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離婚を選んで終の棲家だと思って借りた部屋はたった3ヶ月しか住めませんでした。  作者: 瀬崎遊


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28 出産準備 寿羽 買い物と出産 そして母の出所

 夏の終わりまで待てないと言い出したお祖父様のたっての願いでデパートに行くことになった。

 デパートでは入口で西川さんと領木さんが出迎えてくれる。

「今回もご厄介になります」

「ご来店ありがとうございます」

 私のお腹を見て「おめでとうございます。今日はベビー用品のお買い物ですか?」


「そうだ!可愛い孫のためだから安全でいいものを頼むぞ!」

 ものすごく嬉しそうにお祖父様が西川さんに話しかける。

 どうやら男の領木さんには用はないと思っているようだ。

「かしこまりました」


 マタニティードレスを数着買って、サイズが合わなくなった下着も揃える。

 ベビー用品で必要と思われているものを買っていく。

 新生児用の服を見ているとお祖父様が「おむつを買わねばならんだろう?」と言ったので「今は紙おむつですよ」と答えると「寿羽の頃の紙おむつはよく漏れた」と言い出してお祖父様には少しの恥ずかしさと本当に苦労をかけたんだとしみじみと思う。


 小さな衣装を見てお祖父様は目を細めている。

 私の子供の頃を思い出しているのか、それとも産まれてくる子供の事を思っているのか。

 久哉さんはベビー服の大きさを見て赤ん坊の小ささを確認しているみたいだ。おっかなびっくりといった様子なのにも関わらず「これも可愛い・・・あれも可愛いなぁ」と次から次に買おうとする。


「久哉さん、まるでお父様が二人いるみたいですよ」

「赤ん坊にもブランド物があるんだな」

「そんなこと言ってごまかさないでください。赤ちゃんは一人なのでそんなにたくさんの服は着れませんよ。直ぐにサイズが変わっていくので、必要最小限でいいんですよ」


 私はなんとなくお腹の子は女の子な気がして、白を中心にしてピンク系の物を揃えていく。

「女の子の用意?」

「ん。なんとなく女の子な気がして」

「母親の勘ってやつ?」

「外れるかもしれないけどね」


「女の子か〜〜〜!!可愛くていいなぁ〜!早く産まれてくれんかの!」

 久哉さんとの会話を聞きかじってお祖父様が女の子と聞きつける。

「まだ女の子とは決まってませんからね。そんな気がするだけです」

「母親の勘は馬鹿にはできん。外れても構わん。元気でさえいれば言うことはない」

「そうですね。本当に男でも女でもどっちでもいいので元気な子が生まれてほしいですよ」



 帰りに花柳で食事して帰ることになった。女将さんが私のお腹を見て「旦那様がお喜びでしょう」と目を細めた。

 (はも)(うなぎ)を中心とした料理が出てきてすごく満足した。




 冬の初めになると久哉さんとお祖父様が「あーでもない」「こーでもない」と言いながらベビーベッドを組み立てていく。たまに南さんと小川さんが「あー」とか「そこは・・・」とか言っているけど私は関わらないことにした。

 寝室とリビングに一台ずつ設置するらしい。

 赤ん坊一人に2台のベッド。はじめはどうかと思っていたけど、1階と2階に一台ずつ必要なのは私だと思ったので受け入れたけど、ベビーベッドを何歳まで使うのかしらと思ってしまった。


 屋敷の方には携帯式のキルティングと枠がクッションで囲われた物を置くことになった。

 初めはベビーベッドを買うと言っていたのだけど、一人の赤ん坊に3台もベビーベッドは必要ないと私が言うと、ベビー用品売場の店員さんがこういうものもありますよと出してきてくれたものだ。


 お祖父様は大きさが気に入らなかったのか「寝返りが打てるようになったときでも使える大きな物を別注で作ってくれ」と頼んでいた。

 生地の柄も楽しそうに選んでいた。


 ベビー布団は3組も買うことになった。毛布はまだ出回ってなくて寒くなってから買うことになった。

 忘れることがないようにスマホのカレンダーに毛布・冬服と書き込んだ。



 秋の始まりとともに3kg体重を増やしてしまって、担当医に体重を増やしては駄目だと叱られた。

 なのでゆっくり庭を散歩することにした。

 次の検診の時には体重が正常範囲に戻ったのでホッと息を吐く。

 出産にも体力が必要なので、許された範囲で運動をすることにする。

 たまにお祖父様や久哉さんも一緒に歩いてくれる。

 お祖父様にはいつまでも元気でいてほしいのでしっかり運動もして欲しいと思う。




 寒さが身にしみるようになり、家と屋敷を移動するのに「寒い」と声が漏れるようになった。

 お祖父様と二人で平日にベビー専門店に買いに行くことになった。

「必要なものを買うだけですよ」

「必要なものだな。うん。わかっておるぞ!!」

 ベビー毛布を私が選んでいると、退院時に着せるベビードレスで気に入ったものがあったのかそれを買うと言ってお祖父様が私に見せに来た。


「お祖父様、寒いときですからどんなに可愛いものを着せても上からお(くる)みで包んじゃうので見えませんよ?」

「そうか?でも、これは可愛いぞ」

「たしかに可愛いですけど、一度しか着ることはないと思いますよ」

「構わん。退院時はこれを着せる」

「解りました」


 ベビー毛布で気に入った柄がなかったのでジュニア用の毛布1枚で敷から掛けまで縦にぐるっと巻くことにした。

 洗替用に2枚買った。

 新生児用の紙おむつを買ってチャイルドシートも新生児用を買った。

 ベビーバスを見て「寿羽の頃とはずいぶん変わったな」と言って「物の溢れた時代に生まれることが幸せなのか、不幸せなのかを考えさせられるな」とお祖父様が言っていた。


 ベビーカーは必要になってから買うことになった。

 元々も引きこもり生活をしているしそれ程必要に感じなかったので、購入は見合わせた。

 抱っこ紐はどれがいいのか解らなくて、周りにいたママさんたちにどれがいいか聞いて、最後に店員さんに聞いて選んだ。





 予定日近くになってから南さんと小川さんのどちらかが屋敷に詰めていてくれるようになった。

 久哉さんが家にいない時間は用がない限りは、誰もいない新居よりも屋敷で過ごしたほうがいいのではないかという話が出て、屋敷で過ごすようになって3日目、予定日より早く陣痛が始まった。


 クリスマスイブの前日の朝に陣痛が始まって昼過ぎに病院へ向かった。

 長い陣痛に体力を奪われながら、産まれたのはクリスマスイブになってからだった。

 病院に詰めている必要はないと言ったのだけど、お祖父様も久哉さんもずっと私の側にいてくれて心強かった。けれどハッキリ言って美世さんと代田さんが側にいてくれる方が良かった。

 男の人は頼りにならないって言うけど、本当に頼りにならなかった。


 精も根も尽き果ててそれでも頑張って力んで生まれてきたのは3,000gちょうどの真っ赤でしわくちゃな女の子だった。

 お祖父様が【寿迪(ひさみ)】と名付けた。

 あまり自分の人生がいいものではなかったので私の名前から文字を取るのは嫌だったのだけど、お祖父様にはなにか思い入れがあるようで、受け入れることにした。



 病院にはお義父さんとお義母さんは2度来てくれて、お義兄さん一家は1度来てくれた。

 お義父さんたちは久哉さんに似ていると言い、お祖父様は私に似ていると言う。

 真っ赤でしわくちゃだった寿迪も退院する頃にはぷっくりとした丸みを帯びた子になっていて、お祖父様はメロメロになっていた。


 退院する日、小川さんが運転するヴェルファ◯アの助手席に久哉さんが座り、運転席の後ろにチャイルドシートを取り付けて寿迪を乗せたその横にお祖父様が座って、私と美世さんが最後部席に座った。

 家までの短い距離をお祖父様は小川さんに何度も「気をつけて運転しろ」とか「寿迪が乗っていることを忘れるな」とか言って小川さんを注意していた。

 そして私は家に帰ってきた。


 屋敷で使用人の人たちが一通りやって来て寿迪を見て私とよく似ていると言い、家城家の天使と呼ぶようになった。

 美世さんと代田さんまでもがメロメロで、私の小さかった頃は・・・って話をし始めるので閉口した。

 寿迪はよく寝る子でぐずることの少ない子だった。





 退院した翌日に年が明けたので、正月中は親族やら仕事関係の人が新年の挨拶に来るので私と寿迪は新居で眠っては起きてを繰り返していた。

 上げ膳据え膳で温かい食事をわざわざ持ってきてくれるサービスぶりに、いつも私以外が頑張って大変な思いをすることになるのね、とため息を吐く。

 お客様が帰るとお祖父様がやってきてひとしきり寿迪を眺めて、屋敷に戻っていく。



 久哉さんは寿迪が産まれてからは写真の趣味に目覚めたらしくて毎日写真を撮っている。

 今までも私の写真をよく撮っていたのだけど毎日撮るほどではなかった。

 そういえば私はよく被写体になっているのだけど、撮った画像をあまり見ていない事に気がついた。

 お腹が膨らみ始めてからはお腹の写真もよく撮っていたんだけどどうなっているんだろう?


 結婚披露宴のときにパシャパシャ撮っていたあのカメラで露出がどうとか絞りが・・・なんて言いながら私と寿迪を撮っている。

 寿迪の写真は一緒に見ているのよね・・・。

 一日1枚の写真を見ていると少しずつ大きくなっているのがよく解る。


「こうやって並べて見てみると大きくなっているわね」

「そうだな。ふにゃふにゃだった体もしっかりしてきているよな。本音をいうと死ぬまで寿羽がいれば子供はいなくてもいいくらいに思っていたんだが、生まれるとこんなに可愛いものだったんだな」

 そんなことを思っているとは知らなかった。ちょっとびっくりした。そう言えば前に言っていたことがあったような気がする。その時はなんとなく聞き流していたけど本気だったんだ・・・。



 お正月のお客様が来なくなると私と寿迪は屋敷の1階に居を移した。

 お祖父様が寿迪にいつでも会えるように移って来いと言うのでその望みを叶えるため、私と寿迪は屋敷へと移った。

 美世さんや代田さんがいるので心強い事も大きな決め手になった。

 私は寿迪の面倒を見る以外何もしない。

 人に話したら(うらや)まれる環境で子育てしていた。



 1日中屋敷の誰かが寿迪の様子を見に来て()でて、仕事に戻っていく。愛してくれるみんなの気持ちが嬉しくて感謝する。

 家にいる時には遠慮していたようなので、家に帰っても寿迪を屋敷に連れてきたほうがいいかなと考えさせられた。



 出産後一ヶ月が経ち、SEXが解禁になったのだけど屋敷に寝泊まりしているため、そのタイミングがつかめなかった。

 ちょっと残念。

 私が「そろそろ家に戻る」とお祖父様に伝えたのは久哉さんの誕生日の前日で、翌日家に戻った。

 

 バレンタインはチョコレートを買ってきてもらって溶かして生クリームで緩めてハート型にしてプレゼントしたけれど、誕生日のプレゼントは何も用意できなかったので、早い時間からベッドに入ってたっぷり楽しんだ。


「久哉さんの誕生日にはなんだかいつも何かあってちゃんと祝えたことがない気がするわ」

「いつもちゃんと祝ってもらっているよ」

 久哉さんの腕の中で幸せに浸っているとお腹が空いたのか寿迪が泣き出した。

 ベッドの上に寿迪を連れてきてくれて裸のままお乳を含ませる。

 肩に毛布をかけられて寿迪も一緒に(くる)まる。


 久哉さんがため息を吐くので「どうかした?」と聞いた。

「綺麗な光景だったのに毛布が邪魔」

「風邪ひくとこまっちゃうもの」

 久哉さんは目を細めて私たちを見て微笑む。

「すごく幸せだよ」

「私も幸せ」



 去年までは私の誕生日になると張り切っていたお祖父様は寿迪を連れて出かけられないことを理解しているのか、誕生日の祝は屋敷でちょっと豪華な食事とケーキを食べるだけで終わった。

 


 お祖父様と久哉さん二人が寿迪の通帳を作って110万円ずつ入金した。

 お祖父様は贈与契約書も私に渡してくる。

 久哉さんとお祖父様の名前が書かれている。

「わしが死んだ時必要になるかもしれんからな。大事に持っておけ」

 その贈与契約書は私の分もあった。

 日付は私が生まれてすぐの日付だった。お祖父様と父康介の名前が書かれていた。

 

 寿迪は生まれてからたった2ヶ月ほどで220万円ものお金を手に入れたことになる。この子はもしかしたらお金に苦労しない子かもしれない。

 まぁ、私もお金には困ったことはなかったけれど。

 お祖父様からは私にも入金され続けている。それも入金される金額が増えているのが恐ろしい。

 会社からの報酬も振り込まれている。

 年に数回役員会に顔を出しているだけなのに本当にもらってもいいのか心配になる。




 母が出所したので訪ねてくるかもしれないと久哉さんに言われた。

 正直出てくるのが早いなと思ってそれを口にすると模範囚なら刑期の半分くらいで出てくるのが普通だから遅いくらいだと教えられた。

 そういうものなのかと感心して、また外出ができない生活に逆戻りになるのかと思うと寿迪が可哀想だなと思う。

 けれどその後の言葉を聞いて数度瞬きをした。


 母は出迎えのない出所後にどこに行けばいいのか解らず元の家に戻ったが、既に新しい建物が建っていて狼狽(うろた)え、行き場所がなくなって屋敷に来ようとしていたらしい。しかしまた逮捕されるかもしれないと考えて屋敷には顔を出せず大通りをウロウロしていたらしい。

 そこで車に跳ねられて病院に運ばれ、3日後に亡くなったとの事だった。


 父が遺体を引き取ったけれど、お金がなくて葬儀が出せず屋敷に電話が掛かってきた。代田さんが電話に出て、お祖父様に報告して、久哉さんから回り回って私に話が回ってきた。

 私がお金を出して父が直葬という葬儀を行い、墓のない遺骨を受け入れてくれる寺へと遺骨が納められたらしい。

 母の寂しい最後に祖母を思い出し、母は自分の人生に満足していたのだろうかと考えた。

 私から見たら決して幸せだったように見えなかった。母は一体何をしたかったのか結局わからないままだった。


 そういえば祖母の遺骨もどこにあるのか知らないなと思って、知りたいとも思わないので誰かに尋ねたりはしないけれど・・・。

 祖母同様に母の遺骨が納められた場所も尋ねなかった。

 少し、ほんの少し薄情かなと思ったけれど、母のことは厄介な遠い親族くらいにしか思えなかった。

 一緒に住んでいた期間が記憶にないだけ、まだ祖母の方が親しみがあるくらいだった。




 お祖父様がある日突然「寿迪を可愛がりたいから仕事を半分に減らす」と言い出した。

 流石にそれは受け入れられないと久哉さんがお祖父様を説得して今回はお祖父様に思いとどまってもらった。

 でも寿迪が歩くようになってお祖父様に笑いかけるようになったらお祖父様は本当に引退してしまうかもしれない。

 久哉さんはその日のことを考えたのか、今から顔色が悪い。


 私は役に立たない応援をして久哉さんに睨まれた。

 ちっとも怖くなくて可愛いと思ってしまったけれど。これを言ったら喧嘩になるかLOVE LOVEになるかの二択で今はまだ昼、陽の高い時間だったので堪えた。


 久哉さんの気持ちは理解できるので久哉さんの味方はする。

 お祖父様の仕事をたった数年で引き継いで直ぐに、一人で同じことができるわけがないのだから。

 お祖父様もそれを理解しているはずなのに無理を言うんだから。

 今回はそろそろ覚悟しろよって感じかな?

 久哉さん、これから大変だ・・・。


最終話 明日、22:10 UPです。

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