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3人目:魔女チーコと自慢の洋服①

 

 目の前の道路を行き来する人々を眺めながら、お店の看板を入り口に設置する。人通りの多い商店街の一角に、私の家はある。


 1階には私がデザインした自慢の手作り洋服がずらりと並んでいる。こぢんまりとした建物であるが、外装も内装もこだわった自慢のアパレルショップだ。今日は平日なのでお客様も少ないだろう。店員は私1人だ。


 丁寧に店内を掃除したり、商品である衣類にブラシをかけていく。それでも時間がある時は、会計カウンターの裏側に置いている定期的に購入している雑誌を見たりしている。


 『動く絵画』やら『世界を滅ぼす大きな爆弾』とか信憑性のないオカルトじみた記事に混じって、今月号は『魔女たちのお仕事』の特集をしていた。

 個人的に一番目を引いたのは無機物から人工生命体を作る魔女の記事だ。命を作れるなんてそれはもう、とても偉大で人々から尊敬された強い魔女なのだろう。


 実は私も魔女の1人だ。と言ってもまた若く、大した魔法も使えないひよっこの魔女。


 出来る事は着ている方が幸せになりますようにと願いを込めて、魔力で糸を紡ぐくらい。その糸と魔力を使ってここの洋服を作っている。

 魔法で作ると言っても、物体を浮かさせたりするのはあくまでも補佐的なもので基本的には全部ミシンで愛情を込めて縫っている。洋服のデザインを考えて一から作る事そのものが大好きなので、もっといろんな魔法を覚えてもこのスタイルを変えるつもりはない。


 このお店も、趣味で開いているものだ。

 お金儲けを目的としていないので他のお店より遅い時間まで開いていないが、それでも有り難い事に服を褒めてくださったり、買ってくださる方は居る。最近は通販というものを利用する方も増え、しっかりとした丁寧な作りからリピーターも多い。


 たまに入店してくださるお客様とお話をしながら、のんびりとした時間は過ぎていく。そしておやつを食べる時間くらいに、珍しいお客様がやって来た。


「いらっしゃいませ。お1人様ですか?」


「う……うん」


 扉を開けたのは8歳くらいの小さな女の子だった。

 子連れの親が幼い子と入店するのは珍しくないので、彼女くらいの年齢用の衣装も勿論ある。とはいえ小さな女の子が1人でやって来ることは珍しい。私の服は手作りの洋服の中ではお得だと評判だが、彼女くらいの年齢の女の子にとっては高額だろう。


 間違えて入ってしまったのかもしれないとしばらく様子を見ていたが、彼女は子供用の洋服コーナーでワンピースを見てキラキラと瞳を輝かせている。これ可愛い、こっちも素敵と小さな声が聞こえ、私も嬉しくなって彼女に声をかけた。


「こんにちは、ワンピース気に入ってくれた?」


「あっ……うん! 全部すっごく可愛い! これお姉さんが作ったの?」


「わー、お姉さんって言ってくれて嬉しい!! 私の名前は『チーコ』って言うの。特に気に入った服とかあるかな? 嬉しくってサービスしちゃうかも」


「チーコお姉さんかぁ~、私は『アン』だよ。えっとね、特にこれが好きっ!」


 そう言ってアンはフリルとリボンが沢山あしらわれた淡いピンク色のワンピースを手に持つ。これはお目が高い。このデザインは彼女くらいの年齢の子からの結構好評なのだ。


「有難うね。アンちゃんにとっても似合うと思う。そうだ、試着してみる?」


 私は店内の隅に設置してある試着室を指さす。

 アンは一瞬嬉しそうに目を見開いたが、すぐにシュン……と落ち込んでしまった。あれ、どうしてしまったのだろう。


「いい……私にはどうせ似合わないから……」


「えっ……どうして? 私はそんな事ないと思うんだけどなぁ~」


 私がそんな事ないと言っても表情が暗いままで、アンは自信がなさそうに自分が来ている服をキュッと握る。この落ち込みよう、なんだか理由がありそうな気がする。


「何か悩みがあるなら相談に乗るよ。他のお客様も居ないし、アンちゃんとお話ししたいな」


「わ、笑わない……?」


「笑わない、絶対笑わないよ」


 少しでも安心してもらいたくて、彼女の背中をポンポン叩く。アンはしばらくうーんと悩んでいたが、唇を震わせながら小さな口を開いた。


「同じ学校の男の子がね、何度も私のところに来ておいブスって言ってからかってくるの……」


 わーお……彼女のくらいの年齢の男の子となると、よく聞くやつじゃないか……こんなのもうお察しだよ。


「顔にもぶつぶつがついてキモいとか、言ってくるし……ひっく……持っている可愛い服を着ても怒ったように顔真っ赤にしてお前みたいな顔のやつが、可愛い服を着るなんておかしいと言われたの。だからもっと可愛くなりたいのに……でもどうすれば良いか分からなくて……」


 よく見ると彼女の顔には、チラっと見た程度では気づかない程薄いそばかすがぽつぽつと付いている。私はポロポロと小粒の涙を流しながら悩みを相談してくれたアンの背中を優しく撫でた。


 悔しいがその男の子の気持ち、会った事ないけどなんとなく分かる。

 多分その男の子、アンに惚れている。


 しかし良くないな。ひと昔前は男の子のそういう一面が可愛らしいという風潮があったが、そんなの言われている女の子本人には関係ない。

 昨今では紳士的な男の子の方がモテると聞くし、冷静に考えれば暴言を言って気を引かせるって意味が分からないよねぇ……。現にアンは今悩み、わざわざ私の服屋まで足を運んでくれて泣いている。


 となるともう、私に出来ることは1つだけだ。ただのアパレルショップの店員としては行き過ぎた行為かもしれないが、泣いている小さな女の子をそのまま返すなんて私には出来ない。


「アンちゃん、ちょっとこっちのお部屋においで。実は私魔女なの。貴方に特別な魔法をかけてあげるわ」


 気に入ってくれた薄ピンクのワンピースを持っているアンの手を優しく引く。不思議そうに首を傾げるアンを、従業員室の更に向こう側……私の家のパウダールームに招待した。



 

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