06 離婚6 寿羽 新居の掃除とお買い物
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夫はまだ寝ているようで、物音を立てないように洗顔と薄化粧だけして、用意していた大きなカバンを持ってそっと部屋を出た。
電車に揺られて徒歩3分。801号室のポストを探す。
01010の暗証番号を押して中にある広告と目当ての車の鍵を取り出す。
駐車場へはどうやって行くのか周りを見回すとエレベーターにB1があったことを思い出す。
エレベーターに乗り込んでB1を押す。
扉が開くとまだ朝早いからか土曜日だからか、色とりどりの車が止まっている。
榛原さんはどんな車に乗っているのかな〜?
左ハンドルだけは勘弁してもらいたいんだけど・・・。
12区画・・・エレベーターの正面だった。
ヴェルフ◯イア!!最低ランクでも650万超えてるよね?違ったけ?
それに紫!ヴェルファイ◯に紫ってあったっけ?
給料いくら貰ったらこんな生活できるんだろう?
このマンションにこの車。榛原さん凄い・・・。
このヴ◯ルファイア、まだ新車よね?ピカピカなんだけど・・・。
乗るの怖いなぁ・・・。
まぁ、榛原さんがしみったれた車に乗っているとは思っていなかったけど・・・。
榛原さんが車を貸してくれるっていうのもちょっとサービス過剰で不思議な感じがするのよね。
車見学に時間を使っても仕方ないので、エレベーターに乗って8階を押した。
801号室の部屋に鍵をさす。
ふふふっ♪私の部屋。いい響き。
カチャと音を立ててロックが開く。
靴を脱ぐ前に大きなカバンの中から床ワイパーを取り出して床のホコリを取っていく。
障害物がないって掃除しやすくていいな〜。
けど広くて掃除が大変なことになりそう。
持ってきたトイレットペーパーを付けて、タオルをぶら下げる。
カバンからワイヤレススピーカーを出してイヤホンを外して充電する。スピーカーから本の朗読の続きを流す。素敵な声の朗読で本の内容より声が気に入っている。
内容も面白いんだけどね。
次は窓のサイズを測らなくちゃね。
タブレットを出して目をつけていたカーテンを注文する。
「カーテン地味に高い」窓が多い部屋なのでカーテン一つ買うのも馬鹿にならない。
商品は明日の夜には届くみたいで、明日の指定にした。
レースのカーテンはミラーレスにした。南向きの窓の日差しは夏は凄く暑いだろうと想像がつく。
リビンクから見える景色は街を一望できる。
寝室側の窓からの景色がビルの屋上なのは許す。
窓の掃除をしてベランダの掃除も考えていたけれど、掃除するほどのことはなかったのでザッと掃き掃除だけで終わらせた。
ベランダに水道がついているのでホースを買ったほうがいいかな?必要になったときでいいかな?
前に来たときには気づかなかったけれど、寝室側のベランダの端にはかなり大きな物置が設置されていた。
細々したものを収納できるのはいいわね!
中を開けると、ロッカーのようにハンガーがぶら下げられるようになっている。洗濯物も寝室側に干すようになっている。
バケツも買わなくちゃ。
食器棚を置く場所のサイズを測り、タブレットに書き込んでいく。
和室の畳に雑巾がけをして寝転がる。
雑巾は殆ど汚れない。
清掃も入っていたんだと思った。
自分の家だという実感がどんどん湧いてくる。
なんだか嬉しくて右へ左へとゴロゴロする。
のんびりしたいところだけど、そうはしていられない。
トイレとお風呂をざっと掃除して明日の夜届く電化製品を置く場所も拭き掃除していく。
昼近くになったのでヴェ◯ファイアに乗る決断をする。
タブレットを忘れていないか確認して地下へと降りた。
車に乗り込んだのはいいけど、この居住空間の良さは何?
夫の家のソファーよりも座り心地がいいって何?
後部座席は荷物が積めるように気を使ってれたのかな?座席が上げられている。
ありがとうございます榛原さん。
車をスタートさせてまず家具屋に行く。
重そうな車なのに重鈍さを感じさせない。いい車・・・。
PCで目をつけていたベッドが画像よりよくて即決した。
ベッドはダブルを選んだ。
マットレスは10年保証のちょっといいものを選ぶ。
ダイニングテーブルは小ぶりで重量感がある6人掛けを選んだ。
部屋が大きすぎてそれくらいのサイズを置かないとバランスが悪くなってしまう。
食器棚を選んで、ソファーセットを選ぶ。
今使っているソファーベットと向かい合わせに置いたらいい感じになりそう。
ソファーは目をつけていたものではなく、座ってみて座り心地のいいものを選ぶことにした。
見た目もいいので即決だった。
ちょっと散財してしまった。
ヴェルファ◯アの座り心地が憎い!!
和室用に2人用の炬燵も買ってしまった。
炬燵でみかんが楽しみ。
引っ越しって本当にお金がかかるわ・・・。
普通ならこれに敷金礼金が必要なのよね?
必要なものが思いつかなくなったので家具屋で支払いをして明日の夕方配達してくれると言うのでお願いした。
管理人さんに付け届けが必要だよね。
管理費の支払いの話もしないといけないし。
洋菓子店を見つけて駐車場があったのでここで買うことを決めた。
美味しいかどうかは知らないけど。
日持ちのするお菓子の詰め合わせを買って、あまりにもキラキラと輝いているので我慢できなくて、自分が食べるフルーツタルトも1つ買う。
はぁ・・・ケーキって高い。片手が飛んでいく値段。
布団店を検索して、大手の店がここから30分くらいのところにあったので布団店に向かう。
嬉しいことにセールをしていたので掛け布団、毛布、布団カバーを買った。それと可愛い柄の炬燵布団とこたつカバーのセットも買う。炬燵布団にカバーを付けるなら、布団に可愛い柄があっても関係ないのだと、支払いを終えてから気がついた。一ランク安い値段のものにすればよかった。
引っ越しが終わったらみかんも買わなくちゃね!!
枕を買ってこれらは持ち帰りにした。
ホームセンターで物干し竿とピンチ、洗濯バサミを一番に買って、一度車に積み込む。
お昼をまだ食べていないことを思い出す。朝も食べてないし、お腹すいた。
ホームセンターの前にあるたこ焼き屋さんで、たこ焼きを買って設置されているテーブルで食べる。
車からタルトケーキを持ってきて、かぶり付く。
足をバタバタさせるほど美味しい!!
いい店見つけたと嬉しくなった。
ホームセンターで買うものがまだまだあることを思い出してもう一度ホームセンターに戻る。
食器洗剤に洗濯洗剤、シャンプー、リンス、体を洗うボディタオルにバスタオルの予備はなかったからバスタオルもカートに入れる。
あっ!電気と水道が使えたからガスが使えるか確認してなかった。
帰ったら直ぐ調べないと。
ホームセンターで細々したものを大量に買って、車に積み込む。
マンションの駐車場に車を止めて、付け届けの菓子折りを持って管理人室に声を掛ける。
「来週の金曜日に801号室に引っ越してくる予定の・・・」
ここでは旧姓を名乗るべきよね?
名字変えるし。
「家城寿羽と申します。これからよろしくお願いします。お口に合うか解りませんが、休憩のときにでも召し上がってください」
「それはご丁寧にありがとうございます。私は朝6時から14時までここに詰めている中川と申します。14時から22時までは別の庄司というものがおります。あと、私たちの休みの日に来る千田、田中がおります」
「中川さん、庄司さん、千田さん、田中さんですね。解りました。あと明日、電化製品と家具店の2件の配達があります。量が多いので何度も出入りすると思います。その他にも宅急便が来ると思います。ご迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
「解りました。この後の庄司に申し送りしておきます」
「お願いします。あと、管理費はどこに支払えばいいのでしょうか?」
「ああ、こちらの書類をお渡ししますので目を通していただければと思います。中に管理費の支払い方法の詳細も載っていますので。それとゴミは指定された日の前日の21時から出すことが出来ます。それ以外の時は鍵が閉まっていますのでゴミは出せません。ダンボール等は扉が空いているときならいつ出していただいても構いません」
「解りました」
車と部屋を5往復してやっと荷物を運び込めた。
自宅から持ってきた大きなカバンからペットボトルを取り出してお茶を飲む。
一息ついて、買ってきたものを設置していく。
風呂場にはシャンプー類に風呂椅子、洗面器、掃除道具。脱衣所には洗濯かご、手洗い用石鹸を歯磨き粉に歯ブラシを置く。
トイレには掃除道具とトイレットペーパーと生理用品。生理用品は自宅から持ってきた。
夫は家から細々したものが無くなっているのに気がついているかしら?
キッチンにはゴミ箱、ゴミ袋、まな板、食器洗剤にスポンジなんかを置く。
ベランダ用サンダルを寝室側とリビング側に置いて、ベランダの物置にホースにバケツ、ハンガーピンチを入れて、物干し竿を2本を吊るす。
脚立もベランダの物置でいいかな。
カーテンが届いたら即洗濯しなくちゃ。
榛原さんの車のお陰で買い出しは今日で終われそうだし、配達をもっと早い時間に指定すればよかったなぁ〜。
これは想定外だった。物事、予定通りには進まない。
流れてくる本の内容が耳に届く。
「あっ!!ガス!!」
慌てて立ち上がってガスのスイッチを押す。
ボッと音を立てて火が吐いた。
そう言えば光熱費の支払いはどうなるんだろう?
家賃の支払い方法も聞かなくちゃ。
銀行引き落としにしてくれたらいいんだけどなぁ〜。
それか榛原さんに手渡しとか?だったら楽なんだけど、人前でお金の受け渡しは人からの誤解を受けるから却下だよね〜?
日が暮れて辺りが暗くなる。
ベランダにテーブルと寝椅子を置こうかな・・・。
少し感傷的になった。
インターホンが鳴って驚く。
モニターに映ったのは当然榛原さんで「ちょっと待ってくださいね」と声を掛けて玄関へと急ぐ。
扉を開けると仕事帰りの格好をした榛原さんが「弁当買ってきたから食おう」と言ってくれた。
「ちょっとうらぶれていたのでナイスタイミングです」
「鍵かけて俺の部屋に来い」
「ありがとうございます」
部屋の鍵をかけて榛原さんの部屋の前でインターホンを鳴らすべきか考えて、一応鳴らした。
中からドアが開く。
「おじゃまします」
前回も思ったけど男の一人暮らしとは思えないほど綺麗に片付いた部屋を見てこの人に隙はあるのだろうかと考えた。
「車、ありがとうございました。凄く助かりました」
「そうか。弁当、好きな方を選べ」
「榛原さんは普段もお弁当なんですか?」
「ちゃんと自炊してるよ。兄貴が隣にいるときは兄貴の嫁さんが食べる用意はしてくれていて、掃除洗濯はお手伝いさんが来ていたんだが、兄貴が引っ越してからは全部自分でしなくちゃならなくなった」
「もしかして・・・お坊っちゃまなんですか?」
「いや、普通のサラリーマンの次男。兄貴がITで成功した」
「桁違いの金持ちですか?!」
榛原さんは頷いた。
榛原さんがお茶を入れてくれて二人で弁当に手を付ける。
「あっ、そうだ。電気、ガス、水道がすでに使えるんですけど支払いはどうしたらいいですか?」
榛原さんは一瞬考える素振りを見せる。
「そのまま知らん顔して使っとけ。家賃に含まれていると思っとけばいい」
「それでいいんですか?」
「きっと気づかないから黙ってたらいい」
「ちょっと厚かましい気がしますが、助かります!!それから家賃の支払いはどうすればいいですか?」
「銀行引き落としが楽だよな?」
「はい」
「言っとく」
「頼りになりますね〜〜!!榛原さん」
「当然だ」
弁当を食べ終えてお茶を飲みつつまったりとする。
今の仕事の話や新しく入った子のことなんかを教えてもらう。
月末までに離婚届を出すことを言うと「早いな」と驚かれた。
「あっ、そうだ!車の鍵返します」
「しばらく持っとけ。何に必要になるか解らないだろ?」「榛原さん困りません?」
「スペアキー持ってるし、心配いらない」
「じゃぁ、ありがたく預からせてもらいます」
「今日の予定は終わったのか?」
「はい」
「送っていってやるよ」
「いいんですか?」
食べ終えた弁当の空箱をサッと洗ってゴミ箱に入れて、お茶のカップも洗って茶碗伏せに置いた。
榛原さんと一緒に出て、荷物を取りに部屋に戻る。
あっイヤホン忘れるところだった。
「おまたせしました」
昼からの管理人さんに声をかけようと思っていたけど、明日でもいいか。
そのまま駐車場に降りてヴ◯ルファイアの助手席に乗り込む。
この車を運転するのにドキドキしたことなんかを話す。
ちょっと笑われて榛原さんってこんな人だったかな?
私が知っている榛原さんとはどこかちょっと違う気がした。
管理人の中川さんから管理費の書類を受け取ったこと、そこで支払えばいいのか確認すると「手続きはちょっと待て」と言われた。お兄さんが支払っている可能性があるから確認するとのことだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去って、夫の家に着いてしまった。
夫がいる家に帰るのが嫌だと思った。
「ありがとうございました」
「ああ」
「気をつけて帰ってくださいね」
少し寂しい気持ちになって車の姿が見えなくなるまで見送った。
離婚の際は相手を放り出す方向で話を進めるのが一番ですね。
そして何も持って行かせないのがベストかな。
で、離婚が成立してから引っ越しを考えると電化製品や家具の購入の必要がなくなりますね。
そんなにうまくはいかないでしょうが。
6月8日 22:10 UPです。