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離婚を選んで終の棲家だと思って借りた部屋はたった3ヶ月しか住めませんでした。  作者: 瀬崎遊


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26/29

26 披露宴 寿羽

ヴェル◯ァイアの紫は別注だそうです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 披露宴当日。


 昼食に合わせた披露宴なので開始時刻がゆっくりなのだけど、船に乗船しなければならないのでやっぱり朝は早い。

 こっそりとウエストを測ってみると昨日のサイズが維持できていた。


 いつもより早い時間に朝食を食べて、私と久哉さんは先に船へと向かう。

 休日で渋滞していない道を流れに任せて走らせる。

 ウエディングプランナーの柏田(かしわだ)さんは既に待ち構えていて私を見て満足そうに頷く。

 も、もしかして私のサイズ見透してる?


 

 披露宴の進行をざっとおさらいする意味も兼ねて披露宴会場となるホールへと足を向ける。

ドレスの裾が汚れる心配をしていたけれど、そんな心配はする必要はなくなっていた。

 綺麗な敷物が敷き詰められチリ一つ落ちていないほどに綺麗に掃除されている。

 

 ここから先は久哉さんはすることがなくなる。

 私の身支度をカメラを構えてパシャパシャとシャッターを切る。

「そんなに写真を撮ってどうするつもり?つなげて動画にでもするの?」

「二度と撮れないんだから何枚撮っていてもいいじゃないか。印刷するとは言ってないだろう?」

「データーで残すにしても多すぎない?」

「年を取ったら一緒に見よう」

「ふふっ。そうね。老後の楽しみが増えたわね」


 柏田さんは一度着たドレスを脱がせて1.5mm減ったウエストを詰めている。

「サイズを変動させないでって言ったのに減らしてくるなんて!!」

 と怒っていた。

 減らしたのはエステの佐東(さとう)さんです・・・。

 今日一日が終わったらまた減っているかもしれない。気疲れで。


 詰め終わったドレスに袖を通すとピッタリと美しいシルエットが鏡に映る。

「柏田さん、ドレス詰められるなんて凄いです」

「簡易ですけどね」

 久哉さんが写真を撮るのを忘れて感嘆の息を吐く。

「綺麗だ」

「お熱いことで」


「柏田さんは結婚されているのですか?」

「ええ、もう10年超えました」

「時間が変則的なお仕事だと大変じゃないですか?」

「家事は半々と決まっていますからそうでもないですよ。子供も大きくなってきましたので色々手伝ってくれるようにもなりました」

「素敵ですねー!」


「そろそろお化粧を始めますので」

 結婚式を専門にしているブライダルヘアメイクアーティストの英田(あいだ)さんが口を閉じろと指示してくる。

 私は大人しく口を閉じて身を任せる。

 久哉さんは変わらずコマ送りの撮影を続けている。


 結婚式のときにも柏田さんと英田さんにすべてを任せていた。

 メイクも髪も結婚式とは違う雰囲気に仕上げるようだ。

 久哉さんが「結婚式の時の写真がとれなかったのが心残りだ」と言うと柏田さんが「家城さんが撮るほどは撮っていませんが多少は撮っていますから後日データーで渡しますね」と言ってくれて久哉さんは大喜びしていた。


「結婚式のときのニュース、すごく話題になっていましたね」

 柏田さんが結婚式の話を始める。

「僕もニュース、録画しましたよ。永久保存版です」

 私に黙れと言ったのに英田さんはおしゃべりを始める。

「TVでブライダルヘアメイクアーティストの英田と紹介されてそれから仕事が増えているんです。家城さんのおかげです」


「本当に綺麗でしたよね〜」

「今日も綺麗にしてくれると信じていますよ」

 私が口を開くと英田さんに怒られた。

 化粧が終わって少しすると船が動き出す。

 髪をアップしていくのを鏡を見ながらまるで魔術のようだと思う。

 自分で化粧したのとは全く違う柔らかな雰囲気の私がいる。

 髪はレースと一緒に編み込まれティアラが乗せられる。


「ちょ、ちょっと待って!ま、まさかこれ本物?!」

「ジルコニアですよ」

「お父様が作らせたの?」

「いえ、御主人様ですよ」

「えっ?久哉さん?!」

「流石に本物のダイヤでは作れなかった」

「本物でなくて安心したわ」


「土台はプラチナだけどな」

「一体いくら掛かったの?」

「このあと使うことはそうそうないでしょうから、飾れるようにケースを作らせていただきました。家で飾っていただけたらと思っています」

「ありがとうございます。凄く嬉しいです」


 正直飾ることは考えていなかった。やっぱり金庫が必要だと考えていたくらいだ。

「久哉さん、私金庫が欲しい」

「金庫が必要なくらい宝飾品が欲しいってことか?」

「違う!!もう充分持ってる!!」

「俺は婚約指輪と結婚指輪しか贈ってないけど?」

「張り合わないでね。指は10本しかないし、首は1つ、耳は2つしかないからね」




 船への入場は美世さんと代田さんの二人が、招待状とリストを確認していく。

 招待状を忘れた人はリストに載っていることを確認されてからお祖父様の確認が取れて初めて乗船できるようになる。

 美世さんや代田さんが知っている人ならそのまま通される。

 乗船はかなり厳しくすると言っていた。

 

 私は全く知らなかったのだけど、父と兄姉は堂々と船に乗り込もうとしたところを招待状がないと入れないと美世さんと代田さんに追い返されたそうだ。


 榛原さんと一緒に披露宴会場になっているホールへ二人で入っていく。

 一段高いところにマイクが置かれ、その前にお祖父さんが立っている。


 二人でお祖父様の傍に立つ。

 昨年末にお祖父様と養子縁組をしたこと、息子康介が遺産放棄したことが伝えられた。

 ざわりとして、お祖父様が咳払いすると静かになる。


 久哉さんが呼ばれて、私と結婚して家城姓になったことが伝えられた。

 またざわりとする。

 これから仕事のすべてを久哉さんに任せることになると伝えられ、今度はひときわ大きくざわついた。

 ざわめかなくてもみんなTVを見て知っていると思うんだけど、お祖父様の口から直接聞くのではインパクトが違うのかな。


 お祖父様が私たちの結婚を祝って、久哉さんをこれからもり立てて欲しいと言って、私たちはお辞儀をして席についた。

 お祖父様も司会進行の人と交代して私の隣に座る。

 お義父さん、お義母さんは久哉さんの隣に座っている。


 何人かの方から祝辞をいただき、乾杯をして食事が始まる。

 次から次に挨拶に来られて私たちは食べる暇もない。

 美世さんが披露宴が始まる前に私たちに軽食を出してくれていたことに感謝する。


 真川の小父様と小母様も挨拶に来てくれて、久哉さんを紹介してお礼を述べた。

 真川がきていないことにホッとした。

 こないと思ってはいたけれど一抹(いちまつ)の不安があった。


 余興は行わないことになっていて、お色直しに一度下がる。

 このお色直しは久哉さんたってのお願いだった。

 他のドレス姿も見たいと言って、久哉さんが選んだのは、

 大人びたプリンセスラインのドレスで露出度は一切ない。

 お祖父様が買ってくれたチョーカーとイヤリングを着けてもらう。

 久哉さんが写真を撮られないからと柏田さんが代わりにコマ送りで撮影している。

 久哉さんも着替えたら?と提案したんだけど、必要ないと却下された。



 着替えが終わって、再入場して各テーブルを蝋燭を点けながら回る。

 船内を暗くするために苦労したと聞いている。

 花嫁の手紙も飛ばして、榛原のご両親とお祖父様に花束を贈呈して、歓談して披露宴は終わりとなった。


 私たちは一旦下がり、私は白のタイトワンピースに着替えて、久哉さんはスーツに着替えた。

 船が港に着くまで各々(おのおの)色々な場所で仕事の話をしたり、初対面の挨拶をしたり、お祝いのお礼を言っているとあっという間に時間は過ぎていく。


 お義兄さん一家のところに私たちから挨拶に伺う。

 仁輝(とよてる)君と愛花(まなか)ちゃんが抱きついてくる。

「僕、船に乗るの初めてなんだ!!」

「寿羽ちゃんはやっぱりきれー!!」

「仁輝君も格好いいね〜愛花ちゃんはすっごく可愛い」


 ふたりとも大人顔負けの格好をしている。

 仁輝君は三つ揃いのスーツだし、愛花ちゃんは淡いブルーのプリンセスラインのドレスを着ている。

 お義兄さんとお義姉さんに挨拶して新居に遊びに来て貰う約束をする。

 お義兄さんは秘書さんを連れて来ているので今日は仕事モードのようで子供二人はお義父さんたちに任せているようだった。

 お義父さんたちにも「疲れてませんか?」と聞いたら「聞いてはいたが規模の大きさに驚いているよ」と言われてしまった。


 暫くお義兄さん夫婦と一緒に挨拶回りをしていたけれどお祖父様がやって来てお義兄さん夫婦が連れて行かれた。

 私たちは立ち止まりウエイターが持ってきてくれたジュースを貰って飲み、直ぐにそのグラスを返す。

 新たにやってくる人と久哉さんが名刺交換して挨拶を交わしている。


 

 お祖父様の弟の家城正蔵しょうぞう叔父様が私の前に現れたのはそろそろ船が港につく頃だった。

「結婚おめでとう。離婚したことも知らなかったから結婚式のニュースを見て驚いたよ」

 叔父様の後ろに叔母様とその子供、孫たちも控えている。

 養女になったために関係がややこしくなってしまう。

 

「そうでしたか。離婚しましたとご連絡しにくかったので・・・」

「今度の人は家城の中へ入ってくるんだな」

「はい。お父様の跡を継げるのは私だけになりましたので。あらためて紹介させていただきますね。家城久哉さん。私の夫です」

「はじめまして久哉です。よろしくお願いします」


「正蔵だ。兄さんの跡を継ぐのは大変だろう?」

「はい。今は勉強させてもらっています」

「これからは何かとよろしく頼むよ」

「若輩の身で何ができるか解りませんが」


 叔父様が私の方に向き直る。

「康介はこの披露宴に招待されていないんだな」

 私がなんと答えようかとほんの一瞬逡巡したら背後から声がした。

「事実上の縁切りをしているからな」

 お祖父様が私の代わりに答えてくれる。

「兄さん・・・心強い跡取りが出来てこれで安心ですね?」

「いや、まだまだだ。邪魔な人間を徹底的に排除しなければならない」


 邪魔な人間の中に叔父様が含まれていると誰もが思っただろう。

「康介たちに何をどうしてもかまわんが、儂は尻拭きはせんからそのつもりで対応しろ。甥可愛さで可愛がるなら正蔵のできる範囲のことをしてやるんだな。康介が何を起こしても家城は、儂も寿羽も責任は持たん」

「すでに結構貸しているんですが・・・・」

「前々から手は貸すなと言ってきただろう?回収は不可能だと思え。儂が大事なのは寿羽と婿の久哉だけだ」



「そう、ですか・・・」

「お前も、子供たちも儂が選んだ寿羽と久哉が気に入らんのならいつ辞めてもかまわんぞ」

「いえ、私はもう退職した身ですし、細々(ほそぼそ)と役員の座にしがみつかせてもらいます。子供たちも今の立場に不満は持っていません」

「それが本当ならいいと思っとる。寿羽と久哉を立ててやっていけるなら何の問題も起きんだろう」


「兄さんの手を(わずら)わせるようなことはありません」

 叔父様のその言葉に嘘はないような気がした。お祖父様も同じように感じたようだった。

 それから今は従兄弟で前は従叔父と従叔母、その子供たちとも差し障りのない挨拶をした。

 お祖父様は叔父様と次に会う約束をしてその場は何事もなく終わった。



 夕方少し前に船が止まり、久哉さんと私が船の降り口で全員の方にお礼を言って本当の披露宴の終わりとなった。

 

 翌日、披露宴に招待されなかったり、来れなかった人からの祝電の整理に明け暮れた。

 名刺のデーターに付け加えていく作業が本当に大変だった。

 全てを終えるのに1週間ほど掛かった。



 披露宴の後からお祖父様は叔父様への警戒を半減させた。

 叔父様ももう年を取っているので、何かをする力も気もないと判断したようだ。

 従叔父、従叔母になるとお祖父様との関係も薄くなるのでお祖父様が死んだとしても手に入れられるものはない。


 今ですら家城の重役に名前も上がっていないし、これからも上がらないだろう。

 どんどん関係は薄れていくことになるだろう。

 久哉さんがお祖父様の跡を継いだらそれこそ関係は更に薄くなっていく。

 従叔父の孫たちになると縁故採用もなくなるかもしれない。



 私が自由に出歩けるようにするためと、久哉さんの秘書が必要だからという理由で谷中さんの息子さんの夏樹さんが久哉さんの秘書となることが決まった。南さんの紹介で前職がSPだった小川さんが私と久哉さんの運転手兼ボディーガードに雇われた。


 それと同時に車を一台購入した。私としては軽自動車で十分なのだけど、そういうわけにもいかず、エル◯ランドVIPの四人乗りを買った。

 7人乗りがいいのではないかと聞いたけれど、ヴェルフ◯イアがあるから必要ないと言われたので居住性を選ぶことにした。

 色はディープクリムゾンとかいう赤に茶色を混ぜたような色をしている。


 レ◯サスLMが黒。◯ェルファイアが紫。お祖父様はセダンのセンチ◯リー黒も持っているので私の車も車庫に入れて4台並ぶと壮観だった。

 車庫が足りなくなって新たに作り変えられることになり、10台駐められる車庫が建てられた。

 お祖父様が子供が出来たら必要だと随分気の早いことを言った。


 


 久哉さんはまだお祖父様と一緒に行動しているので小川さんはほぼ私の専属と言ってもいいくらいだ。

 小川さんが付き添うなら私一人でも外に出かけてもいいとお祖父様が許可をくれた。


 早速小川さんに付き添ってもらってマンションへと向かう。小川さんは外廊下で待っていてくれるらしい。

 先にお義父さん達が住んでいる部屋に挨拶に伺い、お義母さんに手土産を渡して、結婚式から披露宴までの感謝を告げる。

 一時間ほどたわいもないおしゃべりをして、私の部屋へ行く。


 掃除しようと思っていたけど、綺麗に掃除されていたので忘れ物がないか再度確認して電気、ガス、水道を止める手続きをした。

 このマンションは賃貸で貸すことが決まった。

 なんと、管理費込みで家賃18万円。

 お祖父様の知り合いの息子さんが住むそうだ。


 何もしなくても私に月16万ものお金が入ってくることになった。

 買ったのはお祖父様だから家賃はお祖父様が受け取ってと伝えたのだけれど、あれはプレゼントしたものだからお前が受け取れと一蹴された。


 私は全く知らなかったのだけど、お祖父様と父の名前で110万円ずつ毎年振り込まれていた。

 贈与税がかからないからと、産まれたときからずっと振り込まれ続けている通帳を渡された。


 なぜ父の名前で振り込まれているのか聞くと、父は仕事は辞めたものの会社に名前は最近まで残っていたそうだ。その報酬としてのお金の一部が私に振り込まれていたのだそうだ。

 ただし、父の名前は去年削除されているので、もう振り込みは出来ないとお祖父様が言った。


 父の名前は会社から抹消され、私の名前が新たに加わったのでその報酬として240万円が支払われるということだった。

 なので、役員会にたまには顔を出すように言われた。

 意味もわからない話を理解してますよという顔をして座っていなけれなならないのかと想像してげんなりした。


 そして、家城関連会社の株の25%が私に譲渡された。

 本当に働かなくても生活できるようになってしまった。

 お祖父様に「会社の株を買えるなら買っておきなさい」と言われたので家城関連の株が売りに出されたらチマチマ買っている。


 

 新居への引っ越しも終えた。

 屋敷に朝昼晩と顔を出すので新居が必要だったかと言われると微妙な気分になる。

 でも広い新居を掃除するだけで少しは時間を潰せるので新居があって良かったと言えば良かった。



 新居での生活が落ち着いた頃、榛原一家が揃って遊びに来てくれた。

 お祖父様も一緒に庭でバーベキューをして男性陣はたっぷりお酒を飲んで日が暮れる前には出来上がっていた。

 お祖父様とお兄様が何やら恐ろしいことを言っていたけど私には関係ないことなので聞かなかったことにした。

 どこぞの会社の株を買い占めることに決めたらしい。



明日、22:10 UPです。

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