冥土第五層で出会った最悪にかわいい階層主
こんな冥府の奥底でさえ、
たまに――本当にたまにだけど
――予想外の救いが転がってるんだよな。
たとえば、腐れかけのドラゴン娘とか。
溶岩の赤が大地を染め、
死体が空をゆっくり漂い、
地の下からは絶え間ないモンスターの咆哮――
まさに煉獄のBGM。
【HP 152/5050】
【MP 0/3000】
辛うじて歩くことが出来るが、
骨はずっとギシギシ鳴っている。
連戦が続き、どこかで一息つきたいが
周りはマグマで溢れている。
「……もう、限界ってレベルじゃねえだろ……」
熱風が吹き、皮膚がパリパリに乾いて剥がれていく。
五感を奪う煉獄。
そのとき――。
ドゴォォォォォォン!!!
大地が裂け、
溶岩が滝のように噴き上がる。
その中心から、
巨大な影がぬるりと姿を現した。
ドラゴンゾンビ《第五層階層主》
【HP:2500】
所々骨が覗き、口元に腐食のブレスを蓄えている。
「休憩どころじゃねぇか」
俺は生命力を指先に集め、黒炎を作りだす。
だが、ドラゴンゾンビは喜色を称え、姿を変え始めた。
「わぁ~~!
生きてる人(死んでる?)発見~~♡」
銀髪ロング。腐食の象徴、徴紫の瞳
破れたドレス。
溶けかけの翼。
「いや、どんな変化だよ。
銀髪がサラサラ揺れて、笑顔が天然すぎて
……ドレスから覗く腐れかけの肌が、なぜかエロ可愛い!?」
超巨体の腐れドラゴン娘。
満面の笑顔で、
俺に手を振ってきた。
だが、その奥にあるのは紛れもなく――
階層主の圧。
溶岩が一斉に逆流し、亡者の悲鳴が遠のいた。
「……お前が第五層の主か。
マジで勘弁してくれ……」
ドラゴン娘は胸を張り、
誇らしげに名乗る。
「オデ、ドラゴン・ゾンビガール!
みんなドラゾンって呼ぶけど、
もっと可愛い名前でもいいですよぉ~♡」
「なごむんじゃねえ!」
咄嗟に黒炎を叩き込む。
ジュッ!
熱い息が顔にかかる距離で、
腐った肉の臭いが鼻を突くのに
……なんで回復してんだよ!?
【《すべての毒吸収》発動】
【HP 2500 → 2458 → 2500】
ドラゾンは首をコトンと傾げ、
嬉しそうに尻尾を振った。
「オデ、《すべての毒吸収》持ち、腐敗の体なんですよぉ~。
触ると普通は死んじゃうゾン♡」
「普通じゃねえ体してるな!?」
直後、巨大な尻尾がしなる。
ドガァァァッ!!
【HP 65 → 30 → 毒吸収 → 60】
「ひゃぁぁ!?
あなたも毒吸収持ってるのぉ!?」
……わかった。
俺が攻撃する
→触れる
→毒吸収で爆回復。
つまり、
【HP 60 → 100 → 200 → 300……】
ドラゾンの紫の瞳が、
まるで仔犬みたいにキラキラ輝いた。
「主様ぁ……
もっと……もっと触ってください~~♡」
「誰が主様だバカ!!
いや触るしかねぇけど!!」
抱きつかれ、押しつぶされ、
殴られ、転がされ、
ついでに頬ずりされ――
攻撃されるほどHPが増えていく謎の地獄。
――10分後。
【HP 850/5050】
「……ぐふっ……
もう嫌だ……」
ドラゾンはうっとりした顔で敗北宣言。
「主様っ!
オデ、負けましたぁ!
これから一生ついていきますゾン~~♡」
「勝った気はしねぇんだが……」
立ち上がった俺を見て、
ドラゾンが首を傾げる。
「でも主様、
最大HPまだいってないゾン?」
「これでも元・四天王だからな!」
その言葉に、
ドラゾンの紫の瞳が妖しく輝いた。
「じゃあ……
もっと回復させてあげますぅ~~♡」
ズゴゴゴゴゴゴッ!!
ドラゾンが本気の姿に変身。
超巨大・腐敗ドラゴンゾンビ形態!
翼はボロボロ。
鱗は剥がれ落ち、
口元には腐食の紫光が渦巻いている。
『腐食のブレス・全開』
「ちょ、待て――」
ドゴォォォォォォォォォォォン!!!
辺り一面が毒の沼に変わった。
毒の雨、
毒の霧、
毒の地面。
【《すべての毒吸収》暴走発動】
【HP 850 → 1500 → 3000 → 5050/5050】
【状態:HP全快】
毒の暴風の中心で、
俺は天を仰いだ。
「暴発で毒沼化……なんか、昔の俺みたいだな」
少女姿に戻ったドラゾンが、
頭をポリポリ掻く。
「ちょっとやりすぎたゾン~。
でも主様ピンピンで嬉しいですぅ♡」
俺はため息をついて、
ドラゾンの背にまたがる。
「……まあいい。
行くぞ、ドラミィ」
「えっ、それってオデの名前ですかぁ?」
「一応、女性だからな。本体の時はドラゾンって呼ぶぞ」
「嬉しい!
主様と一緒ならどこでもですぅ~♡」
毒沼を背に、
俺たちは第四層へ向かった。
【HP 5050/5050】
(初のフル回復)
【新仲間:ドラゾン (ドラミィ)
(第五層階層主・天然最強腐れゾンビ)】
新称号〈ドラゴン使い〉
【共闘補正:全能力+20%】
(毒回復コンボが極悪)
――こうして俺は、
冥土の煉獄で
最悪にかわいい味方を得た。
勝ったのか負けたのか、よくわからんまま仲間が増えた。
でもまあ、ドラゾンは強い。
天然すぎて怖いくらいに。




