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01. 噂話

「で、こっからが凄いのよ! 早姫ちゃん」


久しぶりに近所のカフェに呼び出してきた高校の同級生、高木優里亜は興奮気味に続けた。

さっきからしゃべりまくっているので、頼んだカフェラテが冷めそうだ。


二子玉川でカフェを探すと駅前では雑然としていて狭い店ばかりだが、住宅街の方へ抜けるとポツポツとこじゃれた店がある。世田谷は地元なのでそんな店を知っているのだが、こういう店は常連を掴まえないとやっていけないのでは? なんて思うのは私が銀行勤めだからかしらね。

変な職業病。


優里亜は弁護士事務所務めだが、上を目指す気はさらさらないようで、かと言って男で妥協する気もないようで、うまぁく世渡りをしているように見える。シングルマザーで仕事と子育てにふうふう言ってる私には羨ましくはあるが、子供がいるっていうのがモチベーションになるのも事実。

他人と比べてあれこれ気に病むのはストレスが増えるだけ損ってものよ。


優里亜がこんな風に呼び出してくるときは、職場や身内では言えないけど、言いたくてたまらない噂話があるに違いない。私は職業柄口が固いと信用されてるからね。まぁ、だいたいネタ元は彼女が尊敬(?)する先輩、大塚梨沙子女史なのだが。


モデルのような高身長の美女で弁護士資格を持ち、大手弁護士事務所のバリキャリ。聞いただけでお腹いっぱいのスペックだが、その男たちもまた華やか。


今回はイタリア帰りの一級建築士の元カレ(ブルーノ)と、100点満点かと思われた今カレのイケメンエリート(ジュンヤ)がなんと彼女を差し置いて浮気、というもう美味しくて仕方ないお話。

これは娘を母に預けてでも聞きに来る価値はあるわ。

しかも、さらにその続きがあるですと?


「もちろん『速攻で別れる、私は仕事に生きるのよ』なーんて言ってたんだけど、その別れた当日にフォーリンラブしちゃって!」


「ひゃぁ、さっすが恋多き女」


「もう、多すぎよぉ」


「それで、どんな人なの?」


「それがさあ、もう、ぜんっぜん今までとはタイプが違うの」


「今までもけっこうバラバラだったけどね」


「ほら、今ココなのよ」


そう言ってスマホの写真を見せてきたが、うっかり私の口から出てしまったのは「熊?」の一言だった。

だって梨沙子先輩よりはるかに背が高く、立派なお髭で笑顔がとっても可愛いもの。


「でしょー、熊さんよね。それで一目惚れって言うんだから、もう笑いが止まらん」


「一目惚れ? いままでのイケメンはなんだったのよ」


「常々、私はメンクイじゃないって言い張ってたけど本当だったみたい」


おいおい、それはうっすら失礼だろ。


「じゃ、この人といま?」


「彼は依頼人で離婚調停中なの。だからうっかり手を出せないけど、完全にロックオンしてるわね」


「そういうことか」


「しかもガチ本気なのよ、ボーイフレンド全部精算しちゃったし」


「うわぁ、彼女に本気になられたら逃げられないわよねぇ」


「絶対、最高の条件で離婚させてみせるって張り切ってる」


「で、優里亜はなんでそんなに詳しいの?」


「私はブルーノさんを紹介してもらおうと思ってくっついてたんだけど、もう無理だわ、先輩周辺の男はとてもじゃないけど手に負えない」


「そりゃそうだ」


軽い気持ちで元カレと今カレが浮気しちゃうって、そんな倫理観についてけないのも無理はない。ゆうてもこのコは京都の料亭のお嬢だものね。

私だって人の話だから笑っていられるけど、こんなことが我が身に起こったら3日は寝込むと思う。


「梨沙子先輩って強いのねぇ」


「彼を見たときノートルダムの鐘が鳴ったんですって」


パリオリンピックで金メダル取ったときのアレ…なるほど。

あの力強いやり投げの女子選手、彼女の屈託のない笑顔が梨沙子女史と重なった。

そうよ、いちいち男に振り回されてなんかいられないわ。それは私が身を持って学んだことだものね。


私たちは微笑み合い、冷めかけたカフェラテを口に運んだ。

さわさわと吹く風が光差し込む窓辺の観葉植物たちを揺らしている。

私はまだ知らない。

この後、優里亜にすら話せない修羅場が待っているなんて。


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