03. 災いの種
アポなしでやってきた私の妹とその、たぶんカレシ。気が重いが相手をするしかない。
「何しに来たの? ATMなら入口の左側よ」
「違いますー、お金を降ろしに来たんじゃないですー」
「だったら何しに?」
私はわざと男の方とは話さなかった。話すまでもなく、この妹が連れてきた時点でクズ決定だ。偏見ではない、経験がそう言っている。
「あ、この人ね、お付き合いしてるんですけどー。早姫ネエに相談があって」
「そういうことなら他でお願いできる? ここは仕事場なのよ」
「だって銀行でしょ。お金借りられるんでしょ?」
はぁ? マチキンと勘違いしてるのかな。
「私は個人融資は担当じゃないの」
「いやいや、お姉さん。そういうんじゃなくて事業資金をお借りしたいんですよ」
ヘラヘラした笑顔でカレシとやらが言ってきた。
(あんたにお姉さんって言われる筋合いはないわよ)と言いたかったが行内で問題を起こすわけにはいかない。にっこりと笑いを返してここは堪える。
「事業資金、ということは事業計画がおありなんですね」
「そうなんですよ」
「リョウガくんはね、あ、名刺差し上げなきゃ」
「おっと、失礼」
渡されたのは紫色のホストクラブの名刺、源氏名の名刺なんか意味ないし!
「いやぁ、この銀行って新宿に3つも支店があるんですね、さすがっす、俺ら迷っちゃって」
「私も新宿何口だったか忘れちゃってさぁ」
融資を頼みに来るならせめて支店名くらい覚えときなさいよ、ていうか事前にアポ取りしないってどういうこと?
「僕、今度ォ店出そうと思ってるんですよ。それで真姫ちゃんがお姉さんが銀行の融資課にいるから紹介してくれるって言うんで、お言葉に甘えちゃいまして」
ツッコミどころが多すぎてどうしたらいいのか。ほんとに口先だけは調子いいけど、昼間見るホストってどうしてこうも興覚めなのかしら。
「確かに事業資金のご相談に乗ることはありますが、まずは事業計画なり、それに伴う資金規模の予測などお分かりですか? 概算で結構ですので」
「えーと、資金? だいたい2000万くらいあればなんとかなるかなぁって」
思った通りだ、まるっきりわかってない。小遣いせびりに来たガキとおんなじだわ。
「私共では事業計画書等を拝見して、融資に値する収益が見込めるかの審査がございます。もちろん担保などがあれば考慮させていただきますが」
「先輩が資金2000万でラーメン屋やったら大当たりしたって言ってたし、たぶんいけると思うんすけどね」
「ラーメン屋さんを開業するんですか?」
「いや、キャバクラの予定っす」
ああ、めちゃくちゃだ。
さすがにそろそろ真面目に相手をするのがバカバカしくなってきたので、話を切り上げたくなってきた。
「まぁ、難しいことは分かんないんすけど、そこはお姉さんの顔でなんとかチャチャッとお願いできないすかねぇ」
チャチャッと右から左に2000万が湧いてきたら苦労はないわよ。もしかしてコイツは、私が女だからホストの話術でなんとかなるとでも思ってるの?
これは歴代妹が連れてきた男の中でトップクラスにアホだわ。
「融資というのは私が個人的にお金を出すのではありません。2000万円となると支店長決済となり私の一存で動かせるものではありません」
「え、じゃあ逆にいくらなら出してくれます?」
「担保は? 例えば当行に預金残高がいくらかございますか?」
「いやー、僕はここに口座ないんで」
せめて口座くらい作ってから来いってーの!
「ねぇ、お姉ちゃんなんとかしてあげてよ」
「なんとか、の前に融資とか事業とかちゃんとお勉強してらっしゃい。まずはその先輩とやらに聞いてみればいいわ、成功しているならそれなりのノウハウをご存じのはずよ」
「えー、難しそう。お姉ちゃんが出してくれれば簡単でしょ」
明らかにドブに捨てる真似を誰がするか。
「まぁまぁ、今日は僕が勉強不足だったから、また出直しますよ。名刺とかもらえませんか?」
「ごめんなさい、切らしてるの」
何故か分からないが咄嗟に名刺を渡すなと私のアラームが鳴った。このおバカな融資話は何か裏がありそうだわ。




