007_金剛獣
「クソッ! これ以上、お前の好きなように出来ると思うな!」
――――「自分で転けてましたやん」なんてツッコミをするのも優しさだろうか。
盾の男は、真顔、いや、“コイツには全くの期待をしない”という眼差しで彼女の背中を見送った。
巨大カエルも状況を飲み込んだのか、ギョロッとした双眸で、再び敵意を示した女を見つめる。
ゲームのモンスターのような、やけに利口なカエルだ。
「シルド、少年を頼んだ」
「お前に言われなくてもな。……気をつけろよ」
目も合わせず一言交わすと、立ちはだかる巨大カエルを見据える。
剣士がギュッと土を踏み込むと、風を切るように走り出した。その躯体からは想像できない速さ。大地を蹴り上げた振動がこちらまで届く。
瞬きをする暇もない。
力強く、それでいて軽やかなステップのように駆け抜けると、一気にぬかるみの手前まで走り抜け、
「シルド! 石壁!」
「あいよッ! エッダによる防衛魔術――ベルグリシの石壁ッ!」
剣士の合図と共に盾を地面に突き刺し、大地を伝って前方に魔術を放つ。
狙いは――――剣士の足元。
壁は何かを防ぐもの。『防衛魔術』の言葉通り、大切な物を護るために存在するが、攻撃を防ぐだけが護ることの全てではない。
剣士が右足を踏み出した瞬間、完璧なタイミングで大地が隆起する。等身近くまで起立した石壁を踏み台にして、剣士は空高く飛んだ。ぬかるんだ地面を無視して敵の頭上まで一気に距離を詰める。
太古、中国のお偉い武将の金言で「攻撃は最大の防御」とあるが、言うなれば、その逆。
真紅の閃光を放つ斜陽は、天から舞い降りる白銀の鎧を反射し、巨大カエルを真っ赤に染め上げる。
軽々とロングソードを扱う筋力に、自由落下するエネルギー、しまいには全生物共通の弱点である頭に振り下ろされる一撃は、異世界を何も知らない自分でも、想像に難くない。『勝った! 勝った! 夕飯は……』 なんてメッセージウィンドウの幻視が見えてしまうほどに。
天高く舞った剣士は、雷電を纏う刀身を頭上まで振りかぶり、「おら……よッ!」と気迫満ちる発声。
目測1メートルはあるでろう大剣を振り下ろす。
全力で繰り出された破壊的な一撃が巨大カエルに前頭骨に直撃し――――
――――甲高い金属音が鳴り響く。
森一帯に、寺の釣鐘に衝突したかのような耳をつんざく高音が響き渡り、鼓膜に残響が尾を引いた。
巨大カエルを破壊するはずだった一撃は、むなしくも弾かれてしまう。
「はぁっ!? 硬すぎでしょ……!?」
女剣士は吃驚した声をあげ、強烈な反動でロングソードを手放してしまう。
まさかプニプニの柔らかそうな見た目のクセして、硬質な皮もしくは頭骨があるなんて、主観――歴戦の戦士の二人でも気付けなかったようだ。
弾かれた宙を舞った剣は、緩やかな放物線を描きながら二度目のぬかるみへとダイブ。
当の女は、「痛ったぁ~……! うぅ、取れてない……? 手ぇ取れてない? 痛すぎてもう痛くないくらい痛すぎるよぉ…………」と涙目を浮かべながらも、キレイに着地する。
「アルア!? 大丈夫かってッ、ベルグリシの石壁‼」
巨大ガエルは鳴き袋を膨らませ、剣士の着地ぎわを狙った酸攻撃を放つ。
ゲームのような硬直狩りを彷彿とさせる攻撃は、とっさに出した石壁によって阻まれた。
しかし、
「熱ぅ!? ちょっ、なになになに!? 皮膚溶けてないっ!?」
完全に防ぎきれなかったようで、酸の飛沫が剣士の腕にかかる。
「すまんアルア! 一旦こっちまで引いてこい!」
「痛っつぅ………。了解、そっち行くよ!」




