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序幕~インフィニティ・ブレイン~

 大きな出来事が国単位で起こると、その国は良くも悪くも進化する。

 明治維新、世界大戦、大震災……日本はこれらの出来事で日本を動かす大きな組織が入れ替わるなどして成長して来た。千年代から二千年代の変わり目は大きな変化は無かったが、コンピューターが発展しネット社会になった事で始めて大きな崩壊もなく世界は変革した。しかし、人々はそれに気付かずに気付く事も無く平穏に生活している。

 そしてこの自分を特別だと思うこの少年もその一人であった。

 無限学園中等部二年・黒主電閃の日々――。

 朝起きてスマホの電源を立ち上げキョーノイマジンが開発したネットゲーム、インフィニティ・ブレインにログインしてログインボーナスのガチャを引いて、朝方の弱いボスをひたすらに倒していき確実に経験地を稼ぐ。そして顔を洗い朝食を食べて電車に乗る時に現在のランクや次のイベントの内容を確認する。

 昼になればサンドイッチを片手にスマホをタッチしてレアボスをひたすらに撃破し、ボーナスポイントを稼ぐ。

 夜になれば一日の累計ポイントを確認し、ランカーの敵を完膚無きまでに叩きのめすようにポイントを稼いで引き離し眠りにつく。

 そして、また朝になれば自分のランキング維持で貰えるボーナスを確認して次のイベントに備えて課金で手に入れたレア物のオンリーアバターを設定し常に最強の状態にする。新イベントが始まればイベントスタートと同時に売り出されるマキシマムカードを親のクレジットを使って買い集め、常に全国で一位を維持し続ける。

 それが黒主電閃のここ一年の人生の全てだった。

 そう、電閃の人生はインターネットという電子の世界で構築されている。

「……マチかよ。また二位か。何なんだこの氷の女王という女プレイヤーは……廃課金の覇王と呼ばれる俺ですら勝てない相手……こいつは魔課金だ」

 と、クーラーのよく効いた部屋のベッドの上で呟く。そしていつものように冷凍ピザをレンジでチンさせておきながら歯を磨き、眠気まなこをこすりながら洗顔をして自慢の金髪を整えてからレンジで温まっているピザを食べる。そして稲妻のペンダントを首にかけて夏なのに腕まくりをした学ランに着替えガッ! と拳を叩き気合を入れて暑い日差しに目を細め鬼瓦駅へ向かう。

 電閃の両親は共に海外で仕事をしており、毎月数日しか帰ってこない。自宅マンションの家賃も光熱費の全ても親が払ってくれているし、月に十万の小遣いと更に十万まではクレジットで自由に買い物が出来る。親とのすれ違いの日々も別に淋しくはないし、群れる事を好まない一人が好きなヤンキー気取りの電閃にとって理想的な日々が続いていた。ただ、この一ヶ月のインフィニティ・ブレインことインブレのランク一位陥落以外は――。

 電閃は電車の隅の席に座る為にわざと一本飛ばして次の電車を最前線で待つのが習慣だった。

(……まーた俺のポジションを奪われている。それにあの指さばき……氷の女王もインブレのユーザーか? いや、まさかな)

 最近、電車でいつも同じ車両になる長い茶髪の病的に色白の美少女に電閃は氷の女王というアダ名をつけていた。一度だけ腕が触れた時に相手の体温を全く感じなかったからである。夏の時期なのにまるで汗をかいているそぶりも無く、常に冷気を纏うミステリアスな雰囲気からそう名付けた。そして、氷の女王のスマホに対する指さばきは課金対戦格闘ゲームのインブレのような指さばきであった。

(……いい事考えた)

 氷の女王の隣の席が空いていた為、スッと隣に座る。本当に生きている人間なのか、やはりその少女には体温というものが感じられない。早速スマホを取り出すフリをして、横目で相手の赤いスマホ画面を見た。そこにはやはりインブレをプレイしている画面が写っており、 電閃は驚きのあまりスマホを落としてしまう。そう、この氷の女王こそが現在のインブレの全国ランク一位の氷の女王だった――。

(スーハー、スーハー……女王マチかよ! こいつに付けたアダ名とゲームネームまで同じなんて、俺はニュータイプか!?)

 左にいる氷の女王に対し脈拍は急激に上昇し思考はこんがらがる電線のようにメチャクチャになり、電閃は落としたスマホを素早く拾う。すると、ヴヴヴ……と手にバイブレーションが響いた。パパッと画面をタッチする顔が固まる。

〈おはようライト。今日はインブレはやらないのかしら?〉

 突如、スマホにダイレクトメッセージが来て受信欄を開くと氷の女王からのメッセージがあった。左にいる少女の冷気を感じながら電閃は息を飲んで返信した。

〈何故、俺のゲームネームを知ってるんだ氷の女王?〉

〈それはインブレ最強を競う者として調べ上げただけよ。この鬼瓦市はインブレのランカーが多い事も知らないの?〉

 その一言で電閃はムッとしスマホをタップする手が止まる。すると、次のメッセージを読んで瞠目した。

〈インブレの内部にログインして世界を救う英雄にならない?〉

 電車の揺れで氷の女王の冷たい肘が電閃の肌に当たり意識を取り戻す。

 いつもの電車でいつもの日常のはずなのに今日という日だけは何でこんなにも違うんだと思い興奮と恐怖が波状攻撃を仕掛けて来るような気分で電車の揺れに酔いそうになる。

 そして、黒子のある妖艶な口元を笑わせ更にメッセージを送る。

 それは近年社会問題になっている未成年による廃課金問題だった――。

 インブレ内で活躍し英雄になるという話は、ゲーム内部の一部のキャラが意思を持ち暴れていて人間の子供に画面上から勝手にスマホのプロテクトを解除し、無制限に課金させている連中を倒すという事だった。

(……)

 それを読んだ電閃は解決しなければいけない問題だと思いながらも、まるでアニメの話でしかない話に半信半疑になる。しかし、心は左隣にいる氷の美少女に惹かれていた。

〈課金されすぎた金を返金させる目的なの。でもそれはゲーム内のキャラが暴れてるかぎり不可能で、このままだとゲームという娯楽は政府の監視下に置かれて自由度を失うわ〉

〈それはわかった。でも何故、俺なんだ? インブレのライトという俺以外にも強い奴は山ほどいるだろう?〉

〈他のネトゲ廃人は三十代が多くてコミュ力も無い奴だから駄目なのよ。貴方はネトゲ廃人だけど独り言が多いからかコミュ力が高いし、若いから感性も高くゲーム内部でも多種多様な敵と渡り合える力がある。それが理由の一つよ〉

〈しかし、どうやってゲーム内にログインするんだ? 人間の感覚とゲームシステムをリンクさせるシステムなんて聞いた事がない〉

〈ヒューマンログインシステムを使うのよ。それで貴方はインブレの中で人間の感覚のまま活動出来る。それが出来るのはインブレ一位の貴方だけなのよ〉

 そして、氷の女王である京乃ユキはゆっくりとその美しい横顔を電閃に向け、言葉を発した。

「だから貴方にはインブレの内部に入ってもらう」

「俺が……インブレの中で英雄に……」

 ゲーム内のボス達を駆逐し、英雄として現実に戻りメディアに賞賛され海外で暮らす両親も幸せにさせられる。これは一石二鳥だと思った。氷の女王が人間でない以上、インブレにおいて世界で右に出る者はいない。

「いいぜ。俺が世界の英雄になり、子供達を課金地獄から救い出す」

 フフッと儚い一厘の薔薇のように微笑むユキは、自分のスマホと電閃のスマホをケーブルでリンクさせインブレのログイン画面を開いた。

「さぁ、一枚のアバターカードを選んで出撃するわよ」

「それじゃあ……」

 画面上にある三枚のカードを見て悩む。

 その三枚は電閃にとってどれも思い入れのある特別なカードである。

 音速を誇るオンリージョブのライトニング。

 魔剣士・ダークフォビドゥン。

 無音の狩人・サイレントメビウス。

(これは入院してた時にもらって始めて手にしたレアアバターのライトニング。だけど、性能ならこれは選べない。だからこの二枚になる。先月までは特別効果があってダークフォビドゥンは最強のアバターだったが、今日からはサイレントメビウスが最強のアバター。ダークフォビドゥンが初めて二位に転落したアバターと、今日から一位を狙える特別効果がついたアバター。俺が選ぶのは――)

「ヒューマンログインをするわよ。準備して」

「え? マチかよ? ちょ! まっ――!」

 スッ……と電車内の他人の視線すら気にせずにユキの両手は電閃の首の後ろに回され冷たい息がかかると同時に厚い唇が強く重なる。

 今朝買ったばかりの今日から最強のサイレントメビウスは手に出来ず、希少価値があるだけで性能は高いとは言えないライトニングのレアカードを手に取りスマゲーのインフィニティ・ブレインの中にログインした。

 シュパア! と一気に脳内に閃光が走り全身の感覚が一気に電子化して電子の海に飲み込まれる。あまりにもの光のまぶしさに電閃は人生の悟りを開いたかのように言う。

(そうだ――人生は一瞬の光だ)

 ユキのキスによってかは知らないが、今まで世界に対して感じていた不安や不満の答えがインブレにインストールされる事で出る。ゆっくりと開かれていく電子の海の閃光の行方を見た。0と1で構成される暗い世界は無機質で無駄が無い。その無駄の無い空間に学園の景色が生まれ始める。

(この光の中が、一番楽だ)

 そして、柔らかで濃厚なユキの舌先は電閃の舌に絡ませられ二人はヒューマンログインをして新しい世界に到達した。徐々に構築されていく学園ステージの様相に驚きながら胸元にある稲妻のペンダントをギュッ……と握り締める。閃光のように視界が弾け、インフィニティ・ブレインの世界が目の前に広がった。



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