冥府の王誕生
冥府に落ち、咎人となった元四天王
ついに冥府で王となる。
ウロボロスの崩壊と同時に、
モルゴーラは仮面を外す。
その顔は灰に覆われていたが、美しかった。
だが、その美はすでに崩れ始めている。
額の中心に灰の結晶核が鈍く輝く。
「ウロボロスを失っても、私が灰から再生させる。
輪廻は永遠に続く」
【状態:灰化進行(解除)】
ドラミィへの灰の浸食が止まったことで、
俺は一息ついた。
「灰って腐るんだよ、知っていたか?」
モルゴーラが初めて怯えた。
「何……?」
俺は深く息を吸い、
最後の一片の黒炎を灰の核に叩き込む。
ただの黒炎ではない。
ウロボロスの因子と混ざり合った、死因子混じりの黒炎。
「毒と灰はお互いに食い合う。
ウロボロスを従えたお前にお似合いの最後だ」
【《黒炎・毒性混入》】
【灰の結晶核:腐食 → 崩落】
モルゴーラの身体が崩れはじめる。
「……体が、崩れる……。
ならば……お前に従おう。
共に冥府を治めてみぬか」
「冥府で出来の悪い家族が出来ちまったからな。
お前の入る隙間はねぇよ」
モルゴーラはクアトロの腕を握りしめると
灰を風に流されながら僅かに口角を上げる。
「ならば……お前が、冥府の王だ……
四天王最弱よ……」
(――俺の復讐は冥府の王じゃ終わらねぇ)
咄嗟に口に出かかった叫びは、
女王の何故か満ち足りた笑顔で霧散した。
宮殿が崩壊し、
地上へ続く巨大な黒門が完全に開いた。
ドラゾンが俺に飛びついてくる。
「主様ぁ~!家族ってオデのことですかぁ~♡」
「馬鹿っ、その姿でのしかかるな!」
俺はドラゾンの頭を撫でながら、
地上を見上げた。
「ふふっ、お前を待つ焔帝公爵は、
まだお前を最弱と笑っているぞ…」
口だけになった女王が最後に憎まれ口を叩くと、
灰色の王冠が俺の頭上に被さる。
温度を感じない筈の灰の王冠が熱い熱を伝えてくる。
【残りの《灰の楔》解除】
【新権能《冥府召喚》取得】
効果:どこでも冥府権能を使用可能【地上HP-100/秒】
(地上だと1分足らずで、俺の身体が先に尽きるか…)
「まあいい……結局、あいつ何がしたかったんだ!?」
最後の一撃は敢えて受けた気がしたが…。
ドラミィが人化して俺に抱きつく。
銀色のさらさらした髪は毒を宿した紫の瞳とよく似合っていた。
「主様ぁ~! MP戻って嬉しいですぅ~♡」
【MP 5000/5000】
冥府の力が流れ込んでくる。
俺は灰の王冠の感触を確かめる。
「……いいぜ。
お前の夢が地上侵攻なら
復讐がてら全部俺のものにしてやる」
俺は灰の上に立ち、
ドラミィがまだ俺の背中にしがみついている。
「主様ぁ~!最高にカッコイイぞ~♡」
崩れた宮殿の四方から、残りの層主が現れる。
「冥府は貴方のものです、王よ」
冥府上層を管理していた白髪の老人ルナリスが静かに跪く。
冥府の召喚獣モルフェウスも、蝶の翅を広げて降臨。
「灰の女王は最後まで私を召喚しなかった。
お前に後を託したのだ、真の冥王クアトロ」
「冥王といえば聞こえはいいが、元は咎人だ。
上層はこれまで通りお前たちが治めてればいい」
「無欲な王だ。上層でしか獲得できない権能もあるが…」
「俺はお前たちに相応しい王になるつもりだ!
地上の奴らに見下された最弱で終わらねぇぞ」
俺は手を掲げた。冥府全土が震え、
黒い地脈が俺の体に流れ込む。
冥府が、俺を選んだ。
「よっしゃ!お前ら俺に付いてこい!!」
【冥府支配権 100%取得】
【灰の王冠取得 最大HP上昇、新権能獲得】
俺はニヤリと笑った。
「ここはもう俺の庭だ。いつでも帰ってこれる。
いつでも、お前らを呼べる」
ドラミィが舌をべろべろ出した。顔がまた溶けてきている。
「主様の庭! オデも住んでいいですかぁ~♡」
「好きにしろ」
灰の宮殿の奥、地上へ続く巨大な黒門が完全に開いた。
地上の風が、初めて冥府に吹き込む。俺は一歩踏み出す。
「……行くぞ、ドラミィ。いよいよ地上だ」
ドラミィが俺の背中にしがみついたまま、翼を広げる。
「はーい! 主様と一緒ならどこでもですぅ~♡」
音もなく黒い門がぱっくりと開いた。
黒門をくぐり、
俺たちは地上へ帰還した。
空は青く、風は熱い。
遠く、劫火公爵の居城、バロンの尖塔が見える。
門の向こう側には、乾ききった土と焦げ跡ばかりの荒野。
見慣れた光景だ。クアトロ領の南方、
ヴァチカン帝国王都の外縁・焦土平原。
俺はゆっくりと一歩、踏み出す。
足元が軋む。
この世界の大地の感触が懐かしくて、少しだけ胸が焼けた。
「地上……か」
黒門が背後で閉じる音と同時に、
ドラミィがふわりと飛び出してきた。
「あっあっあっあっ、主様ぁ~っ♡♡
地上の空気ですよぉっ! うえーいっ!」
相変わらず、うるさい。
だが、この妙に明るい相棒がいなかったら、
冥府で女王を倒せたかどうか分からない。
「元の姿に戻れ、上空から侵入する」
「らじゃ♡」
「浮かれすぎるな。陽の光が見えんのか?長居はできんぞ」
「えへへ……でもでも、主様の黒炎が暴れてますぅ~♡」
「冥府の身体だ。煙があがってるじゃないか!
早く物陰に隠れろ」
「主様、眩しくて目が見えないゾン」
「おいっ、空を飛びながら目をつぶる奴があるか!」
「陽の光で体が縮むゾン、ご主人様飛び降りてっ」
「ちきしょう。冥府の王が格好つかねぇぜ!」
俺達は尖塔に激突する前に辛うじて着地した。
そして――紅蓮のマントを翻した男が、
俺たちを待っていた。
劫火の四天王カプリチェス・インフェルノ。
——ゴオオオオオオ……。
剣のような細身の体躯。
燃えるような真紅の双眸。
熱い風が止まり、空気が一瞬冷えた。
奴が口を開いた。
「巨大なドラゴンが出現したと聞いて待っておれば
三文芝居にしては、派手に暴れてくれたものだな、クアトロ」
俺は笑った。
「ああん、これ見ても同じこと言えんのか?」黒炎が渦を巻き、
ドラゾンが「主様ぁ~♡」と叫ぶ。
俺の内側で蠢く黒炎が、
まるで俺の支配を嫌がるようにざわりと揺れる。
――勝てるはずだ。
そう思っているのに、膝が笑う。
地上に戻った瞬間、最初に出迎えるのが四天王筆頭か……
「歓迎が雑じゃないか、カプリチェス」
「ふん、ではもう一度冥府に送り返してやる前に、土産話をしてやろう
付いて来い」
奴は剣の鍔を軽く叩きながら、
俺を未だ死んだはずの最弱として扱っている。
【ステータス更新】
クアトロ=フォルミア・デッドロット
HP:5500/5500
MP:5000/5000
称号:《冥府の咎人》→《冥府の真王》
《光の戦士殺し》《ドラゴン使い》
仲間:ドラミィ(永遠の腐れ家族)
新権能:《冥府召喚》《黒門操作》
冥府編は一区切りとなり、次回からはいよいよ地上編へ。




