表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離婚を選んで終の棲家だと思って借りた部屋はたった3ヶ月しか住めませんでした。  作者: 瀬崎遊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

24 結婚2 寿羽 マンションの荷物を新居へ

 婚姻届を出して屋敷に着くと、疲れていたのか行儀悪くも畳の上に大の字に転がってしまった。

 榛原さんも同じように寝転がっている。

 代田さんが私たちを見て笑う。

 お祖父様の手が空いたと代田さんが教えてくれたので、榛原さん・・・久哉さんと一緒にお祖父様のところへ婚姻届を出してきたと報告した。

 お祖父様は嬉しそうに笑って久哉さんに「久哉」と呼びかけた。



 その日の夕方のニュースで私たちの結婚式が特集として流れ、日本で一番高いところで結婚した家城グループの後継者と発表された。

 その日から数日間私達の結婚式が何度もTVから流れることになった。



 夕方のニュースが終わると元職場の人から電話が掛かってきた。

 興奮した様子で「TV見たよ!!家城さんってあの家城の娘だったんだね!!」とか「榛原さんと結婚ってどういう事?離婚したばっかりじゃなかったの?」と言われた。

 連絡は来ないだろうと思っていた夏海から興奮したメッセージが届いた。


   {ハンパないわ〜〜!!ニュース見た。おめでとう!!}


 それが合図になったみたいにひっきりなしにスマホの通知音が鳴り始めた。

 それは久哉さん、お祖父様、谷中さんのスマホも同様だった。

 家の電話も切ると直ぐに鳴るが、それらは親族からがほとんどだった。

 結婚披露宴は30日と招待状があるのにどうなっているのかということらしい。


 お祖父様と久哉さんは一気に慌ただしくなって、美世さんは家の電話の前から動けなくなった。

 私の電話番号やIDを知っている人はごく少数だったので30分もすれば収まったけれど、他の皆は10時を回ってもスマホは鳴り止まなかった。

 皆スマホの電源を落として、家の電話は線を抜いてやっと静かになった。


 翌日からは屋敷に直接お祝いを持って来てくれる人が後を絶たなくなった。

 家に来てくれた人は私が対応するしかなくて、知らない人にお祝いを言われて祝品を渡された。

 花屋さんが何件もやってきて、大量の蘭の花を置いていった。

 こんなに蘭の花ばっかり貰ってもどうしようもないよ!! 

 

 夕方になると、宅配便の人が大量に祝いの品を持ってきた。



 父も兄姉もしつこいほどに何度も屋敷を訪ねてきた。

 こっちは美世さんと代田さんが追い返してくれたので、私が会うことはなかった。

 1時間に1回位で訪ねて来ているらしくて、美世さんがファミレスにでも長居しているんじゃないかと疑っていた。


 兄姉は「寿羽を養女にしたのなら自分たちも」と大騒ぎしていた様だ。

 お祖父様が帰ってきたときに全く相手にされず帰って行ったらしい。

 お祖父様は父たちの出現にものすごく怒って、血管が切れるのではないかと心配になるほどだった。

「康介一家には本当に辟易する!!」




 新居は予定通り完成した。完成したにも拘らず引っ越しは後回しになっている。

 そのため久哉さんと私は未だに屋敷の二階でバラバラに生活している。

 睡眠は私の部屋で一緒に取っているけど、披露宴が終わるまで妊娠しないように気をつけている。


 お祝いを頂いた人へ御礼状を出すのに忙しい。

 招待状のときのように上から順番に印刷という訳にはいかず、リストと付き合わせる手作業になった。

 御礼状を印刷しても、印刷しても新しくお祝いが届く。

 お返しをしなければならない人と御礼状だけでいい人に谷中さんが分けてくれていて、この状態は本当に勘弁して欲しいと願った。


 御礼状作成の合間に訪問者の相手もしなければならない。

 庭師の吾潟(あがた)さんと中西さんは最早(もはや)警備員のごとく跳ね橋の上で訪問者の対応をしている。

 父と兄姉がやってくるので無人にするわけにはいかないのだ。

 母が逮捕されたこともあるので不法侵入はしてこないと思うが、あの人たちの考えることは理解できないので緊張は緩めないということらしかった。


 落ち着いた頃に知ったのだけれど親族の訪問はすべて断っていたらしい。

 親族だと言われても特殊な生い立ちのせいで、私が覚えている人などお祖父様の弟の子供、従兄弟くらいまでしか記憶にない。

 披露宴で会えるから話があるならその時にしろということらしい。


「美世さん」

「なんでしょう?」

「披露宴が終わった後もこうなるの?」

「か、可能性は・・・でもここまでではないと思いますよ。同じ人は贈ってはこないでしょうし。それにお嬢様へお祝いを贈っているっていうよりか、旦那様に贈っている感じですよね」

「もうやだぁ〜〜〜!!」

「お嬢様、がんば!!」

 美世さんの励ましに激しくダメージを負った。


 デパートの西川さんと領木さんからもお祝いが来ている。

 その上デパート自体からもお祝いが贈られてきていて、その上デパートの社長さんからも贈られてきている。

「1個でいいよ1個で」

「お嬢様、私大変なことに気が付きました」

「聞きたくないけどなにかな?」


「お祝いを頂いた人を記憶しなければなりません」

「えっ?なんで?」

「披露宴でお礼を言わなければならないでしょう?」

「嘘だと言って〜〜〜!!」

「美世は嘘はつきません!」

 更にダメージを負った。




 ちまちまと御礼状に切手を貼っていると思考は色んな所へと飛んでいく。

 アルバイトを雇いたいとか、雑務をしてくれる秘書が欲しいとか、久哉さんは今頃なにしているんだろう等々思考が散漫になる。

 そんな時にふと気がついてしまった。全く関係ないことを。

 新居にエアコンを買っていないことに。


 一体何台必要なのか考える。

 一部屋に一台ずつ設置するの?

 すごい数になるんだけど・・・。

 エアコンの設置だけで100万近く飛んでいくんじゃない?

 何部屋あるんだったけ?

 寝室と両サイドの私達の部屋を1台のエアコンで冷やせるのかな?


 お祖父様と久哉さんと一緒に夕飯を食べている時にエアコン設置の話をしてみた。

 そうしたら既に設置済みと久哉さんから返答があった。

「家の中にエアコンのホースが見えるのが嫌だったから建築の段階から全館空調を取り付けてある」

「そうなの?全館空調って業務用のエアコンみたいなやつ?」

「まぁ、そうだな」

「相談してよかった。勝手にエアコンつけちゃうところだったわ」


「まずは相談してくれ」

「そうする」

「引っ越しは7月になるのか?」

「そうなりそうです。マンションから電化製品を運び込む時間もありませんし、まだお祝いを持って来てくださる方がいらっしゃるので家を()けられません」


「そうか。のんびりやれ」

「そうします。お父様の方は落ち着いてきましたか?」

「ぼちぼちだな。屋敷とそう変わりない」

「二人共あまり無理をしないでくださいね」

「うむ」

「寿羽も無理しないようにな」

「はい」



 お客さんも徐々に減ってきて切手貼りも減ってきたので空いている時間が増えた。

 私の荷物だけ荷造りして台車でちまちまと運んでいる。

 屋敷の1階に置いていた荷物も少しずつ移動させている。

 美世さんたちに手伝ってもらうとどこに何があるのか解らなくなってしまうので、荷運び以外の手伝いの申し出はお断りしている。


 時間はたっぷりあるのだからゆっくりすればいい。

 久哉さんと一緒ならどこにいてもかまわない。

 もしかしたら久哉さんはお祖父様の屋敷では気詰まりなのかもしれないけれど。


 6月の半ば過ぎ、久哉さんとお祖父様が仕事を休めるようになった。

 お祖父様に「マンションになにも残すな」と言われたので久哉さんと二人でマンションに行き、残していた荷物すべてを運び出してもらうことになった。


 802号室の部屋のインターフォンを押してお義父さんとお義母さんにご挨拶をする。

 頂き物なんですがと断りを入れて、お祝いで頂いた物のお裾分けをする。


「少しは生活が落ちついたかな?」

「最近になってやっと落ち着いてきました。私の全く知らない人からのお祝いが届くので困惑しています」

「?」

「冗談じゃなくて本当に全く知らない人からもお祝いが届いているんだ」

「そうなのか?」

「ああ。TVを見たファンです。と書かれた手紙が同封されているから本当に全く知らない相手だよ」


「お父様も心当たりがないと言っていたので本当にTVを見ただけの人なんだと思います」

「なんだか怖いわね」

「そうなんです。そういう物は申し訳ないですけど箱に入れて積み上げている状態です」

「今日持ってきた物はしっかりした出どころだから安心して食べてくれ」

「ありがとうね。こんなに貰ってもいいのかしら?」

「屋敷にまだ山となってあるよ」


「新居が落ち着いたら親父たちも一度遊びに来てくれ」

「和人たちが行くときに一緒にお邪魔するよ」

「来ていただける日を楽しみにしています」

 お義父さんとお義母さんが目を細めて嬉しそうにしてくれたので、嫌ではないのだと安心した。


 お義父さんたちに久哉さんが婿養子になったことをどう思っているのか聞きたいけれど怖くて聞けないでいる。

 大切に育てた息子を離婚して間もない女との結婚を許したら婿養子ってありえないんじゃないかと思ってしまう。

 お義兄さんは仕事の損得勘定があるから久哉さんが婿養子になったことを喜んでいるかもしれないけど、お義父さんたちの気持ちを考えると少し気がふさぐ。

 久哉さんも婿養子になったこと後悔していないんだろうか?


 珈琲を一杯いただいて、暇乞(いとまご)いをすると、お義父さんたちも一緒に私の部屋に付いてきてくれて片付けを手伝ってくれた。

 業者の人たちが来て荷物を丁寧に運び出していく。

 大量の靴がかさばって大変だった。

 お義母さんに「寿羽さんはたくさん靴を持っているのね〜」と言われたときは散財するバカ女と思われたのかもしれないとドキドキした。


「掃除機だけ自分たちで運びます」と断って最後に丁寧に掃除機を掛ける。

 掃除が終わって、忘れ物がないか確認して扉を閉じた。

 素敵な思い出しかない部屋と別れがたかった。



 お義父さんたちに手伝ってもらったことのお礼を言って別れを告げる。

 今度は新居に荷物を入れる作業が待っている。

「久哉さんの荷物はいつ頃まとめられそう?」

「時間がなぁ・・・悪いけどまとめてもらってもいいか?」

「触っていいの?」

「全然かまわないよ。荷物を開けるのは自分でしなきゃならないと思うけどな」

「触っていいならまとめるわ」

「悪いな。頼む」



 新居の前にトラックが停まって荷物を運び入れる前にあちこちに目張りがされていく。家が傷つかないように色々気を使ってくれるんだと感心した。

 電化製品がひとつ、ふたつと運び込まれる。家に収まると一気に生活感が出てくる。

 マンションもそうだった。家具が入って、電化製品が入ってそれだけでも人が暮らしているように見えた。


「電化製品と家具が入るともう生活できる気がするね」

「そうだな。あとはぼちぼちやっていこう」

「早くこの家に住みたいね」

「ベッドもマットレスも入っているから今日からでも寝られるぞ?」

「ちゃんと生活したいの」

「そうだな」


 久哉さんの手が頭の上に乗せられてポンポンと2度撫でられ、頬に指がすべる。

 思わず息を呑むほど優しい仕草だった。

 人前でなかったら抱きついて押し倒していた。

 堪えられた私は偉いと思う。

「久哉さん」

「ん?」

「今晩押し倒す!」


 鼻で笑われた。

 絶対押し倒すからねっ!!

 夜、疲れてぐっすり眠ってしまった・・・。

 その代わり朝早くに目が覚めたので襲ってやった。


 一勝負を終えてまた眠りについてしまった私たちは朝寝坊して美世さんと代田さんに笑われた。

 二人だけではない生活はこういうところが困っちゃうよね。

 今日は久哉さんの部屋を片付けることにした。

 必要なものだけ残して新居へと運んでいく。


 いくつか箱を持ち込んだら久哉さんに新居で荷解きをしてもらう。

 箱に詰めるときはなるべく同じ場所にある物を詰めるようにした。

 箱を開けた時ひとかたまりになっている方が楽かなと思ったから。

 

 必要なものだけが残された状態になったんだけど、荷解きの方はどうかな?片付いているようなら全部持っていっちゃうんだけど。

 久哉さんの様子を伺いに行くと入り口に背を向けて座り込んでいた。

「久哉さん?」

「ああ」

「何してるの?」


 アルバムを手渡される。

 私が見たこともない写真ばかりで、そこには若い私が写っていた。

「わたし?」 

「俺の片思いアルバム」

「えっ?」


 腕を取られて久哉さんがあぐらをかいている上に横向けに腰を落とす。強く抱きしめられる。

「こんな風に抱きしめる事ができるなんて夢みたいだ。結婚してくれてありがとう」

「わ、わたしのほうが、ありがとうだよ」


 力いっぱい抱きつく。

 色々不安だったものが溶けて消えたように軽くなった。

「久哉さん、愛してる」

「俺も愛してるよ」

 何度もキスをしていると代田さんに「お昼ですよ」と階下から声を掛けられた。

 やっぱり二人っきりじゃないのって不便。


 手を繋いで階下に降りてゆっくりと屋敷へ向かう。

 お祖父様は食べずに私たちを待っていてくれた。

「おまたせしました」

「ちょっとは片付いたか?」

「まだまだです」

「そうか。ゆっくりやれ」

「そうします」


 同じ敷地にいても同じ屋根の下でないとお祖父様は寂しいのだと思った。

「お父様、新居に移っても食事はこっちで一緒にとりますよ」

「そうか。デパート行くか?」

「今のところ必要なものがありません」

「うむ、そうか・・・」

「一緒に食事ができる時間に帰ってきてくださいね」

「飛んで帰ってくるからな」

「待っていますね」


 久哉さんは先に片付けに戻り、私はお祖父様と他愛もない話をしながら珈琲をゆっくり飲んだ。



「寿羽、引っ越しは披露宴が終わってからにしようか?」

「久哉さんがいいなら。その頃には新居も綺麗に片付いてるわね」

「そうだな」

「久哉さんありがとう」


 その日はゆっくり荷解きをすることにした。

 キッチンの箱を開けていると久哉さんがキッチン用品は買い替えようと言い出した。

 私が首を傾げていると「二人で揃えたい」と言い出してその意味に気が付くまでに数瞬だけ掛かった。

 真川との生活で使っていた物は箱に詰めて屋敷の方に置いておくことになった。





 いよいよ明日が披露宴。披露宴会場の船にドレスやその他必要なものが運び入れられる。

 船と聞いていて中型船の船を想像していたけれど、大型客船だった。

 でないと600人近くの人を一つのところに集められないよね・・・。

 この船を借りるって一体いくら掛かるんだろう?


 船が出てしまうと欲しいと思っても手に入れられなくなるから、必要そうなものはどんどん運び入れるようにとウエディングプランナーの柏田さんが手配してくれていた。

 披露宴の動線を確認して流れをざっとさらう。

 船の床は綺麗だったけれどこれからレッドカーペットが敷き詰められるらしい。

 まだ敷かれていないんだけど間に合うのかな?


「あの綺麗なドレスを垂らしても大丈夫なようにしますから安心してくださいね」

「ありがとうございます。ちょっと心配でした。トレーンの長いドレスを選ばなければよかったともう何度後悔したことやら・・・」

「そんなことない。凄く似合ってて綺麗だった」

「ドレスが汚れるのが嫌なんだもの」

「そう、だな・・・」


「心配いりません。心得ています」

「明日は美世さんと代田さんにドレスを持ち上げてって頼むわ」

 せっかくの披露宴なんだから切り替えていかなくちゃ。

 披露宴だから気が重くなるって言うこともあるんだけど。


 久哉さんに送ってもらって全身エステで綺麗にしてもらった。

 お肌もプルプル艶々になって、ウエストも1.5mm細くなった。

 それだけでもう、テンションは上がった。

 明日までこの細い腰を維持できるのかは別問題かもしれないけど。

 どうせなら明日の朝にエステを受けたかったよ。



明日 22:10 UP です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ