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四天王最弱だった俺、処刑されたら冥府で最強になってました  作者: ふりっぷ
第三章 冥府での騒乱

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聖都への帰還

英雄が帰れば、鐘が鳴る。


だがその日、鐘は沈黙した。

帰ってきた男は、もう祝福される存在ではなかった。

――フィン帰還。


 聖都の鐘は、鳴らなかった。


 本来なら、

 聖騎士フィンの帰還は、祝福の合図で始まる。


 だがその日、塔の鐘楼は沈黙したままだった。

 鐘を鳴らす者が、誰も決断できなかった。


 城門前に現れたフィンは、

 ――帰還者の姿をしていなかった。


 白銀の外套は黒鎧に変わり

 黒結晶が肉に食い込むように張り付いている。

 顔色は死人のように青白く、歩くたび石畳に黒い血が滴り落ちる。


「……フィン、様?」


 門衛の声は、疑問ではない。

 恐怖だった。


 憧れだった聖騎士のこのような姿は見たことがない。


「門を、開けろ」


 フィンの声は、低く、かすれていた。

 聖都に、ざわめきが走る。


 神官たちが集まり、騎士団に知らせが走る。

 だが、誰も近づけない。


 フィンは、歩く。


 ――ルミナのいる、聖堂の治療区画へ。

 その途中も、鐘は鳴らなかった。


 いつもなら、彼が通るだけで、

 光水晶は共鳴し、聖都に聖騎士の帰還を高らかに告げる。


 重苦しい沈黙の中、

 フィンの引きずるような甲冑の音がやけに大きく響く。

 

 老司祭の顔色が変わる。

「……光水晶を持ち帰られたのではないのか?」


「あの黒甲冑を見ろ、すでに帝国に降ったのだ」


 その言葉が、広がる。


 つまり――


「聖騎士フィンは……

 もはや、聖晶同盟の象徴ではない」


 誰かが、口にしてしまった。

 次の瞬間、沈黙は音を立てて崩れた。


「何故、通した!」


「すでに、帝国軍が迫っているのではないのか!」


「待て、フィン様は――」


「様、などと呼ぶな!」


 怒号が飛び交い

 聖晶管理官が、端末を叩き、叫ぶ。


「帝国軍を確認!

 聖都全域で、結界強度が揺らいでいます!」


 その頃。

 ルミナの部屋の前で、フィンは立ち止まった。


 扉に、手を伸ばす。

 だが――開かない。


 内側から、光の結界が張られていた。


 防衛用ではない。

 隔離用だ。


 フィンは、ゆっくりと息を吐く。


「……なるほど」


 聖晶同盟は、もう理解している。


 自分が戻ってきた意味を。

 そして――


 戻ってきてはいけない存在になったことを。


 その瞬間。


 評議院の最上階で、

 ある決定が、密かに下される。


「聖騎士フィンを――

 捕縛し、管理対象に指定する」


 それは、英雄が聖都の敵になる第一歩だった。


 聖都の空に、雲がかかる。


 暴風の前兆のように。 最初に異変が起きたのは、

 聖都中央塔――大聖晶炉だった。


 制御符が、音もなく剥がれ落ちる。


 共鳴を失った聖水晶は、

 もはや信仰を循環させる器ではなくなっていた。


 溜め込みすぎた光が、

 逃げ場を探して脈動し始める。


「……臨界値、超過」


 管理官の声が、震えた。


 次の瞬間。


 光が、爆ぜた。


 轟音はなかった。

 ただ、結界を失った聖都の空が一瞬――白く裏返り

 光の粒子が雪のように降り注ぐ。


 ――聖都アドロスは、聖都たる理由を失った。


 その混乱の只中で、

 隔離結界が、内側から砕ける。


 ルミナが、外へ飛び出した。


「フィン!」


瓦礫の向こう。


血を吐きながらも立つ、ただ一人の男。


「……やっと、会えたな」


二人の距離は、数歩。

だが、それだけで十分だった。


「ああ、毒が抜けているようだ。

 本当に――よかった…」

「どうして、何も言ってくれなかったの!」


ルミナは駆け寄り、フィンの手を強く握る。


ゾッとする冷たさ。


聖晶に侵された身体は、もう熱を保てていなかった。

指先が震え、ルミナの涙が血に混じる。


「最後は……私と一緒にいて」

 ……それだけで、全部を許せるから」


願いだった。祈りですらない。


フィンは、目を伏せる。


「……それは、出来ない」


ルミナの指が、震える。


「君を巻き込めない。

 そして――俺には、やることがある」


 そのとき。

 遠くから、地鳴りが響いた。


 帝国軍だ。


 黒い軍旗。

 装甲騎兵の列。

 そして――先頭に立つ、一人の男。


 皇帝ドミノ。


 空を見上げ、彼は愉快そうに呟く。


「黒水晶は、冥府がある限り何度でも創れる」


 部下に語るでもなく、世界に向けての独白。


「疑似聖晶炉があるからな」


 そして、聖都を見下ろす。


「だが、光水晶は違う」


 冷たい断定。


「同時代に、四人の英雄が生まれること。

 それが条件だ」


 視線が、フィンのいる聖堂へ向く。


「――奇跡は、使い切ったな」


 ◆


 ルミナは、フィンの手を離さない。


 その上空で風を裂き、一つの影が降り立つ。


「フィン!!」


 レインが飛竜の翼を畳み、息を整えながら駆け寄る。


「無事だったか!」


 フィンは、微笑んだ。


「……よく、俺が不在の聖都を守ってくれた」


 レインとルミナに交わされる苦い沈黙。


 そして、フィンは言う。


「心苦しいが――

 ルミナを、頼めないだろうか」


「……フィン?」

 ルミナの声が、掠れる。


「俺は、長くない」

 死期を悟った男の宣告。


「君には……幸せになって欲しいんだ」


「ちがっ…」

 ルミナが、何かを言おうとする。


 だが、血に塗れたフィンの姿に言葉が出ない。


 代わりに、彼女はフィンの胸に顔を埋めた。


 聖都の空が、赤く染まる。


 帝国軍が迫る中、聖晶同盟はひび割れ

 英雄は――選択を終えた。


 世界を分ける運命の時が迫る。


聖都は揺れ、帝国軍は迫る。

そしてフィンの時間は、もう長くない。

それでも彼は止まらない。

正義を貫くと決めた男は、最後まで前を向く。

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