三種の神器への攻防
保険室を出たライトとユキは無限学園校内を駆けて中央の中庭にたどり着く。
それまでの道はバトルの影響で校内が相当荒れていた。
すでに数多のプレイヤーは多人数バトルにより倒れた者が多いのが伺える。
そして、中庭に一人の藍色の羽織を着た和服姿の中年の男がたたずんでいた。
その男は間違いなく京乃来托である。
二人は引き寄せられるように中庭に足を進めた。
「一時間以上ぶりだな。君が地下から進行しようとしたからこちらもシナリオを変更したのだよ。君は本当にゲーム内を自由に動く男だ」
相変わらずの散歩をするような自然さで悪意をばら撒くこの男にライトは不快感以上のものを感じる事が無い。実の娘であるユキを一切見ることが無く、ひたすら目の前の金髪の少年に視線を向ける。黙ったままのユキはライトを見る。ライト自身も話したい事は山ほどあるが、まずはこのライトニングのオンリーアバターを渡された少女について聞かなければならない。
「俺は地下で京乃ユメを見た。ユメは無限病院のどっかで入院中のはずだ。地下を歩いてたユメは何なんだ?」
「そのユメはただのプログラムだ。ただ内部を巡回パトロールしているだけさ」
「なら本体のユメはどこにいるんだ?」
「無限病院の地下だよ。京乃イマジンの内部サーバーで水槽の中でたたずむユメを見ただろう?」
そう言われ、京乃イマジンに侵入した時に見た大型の水槽に入る全裸の少女を思い出した。ユキに似たあの黒髪の少女がユメだと言われライトはやはりそうか……と思いながら頷いた。そしてこの時を待っていたと言わんばかりに来托は両手を広げる。
「これからが無限螺旋城の本番の始まりだよ。三種の神器争奪戦と行こうじゃないか」
三種の神器とはインブレにおける永久特効効果がついたチート兵器。
俺TUEEE意外の事が出来ない絶対的勇者の装備であった。
しかし、今のイベントでは課金アイテム特殊効果のあるアバターも使えない為に最初のイベントで封印された三種の神器を手に入れても効果が発動する事は無い。
「三種の神器を集めなければ校長室には入れんぞ。心技体を司る各種神器を集めた勇者だけが神である私と対峙出来る」
「……俺は勇者じゃねぇ。ただの音速のライトだ」
「君のオンリーアバターは音速を超える閃速というのがわかっていないみたいだな」
「……知るか。このイベントは十日間ある。ログアウトして一回ユメに会いに行く」
そのライトの言葉にユキは答えない。
口元を笑わせる来托は着物の袖を揺らし右手を動かす。
「これを見ても君はここから出るというのか?」
「――!」
来託が指を鳴らすと大型のモニターが出現し、その映像の中に病院のベッドでユキが拘束される姿が映し出される。白い顔は青ざめていて、身体は痩せ細りもう何十年も入院してるんじゃないかという哀れな姿に成り果てていた。これは今すぐにでも来托を倒してユメを救わなければもう命が持ちそうにも無かった。それに唖然とするライトは叫ぶ。
「ユメ!」
ニィ……と口元を笑わせた来託は唖然としたまま立ち尽くすライトに、
「私はこのインフィニティ学園のボスステージで待つ。制限時間内にクリアしなければ、この鬼瓦市一帯はインフィニティ・ブレインと化し、そこから電能世界による世界制覇が始まる。私が新時代の神だ」
歯を噛みしめるライトの前に、無限学園の制服を着た生徒達が集まり出す。黒いジャケットを見にまとう生徒達は一葉に同じ顔の人間が隣にいて、二人一組であった。
背を向け羽織の背中に描かれる背中の京の文字を見せながら歩き出す来托を見た瞬間、戦闘が開始された。
※
「ちょっと――こいつ等同じ奴等がいるわよ?」
ライトと背中合わせで三人の敵を倒したユキは言う。
「同じ奴が存在する? 何言ってんだよ。ただアバターが似てるだけだろ?」
「いや、アバターがテンプレしか選べない無課金じゃなくてアバターが自分の顔になる千位以内のランキングに入る奴も同じ奴がいるのよ。しかも今回は参加者全員にオンリーアバターが与えられてるから全員違う顔のはずよ!」
迫る敵に蹴りを入れて周囲をよく見ると、ユキの言葉に納得せざるを得ない状況になっていた。二人一組で同じ攻撃を仕掛ける人物達に異質な感覚を覚える。
「二人一組? 何なんだこいつらは?」
明らかに双子でもない生徒達が二人一組で襲いかかって来る。分身体かと思いきや分身ではなく、実体がありしかも双方の実力に遜色は無い。面倒だ……と呟くライトの右手が黄色く発光し――。
「ライトニングドーン!」
ズバーッ! と閃光が一直線に伸びて敵を一掃した。そのまま一気に体育館の方向に向かって走る。すると、またもや双子の敵がゾロゾロと現れる。
「まるで意思が統一されたような双子のような攻撃……まさか! まさかこいつらは……」
ふと、鼻に手を当てるライトは過去にインフィニティ・ブレインで起きたバグや犯罪行為などを閃光の早さで思い出す。レアカードのトレード詐欺、バグを利用してのアイテム増やし、スポンサーサイトでの武具の不正売買。主だったもので一番大きかったのが個人の利用者が複数のアカウントを持ち、捨てアカウントで大量のログインボーナスやアイテムをメインのアカウントに振り分ける行為をする不正集団。その集団を思い出し一つの結論に至る。
複数のアカウントを持つ、副垢使いと――。
「副垢だな。しっかりしろよ運営。それとも嫌がれせか?」
そしてその中には見覚えるあるランカーが多数いた。
「煉獄の炎さえ焼くファイレアーカに極貧美少女シシャモちゃんまでいるのか! さっきからインブレの百位圏内の敵にばかり当たると思いきや、そういう事かよ!」
目の前の敵を倒し、この学園の脳の上に左右から天使の羽根が生える校旗を見た。それはインフィニティ・ブレインを示す無限学園そのものだった。この無限学園はインフィニティ・ブレインの現実ダウンロードの為に生み出された学園なのである。はははっ! と笑うライトは頭をかき、
「やーけに強いかと思いきや、来托の奴はこの学園の生徒にテスターをさせてたからここまで強い敵が存在すんのか。俺もそのテスターの一人だったが!」
「独り言が多いわよ!」
セーラー服のスカートをひらりと揺らし、ユキは敵の動きを流しつつ倒す。簡単に倒しているように見えるが、攻撃をする一人と刹那の時間差でもう一人のアカウントが仕掛けて来る為に対応する体力も集中力も常に倍消費する。それがわかると同時に相手の弱点を見極めたユキは言う。
「能力は強いけど、一体が急激にダメージを受けるともう一人は回復と時間稼ぎに出るわ。それを崩せば全てが折れるはずよ!」
「おうよ!」
無限学園の中庭には数多の爆発や人の叫びが反響し、戦国の世の戦を再現したような光景になっている。ライトとユキは歯を食い縛りつつ激闘を繰り広げる。
『うおおおおおおおおっ!』
十分ほどの攻防が続き、敵の数は十人ほどに絞られた。
スキルゲージの三分の二を消費した所で、二人の動きも鈍り始める。いや、赤い髪の魔人とシシャモを頭にアクセサリのように乗せ、シシャモ柄のワンピースを着る少女が副垢でもないのに強いのが原因だった。
(ファイレアーカとシシャモちゃんは後のボス戦を考えるとシカトして逃げたいもんだぜ)
そうライトが思っていると、赤髪の魔人が叫んだ。
「邪魔だゴミ共!」
ブオオオオオッ! と副垢の群れはファイレアーカの炎に焼かれて消え去る。
それに興奮する赤髪の男はひたすらに自分の炎に酔いしれるように叫びながらライトとユキを見る。そして、周囲にシシャモを展開させるシシャモちゃんは炎に包まれる中庭の混沌具合に興奮して目を輝かせていた。
「ハッハーッ! 燃えろぉ! 燃えちまえーーーーっ!」
「わたしのシシャモを食べちくり」
ファイレアーカの死霊の煉獄の炎の滝とシシャモちゃんのシシャモ魚雷のコンボ攻撃にHPゲージは三分の二を切りレッドラインに陥る。駆け寄り回復を施そうとするユキの手を制しライトは言う。
「この間を利用して奴等を叩く。ファイレアーカとシシャモちゃんは二人で仕留めるぞ。俺のライトニングとお前のキョードリームの合体技だ」
「オッケー。じゃあライトの十八番を三倍にして叩き込んでやりましょう」
ユキはライトと拳をぶつけ、キョードリームでライトがこれから放つ技を構築する。
両者の右と左手に光のエネルギーが纏われ一気に発光する。
爆炎が晴れ、ファイレアーカは構える二人を見て笑う。
『ドリーム・ライトニングドーーーーーーン!』
ズブアアアアアアアッ! とキョードリームとライトニングの合体した途方も無いエネルギーが中庭の地面を抉り三倍の推進力と威力がファイレアーカとシシャモちゃんに迫る。
両手でその閃光を防ぐファイレアーカとシシャモちゃんに二人は相棒としての絆を見せ付ける。
『そんな付け焼刃で勝てると思うなーーーーっ!』
更にエネルギーが増したようなライトの右手とユキの左手は全てを突き抜けるように突き抜けた。黄色い粒子が宙に散り半身になり振り返るライトは、
「人間一人が同時に二人を操るのには限度があるぜ。二兎追う者は一兎得ず。三兎追ったら目も当てられねーな」
中庭エリアを勝利した二人はアイテムで回復をしてから歩き出す。
中ボスであるモコータまではすぐである。
すると、ユキは下半身に違和感を感じて漏らしてしまう。
「あっ……あああっ!」
性的な快感を感じているようなユキの光悦の表情にライトは違和感を感じた。
同時に、ユキのセーラー服の胸元が爆発し赤い火傷が痛々しい胸が露になる。
(……!)
その豊かな胸を見つめるライトはそこにいるシシャモと目が合い恐怖を感じた。
「わたすの本体はシシャモそのものよ~」
小さなシシャモが声を発し気絶するユキの開いた口に侵入した。
ライトが声を出そうとするとユキの身体は中庭の景色を一変させるほどの爆発を起こした。
※
また体育教師である無限螺旋城の中ボスであるモコータと再会したライトは三種の神器争奪戦の概要を聞いていた。心の中は爆発により消滅した相棒のユキでいっぱいで目の前の三種の神器などどうでもいいという感情が巻き起こっている。だが、ユキがいればそんな考えは否定されるだろう。消えた相棒の意思を汲み取りライトはモコータの話を聞く。
ボスである京乃来托は無限学園の一番奥の山の手前の校長室にいる。
そしてボスに会う為の条件である三種の神器の在り処は――。
体育館に地球の青を象徴する水鏡の鎧。
プールに痛みの血を体現する湯煙の盾。
職員室に人の希望の道標である光の剣。
三種の神器を回収しつつ最短ルートで行くなら目の前の体育館から攻めるのが定石である。それを聞いたライトはガッ! と拳を叩き、
「プール、職員室の順番が道順に沿ってる。音速で行きゃなるよーになんだろ!」
「では各々の場所で待つ」
「体育館に向かうだけに体育会系の敵だとてもゆーのかよ。やってられねーぜ」
シュン! と消えたモコータを見て呟く。
フーッと息を吐いたライトは体育館まで駆けた。
「……」
体育館に入ると頭上から濁流のような殺気を帯びた一撃が入口の床を崩壊させた。ズゴンッ! という爆音と共に砂煙が上がり、体育館全体が揺れる。体育館中央に向かって振り返り笑う無限学園体育教師・藻湖田ことモコータは赤い炎の魔王のような槍を構え言う。これはファイレアーカのアーカスピアである。
「おい! 黒主ーーー! そのパツ金いつ染め直すんだ?」
「ふぅ~今更その下りやんの? つか、ホント今日何度目の遭遇だよ? 相変わらず下半身モッコリしてるし、とんでもねー体罰だこって」
こめかみに槍がかすり、飛んで来た床板で左まぶたの上を切ってしまい左目が血で塞がれ一時的に見えなくなる。ブンブンブン! と炎の唸りを上げるアーカスピアを振るうモコータは言う。
「校則戦争をしなかったのは力をこの日まで蓄えていたからだよライト」
「俺のゲームネームをお前に呼ばれると寒気がすんな……テメー本当に京乃イマジンの人間のようだな」
「三種の神器戦は俺の副垢だ。この恐怖から逃れられるかな?」
「逃げるもなにも、体育館に入るなりいきなり頭上から奇襲する卑怯者が三種の神器の管理者ってーのがそもそもおかしいんだよ」
「幕末の誠に生きた集団、新撰組では敵の居住区に入る時には頭から入るなというのは定石だ。頭をやられれば昏倒して反撃が出来ないが、足から入って手傷を負ってもすぐさま反撃に移れる」
「あんた体育教師だろーが。ちゃくちょく歴史の話されてもわかんねーんだよ。それと、大巨人が負けた翌日に野球部の部員に当たるのもやめてやれ。お前の正義をこっちに押し付けるな」
「学園という場所は教師にこそ誠が正義がある」
「能書きはいい。とっとと三種の神器とやらを戴くぜ」
音速でライトは左右にステップを踏んで一瞬にしてモコータの左に出て回し蹴りをかます。同時にモコータも回し蹴りを放った。両者の蹴りは激突し、互いに距離を取る。
「貴様にはいつも逃げられていたからな。ゲーム内ではスピードのスキルをなるたけ鍛える事にした。貴様に逃げられていたがもう逃げられんぞ」
「勝ったら二度と髪の事は言うんじゃねーぞ」
「誠無き貴様に勝つ道理などどこにもないわ!」
その勢いのまま音速同士のぶつかり合いは激しさを増す。
「遅い! 遅い! 遅い! 自慢の音速はどうした? たかだか五十メートル五秒フラット程度のガキでは何も出来んのだ!」
「黙れ!」
「片腹痛い――」
「片目じゃ、遠近感がつかめねぇ! やられる――」
ズッ……という鈍い音と共にモコータの槍はまっすぐライトの喉元に向かって伸びた。息が止まるライトの顔は死を帯びたように青ざめ、ゴプッ……と真っ赤な鮮血を吐き出した。
「ファイレの炎をその身に受けろ」
ブオオオオオッ! と灼熱の炎の火柱が上がりライトは白目を剥きながら焼かれる。
上空に舞い上がるライトは意識を失ったのか反応は無く、ゆっくりと降下した。
その焼け焦げる学ランの少年をモコータは喉元をつかみアーカスピアで串刺しにしようとする。
(? 温いわ)
右手が動く相手を見たモコータは肋骨が数本逝くほどの蹴りを繰り出し後方に退避する。
「何かに当たって喉元を貫けなかったな。次は確実に仕止める」
激烈な覇気でモコータは最後の一撃を繰り出そうとする。
「……助かった。肋骨が二本に右の首の動脈をやられたが助かったぜ」
稲妻のペンダントに当たり軌道を変えて助かった。しかし、動脈が切れている為にスーパー包帯の効力も一分足らずで止血が出来なくなる。満身創痍のライトは血に染まる黄色いイナズマを見て立ち上がる。そして、無限病院で出会った黒髪の少女の言葉を思い出す
「……音速だ? 俺は閃速だよ。俺はあの女の子にそう言われたんだよ。そう誓ったんだよ! スピードじゃ、誰にも負けねぇ」
その深い悲しみを帯びたような表情の中に確固たる決意をしたのを感じ、モコータは相手を中二の少年と思う事をやめた。冷や汗が流れ目にも止まらぬ早さで動く金髪の少年の音速に対抗する。
(早い……確かに早いが全く追いつけないわけではない。このアーカスピアのリーチの差を考えれば貴様の音速と俺の音速はほぼ互角!)
「――!」
瞳と瞳が合い、体育館の床をブチ抜くほどの切り替えしからのモコータの一撃がライトの首をとらえた。
無表情のまま立ち止まるライトは口元を拭い、何もなかったかのようにアイテム欄を出してスクロールする。唖然としたまま固まるモコータは口をパクパクさせながら言う
「こ、腰が……!」
「どうした? 腰の使い過ぎか? 嫌だねぇ、大人の汚ない行為は。でも興味はあるし、いずれは好きな女とするけどな」
「不順異性交遊……いや、それよりも何故スピードはほぼ互角にも関わらず俺が倒れなくてはならないんだ?」
音速を超えて閃速に到達しようとするライトはリミッターを外したように徐々にスピードを釣り上げて行った。それに気付かないモコータは全開のスピードなら追いつけていると確信し、トドメを刺そうとしていたが感情の高ぶり故に自分の身体の危険信号を察知出来ずに切り替えして一撃かます瞬間に腰の骨を折ってしまった。
アイテム欄を出し怪我の手当てをするライトは一瞥をくれて言う。
「これで金髪はオッケーだな。しばらくそこで寝てろダルマ野郎」
モコータが意識を失うと同時に体育館が消失し、そのエネルギーの全ては一つの重厚な青い鎧と変化した。ライトは三種の神器の一つである地球の青を象徴する〈水鏡の鎧〉を手に入れた。
それをアイテム化してアイテム欄にしまい慢心相違のまま次の三種の神器の在り処であるプールへと向かう。回復アイテムも無く、HPゲージは半分まで減りスキルゲージは三分の一も無い。またモコータとの戦いか……と思いながらライトはプールサイドにたどり着いた。ニィと……副垢の二人目であるシシヤモが肩に乗るモコータは笑う。




