表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離婚を選んで終の棲家だと思って借りた部屋はたった3ヶ月しか住めませんでした。  作者: 瀬崎遊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/29

27 新生活 寿羽 母の再訪 妊娠

 夏の終わりのとても暑い日、母が屋敷にやってきた。

 私に会わせろと言っているそうだ。

 その日はお祖父様も久哉さんも昼食に帰ってきていたので、会うことになった。

 父と兄姉も呼ばれる。

 全員が揃ってから跳ね橋が降ろされた。


 久哉さんと私とお祖父さんが座って待っているところに父達がやってくる。

 谷中さん、夏樹さん、南さんと小川さんが私たちの斜め後ろに座る。

 私達の前にはお茶は出ているが、母たちには出さない。


「それでお母様、何の御用でしょうか?」 

「私が話したいのは寿羽だけだわ」

「私は話したいと思わないので、今話さないのならお引き取りください」

 母は口を開いては閉じ、それを何度も繰り返して無駄な時間が流れていく。

 父たちは黙って母を見ている。かなりの時間を要してから母が口を開いた。


「今まで育ててやった恩を返せっていう話よ!」

「親が子を育てるのは当たり前のことでしょう?それに私を育ててくれたのはお父様です。あなたに育ててもらった記憶は私にはありません。あー、酷いことをされた記憶ならたくさんありますけど」


 母は忌々しそうに唇を噛み締めている。

「それに育てた恩と言うならお兄様とお姉様が支払うべきものでしょう?私は関係ありません」

「達俊と歩美が支払う必要はないでしょう!!」

「なぜですか?『産んだ』という意味では同じ子供ですよね?。私、お祖父様をレイプしてまで産んでくれなんてお願いしたことありませんけど?」


 母の顔色が一気に悪くなる。

 今まで見たこともない人たちが居る前で私が話すとは思っていなかったのだろう。

「本当にいい加減私に関わるのやめてもらえませんか?私はあなた方を家族だと思っていないので、産んでやったとか言われると本当に気分が悪いです。もうお知りでしょうが、私の父には正しくお祖父様になりましたし」


「でも、本当に私たち生活できないのよ!!」

「働けばいいのではないですか?こちら・・・康介さんと私は去年の年末で縁は切れていると思っているのですが」

 兄姉が「兄姉じゃないか」と言ってくる。

「兄姉ではありませんよ。私、お祖父様の子供なので、康介さんとは兄妹ですけど」


「父さん、本当に生活できないんだ」

「働く気がないのなら、死ねばよかろう」

「父さん!!」

「きっぱり言っておく。親族にも既に伝えてある。今後一切お前たちに支払う金はない。儂のものは寿羽と久哉のものだ。親族に借りている金も儂は支払わない。自分たちでなんとかしろ」


 お祖父様は今まで父たち家族に支払った明細を差し出す。それは目が飛び出るような金額だった。

「もしかして年末に渡された3,000万を使い切ったのですか?」

「・・・もうない」

「愚かですね。知っていますか?お母様がこの屋敷周辺に近づいただけで懲役刑になることを」


「えっ?」

 康介一家が私を見る。

「接近禁止命令が出ているんですよ。だから警察を呼びました。お母様は逮捕されます」

 廊下に私服警官と制服警官が立っていた。

「刑事さんお願いします」


 呆然としている母は抵抗もできず逮捕された。

 逮捕される理由が解らないのだろう。

「お母様、二度と私の前に現れないでください。康介さん、達俊さん、歩美さんも。屋敷、会社、家城に関わるところに現れたら容赦なく警察に通報します」


 父、兄姉も警察に連れて行かれた。

 

 後日、母は懲役刑で刑務所に入れられた。

 父たちも度重なる嫌がらせで起訴されることになった。

 罰金刑を言い渡されたが、支払えないと言ったらしい。すると労役するか尋ねられ、それを受け入れられなかった父たちは家を売って支払うことにしたらしい。

 古い家なので大した金額にならない。


 そして何処かへ引っ越していった。

 私はどこに居るのか知らないけれど、私以外のみんなは知っているらしかった。

 動向から目は離さないとお祖父様と久哉さんが言っていた。

 母たちがいなくなると私の周りは一気に平和になった。

 お祖父様と久哉さんは忙しそうにしているけれど、仕事が忙しいだけで苛ついた様子はなくなった。




 久哉さんに任せられる仕事が増えたのか、お祖父様と久哉さんが別行動することが増え始めた。

 すると小川(運転手)さんが久哉さんに連れて行かれるようになってしまった。


「一人で外出してもいいですか?」

「問題ないと思うんだが、必要のないときは家にいてくれると嬉しい」

 そんな風に言われると遊び歩くわけに行かないので家で大人しくしている。


 お祖父様と叔父様が話し合ったときに、私に手出しをすることはないと言ったらしいのだけど、それが叔父様の子供や孫までにその考えに同調しているのかが解らない。

 と言うのがお祖父様と久哉さんの考えだった。

 私はもういいんじゃないかな?と思っていたのだけど、今までどれだけ心配してくれていたのか解っているだけに無理に出かけたいと我儘をいう気にはなれなかった。




 久哉さんの29歳の誕生日が過ぎて避妊を止めることを二人で決めた。

 翌月には生理が来なくなり、妊娠したのかなと思った。


 二ヶ月経っても生理が来なかったので病院に行くことにした。

 小川さんは久哉さんと一緒に動いていていて忙しいようなので、南さんにお願いして病院に連れて行ってもらう。

 南さんには「久哉さんに伝えるまでお祖父様にも内緒にしてね」とお願いした。やっぱり一番に知る権利は久哉さんにあると思うから。


 病院で「おめでとうございます」と言われて、これからの予定が伝えられる。

 必要な検査を受け、妊娠届出書をもらって区役所へ母子手帳を貰いに行く。

 そこでも「おめでとうございます」と言われてこそばゆい思いをする。

 不思議と気分の悪さも、匂いに敏感になるということもない。

 

 その夜。久哉さんと二人になってから病院に行ったことを伝える。

「今日病院に行ってきたら妊娠したって言われたわ」

「妊娠・・・」

 少し現実味がないのか反応が鈍い。

「予定日は12月28日だって」

 頭で理解できたのか嬉しそうな顔をする。

「年末か!」

「ちょっと遅れて新年になるかもしれないわ」


「おめでとう。まだ実感はないけど嬉しく思うよ」

 もらってきた母子手帳を見せて二人で必要事項を書いていく。

 それ程書き込むことはなくてすぐに終わってしまう。


「気分悪くなったりしないのか?」

「今のところなんともないわ」

「そうか。あんまり無理しないようにな」

「気をつけます」

「会長に報告に行こう」


 今この時点で前より過保護になっている久哉さんに手と腰を支えられて屋敷へと歩を進める。

「過保護すぎない?」

「過ぎるくらいのほうが安心できる」

「病気じゃないことだけは理解していてね」


 お祖父様はニュースを見ていて久哉さんに抱えられている私を見て「どうしたんだ?!」と慌てる。

「お父様、落ち着いてください。なんともありませんから」

 落ち着くように必死でなだめる。


 美世さんが私たちのお茶を入れてくれて、一口口をつける。

「お父様、妊娠しました。予定日は12月28日です。初産なので来年になる可能性もあるかもれません」

「本当か?!」

「はい」

「本当か?!」

 信じられないのか二度同じことを聞いてくる。

「はい」

「おめでとう!!子供用品を買いに行かなければならんな!!デパートに行くか?!」


「気が早いですよ。今はまだ安静にしている期間です」

「なら布団に入れ!」

「病人じゃないんですから、普通に生活していればいいんですよ」

「そ、そうか?」

「夏の終わりになったらデパートに行きましょう」

「夏か、夏が早くこんかなぁ〜〜〜」

 お祖父様の喜びように私まで嬉しくなってきた。



 妊娠初期みんなに過保護にされる中、代田さんだけが「運動しなさい」と怒る。

 悪阻(つわり)はないまま6月になった。

「悪阻がなかったから妊娠した実感がどこか薄かったのだけど、お腹が膨らんでくると実感するわ」


 服を着ていればそれ程でもないけれど、服を脱ぐとお腹が少し膨らんでいる。

「悪阻なんかない方がいいんですよ。わざわざ気分の悪い思いをする必要はないですから」

「それはそうなんだけどね」

「暑くなると体調を壊しやすくなるから気をつけてください」

「代田さんも気をつけてね」

「ありがとうございます」



 お腹の子はすごく元気でよく蹴られたり殴られたりする。時折足の形が目に見えることがある。

 残念ながらその足の形は久哉さんは見れていないのだけど、久哉さんがお腹に触れるとお腹の子は嬉しいのか久哉さんの手を蹴り飛ばす。

 久哉さんは手の平で感じる子どもの蹴りに毎回感動している。

 お腹の中から蹴られるというのはなんとも言えない心地がする。


 日に日に大きくなるお腹に腰が痛いと愚痴をこぼすと、久哉さんがベッドに入ると腰をさすってくれる。

 久哉さんも忙しくて大変だろうに、こういう優しさが地味に嬉しかった。




 リビングの窓から梅の実がぶらさがっているのが見える。

 2月には梅の花で目を楽しませてくれて、6月になると実で私を楽しませてくれる。

 吾潟(あがた)さんは掃除が大変そうだけど私は梅の実の収穫が楽しみで仕方ない。

 時折いい香りがして目も鼻も楽しませてくれてその後、味覚も楽しませてくれる。


 吾潟あがたさんと一緒に完熟前の梅の実をとって梅干しにすることにした。

 私は梅干しを漬けた経験がなかったので代田さんに教えてもらう。

 この屋敷で生活していると覚える必要が全く無いけれど、こういうことが好きなのでやっぱり覚えたい。


 10kgちょっとの実がとれて、丁寧に拭いていくだけでもかなりの手間だ。

 代田さん、美世さん、吾潟さんと私の4人で丁寧に拭いてヘタを取る。

 代田さんは「梅は洗うと大変だから丁寧に拭くだけで十分ですよ。農薬も使ってませんしね」と教えてくれる。

「洗うとどう大変なの?」

「乾燥が十分できていなかったらカビの原因になりますし、洗うと一気に熟したりするんですよ」


 容器は丁寧に消毒して梅の重量を計って塩の量を決める。

「体のためには減塩がいいですが、失敗しないために塩を効かせたものにしましょう。今回は梅の実の重量の17%の塩分にしましょうか。塩は粗塩を使いましょう」

 容器の底に薄く塩をふって梅の実を並べ、塩をふり梅の実を重ねていく。

 落し蓋をして梅の実の2倍のおもりを乗せてから蓋をして数日冷暗所に置いておく。

「今はここまでですね。次は梅酢が上がってきてからになります」


 5日ほどで梅酢がしっかりと上がったので、次の作業に。

 今年は梅の実ができると思っていなかったので、赤紫蘇はスーパーで買ってきたものを使う。

「来年は赤紫蘇も用意しておきます」

 吾潟さんが請け負ってくれる。

 赤紫蘇は茎から葉だけを外して綺麗に洗って水気を取り除く。

 私が干し野菜ネットを持っているので中に入れて乾燥させる。


 大きめのボウルに赤紫蘇を入れて、赤紫蘇の重量の17%の半量で塩もみをしてから固く絞って灰汁を取り除く。

 残りの塩で赤紫蘇を再び揉んで出てきた灰汁は捨てる。


 赤紫蘇に梅の実から上がった梅酢を入れると綺麗な紫蘇の色が出てくるので、梅の実の方に散らして入れる。

 色がまんべんなくいきわたるように桶を動かして、落し蓋をして重しを乗せて蓋をする。

 カビが生えないように確認しながら梅雨が終わる頃まで待つ。


 三日ほど晴れが続く日に梅を土用干しにする。

 梅の実を日の当たるところで上下を返しながら三日間程干す。

 紫蘇も一緒に乾燥させる。乾燥させた後、砕いて(ゆかり)にする。

 夜は室内に入れる。

 梅の実が柔らかくなったら半量は梅酢に戻して、残りは保存瓶に入れることにする。


「梅酢に戻すと色鮮やかになり、酸味が強くなります。保存瓶に入れておくと実がねっとりしますが、色が浅いものになりますのでどちらか好みの方だけでも構いませんよ」

「はぁ・・・口の中が酸っぱいわ」

「そうですね」


 昼ご飯は梅干しとしらす、青じそのパスタだった。

 梅は買ってきた梅干しだそうで、食べるまでにはまだ少し時間が必要そうだった。



 桜の横に植えられた桃の木も、直ぐに実がなるものだった。

 鈴なりに実がなっていたのだけど、半数は吾潟さんが間引いてしまった。

 その方が木のためにも実が大きくなるためにもいいのだと教えてもらった。


 あんまり甘くない実に少しがっかりしながら、桃ジャムを作るために包丁を種に刃を立ててぐるりと巡らせ、ひねって半分に切り分ける。皮を剥いで種をスプーンでくり抜いく。


 1cm角くらいにカットして鍋にいれる。

 皮はすぐ取り出せるようにガーゼやお茶の葉を入れるお茶パックなどに入れて鍋に入れ火にかける。

 砂糖を入れてレモン汁を入れて好みの硬さになったら出来上がり。


 桃の果肉ゴロゴロゼリーも作っておこう。

 好みの紅茶を鍋に入れ、皮を剥いて種を取って一口大に切った桃も鍋にいれる。

 レモン汁、砂糖、ゼラチンを入れて火にかけて5分ほど煮る。冷めたら器に移して冷蔵庫で冷やして固まったら出来上がり。


 桃のジェラートは日持ちがするからこれも作っておく。

 桃は皮を剥いて種を取り一口大に切る。水、レモン汁、砂糖を入れて5分ほど煮る。

 粗熱を取って冷凍庫で冷やし固める。ミキサーで撹拌したら出来上がり。


 暫くの間、毎日桃を食べられて幸せを感じた。

 思わず吾潟さんにもっといろんな果物を植えて欲しいとお願いしてしまった。

 お祖父様に許可を取ったら植えてくれると約束してくれた。

 お祖父様には私からもお願いした。直ぐに許可を出してくれた。


 その翌日、何を植えるか吾潟さんと話し合った。

 1月に実が取れる冬蜜柑。

 2月に実が取れる八朔。

 3月に実が取れる清見オレンジ。

 4月に実が取れる・・・と調べながら吾潟さんに言うと「2ヶ月に一度くらいにしてください」と言われてしまった。

 世話が大変なのと、まず植えるスペースを作らなければならいらしい。

「それにそんなにうまくいきませんよ」と釘を差された。

 私は心から吾潟さんを応援した。



4月に実が取れる林檎

5月に実が取れるグレープフルーツ

6月に実が取れる梅 (すでにある)

7月に実が取れる梨

8月に実が取れるブルーベリー

9月に実が取れる桃 (すでにある)

10月に実が取れるレモン

11月に実が取れる柿

12月に実が取れるアボガド

を吾潟さんに要求しました。

吾潟さんはそんなにうまくいきませんよ。と首を振ったとか振らなかったとか。


明日、22:10 UPです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ