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はじまり

一人でも読んでくださる人がいるのなら、私は幸せです。

 ―――――創造主の最上の作品というのに僕らはなぜかくも|いびつ『・・・』なのだろう。

      仮にもしかの御方が僕らを見下ろして美しいなどと陶酔してなどいれば、それはすな

        わち彼自身が歪んでいるというほかない――――――  

 神懸かった輝きを青々と湛える満月の下、《暗い森》は文字通り澄み渡った夜空に比した

澱のごとく、暗く重く遍く広がる。

 この森を両断して走る《繋領街道》。

馬車三つが並走出来るほどの道幅で緋色の砂利が敷き詰められている。

大遠征時代に軍の補給線として開発され、戦乱時の面影を纏いながらも現在は貿易の大動

脈としての機能を果たしていた。

この樹海に引かれた仄暗い街道をなぞって奔る一つの車影があった。

 装甲馬車と呼ばれる堅牢な造りの馬車だ。

鈍色の装甲板は槍や矢、破城槌にいたるまであらゆるたぐいの物理攻撃を無効化するすこ

ぶる特異な金属で形成されている。名をヒヒイロカネというが遙か渡来の代物なのでこと

の委細は定かではない。

 それを悠々と双の黒馬が引く。

 目の前で通り過ぎる黒糸杉の乱立するさまがあまりにも代わり映えの無いものだったの

でついにレヴィルは車窓から目をそらし狭苦しい馬車の中を一瞥した。

 朽葉色のレザーマントを羽織っていたが邪魔で仕方がなかった。しかし外に出れば羽織

るのをわざわざ取ってしまうのも同様に億劫だ。

暗い森を有する辺境の広大な領土―テルノ・ノグ―、この土地を絶対的な武力をもって支

配し頂の上に君臨する《領王》 。レヴィルは彼の妾腹。とりもなおさず領王の後継者の

一人だった。

昨日までは。

権力者の息子という否応もなく重い立場はまだ声変わりも始まっていない少年の風貌を覇

者のそれに仕立て上げた。

もはやレヴィルには子供らしいという形容はどこにもつけられそうにない、愛らしい寝顔

のほかには。

「救いがたく不味いなぁ」

 嘲りと溜息混じりの甘ったるい声。

 人の心情を見透かし平然と逆なでするかのような声の主はレヴィルの筋向かいに座って

いた。

 銀髪紅眼、確かに整った顔立ちだがどこか無機質めいていて人形と相対しているかのよ

うな違和感。

 その人形の様な娘が頬杖をつきながらさも退屈げにティーカップに口をつけている。

魔力を纏った白銀の髪は首を傾げる仕草のたびに月光を乱反射して煌めいた。

この兇悪の魔女とは金輪際口をきくものかと、心に深く刻んだレヴィルだが

「ウェスタ……」

 ほとんど無意識に彼女の通り名を呟いた。

 慮外の行為に努めて仏頂面を崩さないレヴィルだが思わず露骨に口をつぐんだ。

これでは、とレヴィルは思った。

これでは愛しい人に囁きかけた恋人の様ではないか。

彼女―ウェスタリス―はレヴィルの方を見、ついと身を乗り出して笑った。

内心穏やかではないがレヴィルは横柄な態度で不快さを示した。

「くふふ、頬が真っ赤だ。小君主どの」


 《ここまで》


ありがとうございました。

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