02. フローリスト
自分でもイヤになる。
こんな性格でまともに付き合ってくれる男がいるなんて奇跡的だとさえ思う。ならばタカシを許せばいいのにそれも簡単ではない。
(落ち着け、わ・た・し)
タカシは交際相手としては申し分ない条件の男だ。
見た目は10人並みだが、清潔感溢れる身だしなみと如才ないコミュ力、加えてMARCH出身。大手弁護士事務所でパラリーガルをしているので生活は安定していて、恋人の財産をアテにするような気配もない。
一方で派手な女遊びをするようなタイプではない、と思っていたのだが古なじみの女がいるなら面倒なことになるかもしれなかった。
結婚を前提に正式に交際することになったら、あの女を切ってくれるだろうか…。
何も知らなければしなくてもいい余計な心配を背負いこんでしまった。
そもそも相手のことをつぶさに知りたかったのはタカシを怪しんだからではない。
(いままでが悪すぎたのよ)
マザコン、モラハラ、ヒモ願望、港区コレクター、介護要員、男を見る目がないと言ってしまえばそれまでだが、まぁ見事にダメンズウォーカー。
とくにマチアプで知り合った男はもれなくクズだった。
男と出会うたびに苦い思い出ばかりがつのっていく。いつしか盗聴器の使い方を覚えてしまった。
(タカシは知り合いの紹介だから大丈夫だと思ったんだけどな)
今日もタカシから連絡があったが、予定があるからと断った。
予定なんてない。ただ表参道のショーウィンドウを冷かしながら、答えの出ない自問自答を繰り返して時間が過ぎた。
場所がらだろうか、夜になっても営業している花屋があった。
何度か前を通りかかったが、夜の時間帯はいつも同じ男性店員がいることが多い。
30歳くらいで物腰柔らかく感じのいい人、花を相手にするとあんなに柔らかく笑えるのかな。
私はどんな顔で笑っているんだろう。
ガラスに映る自分越しに彼を見つめた。
客がいない今、彼は熱心にリースを作っていた。細く美しい指先が花々の茎を編んでいく、その手元に視線が吸い寄せられるのが心地いい。
「あ、いらっしゃいませ、すみません気が付かなくて」
「どうぞ続けてください。私は急ぎませんから」
「いえ、これは商品じゃなくて、コンテスト用の練習をしてたんです」
「コンテスト、道理でとても個性的だわ」
「ありがとうございます、もう廃棄する花だけで作るので色が偏るのが難点で」
なるほど、ほとんど白い花ばかりなのでかなり寂しい印象だ。
「それじゃ」
淡いオレンジと紫色のバラ、黒い木の実など数本を手に取ると彼に渡した。
「これを、私が買うから使ってみてください」
「いいんですか?」
うなずいて微笑んだ私は、彼みたいに笑えているかしら。
彼は受け取った花を非対称に編み込んで数分でリースを完成させた。
「僕はこの色合いをあまり選びません。お客さん、色彩感覚がプロっぽいですね。何かデザイン関係のお仕事ですか?」
「違います、そんなこと言われたの初めて。昔、絵を描くのが好きだったからかな」
「そうですか、良かったらこのリース貰ってください。お代は結構です、売り物ではないので」
「材料費は払います」
「いりませんって」
「オーナーに怒られますよ」
「じゃあ、花の代金だけお願いします」
二人はいつの間にか顔を見合わせて笑っていた。
帰り道、少し浮かれている自分に気が付いた。
なんでこんなに嬉しいんだろう、ともらったリースを抱えながら考える。
(そういえば、色彩感覚なんて褒められたことなかったかも)
タカシもこれまで出会った男たちも、肉親ですらそんな褒め方をしてくれたことはない。ささくれていた気持ちに加湿器の湯気があたったような、ほんのわずかな温かみを感じた。




