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クラスチェンジ

 京の古き良きを表現する古風な邸宅のステージは地面が芝であり周囲には恋が泳ぐ大池や石で出来た短い橋などがこのボスの好みを反映していた。このインブレの全ての謎の鍵を持つ藍色の着物を着る欲望の怪物と対峙する。もし、立場が逆だったら自分もこの男と同じ事を――いや、それ以上の事をしたであろうと思いふと、思い胃の中のものを逆流させそうな不快感に襲われる。どこか自分と似ている男の顔を見据えると、進む足がもつれそうになる。

「……っ」

 スッとユキはライトの背中に手を当てた。

(大丈夫だ……この相棒さえいれば俺は)

 隣にいるユキの背中にある手の優しさを感じ、自信を持った。

「三種の神器の獲得おめでとう。そしてようこそ無限螺旋城のボスである京乃来托のステージに」

「ここまで来たらゲームの主人公は勝つんだよ。そんなんオメーもわかってんだろ?」

 そのライトの言葉を堂々と無視する来托は、

「私はこのまま世界をインフィニティ・ブレインとして存在させる。老いも、病も無い清らかな電子の世界で共に生きようではないか」

「痛みも苦しみも無い世界か。確かにそれは人間にとって究極の世界だな」

「そのインフィニティ・ブレインだからこそワシ達は支持されここまでこれたんだ。全ての人間の答えだからだよ」

 着物を左右に脱ぎ、上半身裸の来托は四十を超えているとは思えない異常な筋肉を全快にして襲いかかってくる。ライトとユキも全快でインブレの悪魔に対抗した。




 来托は現実でも毎日二時間という時間を筋肉トレーニングに当てていて、その力をこのインブレ内でも生かしていた。圧倒的な打撃力とスピードにライトとユキは防戦一方になる。

「フハハハハッ! どうしたどうしたぁ!? その程度ではこの京乃来托には勝てんぞぉっ!」

「テメー、そのパワーにスピードは反則だろ? ドーピングでもしてんだろうがよ?」

「ヒューマンログインは現実の力の補正も加わる事を君も知っているだろう!」

 ドガッ! という巨大なハンマーのような拳がライトをブッ飛ばす。それとスイッチするようにキョードリームの白い小さな星を全身に纏うユキは来托と互角の攻防を繰り広げる。自分の更なる力を引き出す力を引き出させる栗色のポニーテールを振り乱し拳を振るう少女に興奮する来托は、

「いいぞ、いいぞ! コピードールがここまで成長したか。流石は我が愛娘から生まれし存在だ」

「私は京乃ユキだ!」

 キョードリームによる物体再構築で自身の身体の戦闘力をマジシャンで使うスキルゲージを消費させ続ける事で完全なバトラーと化すユキはライトと互角以上で戦える力がある。頭のとんがり帽子が吹き飛ばされると同時に、ユキの拳が来托のアゴを捉えた。

「……その程度か? 君の役目はもうすぐ終わる無理をするな」

「無理をしなきゃ、欲しいもんがつかめないのよ」

「人形風情が戯れ言を……!」

 瞬間、黄色い閃光が来托の懐に眩い光を爆発させた。

「ライトングドーン!」

 完全に虚をついたライトングドーンは来托の筋肉の鎧ともいえる肌に突き刺さる。その拳がゆっくりと押し出されると同時に、富士の山の如き男の影がライトを覆う。

「そんな直線的な技など攻撃を食らわせる前に一瞬でも相手に知覚された瞬間に、相手は予想箇所に力を込める。甘いなぁ」

 バンッ! とライトの顔をハエのように両手で挟むように叩く来托は

 気を失う寸前の金髪の少年の顔面を潰そうと更なるハエ叩きを食らわせようとする。

「神罰! ハエ叩きぃーーーっ!」

 バチィンッ! と技は決まるが、来托の両手は白い左右二枚の盾に防がれていた。視線を横にやる来托はスキル技を放ったばかりのユキを見据えた。

「ドリームシールド? こんなチャチな盾で私の攻撃を防げるとでも?」

「カウンターにゃ、一撃で十分だぜ……ライトングカウンター!」

 笑うユキの自信を表現するかのようにライトングカウンターは身体の防御準備が出来ていない来托の腹部に叩き込まれる。声も無くよろめき、地面に拳を突き立てた。その震度三弱ともいえる振動と地面の爆発に驚き、ライトとユキは砂煙に包まれる奥にいる化物を注視する。確実にダメージを受けている来托のHPゲージは三分の一近く減っていた。今の一撃に自信を持った二人は同時にエネルギーを高め合う。ブフォ! と荒々しい殺気で砂煙が晴れ、両者の爆発する感情が互いのスキルとなって表現される――。

『ダブル・ライトングセレブレーション!」

「来・托・頭突き!」

 二人の人間閃光と羅生門さえ砕くであろう頭突きが激しい火花を上げて激突した。その互いの意地と意地をかけたぶつかり合いは四股を踏むように地面を陥没させて踏んだ男のこめかみの血管を破裂させる頭突きに軍配が上がる。

「ぬあああああっ! 我が勝利者なりぃーーー!」

 ダブル・ライトングセレブレーションに競り勝ち来托は叫ぶ。

 そして、指をパチン! と鳴らすと同時にライトのメニュー画面が勝手に開きアイテム欄から三種の神器が空中に射出される。その光景をユキはじっ……と見つめた。

「三種の神器解放からユメを復活させる宴の始まりだ。インフィニティ・ブレインの勇者よ。生贄となれ」

「生贄だと? ぐっ!」

「生贄の意味か? それは君が三種の神器を手に入れてそれを君の命と引き換えに使ってもらう事さ」

 その来托の声は相棒であるユキとダブって聞こえた。

 頭突きのダメージが想像以上に大きく、HPゲージがレッドラインになる。

 しかし、ケッと笑うライトは言う。

「この武具は破壊プログラムを打ち込んだから機能しない。だから装備なんてしても無駄だ」

「無駄ではないよ。君が始めに三種の神器を封印した時からインフィニティ・ブレインが現実世界にインストールされる為の人柱となるのは決まっていたのだからな。ユメが渡したライトニングの導きかもしれんな……それは結果として死にいたるプレゼントになったが」

「ぐっ……」

「三種の神器としてリアルインストールの生贄になれ!」

 空中で浮遊していた三種の神器が青、赤、白の色を発光させる。

 そして三種の神器の水鏡の鎧・湯煙の盾・光の剣の三つがライトの身体に纏われていく。

「何だ? 何がどうなって――」

 ライトがインブレテスター時代に三種の神器を封印した破壊プログラムは嘘で、三種の神器を人間の欲望を取り込んで現実とゲームを融合させる為に仕組んだ罠だった。ライトは今までずっとインブレに関わる全てをこの老獪な男によって手伝わされていた。

 赤と青と白のトリコロールカラーの発光がライトの身体に一体化し、三種の神器が纏われる――。

「うっ……うおおおおっ――!」

 そして、インフィニティ・ブレインを現実にインストールする為の人柱となった。





 シュパアアアッー! という閃光と共にライトは三種の神器を身に纏う騎士になった。

 その聖なる騎士は全く動く事は無く沈黙したままであった。その様子に頷くユキは呟く。

「……これがインブレに囚われ不治の病にかかるユメを復活させる三種の神器を纏う聖騎士。この騎士にユメ肉体を入れると内部にあるライトの命と交換されてユメは現世へ完全復活するのね」

「そうだ。今からマザーコンピューターである電子水槽を召喚してユメをこの聖騎士に取り込んで全ての望みを私は叶える」

「じゃあ、私はこれで自由になるのね。なら私はこれで……」

「ユキ。君はあの少年に必要以上に接していたな。邪な感情を抱いている可能性がある以上、何よりも愛娘であるユメと同じ顔の人間を生かしておくわけにはいかない」

 スッと出された来托の手の平から黒い稲妻が発生し、インブレのキャラクターを消滅させるデストロイプログラムが放たれた。それをくらうユキは呻き声を上げながら

「私はもう人間よ……こんなプログラムで……」

「君はプログラムだよ。コピーはコピーでしかないだ。元の闇へと消えるがいい」

 声を失うユキは何も出来ずにデストロイプログラムに汚染され身体が消滅し始める。

 その時、聖騎士の奥底で眠るライトは目覚めた。

(この安らぐはずの声が苦しく感じる……ユキが苦しんでる!?)

 その両眼から見える景色は黒い稲妻に犯されるユキを映し出し、ライトの心の奥底を覚醒させる。

 そして、今の相棒ではなく過去の相棒であるデスガールのサクヤを思い出す。その紫色の髪の相棒を相棒でありながら見る事もなかった自分を見つめ直し、今の自分と比較する。

(かつての俺は相棒のサクヤの苦しみにも気付かなかった……相棒でありながら自分しか見てなかった……。俺は! もうあの過ちは侵さない! 俺の全てでもって、ユキは……俺の愛する女は俺の手で必ず守る! 目覚めろよライトニング!)

 全ては一つの覚悟となり、ライトの頭脳を閃速で駆け巡る。

 無限の頭脳が全身の細胞を活性化させ、全ての感覚が世界と繋がり光となる――。

 瞬間、三種の神器を纏う聖騎士から激しい光が放たれユキの身体を貫いた。その光はユキの身体を蝕むデストロイプログラムをかき消した。

(ライト? そうよ……あんたはやれるはず。私の選んだ男に間違いはなかった……計画通りね)

 微笑むユキは唖然とする来托に言う。

「甘いわね来托。ライトはこのインブレのマザーに選ばれた勇者なんだから」

「勇者だと? ……何故だ? ライトニングのオンリーアバターにそんな能力は……」

 かつてユメにもらったイナズマが三種の神器の拘束から解き放っていた。そんな、特殊効果があるものなど知らぬ来托は自分の娘がまるで自分の行動を否定しているような疑心暗鬼に囚われる。

 ゆっくりと三種の神器を装着するライトは歩き身に纏う呪いの装備を吹き飛ばした。それを見る来托はすかさず三種の神器を自分の手に戻し、目の前の金髪の少年の輝きに威圧感を感じ後ずさる。

(この私がプレッシャーを? まさかな……)

 その感覚を認めない来托は思いとは裏腹に三種の神器を身に纏ったライトは瞳を閉じて滝に打たれる修行僧のような雄雄しい存在感を放つ。

 嫌な予感が消えない来托はインブレのシステムを変更し、チートパワーを三種の神器に与える。

「うおおおおーーーーーーーーーーっ!」

 その叫びと共にライトの身体は新しい力を得る。

 黄色い学ランは長ランに変形し、首の詰襟は長くなり足元はローファーからエンジニアブーツへと変化した。そして背中には〈閃速〉の二文字が映える――。

 クラスチェンジが成り新しいアバターが展開する。

 オーバーライトニングのオンリーアバターに変身したライトは閃速で全てを消し去る為に動き出す。



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