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四天王最弱だった俺、処刑されたら冥府で最強になってました  作者: ふりっぷ
第三章 冥府での騒乱

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聖水晶臨界

聖水晶は臨界に達した。

聖都を焼き尽くす力は、すでに解き放たれる寸前にある。

英雄も皇帝も止められないその瞬間、ただ一人――祈る者がいた。

――世界が、止まった。


音が、消えた。

風も、叫びも、崩れ落ちる瓦礫の気配すら――ない。


フィンの胸元で、

聖水晶が静止している。


いや、正確には違う。

それは止まっているのではない。


爆発の直前で、世界ごと凍りついている。


光も熱も放たない。

だが、誰もが理解していた。


――来る。

これが解放された瞬間、聖都が終わる。


皇帝ドミノの青の宝玉でさえ、

この臨界をまだ定義できずにいた。


「……前例が、ないな」


因果を支配する皇帝の声が、

水の中から聞くように歪む。


四英雄が揃わぬまま、

聖水晶の器が壊れた状態で迎える臨界。


――世界が、答えを持っていなかった。


ルミナが祈った瞬間、

世界は遠ざかった。


鐘の音も、人々の叫びも

風のうなりも――

すべてが、厚い布の向こうへ沈んでいく。


(……ああ)


ルミナは、自分が何をしているか分かっていた。


これは、聖女の祈りではない。

世界を救う儀式でも、正しい奇跡でもない。


ただ――

一人の人間が、一人の人を失いたくないと叫んだだけ。


(……世界がどうなってもいい。

 それでも、あの人だけは)


胸元の聖印に、ひびが走る。

聖女の証が音も立てず、静かに割れた。


祈りは、もう光を集めない。

代わりに――


世界との繋がりを、切り離していく。


聖都と。

神殿と。

祈る人々と。

聖女という役割と。


無数の光の糸が、

彼女を吊るしていたものが、

一本残らず断ち切られていく。


光に支えられていたはずの身体が、

初めて、自分の重さを思い出す。


神殿の柱に、亀裂が走り

聖水盤の水が、ただの水になる。


奇跡を保持していた場が、

次々と機能を失っていった。


(……これが、私の選んだ結果)


ルミナは、まだ立っている。


だが――

聖女であることを支えていた構造が、崩れていた。


それでも。


(……それでも、よかった)


世界を救う存在よりも、

誰かを想って祈る人間でいることを、

彼女は選んだ。



フィンは、まだ生きている。

時間が、動いていない。


自分の血が、

飛沫の形のまま宙に浮いている。


心臓は一拍で止まり、

次の鼓動が、まだ来ない。


だが――死んでいない。


(……これが、最後の前か)


その時、

胸元の聖水晶が、わずかに温度を持った。


懐かしい。

優しい。

誰かが、そこにいる感覚。


(……ルミナ)


姿は見えない。

声も聞こえない。


だが確かに――祈っている。

昔、洞窟でひとりぼっちで震えていた時のように


ただ、


「ここにいる」

「一人にしない」


それだけを、必死に。


光が、膨張をやめた。

代わりに――歪み始める。


聖水晶の内部で、

聖都と同期していた臨界が、

わざと遠回りを始めた。


(……爆発しない?)


違う。

爆発する場所が書き換えられている。


(……ルミナ)


彼女は、聖都を救おうとしていない。

自分を、生かす為だけに爆心地をずらそうと――。


それがどれほど身勝手で、

許されない祈りか――


知っていて。



「……馬鹿な」


青の宝玉が、

臨界点の周囲を走る。


因果の上書きを試みる。

だが――


祈りは因果ではない。


結果は消せても、

誰かを想った事実だけは、消せない。


「奇跡ではない……ただの、執着か……」


皇帝は、初めて理解する。


これは因果が及ばない

留まろうとする意思だ。


「それは……皇帝である私にすら否定できない」


光が差し込む。

時間が、ゆっくりと再起動を始める。


音が、遠くで戻ってくる。


爆発は――

まだ起きていない。


だが、もう止められない。


フィンは、最後に思う。


(ルミナ……すまない。

 聖女を捨てたお前に、俺には返すものがない…)


だが――いまこの瞬間だけは

独りではない。


聖水晶が再び輝きだす。

フィンを失いたくないという想いが波紋のように広がる。

それでも臨界は止まらない。

次の瞬間、すべてが動き出します。

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