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四天王最弱だった俺、処刑されたら冥府で最強になってました  作者: ふりっぷ
第二章 地上で渦巻く陰謀

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正義が自らを差し出す瞬間

聖女を救うため、聖騎士フィンは正義を手放した。

これは裏切りか、それとも犠牲か。

 聖都アルドスの結界が、

 静かに解かれた。


 これまで、寄せ集めの聖晶同盟が帝国に対抗できたのも、

 この結界があったからこそだ。


 だが――


 聖晶同盟の最大戦力、聖騎士フィンは、

 すでに帝国を見ていた。


「……行くぞ」


 光水晶が、

 まるで理解しているかのように、

 微かな共鳴音を立てて浮かび上がる。


 拒絶はない。


 それが、何よりもフィンの心を強くした。


「見ろ。

 光は、俺を否定していない」


 これは裏切りではない。

 聖女を救うための、緊急搬送だ。


 転送陣が起動する。


 同盟側の神官たちは、

 もはや止めることができなかった。


 次の瞬間――


 フィンと光水晶は、

 帝国領へと消失した。


 転送先は、帝都ヴァチカン王城。


 かつて光の宗教を否定し、

 今は力としてのみ崇める場所。


 拍手が響いた。


「ようこそ、聖騎士フィン」


 玉座の間。

 皇帝ドミノ・ルーメンは、立ち上がらなかった。


「帝国は歓迎する。

 正義に最も忠実な使者を迎え、誇りに思うぞ」


 その言葉に、周囲を一切見回すこと無く、フィンは胸を張る。


「聖女ルミナを救いたい。

 そのために、ここへ来た」


「承知している」


 皇帝の背後で、

 闇水晶が、薄く脈動していた。


「だからこそ――二重だ」


 光と闇。

 同時に存在してはならない力。


「君が持ってきた光は鍵となる。

 闇を制御するための、な」


 フィンは、わずかに違和感を覚えた。


 だが――

 皇帝は、続ける。


「聖女は救われる。

 光水晶に帝国の至宝、闇水晶も合わせて君に渡そう」


「その言葉を鵜吞みにする程、帝国を信用してはいない。

 見返りは何だ?」


「二つが合わさった聖水晶を、

 君自身に埋め込むことだ。


 代償は、聖騎士自らが背負えばいい」


 「俺は、死ぬのか…」

 毒で皇帝の姿が二重にかすむ。


 「生まれ変わるのだ。お前自身も腐敗の黒炎に侵されて

 いるのだろう?」


 その瞬間、

 皇帝の目が、確かに嗤った。


「では、準備に入ろう」


 玉座の床が割れ、

 地下へと続く階段が現れる。


 そこは、祭壇ではない。


 ――疑似聖晶炉を作り出した実験室だった。


 魔導陣。

 拘束具。

 人の形をした型。


「これは……?」


「聖騎士の肉体は優秀だ。

 だが、器としては未完成だ」


 皇帝は淡々と言う。


「光と闇、相容れない二つを合わせれば、

 通常は砕け散る」


 拘束が、閉じた。


「待ってくれ。

 生まれ変わっても俺の意思は残るのか?」


「お前次第だ」


 皇帝は、頷いた。


「聖騎士フィンは光と闇を合わせた、唯一無二の存在となる」


 正義が、どこまで耐えられるか。

 人は、どこまで壊れても、正義を名乗れるか。


「聖女の治療は、すでに始めている」


 その一言で、

 フィンは抵抗をやめた。


「……さっさとやれ」


 針が刺さる。


 光水晶と闇水晶が、体内へ埋め込まれる。


「がぁぁぁぁ!!」


 神経が焼け、

 肉体を抉るようにして、

 二つの水晶が引き寄せ合う。


(ルミナ……笑ってくれ)


 最後に見た、

 悲痛な祈りの姿。


 それだけが、

 フィンを人に留めていた。


「成功だ」


 魔導灯が消える。


 拘束が外れ、立ち上がる影。


 聖騎士の白銀の鎧は、

 帝国仕様の黒金へと変わっていた。


 胸部に刻まれた紋章は、

 光と闇を重ねた、歪な紋様。


「名を与えよう」


 皇帝が告げる。


「フィン・インペリア・テサリア。

 帝国の至宝となる剣だ」


 返事はない。


 ただ、

 殺気を帯びた視線だけが向けられる。


 皇帝は満足げに頷いた。


「これで聖水晶は君のものだ。

 聖晶同盟に戻るといい」


 その言葉の意味を、

 フィンは理解しなかった。


「どうした?

 ルミナの無事を確認したいだろう?」


 帝都の夜空に、

 二つの水晶が重なる。


◇     ◇


◆ルミナ視点

――治療成功


白い天幕。

柔らかな光。


目を覚ました瞬間、

ルミナは違和感に気づいた。


「……痛く、ない?」


あれほど焼けるようだった毒の侵食。

荒れ果て、感覚すら曖昧だった肌。


それが――

元に戻っている。


神官たちが息を呑む。


「成功です……!」


「聖女様の皮膚再生、完全に……!」


歓声が上がる。

奇跡だ。

誰もがそう思った。


だが、ルミナだけは笑わなかった。


胸の奥が、ひどく冷たい。


「……フィンは?」


沈黙。


神官の一人が、絞り出すように答える。


「聖騎士様は……

 帝国に、渡られました」


「……え?」


「あなたを救うための手段だと……」


ルミナは、ゆっくりと起き上がった。


(嫌な、予感がする)


その時――

胸元のペンダント、光の聖印が、沈黙していることに気づく。


「……どうして」


祈りは、確かに届いたはず。


いつも、

フィンが隣にいる時だけ、

強く共鳴していた聖印。


「まさか……」


神官が、震える声で告げる。


「聖女様……治療の代償として――」


「光の加護の流路が、断たれています」


空気が凍る。


「今後、あなたは……」


言葉は、続かなかった。


ルミナは、静かに息を吐いた。


「……そう」


彼女は、理解してしまった。


自分は救われた。

その代わりに――


フィンが、光から切り離された。


「ありがとう、と……言うべきですね」


神官たちの手前、声を抑制する。


「彼が、そう望んだなら――」


だが、限界だった。


胸元に手を当てたまま、

彼女は声を押し殺して叫ぶ。


「……それでも、嫌、

 嫌に決まってる!」


治った肌。

失われた祈り。


「ここを逃げ出そう」

不意にレインが神官の輪から姿を現す。


「君も気付いているだろう。フィンはもう変わった。

聖晶同盟を滅ぼす兵器となった」


「変わったのはあなたもでしょう」

ルミナの瞳に涙が光る。


「…私の寝室に忍び込んだ挙句、

 今度は国を捨てろと言うの?」


「ルミナ、わかってくれ。

 俺は君のことしか考えていないんだ」


「だったら、もう放っておいて」


「ルミナ…」


「私はここでフィンを待つわ。

 国を捨てるなら一人でどうぞ!」


「では、その時が来たら迎えに来よう」


「その時?」


「フィンがすべてを壊し、君の目が絶望に沈んだ時だ」


レインは指笛を鳴らすと、飛竜に飛び乗った。


「俺はこれから帝国に向かう。

 裏切り者だと報告するつもりなら、好きにするといい」


「……私の為に、

 聖都アルドスは闇に包まれた」


 光水晶のない聖都を、

 守らねばならない。


 以前ならレインを頼り、フィンを迎えに行っただろう。

 けれど、あの夜を思い出すと、

 悪寒が走った。


 せめて――


 フィンに、祈りを。

正義が勝てない戦いでも、

誰かを想う心だけは残る。

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