、私もそれを良しとして京乃ユキとしていきた……来托の野望を阻んでユメもそのままインブレ内に閉じ込めておけば私は自由になれるはずだったけどそうもいかなかったみたいね」

「……ユキは……ユメを嫌ってたのか?」

「私はあんな暗い女と同一人物だって認めたくなかったのよ! 私は私っ! あんな陰気でどうしょうもない、不治の病に侵されている女と一緒になるなんて……ありえない!」

 ユキはここに来て初めて自分の激情を叫んだ。

 その本心の叫びにライトは動揺する。

(だから魔列車にもログインできて、無限螺旋城でも自由に動けてたのか。インブレそのものの存在だから……)

 ライトニングのオンリーアバターをもらった病弱な黒髪のユメと自分に恋愛感情を与えた元気な茶髪のユキ――。

 この二人の女を選ぶ局面に来てしまっていた。

(……このままだと三種の神器も機能しない以上、ユキかユメのどちらかは消える。いや、このままだと二人の同一人物である別々の存在のどちらかが消える……俺は……俺は……)

 三種の神器はこの学園に蓄積していたインブレ内の人間の欲望を集めた兵器。

 それを揃えた者は命と引き換えに世界をインブレにする。

 しかし、京乃来托の全ての計画は失敗した。

 全ての選択は勝利者であるライトに委ねられる。

 デストロイプログラムは黒いシミで容赦なくユキの身体を蝕んで行く。

 震える足を横にずらすと、壊れた稲妻のペンダントトップが足にぶつかる。

(昔、入院した時に出会ったユメ……京乃ユメに貰ったペンダントだ。これが俺の命を繋いだ。けど、俺は……)

 来托は天を見上げたまま崩壊の予兆を見せる無限学園のリアルインストールの音に聞き入っている。その顔は晴れやかなのか曇っているのかもわかならい複雑な表情をしている。

 三年前に病院で出会ったユメという少女の分身であるユキ。

 ユキはユメに似ていたからいつの頃からか二人は同一人物じゃないのかと思うようになっていた。ユメの分身のユキは髪を明るい栗色に染めて爪は綺麗に磨かれ顔には化粧がされていてちょっとませた中学二年生の女の子である。しかし、現実のユメはインブレに囚われていておしゃれをする事も出来ない、父親の来托に不治の病を治し復活させると言われ動くリアルインストールの為の生贄でしかなくなっていた。

 全身にデストロイプログラムが侵食し黒いシミに汚染されるユキは手を伸ばし言う。

「ライト……私の事を助けてよ。助けないなら、私は全てを破壊するわ」

「俺は――お前が!」

 ライトが伸ばした手は届く事が無く、京乃ユメの分身体である京乃ユキの存在は消滅した。

 それを見た来托は地面に倒れ込みながら電子で構成される青い天を見上げ言う。

 そして、マザーコンピューターとして存在していた京乃ユメの電子水槽にヒビが入り電子の檻は破壊される。

「これでリアルインストールはもう無くなった。この戦いは痛みわけだな……ライト君。君の惚れたユキはユメに戻るべきだったんだよ」

「……黙れよおっさん」

 壊れたイナズマを地面に叩きつけるライトは全身を震わせながら天を見上げる。短い間だったが、自分に色々な体験をさせてくれた少女に感謝の気持ちを伝えきれなかったのを悔やむ。電子で構成される涙は地面に落ちたら粒子として消えるが、そのライトの数多の感情から流れる雫は現実と同じように地面に微かな水溜りを作る。

 電子の世界である無限学園に虚しさが一陣の風として流れる。

 その虚構世界はジジジ……という音と共に現実世界へ戻って行った。

 言葉も無いライトであった電閃は自分の額に拳を入れ、

「これが……現実の痛みだ」

 クラスチェンジしても何も出来なかった自分の弱さを思う。

 ゲームという虚構の強さでは好きな女一人助ける事も出来ないのである。

 ユメを病魔から復活させる代わりに本人の理想体であるユキを消滅させ、無限螺旋城の一日目は終了した。無言のままログアウトした電閃は、淋しげな背中を振るわせたまま暗い夜道を一人自宅まで帰って行った。

 まあるい満月が――電閃の虚しい勝利を祝福するように光り輝いていた。



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