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6人目:魔女レムと永遠の呪い⑤

 

 それから幾年もの時が流れたある日。

 昼下がりの明るい森の中で、2人の魔女が居た。片方はレム、もう片方は偶然通りかかった来客者のようだ。


 近づきがたい雰囲気を漂わせる、物語に出てくるような不気味な外観の家。だが本人たちはそんな事を一切気にする様子もなく、庭に設置した小さな丸テーブルと椅子に座って優雅にティータイムを楽しんでいた。


「ほお、なかなか不思議な光景だ。それがネクロマンサーの力ってやつかい?」


 紅茶を一口飲んで来客者が、レムの後ろを見ながらそう呟いた。レムは少し驚いたように目を開く。


「へぇ、見えるのね。魔女でも見える者は少ないというのに」


「私はこれでも強い魔女だ。それに幽霊には少々縁がある」


「ふーん、でも不正解。彼は勝手に私の後ろを漂っているだけだわ。本当に変な子よ」


 レムの後ろには、彼女に寄り添うように初老の男性の幽霊が静かに立っていた。穏やかな顔をし、まるで見えているかのように優しい瞳でレムを見つめていた。


「ネクロマンサー、君には彼の声が聞こえるのかい?」


「聞こえない。魔法で彼の魂を束縛して隷属にすれば意思は分かる。……でもそんな事したくない。それなのになんでずっと私の傍に居るのかしら? さっさと成仏すればいいのに……」


「さあ、愛ってやつじゃないか?」


「そんな美しいものではないわ。この子、頭おかしいもの。普通あんなことしない」


 レムは振り返り、傍らに漂う幽霊の顔を見る。その顔はどこか寂しそうであり、それと同時に嬉しそうであった。初老の男性の幽霊も、目が合った途端嬉しそうに微笑む。言葉は通じなくても何かを感じ取っているようだ。


 愛し合っているように見えるのに、2人の間には目に見えない大きな壁が挟まっている。こんなにずっと傍に居るのに、決して触れ合うことができないのだ。


「彼は私の呪いを引き継いで五感を失った。本当に世話が焼けるったらありゃしない。全てを失った影響か、次第に第六感が目覚めていって、ある程度意思が通じるようになったけど本当に面倒。私、誰かの世話なんて大嫌いなのに……結局彼の最後まで一緒にいてしまった」


「君ほどの存在が、何故ただの人間にそこまで世話を焼く?」


「……花を貰ったの」


 目を伏せながら呟いたレムは、紅茶を一口すすった。


「私は人間たちにとっては不幸なことに大きな魔力を持っていた。物心ついたころから1人だった私は、寂しくて人々の魂を束縛して、従わせることで孤独を満たした。でも隷属した魂は良くも悪くも私の意思に背けない、自分の意思で動けないつまらない存在よ。そこに悪意はなかったけど、まあ結局呪われてまた孤独になった」


「ふむ、随分いじらしい理由だな」


「でも彼だけは……彼の意志で私を愛していると言って、生まれて初めてプレゼントを貰った。森に生えている普通の白い花よ。もうとっくに枯れてしまったけど、私の心の奥に永遠に咲き続ける大切な宝物。

私は……私の心を救ってくれた恩を返したかった。毎日のように愛を囁いてくれる彼のおかげで、言葉は魔力がなくても強く尊いものだと気付いた。紙に書かれた文字なんて薄っぺらいものでは足りない。この気持ちを……彼のように言葉で返すことが私が出来る恩返しだと思った」


 懐かしむように、ぽつぽつとレムは語る。来客者は時折紅茶に口をつけながら、興味深そうに聞いていた。




 一通り聞き終わった後、来客者は「ふむ」と呟いて、改まった顔で家の主に向き直る。


「君は知っていると思うが、君にかけられ、彼に移った呪いは《《身体》》を蝕むものだ。死して肉体を失った今は、その呪いから解放されたと言っていい。だが幽霊たちは傍に居るように見えて我々とは別の次元に居る。君の魔法ならその次元に干渉できるようだが、それをしないのかい?」


「隷属にすれば相手の全てを奪い、意思が分かるようになるだけ。別に楽しく会話が出来るようになるわけでもない。私の魔法はどこまでも一方的よ。だからこそ恨みを買われた」


「ははは! あの人間たちを恐怖に陥れたネクロマンサーが随分しおらしくなったものだ。愛は偉大だねぇ!」


 来客者は愉快そうに声を張って笑う。そんな彼女を、レムはむすっとした顔で見ていた。彼女たちの会話は、お互いのお茶が全てなくなるまで続いた。


「美味しいお茶と興味深い話をありがとう。お礼と言っては何だが、君にぴったりの場所を教えよう」


 そう言った来客者が何かを呟きながら手をかざすと、一枚の大きな紙がテーブルの上にぱさりと降りてきた。それはこの大陸の地図だった。山に囲まれた辺境の地に、赤い×マークが付けられている。


 全く心当たりのない場所に、レムは眉間に小さく皺を寄せて首をひねった。

訝しげに見つめるレムに、来客者は気にする様子もなくこの場所の説明を始めた。


「今からだとだいたい1年後になるがね、私のお気に入りのゴーストタウンだ。きっと君も気に入る。

…君の願いも、きっと叶う」




◆―――――――――◆




彼女の名前は魔女レム

好きな者は『愛する召使い』ただ1人



 

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