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3人目:魔女チーコと自慢の洋服②

 

「アンちゃん、着替え終わった?」


「う、うん。着替えたよ! ……でも、本当に良いの?」


 一旦外に出ていた私は再びパウダールームに入った。

 アンは先ほど気に入ってくれた淡いピンク色のワンピースを着ていた。瞳をキラキラと輝かせ、全身鏡の前でスカートの裾を持ってくるくると回っている。サイズも問題なさそうだ。


 アンは先ほど、私にはこのワンピースは似合わないと不貞腐(ふてくさ)れていたが、とてもそう思えない。口には出せないが、少なくとも私より貴方の方がワンピースが似合うと思う。でもやっぱりアンの表情には、わずかに不安がにじみ出ていた。


「とても似合っているよ。それだけでも可愛いけれど、これからが本番。こっちにおいで」


 私は化粧台の椅子を引き、アンに座る様に言う。

 アンは素直に応じ、丸椅子の上にちょこんと座った。身長がちょっと低くて見づらいが、まあなんとかなるだろう。


「うっかり目に入ったら危ないから閉じていてね。それと私が良いと言うまでじっとしていてね」


「分かった~」


 目を閉じるアンに、私は化粧水と乳液を塗っていく。続いてメイク下地を薄く伸ばす。肌は綺麗なのでファンデーションはそばかすを隠す程度で十分だ。勿論すべて刺激の少ない肌に優しいものを選んでいく。

 アイシャドウやチークも軽めに、彼女の可愛らしさを引き立たせる程度にとどめる。


「終わったよ。さあ、鏡を見てごらん」


 アンは目をパチリと開けて、鏡に映る自分の姿を確認した。


「わぁ~、お肌が綺麗になっているっ!!」


 若い女の子に濃いめの化粧をするのは良くないと思ったので、劇的な変化はない。ただ彼女が気にしているそばかすは消したし、薄ピンクのチークは彼女の白い肌とよく合った。アイメイクでより際立った真ん丸な目はキラキラと輝いており、誇らしげな気分になる。


 私が言うのもなんだが、可愛いワンピースと合わせてこの辺りではひときわ目を引く可憐なレディに大変身したと思う。一層可愛らしくなった自分の姿に大喜びしているアンに、私は声をかけた。


「自分は可愛くないからと、着たいワンピースを諦めて落ち込まなくて良いの。誰もが好きな姿になれる権利がある。変なことを言う奴にはより可愛くなって見返してやりなさい」


 優しく背中をさすってあげると、アンは瞳からまた涙をポロポロと流し始めた。あらら、折角のメイクが崩れてしまう……まあ後で直してあげればいいか。


「わ、私もチーコお姉さんみたいに可愛くなれるかな!」


 期待に満ちた瞳が、私をまっすぐ見つめている。


「なれるよ。絶対になれる。諦めなければ、誰だっていつか可愛くなれるよ」


―――――――――


 その後は泣き止んだアンのメイクを直してやり、店頭に戻った。店頭に戻ってからも、たまに来るお客様の対応をしながらアンとお喋りを楽しんだ。


 とりあえずメイクをしているから顔や目は擦らない事、帰ったらちゃんと化粧を落とすことを伝えて、未開封の小さなメイク落としシートと名刺を渡しておいた。念のためちゃんと母親と一緒にメイクを落とすよう伝えた。その後の肌のケアもしてくれるはずだ。


 アンは着ているワンピースを買ってくれた。

 個人的な気持ちとしては無料で渡してあげたかったが、あまりサービスしすぎるのも良くないので材料費程度の金額を貰った。元々アンが着ていた服をビニール袋に畳んで入れて、ワンピースの方はタグを切ってあげた。


 店を出たアンは、スキップするかのように上機嫌で帰っていった。私も店の入り口で、その姿が見えなくなるまで見送った。




◆―――――――――◆




 外が暗くなり始める頃、チーコは店を閉めた。


 バラバラに置かれた服を畳みなおしたり、位置をバラバラにされた色違いの衣類を整理したり、不自然な皺が寄っている物にはアイロンがけをした。売れた衣服のチェックや、次に作る服用の布の発注、通販サイトの確認など、1人だとやるべき雑務は意外と多い。


 そのせいで夕飯が遅くなることは珍しくない。

 節約のために自炊しているので、食べ終わる頃には日にちが変わる前なんてこともある。今日はそこまで遅くはないが、まあご飯を食べ終わってお風呂に入ってスキンケアし終わった時には寝る時間になっていた。


 髪の毛を魔法で乾かしていると、家の固定電話が鳴り始めた。店頭に置いている電話とは番号を分けているため、この時間に連絡が来るという事は、チーコ本人に用があるという事だ。


「もしもし、こちら魔女のチーコです」


 チーコは受話器を取り名乗った。


「ああ、やっと出た。夜遅くまで仕事お疲れ様だねぇ」


「ん、その声はお母さんか。何か用?」


 どうやら電話の相手はチーコの母親らしい。

 久しぶりの家族からの電話なのか、チーコは少し嬉しそうだ。


「ええ、大事な用よ。あんた今月末誕生日でしょう? 誕生日パーティーを開くから、たまには帰ってきなさい」


 ああそういえば自分の誕生日が近かったなとチーコは思い出す。楽しい仕事と衣装作りに没頭している事が多いので、こういうイベントごとは時々忘れてしまうのだ。

 勿論、主役が不在のパーティなんて認められないので帰るに決まっている。だが1つ胸に引っかかる事があり、チーコは恐る恐る母親に尋ねた。


「あのさ、スカート履いて帰っていい?」


 その言葉を聞いた瞬間、チーコの母親はやれやれとため息を吐いた。

 そして優しい声色で、チーコに返事をする。


「好きなものを着て、堂々と来なさい。あんたは私たちの自慢の()()なのだから」


「うん……!!」


 母親の言葉に、チーコは笑顔で返事をした。胸の奥がポカポカと温まっていくのを感じながら、チーコは電話を切った。




◆―――――――――◆




彼の名前は魔女チーコ

好きなモノは『可愛い洋服』と『可愛くなれた自分』



 

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