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03 離婚3 寿羽 仕事と家探し

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 目覚めと共に顔も洗わずPCで家探しを始める。

 1LDKでいいかな?仕事を持ち帰ることを考えたら2LDKは必要かな?

 少し広めがいいな。

 あっ!仕事、完全復帰したいって榛原(はいばら)さんに連絡取らなくちゃ。


   {デスク用意してもらえますか?家城(やしろ) 寿羽(ひさね)


 送信っと。

 真川寿羽と入力したほうがいいのか一瞬悩み、家城の名で送れば榛原さんは何も言わずとも理解してくれるだろうと考えた。

 送ったのと同時?!って言いたくなるほどの早業でスマホが震える。


「もしもし?」

『仕事に戻るのか?』

 せめて久しぶりとか、おはようとかないかな?

「榛原さんと社長が許可をくださるのなら戻りたいと思っています」

『いつから来られるんだ?』

「来月の・・・21日くらい?」

 月の〆日が20日なので21日からでいいかな。

『解った。仕事は用意しておく』

「お世話をおかけしますがよろしくお願いします」



 デザイン会社に勤めていた私は、夫の望みで結婚と同時に在宅ワークに切り替えて仕事を絞って受けていた。

 給料は会社で勤めていた時に比べたら四分の一にまで減った。


 夫は古風な考えを持つ人で、それにそれだけの稼ぎもある人だから「妻には自宅にいて欲しい」と望まれると嫌だと言えなかった。

 それに結婚した頃は結婚自体に夢を見ていた。

 だから家のことを終えてから数時間だけを在宅ワークの仕事にあてていた。

 自由になるお金も欲しかったし、社会と切れてしまうのが・・・、自分の能力が人から認められなくなるのが怖かった。


 夫はそれも気に入らなかったようだけど、仕事をしている姿を見せなかったからか実際仕事をしているかどうか判断つかなかったのだと思う。

 仕事のことでなにか言ってくることはなかった。



 家探しを再開すると再び榛原さんから電話が掛かってきた。

「もしもし?」

『なんでいつも疑問形なんだ?』

「癖です」

『部屋探してるか?』

「はい。探しています」

『今から出てこられるか?』

「会社に行けばいいですか?」

『1つ手前の駅で・・・10時だな』

「〇〇駅ですね?解りました」


 時計を見て慌てて牛乳で食パンを流し込むようにして食べる。

 洗顔をして薄化粧をする。

 イヤホンをして本の朗読を聞き始めた。

 鏡に映る私はほんのちょっとだけ歪んだように見えて、家で夫を迎えるときの方がもっとちゃんと化粧していたなと考えて、今までの私が馬鹿だったと思ってしまった。

 

 朝食を食べた気配はあるけれど、流しには洗い物は残っていなかった。

 やれば出来るんじゃない。

 今まで家の中のことを何もしてこなかったのに。

 さぁて、荷物をまとめるのが大変だよね〜。

 箪笥とか残していく?

 でもお祖父様が買ってくれた私の嫁入り道具だしなぁ・・・。


 決めた。自分の物だと思うものは全部持っていっちゃおう。

 少し早めだけど家を出て電車に乗る。

 あの駅前には“ムーンバックス”(珈琲店)があったはず。

 久しぶりにお高い珈琲を飲もうっと。


   {着きました。駅前のムーンバックス

    久しぶりの外出なのでゆっくり珈琲飲んでます}

   {OK}


 大きな窓に向かって座るカウンターに腰を下ろして、行き交う人々をなんとなく目で追う。

 15分程したら榛原さんが珈琲を手に隣に腰を下ろした。

 時計を見ると9時55分。榛原さん変わらないなぁ。

「久しぶりだな」

「結婚式以来ですかね」

 3年ぶり・・・やだ!三年目の浮気?!そのまんまじゃない!!


「会社で何回か顔合わせてなかったか?」

「そう言えばそうだったかもしれません」

「束縛男は辛いだろう?英断だな」

「仕事に戻るとしか言ってないのに・・・」

 口をとがらせてそう言うと榛原さんは小さく笑った。


 二人のカップが空になった。

 榛原さんが立ち上がるので釣られて立ち上がる。

「時間かかりそうか?」

「離婚はしてくれないと言っていますが、どうでしょう?・・・まだなんとも言えません」


 榛原さんはニヤリと笑う。

「まぁ、お前は切り開く力があるから心配いらない」

「そうでしょうか?」

 背中に手が回されてトントンと私を(なぐさ)めてくれた。


 榛原さんが立ち上がり、その後ろをついて歩くこと3分。

 かなり高級なマンションの中に入っていく。

「ここ、かなり高いんじゃないですか?」

 家賃が支払えないと諦めが先に立つ。


「1LDK+1で家賃は10万。管理費が2万。買い取るつもりがあれば払った家賃分は引いた金額の支払いでいい。ちなみに2500万でいいそうだ」

「即決してもいい安さなのではないですか?」

「そう思うぞ」


「もしかして榛原さんの持ち物ですか?」

「いや、兄貴のだ。子供が大きくなってここより大きいところを買ったから、ここは余ってるんだ。敷金や保証金は要らない」

 榛原さんは8階のボタンを押して、一番奥まで歩いていく。ポケットから鍵を取り出す。801号室。


 鍵を開けて私を先に入れてくれる。

 廊下が広い。両手を広げても壁に手がつかない。

 右側にお風呂。まるで使ったことがないみたいに綺麗で輝いている。


「人が住んでいた気配がまるでないですね」

「リフォーム入れたからな」

「トイレまで広いんですけど」

「兄貴が狭いトイレを嫌がったから広めにとったらしい」

「コーポラティブハウスですか?」

「そうだ」


 間仕切りのドアを開けるとカウンターキッチンがあって横広がりにダイニングとリビング。

「広いですね・・・」

 ここのダイニングとリビングくらいの広さの部屋を探すつもりだったんだけど・・・。

 10万か・・・。


 見える景色は、周りに高い建物がなくて街が一望できる。

 遠くには山が連なっているのが見える。景色いいなぁ・・・。

「景観もいいですねぇ〜」

 ベランダは一部屋作れそうなほどに広い。


 榛原さんに招かれて側に行くと、ダイニングの奥に隠し部屋のような8畳の部屋があった。

「2LDKじゃなくて1LDK+1なんですね?」

「設計した本人がそう言ってたからな。でもまぁ俺も2LDKかなと思う」


 本当に驚くほど広い。

「本当なら4LDKを1LDK+1にしてるからな」

「私一人で住むには広すぎません?」

「まぁ、そうかもしれん」


 寝室も広かった。クローゼットも大きなものがついていて収納に困ることはないと思う。

「今日からでも入居可」

「ほんとに10万でいいんですか?」

 寝室にもベランダがある。こちらのベランダもダイニング同様の広さがある。

 寝室からの眺めはあまり良くなかった。


 リビングに戻ると寝室のベランダがそのまま続いているのだと解った。L字型にベランダがついている。

「リビングは南向きなんですね。あ、エアコンついたままなんですね」

「ああ、本当だな。置いていったみたいだ」


「決めました。ここよりいい物件なんか見つけられません、酷いですよ。探す前からこんないい物件見せるなんて」

「榛原さんがここ買わなくていいんですか」

 手招きされて部屋から出ると隣の802号室に鍵を差し込む。

 扉が開かれ中に招かれた。


「俺の家だ」

 中は多分同じくらいの広さだけれど、間取りが違った。

 こちらは完全な2LDK。

 寝室と仕事部屋。

「榛原さんらしい部屋ですね」

 リビングとダイニングはあっちの部屋より狭くなっているけど、この広さでこの間取りなら私もこっちがいい。


「これからはお隣さんですね」

「よろしく。お隣さん」

「よろしくお願いします」

 両方の部屋の鍵を締めて801号室の方の鍵を手渡される。


「榛原さん、引越し業者の知り合いっています?」

「ああ、明日見積もりに行くように言っとく」

「お願いします」

「ところでここに住めるだけの給料って貰えそうですか?」

 ニヤリと笑われて肩を叩かれた。



 マンションの前で榛原さんと別れて私は、駅までの短い距離をゆっくりと歩いた。

 電車に乗って中吊り広告に目を通す。

 頭の中は、新しい家に何を持っていって何を残すかを考える。

 

 電化製品は夫が購入したものだから置いていかないと駄目なのよね。

 絶対必要な物の上に、高額だから辛いところね。

 あっ、住所聞くの忘れちゃった。

 夫の家がある駅で電車から降りて家電量販店に立ち寄る。取り敢えず値段確認だけでもしようと思って立ち寄る。


 スマホが震えたので画面を見ると榛原さんからのメッセージで住所と引越し業者の社名、明日来てくれる担当者の名前、訪問時間が書かれていた。

 本当に仕事が早い。


 仕事に戻ってこのテンポについて行くのは大変そうだ。

 昔はそんな風に思わなかったのだから、結婚して私が鈍ったのだと気がついて結構なショックを受けた。

 

 冷蔵庫に洗濯機、掃除機にオーブンレンジ・・・照明はついていたから要らない。

 後電器店で何が要ったかな?

 あ!トースターも要るよね。

 空気清浄機は絶対必要。最低でも2台必要だね。ダイニングとリビングが広いからもう1台いるかな?

 和室にも置くなら4台?それはちょっと贅沢だよね・・・。

 TVは・・・なくてもいいかな。

 高いばかりの公共放送の料金払わないといけないし。

 大きなモニターがあればいいかな。


「小さいものも他の商品と一緒に配達してもらえます?」

「いいですよ。ご結婚ですか?」

「いえ、離婚です」

 小物も配達してもらえるならドライヤーや掛け時計なんかも一緒に買っておく。あっ体重計は必要だね。


 ふと見ると気まずそうにしている店員さんに、気にする必要はないと伝えてレジに行くと、計算していた金額よりも安かった。店員さんがかなり値引きしてくれたみたいで「ありがとうございます」と伝えてデビットカードで支払いをした。配達を今週の日曜日の夕方に指定する。

 榛原さんからのメッセージを見ながら住所を書いた。


 夫の家に帰りついて遅めの昼食を作るのが億劫になったので、昨日のカレーを食べることにした。

 冷蔵の分を取り出して温めて食べた。


 カレーってハイカロリーよね・・・。

 仕事していたときから比べたら体重が5kgほど増えているから落とさなくっちゃ。

 夫の浮気イベントなんて体重落とすのにもってこいなはずなのに、食欲、睡眠欲はしぼまない。無念!!


 晩御飯どうしよう?

 用意しなくてもいいかな?

 やっぱり最低限はしなくちゃ駄目よね?

 まだ働いていた頃、先輩が話しているのを聞いたことがある。

 喧嘩した時にご飯の用意しなかったら「飯の用意もしない女が文句を言うな」って言われたって。

 その話を聞いてから喧嘩しても食事の用意だけは何があってもちゃんとしようと思って、実行してきた。

 でも、もういいんじゃないかな?


 私がこの家を出ていったら、夫はこの家に独り残されてどうするんだろう?

 スーパーで会った女と一緒にここに住む?

 ・・・勝手にすればいいと思える。大丈夫だわ。

 夫は私が本気で別居を考えているなんて思いもしていないのかもしれない。

 だからも独りになることなんて考え及んでいないかもしれない。


 リビングにある必要なものを出来る範囲で仕事部屋へ持ち込んでいく。

 表面的には出ていく準備は見られないようにしたほうがいいよね。

 コソコソと夜逃げスタイルで行かなくちゃ。


 夫がいつもより早く帰ってきて「話し合いたい」と言った。

 まさかこんなに早く帰ってくるなんて思わなくて夕食の用意をしそこねてしまった。

「何を話し合うの?」

「そんなに拒絶ばかりしないでくれ」

「拒絶しているわけじゃないわ。貴方は私をこの家に閉じ込めて、自分だけ好きにしていたんでしょう?だからやっぱり許せないわ」


「俺が浮気していないって信じてくれないのか?」

「信じるも何もSEXしていないって言ってるだけで、浮気はしたでしょう?それに本当にSEXをしていないのかどうかは私には解らないし」

「本当にしていない!!それは信じて欲しい!!」


「SEXしていないことに何かの救いがあるの?」

「そ、それは・・・」

「救いなんてどこにもないでしょう?愛なんて幻想の話はしないでね。愛していても浮気はするんだから私と貴方の(あいだ)の愛は、(まぼろし)としか言えないでしょう?」



 夫はまた黙って寝室に入っていった。

 まぁ、私が別居前提で話している以上、夫にはどうしようもないかな。

 止められても私は出ていっちゃうし。素敵な部屋も決まったし。


 夫と話して食事の準備をする気は失せてしまった。

 自分の中で葛藤して、簡単に切って炒めるだけの野菜炒めを作ることにした。

 明日からは早い時間に晩ごはんを作らなくちゃならないわ。はぁ〜・・・。

 っていうか早く帰ってこられるんじゃないの?今まではどこで何をしていたのかしら。ねぇ?

 別れることが出来そうで嬉しくなった。



 人参は半月切りに薄く切って私は軽く下茹でする。完全に火は入れない。

 キャベツはザクザクと。芯の部分はそぎ切りして均一に火が通るようにする。

 玉葱は1cm幅位で切る。

 夫がピーマンを嫌うので青ネギを4cm位の長さに切る。

 豚肉は一口大に切って、塩胡椒してサッと炒めて取り出す。

 野菜を炒めている時にちょっと考え事をしすぎて火がとおり過ぎてしまった。

 慌てて豚肉を戻してフライパンの中に水を入れて中華味と塩胡椒で味を整える。

 片栗粉を溶き入れて、御飯の上にかけたら中華丼の出来上がり。

 野菜炒めは本当に火加減が難しい。


 夫が出てこないうちに仕事部屋へと食事を持ち込んで食べることにした。

 PCでニュースを流しながら中華丼を食べる。

 夫がキッチンあたりでゴソゴソしているので食べ終わったものはそのまま部屋に置いておく。

 お風呂の用意をして今日も夫より先にお風呂に入った。



 夫とどうしたいのかを考える。

 夫のことは別に許せないってわけじゃない。ただかなり前から夫に興味をもてなくなっていただけ。

 随分前に愛してるって気持ちを失っていた・・・。離婚を言い出す切っ掛けがなかっただけ。

 愛だの恋だのは随分前になくした気がする。

 自分の心は随分前から決まっていたのだと、お風呂に浸かってゆっくり考えた。

 勿論、高級バスボムは使用している。



 スーパーで夫の姿を見たときどう思ったっけ?

 一番に思ったのは自宅近くで何をしてるの?かな。

 妻に見られるなんて鈍臭いとか、体裁が悪い。くらいしか思わなかった気がする。

 浮気するなら会社周辺とか私が見えないところですればいいのにとも思ったかな。

 酷いとか、裏切られたとかは頭に浮かばなかった。

 浮気していても納得できてしまっていた。

 やっと楽になれるかもと思ったかもしれない。


 今まで自分の気持ちをごましていたけれど、私の心は夫からもうとっくに離れていた。

 離婚を切り出すタイミングが欲しかったくらいだったと思いあたる。

 ああ駄目だ。いくら考えても私は夫とやり直すことはできない。



 お風呂から出てもう一度服を着る。

 寝室のドアをノックして現れた夫に前置きもなく告げる。


「ごめんなさい。やっぱり離婚してください」

「なんでだ?どうして?!離婚なんてしたくない!!本当に愛しているんだ!」


「だったら自分勝手な押し付けをするべきではなかったし、貴方は浮気するべきではなかったのよ。いえ、浮気をしても私に気づかれないように配慮くらいするべきだったわ。感謝しているわ。離婚の原因を作ってくれて」

 感情的になることもなく私は淡々と話をする。

 その反対に夫は感情的になっていく。


「寿羽・・・!!」

「明日離婚届を取ってくるわ。サインしてね」

「待ってくれ!もっと話し合おう!!」

「ごめんなさい。話し合っても平行線のままだと思うわ。私はもう決めてしまったんだもの」

 夫に手を伸ばされ、私はその手から身を遠ざけて夫の浮気発覚から2日目が終わった。

離婚すると決めていますが心は揺らぎます。

一人になってしまう不安や何かわからない不安が心を揺るがせます。

寿羽は簡単に仕事と部屋を見つけましたが現実はこんなにうまく行きませんよね。

ここまで思いきることができない人のほうが多いですよね。


明日22:10 UPです。

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