灰の宮殿で、女王モルゴーラを討つ
灰の宮殿、その主は冥府の女王。
分解と輪廻を司る彼女に対し、
毒と腐食という歪な力で挑むクアトロ達。
灰が降りしきる宮殿は、
生物の気配すらなかった。
ただ、塵となった灰が静かに足元に積もっていく。
俺とドラゾンが祭壇に踏み入れると、
仮面を付けた女王がゆっくり立ち上がる。
「第四層までよく来たな。
四天王最弱にしては、上出来だ」
「だだっ広い宮殿に一人で住んで女王気取りか
頭の中も灰だらけだな、ババア」
モルゴーラは無言で紫色の液体を飲み干す。
「ま、マジックポーション……!」
「ほほ。魔力なきお前には、
喉から手が出るほど欲しかろう」
ドラゾンが尻尾を振ると足元の灰が宙に舞う。
「ご主人、あれ飲んだら魔法撃てるの?」
「……少なくとも死ぬ確率は減るな」
「早うかかってこい。
お前には地上侵攻の先兵になってもらうのでな」
◆灰の女王モルゴーラ
【HP:3500】
【特性:灰化(物質分解)/灰霧展開/灰因子精製】
【弱点:湿気/毒因子による灰化阻害】
【※灰は毒に弱い。自然界の理。冥府でも同じ】
モルゴーラが指を鳴らすと、
床から灰が噴き上がり、空気が濁り始めた。
【状態:灰化進行(軽度)】
「主様ぁっ! 体がざらざらですぅ~!」
俺は口元を押さえる。
「ドラゾン。あれは空気中の灰因子が
生者の組織を削るタイプだ。吸ったら死ぬ」
「さも当然みたいに言わないでくださいぅ!」
「お前はアンデッドだ、これ以上死なない。
ざらざらは我慢しろ」
俺は灰霧を見定める。
(……灰因子の濃度が高すぎる。早めに何とかしないと)
灰は瞬く間に周囲を包んでいく。
(そうか、毒を撒けば……逆に灰が詰まって動きが鈍る)
「ドラゾン! 周囲に毒霧を薄く撒け!
濃すぎると灰が固まる、薄くでいい!」
「は、はいぃ~!」
ドラゾンが腐食ブレスを薄く散布。
灰霧がざらっと音を立てて重く落ちる。
ドラゾンが口元を拭きながら、
ちょっと照れくさそうに言った。
「……オデの唾、ちょっと酸っぱかったですぅ~。
主様、味見しますかぁ~♡」
「いらねえ!!その姿でじゃれつくな」
ぎりっ。
モルゴーラが唇を嚙み締めた。
「……毒で灰が凝固……?
裏切り者め、階層主にしてやった恩を忘れたか」
「頭を砕かれ灰を詰め込まれたことは覚えてますぅ、
いつかぶっ殺すつもりでいたゾン」
「教育が足りなかったようだねぇ」
モルゴーラは床の灰を操り、兵を形作る。
《灰殻兵アッシュシェル》
十数体の灰の騎士が立ち上がり、包囲を狭めていく。
「固形化した灰は毒では溶けぬ。絶望したか?」
「主様ぁ~! どうするんですかぁ~!」
俺は低く笑った。
「怒ったり泣いたり、忙しい奴だな」
《灰殻兵アッシュシェル》が一斉に刃を構える。
「固形化した灰は湿気に弱いんだよな」
「え? 湿気……?」
「ドラゾン。毒霧じゃなくて、
唾としてぶっかけろ」
「そ、そんなのでいいんですか~!?」
「いい。灰は水に弱い。鉄より脆いって話だ」
ドラゾンの唾液が飛び、
灰殻兵がぐしゃっと崩れ落ちる。
モルゴーラが動揺した声を漏らす。
「……冥府で私の灰殻兵を……?」
「マジックポーションっ!」
ドラゾンが王座へ突っ込むと、
モルゴーラの口角が不気味に上がった。
「退け、ドラゾン。まだ何か企んでるぞ」
「何故、私がわざわざこれを見せてやったと思う?」
次の瞬間、灰の輪が割れ――
《冥獣ウロボロス・灰化》
全長数百メートルの灰の蛇神が現れた。
「これが私の真の力。
全てを灰に還す輪廻の獣だ」
グギャギャギャ。
自らの尾を飲み込んだ大蛇が低く叫ぶと、
灰のブレスが襲いかかる。
【HP 4100 → 2800 → 1900/5050】
ドラゾンが盾となってブレスが分散されたが、
もう一撃食らえば危険だ。
「主様は下がってくださいぅ~!
オデが全部溶かしますぅ~!」
ドラゾンが《腐食のブレス・極大》を放つ。
だが灰で出来た表皮は次々と再生し、
毒は中和されていく。
【状態:灰化進行(重度)】
「無駄だ。冥獣ウロボロスには
灰の加護を与えておる」
「……ドラゾン、退くんだ!!」
ウロボロス尾が横殴り振り回される。
ドラゾンは咄嗟にドラミィに変化し、
身を縮めた。
「ふふっ、これは躱せるか?《逢花葬送》」
花弁のような灰炎が舞い、触れた空間から色が失われていく。
だが、灰炎に呑まれながらも、
ドラミィは笑っていた。
「主様、これで……回復ですぅ」
半身を焼かれながらも、
女王の手からマジックポーションを奪う。
俺は瓶を叩き割り、頭からかぶった。
「飲んでる時間がねぇ!!」
【MP 0 → 800】
――その瞬間、理解した。
灰は、分解の終点だ。
物も命も、形を失った結果。
だが――
結果は、原因には勝てない。
腐食の黒炎は、分解の「前」に触れる。
存在そのものを、腐らせる炎だ。
「MPが体中を駆け巡る感覚――久しぶりだ。
かつて四天王だった頃の魔力が、蘇ってくる。
お前の輪廻、俺が喰らう!!」
《腐食の黒炎・土槍纏い・極大》
黒と灰の劫火がせめぎ合い、やがて冥獣を貫く、
灰の蛇神は悲鳴を上げて崩れ落ちた。
灰は燃え尽きず、風にも戻らなかった。
ただ、何かに貫かれた孔から喰われた跡だけが残った。
モルゴーラが膝をつく。
「……何が起こった……
灰空間で……冥獣を、貫くなど……」
俺はゆっくり歩み寄る。
「お前、灰に頼りすぎたんだよ」
次はいよいよ冥府の支配へ。
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