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靴を投げる
屋上から靴を投げた。
少しずつ貯めたお金で買った赤いコンバース。
サイズは25.5cm。
まだ買ってから1ヵ月も経ってない。
僕は空に向かって勢いよく投げた。
青い空に舞う赤い靴。
青い空と白い雲と赤い靴。
まるでフランスの国旗みたいだ。
僕は舞い上がった靴を見上げながらそう思った。
やがて空から赤い色が消える。
現実が戻ってきた。
靴を投げた手を下げると冷たい鉄に触れた。
そして少し擦れてザラザラとするタイヤ。
車椅子。
爽快な青も、清楚な白も、緊迫な赤も何も無い鉄のかたまり。
動かせばキィッと生命感の無い虚しい音がする。
この椅子に座っているのは電気椅子に座るよりも苦しいと思う。
電気椅子に座った事はないけれど。
だけどこの椅子が無ければ僕は動けない。
歩くことも走ることも僕の足では不可能になってしまった。
だから靴も履いていても意味はない。
買ったばかりの靴を見ていたら虚しくて仕方がなかった。
とりあえず靴を投げたら何かが変わる。
そんな気がした。