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05. チョコレートアソート

ひと月ほどするとブルーノが帰国した。たぶんあちこちに送っているのだろうが、毎日のように遊ぼ遊ぼとメッセージが来る。

小学生かっ!


幸いにもめんどうな案件は発生していないので、週末ならウチに集まれるよと優里亜にゴーサインを出した。

自宅でパーティが好きなわけではないが、予約の手間がいらないのでドタキャン対応がしやすいし、我が家はブルーノの設計デザインだから彼にその後を見てもらうという口実にもなる。

さすがに元カレと二人きりで会うのは気が引けるしねぇ。


我が家に集まるときはソフトドリンクと食べ物は用意するから、飲みたい人はお酒を持参してもらうルール。もちろん場所代はとらないけど、アクセスはよくないのでタクシーで来てもらうことになる。


優里亜は後輩二人を連れておめかししてやってきた。

(絶妙ね)

若くて可愛いけど真面目そうな後輩たち、引き立て役のつもりではないだろうが優里亜がいちばん目立つ。

(そんな心配しなくてもブルーノは簡単に落ちるのに)


私は設計やデザイン関係の若手男子に声をかけたが、今夜はキャラが渋滞しそうなのであまり遊んでなさそうなコにしておいた。ブルーノとも優里亜の後輩とも話は合うだろう。


「リッサー! 会いたかったよ」


予想はしていたが、バカでっかい花束を抱えてブルーノがやってきた。バタ臭い顔にはめちゃめちゃ似合うが、うちはパチンコ屋か!


「古埜くん、久しぶりね。ステキなお花、ありがとう」


ブルーノはもちろん女性陣とのうわさ話で使うあだ名で本人には言っていない。絶対喜ぶから癪に障るので言わないことにしている。


「キミも相変わらずキレイだね」


さっそくイタリアの血が発動してひと通り女性への賛辞を言い出した。もちろん、優里亜やその後輩たちにも。


「嬉しいよ、僕のデザインした部屋をこんなに綺麗に使ってくれて」


(褒めるものがなくなって部屋まで褒め出したw)

「あなたに頼んだ納戸に助かってるわ」


私はお世辞にも片付け上手ではない。だから最初から来客の時になんでも放り込める鍵付きの納戸を作っておいてもらったのだ。もしデッドスペースがあるなら強くお勧めするわ、イザというときにはセーフルームとしても使えるしね。


当然ながら彼の辞書に『人見知り』はない。初対面の男性たちに対してもまるで旧知の仲のように溶け込んでしまう。


「1,2,3…おや、男性が一人足りない。僕が二人分?」


「いいえ、もう一人は少し遅れるって」


「なんだ、やっぱりカレシいるんだ」


「私が一人寂しくあなたを待っていると思う?」


「そんなわけない、男がほっとかないだろ」


こういう返しも懐かしいと思えるのはいまのうち、そのうちお腹いっぱいになって胸やけしてしまうのだ。優里亜はこういう濃厚バター味が好きなのかしら、お母さまは薄味の京美人なのに。


(たぶんただの好奇心ね、このタイプのカタギは少ないもの)


歌舞伎町にでも行けばいるんだろうけど、呼吸をするように女の子を褒めちぎる男。韓国には多いらしいが日本ではまだまだ少ない。


そのときタクシーが停まる音が聞こえて、私は玄関に向かった。


(真打登場、彼の感想を聞きたいな)


「遅くなってすまないね」


「いいのよ、忙しいのにありがとう」


ブルーノとは対極の男、ユウヤは小さなチョコレートの箱を差し出した。私が大好きなメーカーのトリュフアソート。


「今日は疲れるだろうから、よかったら後で」


これにはダブルミーニングがある。

私にはベッドルームに男と一緒にチョコレートを持ち込む癖がある。つまり、それを知っているのはごく親しい、要するに体の関係がある男だけということになるわけで。それを渡すということは夜のお誘いでもあるわけで。


振り返るとブルーノがニヤニヤしてこっちを見ていた。そう、彼もこの癖は知っている。


「初めての人も多いわね、紹介するわ」


案内するとリビングのソファでくつろぐブルーノを見てユウヤの表情が変わった。


(へぇ、珍しい。この氷の男が)


ただそれはとてもにこやかで、好もしく思っているように見えた。もっともいい大人なんだから社交辞令かもしれないが。


優里亜は元カレvs今カレの対決に『ワクワク』という顔をしているが、そんなドラマティックな展開にはなりそうになく、窓には上ってきた月が顔を出していた。

満月だった。

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