黒炎が応えぬ空で
王が立たなきゃ、誰が立つ。
手負いだろうが、世界が歪もうが
――敵は踏み潰す。
空が、荒れていた。
暴風が渦を巻き、雲を引き裂き、
その中心を――一頭の飛竜が貫く。
「……はぁ、はぁ……」
飛竜に跨るディアボルスは、出血が止まっていない。
胸元の傷は塞がっておらず。呼吸のたび、赤が滴る。
「やるなら、手負いからだ」
俺は飛竜に向かって手を掲げた。
右手に宿るはずの黒炎が、掌の上で揺れるだけ。
いつもの重みがない。
まるで影だけを握っている感覚。
「……遅い」
先にレインがホーリーランスを構えた。
「ディアボルス……ここから動くな、俺がやる!」
飛竜が咆哮し、翼を打つ。
「やらせるかよっ!」
――黒炎。
大地から噴き上がる、腐食する闇の炎が空を舐めた。
レインの槍が閃いた瞬間、聖光が爆ぜ、
炎は霧のように掻き消えた。
「……なに?」
右手に揺らめく黒炎がここまで弱体化しているとは。
「……冥府が、遠い」
俺は歯を食いしばる。
冥府召喚は使えない、
黒炎が応えない。
その隙を、ディアボルスは見逃さなかった。
「――暴風よ!!」
負傷した身体で、無理矢理魔力を絞り出してくる。
「《テンペスト・バースト》」
圧縮された暴風が叩きつけられ、
手に残った黒炎ごと吹き飛ばされる。
ガシャァァン。
執務室の壁が砕け、黒炎は霧散し、
呼吸がとまる。
「牽制は……これで十分だ……!」
次の瞬間。
空が、光った。
「クアトロォォッ!!」
上空から降り注ぐ、一直線の光。
レインだ。
飛竜から身を投げ、
両手で構えた槍が、緑白に輝く。
「――応えよ、《ホーリーランス緑鋭星光》!」
腐敗を貫くために編み上げられた、特攻槍。
光は槍となり、意志となり、
真っ直ぐ俺へと落ちてくる。
「……っ!」
呼吸を整え、即座に黒炎を引き出そうとする。
――応えろ。
――来い、冥府。
だが。
黒炎は、膨らまない。
「……クソ……!」
冥府は、沈黙していた。
その一瞬。
「がぁぁぁぁぁッ!!」
ドラミィが、吼えた。
「《ハードヒット》!!」
全身を魔力で強化し、
腐食竜が質量そのものとなって突撃する。
「ドラミィ――!」
レインは身を翻し、即座にターゲットを変える。
ガァァァン――!!
金属音。
黒い爪が、根元から砕けた。
破片が空中で光に焼かれ、蒸発する。
「――っ!?」
黒い血飛沫が散り、
星光が澄んだ音色を奏でた。
それでも。
「主様ぁ、ご無事ですか?」
星光に蝕まれ、蒸発を始めた少女が俺を気遣い
俺を起こす。
片頬が崩れ落ち、歯が露出しているのに、
こんな時でもドラミィはよく笑う。
「無茶しやがって!!
汚泥障壁」
俺は、二人の間に泥の壁を作ったが、
ドラミィが衝撃で弾き飛ばされた。
「……ホーリーランスにアンデッドが敵うものか」
レインは空中で体勢を立て直し、槍を構え直す。
その目は、迷っていない。
「光の戦士はな……」
彼は叫ぶ。
「各々、冥府に対する“切り札”を持ってる!」
一瞬、風が止まる。
「フィンの《聖光ライトニング》」
「俺の《ホーリーランス》」
「そして――」
レインの声が、強くなる。
「ルミナの《浄化の祈り》だ!」
俺は、静かに目を細めた。
「……なるほど。歪んだとは言え、光の戦士か」
俺は、拳を握る。
「俺のやることは何も変わらない。
――が、お前も、復讐対象に入れてやる」
握り締めた拳に僅かな黒炎を凝縮させていく。
「いいのか?冥府の力を取り戻さねば、
その腐食竜は消滅するぞ」
レインが嘲笑するように息を付く。
ドラミィがこちらに笑顔を向けたまま
光に浸食されていく。
――俺の判断が、こいつを削った。
焦った。
冥府へ戻るべきだった。
「ちっ……」
迷いを断つ。
「お前に言われるまでもない、
俺に捕まれ、ドラミィ。《黒門操作》」
巨大な黒門が出現し、二人の姿を飲み込んだ。
閉じる直前。
ドラミィの声が届いた。
「主様……信じてますから……」
闇が、閉じる。
飛竜の背で、ディアボルスが血を拭う。
「……手こずったけど」
黒門の消えた空を見下ろし、
小さく笑う。
「冥府が手遅れになるまでの時間は
――きっちり稼げたわ」
【ステータス更新】
クアトロ=フォルミア・デッドロット
(冥府リンク不安定・出力制限状態)
HP:4970/6000 冥府吸い上げ継続ダメージ
MP:3120/5500(黒炎空振り・黒門操作消費)
■状態異常
《冥府リンク断続》
《黒炎出力制限(約40%低下)》
■称号
《冥府の真王》(効果減衰中)
《劫火を喰らう王》(黒炎効率低下)
《光の戦士殺し》《ドラゴン使い》
《水を腐らせし冥王》
■一時封印スキル
《冥府召喚》【ロック】
《冥府大規模展開》【ロック】
■制限付き使用可
《黒門操作》短距離のみ可
《汚泥障壁》紋章ヒビ、消費MP増大
仲間
ドラミィ(永遠の腐れ家族)
状態:聖光侵食・再生阻害
冥府が沈黙しようと、俺の復讐は止まらない。
だが時間は奪われた。
次は取り返す番だ。




