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06. Jショック

「今日はワインが集まったね」


ジュンヤはテーブルを見渡して言った。


「手土産にはワインってことになるんでしょうけど、開けちゃうと飲み切らなきゃいけないから酔っ払いが増えそう」


「酒癖が悪いヤツはいないんでしょ」


「もちろん、それはチェック済み」


ブルーノはお酒関係なく手癖は悪いけど、その他のお客はお行儀いいはず。


「ところでこれは何の集まり?」


「古埜くんが日本に帰ってきたんで、久しぶりに顔見たいんだって」


「元カレにも優しいんだね」


「まあね」と笑顔で誤魔化した。まさかその元カレを後輩が狙ってるからとは言えない。


「せんぱぁい」


早くも酔っぱらった優里亜が頬を赤く染めてしなだれかかってきた。違う! 私を口説いてどうすんのよ。


「ちょっと、何やってんの」


「こっちが言いたいですぅ。ブルーノさんってもっとギラギラしてるかと思ったら、全然ジェントルじゃないですか」


「いやいや、いきなり初対面の女の子を押し倒したりしないって。強めにアピールして連絡先でも交換しておいで。その日のうちに連絡してくるから」


「ふぁーい、そういえばジュンヤさんは?」


「タバコはベランダでってことになってるから外でしょ、今日はタバコ吸うのはあの二人だけだし」


いや、ジュンヤは禁煙したはずだ。ブルーノも外出先では吸わなかったんだが。


「そうですかぁ。あ、お手洗い借りたいです」


立ち上がった優里亜がふらふらしているので、私が腕を取って一緒に歩きだした。そろそろお開きにした方がいいかもしれない。


洗面所の窓はスリットのように細い明り取りでベランダが見える。ジュンヤとブルーノが月明かりに照らされていた。タバコを手にしてはいるが煙が上がっていない。タバコを口実に外の空気を吸いに出たようだ。


「うわぁ、なんかのCMみたいですね」


トイレから出てきた優里亜が私の肩越しに覗き込んできた。確かにスーツとか男性化粧品とかのチラシくらいにはなりそうだ。


「ジュンヤって若い頃はモデルのバイトしてたから」


「なるほどー、学園ミスだった先輩とお似合いです」


(うちは女子校だっつうの、ミスコンって言っても女生徒の投票だし)


「見た目だけなら過去イチかもね」


「え~、非の打ち所がないって感じなのに」


まぁ、人に言えないところでいろいろとあるわけよ、男と女はさ。


「あの二人、仲良さそうですね。もっと修羅場っぽくなるかと思ってたのに。先輩も悪い人ですねぇ、ジュンヤさんを煽ってるんでしょ」


「そんなんじゃないわ」


当たり、優里亜はこういうことには勘がいい。あまりにクールなんで煽ってみたくもなるじゃない。


「へ?」


そのとき見事に二人そろって間の抜けた声が出た。


目の前の光景が信じられない。

煌々と光る満月の元、二人の影が重なっている。


「せ、せ、せ、せんぱいっ」

「ええええええええ」


「私、男同士のキス生で見たの初めてですぅぅ」


「私だって」


しかも今カレと元カレ!

え? 二人は知り合い? いやデキてた?

待って、脳みそが追い付いて行かない。


百歩譲ってブルーノならあり得る、あいつなら老若男女いける。でも、いまのキス、完全にジュンヤの方からイッてる。私の時と正反対じゃないのよ!


「ど、ど、どうしましょう、先輩」


「どうするって…見なかったことにするしか」


その後のことはほとんど覚えていない。たぶん、顔には出さず何事もなかったようにふるまえたと思う。ジュンヤとブルーノは当然のように同じタクシーに乗ったが笑って送り出せた。自分で自分を褒めてあげたい。


それでも優里亜には残ってもらった。とても一人で消化できる案件ではない。


「同じタクシーで帰りましたよね」


「ほぼクロだわ」


「あの、私、ブルーノさんから降ります。無理です」


「その方がいいと思うわ。わかってると思うけど他言無用よ」


「もちろん、言えませんって。先輩の今カレが元カレと浮気したなんて」


言葉にされるとドーンと響く、コントみたいに特大タライが落ちてきたときのショックだわ。


「しっかりしてくださいっ、せんぱぁい」


フラフラと崩れそうになった私を優里亜が支えてくれた。

もはやできることは朝まで二人で呑み明かすことだけ、後にこの事件は『Jショック』と呼ばれる私の最大の黒歴史となった。


なんて日なの!


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