腐ったチーズは冥府に落ちる
―腐敗の四天王が裏切られ、
冥府最下層に落とされたところから始まる復讐劇です。
最弱と蔑まれていた男が、
這い上がって帝国を腐らせていく……かも?
焔帝王国ヴァチカン――中央処刑台。
俺、クアトロ=フォルミア・デッドロットは、
鎖で逆さに吊られたまま晒されていた。
鎖が揺れるたび、血が頭に集まって視界が赤く滲んだ。
「クアトロ=フォルミア・デッドロット!
貴様は自領を毒沼へ変え、
三万の帝国軍を腐死させた裏切り者である!
称号を剥奪し、ここに死罪とする!」
宰相が苛立たし気に罪状を読み上げる。
腐死公爵の処刑とあって、帝国中の貴族が集まった。
「領地まるごと毒沼とは、笑えるわねぇ」
「三万の兵を溶かした最弱四天王か。
見事な無能ぶりだ」
壇上から見下ろすのは、
四天王筆頭、劫火公爵カプリチェス・インフェルノ。
炎の鎧を纏いながら、冷えた声で吐き捨てる。
「クアトロ。お前の腐敗は制御不能だった。
領民はおろか、俺の援軍もまとめて溶かしやがって
……死んで詫びるがいい」
嵐潮公爵マルゲリウスが舌を出す。
「敵から領地を守る為に自分の領地腐らせるって、
四天王の面汚しだよ」
暴風公爵ディアボルスがクスクスと扇子を振る。
「腐ったチーズは冥府に落ちるだけよねぇ」
……胸が焼けるほど悔しかった。
俺は確かに最弱だ。でも、だからこそ信じていた。
同じ四天王が俺を裏切るなんて、想像もしていなかった。
「暴発は──お前らが仕込んだ呪式のせいだ」
六ヶ月前──聖晶同盟 第三次侵攻時。
俺は最前線で聖騎士と戦っていた。
毒沼で敵の進軍を防ぎつつ、カプリチェスの援軍を待つ。
いつもの戦術だ。
だが、紫の毒沼が、意志を持ったように広がった。
俺の制御を離れ、
兵も、領民も、味方も――区別なく溶かしていく。
その中心で、あの魔導器だけが、
静かに脈打っていた。
「聖晶同盟が攻めてきたら、この魔導器で毒沼を作れ」
「これを俺に?いつも援軍を出してもらっているのに、すまん」
「なに、四天王筆頭は損するもんさ」
あの時、カプリチェスの笑顔を信じちまった。
証拠は消され、俺だけが大虐殺の首謀者にされた。
「冤罪だ……お前ら、知ってるだろ。
俺が最弱だって
……三万なんて殺せるわけ──」
皇帝ドミノ・ルーメンは無慈悲のに宣言した。
「言い訳は冥府で亡者にするのだな。処刑を執行しろ」
足元の床が裂けた。
俺の身体は奈落へ――落ちていく。
何秒落ちたのか分からない。
叫び声すら、途中で自分の耳に届かなくなった。
「覚えてろ……貴様ら……!
皇帝だって関係ねぇ、蘇ったら、お前らの領地も帝国も
……全部、腐らせてやる!!」
冥府最下層〈慟哭の原野〉
――ゴンッ。
骨が、石に叩きつけられた音だった。
何度か叩きつけられながら、最後は毒沼に落下する。
【HP:5000 → 5】
【MP:3000 → 0】
【状態:全身崩壊/毒沼化進行】
粋がってみたものの
泥の底で動けなくなって早三日。
骨が砕かれ、ゆっくりと溶けかけた身体。
ひどい。俺は泣き続けた。
「……確かに、俺は弱かった。
でも……弱いだけで、こんな最下層に落とすかよ……」
そのとき、泥の奥底から
――黒炎が小さく灯った。
冥府の女王モルゴーラの声が、闇を震わせて響く。
「いつまでも泣くな、鬱陶しい。噂に違わぬ四天王最弱。
だが……復讐が真なら、這い上がってみせろ」
黒炎が、泥の闇で小さく灯る。
半分溶けた腕はまだ動いた。
骨だけになった足でもまだ立ち上がれる。
「クアトロ、根性みせろや!」
自分に叱咤し、毒沼を這いずる回る。
――このときの俺は、まだ知らなかった。
冥府最下層には、
弱者の居場所が一つもないことを。
クアトロ=フォルミア・デッドロット(元・四天王腐死公爵)
HP:5/5000
MP:0/3000
称号:〈四天王最弱〉→〈冥府の咎人〉
プロローグ的な処刑から冥府落ちまでをお届けしました。
これから冥府を這い上がり、
裏切り者たちに復讐していく展開になります。




