聖都決戦 光の召喚士と冥府の将
半壊した聖都で、救援活動を続ける
最後の光の戦士・召喚士ミリィ。
だが冥府の将・バルガスが、静かに戦場へ現れる。
半壊した帝都の空に、まだ光は残っていた。
瓦礫の街路に展開した騎士団の背後で、
光の魔法陣が次々と浮かび上がる。
その中心に立つのは、召喚士ミリィ
――まだ年端もいかない少女だった。
淡い金色の髪を肩のあたりで揺らし、
白と蒼の召喚士装束を身に纏っている。
「後方、倒壊区画を優先! 生存者を――」
声は震えていない。
震えさせる暇がなかった。
彼女の両脇に展開した召喚獣が、
瓦礫を押しのけ、人を抱え上げる。
火と光を重ねた結界が、街路を塞ぐように張られていた。
守る。
ただそれだけを、ミリィは考えていた。
大きな碧眼は戦場の煙に曇りながらも、
遠く現れた黒門を見据えている。
そこへ、地鳴りのような足音が重なる。
瓦礫の向こうから現れたのは、冥府の軍勢。
腐臭と死気を纏ったアンデッドの大群
――そして、その先頭に立つ巨躯。
バルガス。
「おチビちゃん」
低く、愉快そうな声が響いた。
「悪いことは言わねぇ。ここは引け」
ミリィは杖を握り直す。
「……私は、光の戦士です」
一瞬、バルガスの目が細くなった。
「そうかい」
次の瞬間、ミリィは詠唱を走らせる。
彼女の身長ほどもある白杖が掲げられると
空中に並ぶ魔法陣旋回を始める。
地上に火と光が絡み合い、
炎を纏った巨大な蜥蜴たちが現れた。
「ファイア・リザード! 扇形陣形!」
数十体の召喚獣が、前方へ雪崩れ込む。
炎槍がアンデッドの群れを呑み込み、街路が一気に赤く染まった。
焼け落ちる亡者たち。
崩れ落ちる骨。
「すご……」
結界を維持していたエレシアが、思わず息を呑む。
「結界は無視して
――散開しているアンデッドを押し戻して!」
ミリィが言い終わる前に
ファイア・リザードの炎の波が吹き抜け、
前線を一気に押し戻していく。
アンデッドの群れが、崩れる。
冥府軍が、明確に後退していく。
バルガスは、炎の向こうで肩を竦める。
「……このままじゃ全滅だ。退け」
騎士の誰かが、信じられないように呟いた。
「……退いてる?」
冥府軍が、統制の取れた動きで引いていく。
あまりにも、あっさりと。
炎が消え、敵影が消え、街路に静寂が戻る。
「……勝った?」
誰かが言った。
市民の間に、安堵のざわめきが広がりかける。
ミリィは、嫌な予感を拭えなかった。
――早すぎる。
次の瞬間。
地鳴りと共に、冥府軍が戻ってくる。
数は、同じ。
減っていない。
「……っ」
ミリィは歯を噛み締める。
再召喚。
だが、魔力が削れているのが分かる。
現れたファイア・リザードは、先ほどの半数にも満たなかった。
それでも、炎はアンデッドを押し返す。
だが――また、退く。
「魔力切れを……待ってる?」
ミリィの喉が、ひくりと鳴る。
三度目の進軍。
今度は、ミリィが決断する。
「炎の巨人――出て!」
街路を覆い尽くすほどの巨体が現れ、拳を振り下ろす。
「これで……!」
エレシアが、唇を舐めた。
「撤退したら、勝ちよ」
だが。
バルガスは、逃げなかった。
炎の巨人へ、真正面から歩いていく。
拳が叩きつけられ、全身が炎に包まれる。
それでも。
「いい炎だ」
焼け爛れながら、バルガスは笑った。
馬鹿正直に巨人と戦う姿に、ミリィの背筋が凍る。
自分を――狙ってこない。
召喚士と戦う定石をこの男が知らぬはずないのに…
炎の巨人の腕を掴み、頭突き。
溶岩が飛び散る。
距離を取り、大斧に力が溜まる。
「冥府旋風」
衝撃波が街路を薙ぎ払う。
炎の巨人が、消える。
同時に、ミリィの身体が宙を舞った。
叩きつけられる感覚。
視界が揺れる。
バルガスが、ゆっくりと歩み寄る。
だが、最後の一撃で――止まった。
「光の戦士に恥じない戦いだった」
低く、真剣な声。
「だがな」
彼は、大斧を肩に担ぐ。
「戦場に正義だけを持ち込むと、こうなる」
ミリィは膝をつく。
それでも、杖は離さなかった。
エレシアが駆け寄り、治癒の水で炎を消す。
バルガスの身体は、焼けただれていた。
「……水の都まで撤退だ」
騎士団が、ミリィを支える。
その背後で。
聖都は、静かに――陥落していった。
光は、まだ残っている。
だが、勝利の光ではなかった。
初陣の少女と、百戦錬磨バルガスの対決です。
ミリィ、よくやった。と思われた方は”いいね”お願いします!




