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離婚を選んで終の棲家だと思って借りた部屋はたった3ヶ月しか住めませんでした。  作者: 瀬崎遊


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20/29

20 結婚の準備1 寿羽 屋敷への引っ越し

 仕事を辞めてから二日ほどのんびりして、榛原さんの引っ越しの準備に取り掛かる。

 2月29日にお祖父様が手配した引越し業者がやってくることが決まっている。

 中身だけの小さな引っ越しだ。


 榛原さんの部屋には来月の半ばに両親が引っ越してくることになっているので中身は残していけない。

 当面必要のないものは私の部屋に入れておくことにして、必要なものだけを持っていくことになっている。


 私の部屋はこの後どうするのかは決まっていない。

 お祖父様が誰かに貸すと話していたけれど、荷物をおいたままになるので新居が建つまでは現状維持になる。

 榛原さんの部屋にはご両親が住むことになっている。

 

 管理人さんに引っ越しの話をすると引っ越ししてきたばかりなのに残念だと惜しまれた。

 私に関しては会社の同僚よりも管理人さんの方が名残惜しそうにしてくれた。

 榛原さんに関しては「お話は伺いました」程度だった。

 ふっふ。


 管理人さんと話をした後郵便局へ郵便物の転送を頼みに行く。

 近くの郵便局まで手を繋いでプラプラ歩く。

「こんなに短期間に住所変更して、郵便物の転居届け受け入れてもらえるのかな?」

「郵便局の人に聞いてみないとわからないな」

 2人分の転居届を出すと郵便局員は淡々と受け入れた。

 転居届は短期間に引っ越ししても対応してくれるらしい。

「愛想のない郵便局員だったよね」

「そうだな」




 引っ越しのトラックとともにお祖父様もやってきた。

 南さんは当然いるにしても、谷中さんまで一緒で驚いた。

 マンションの中を見たかったのだと子供みたいなことを言って家の中を見ていた。

 谷中さんと南さんはメジャーで部屋の広さを測って書き記している。


「お祖父様を招待する前に屋敷に帰ることになってしまいましたね」

「招待する気があったのか?」

「ありましたよ。私のことなのに、私の知らないところで色々話が決まっていて、展開についていけなくて・・・」

 業者が荷物を運び出している間に部屋の中を案内すると、お祖父様は満足そうにしていた。

「折角お祖父様が買ってくださったのに長く住めなくて残念です」


「それより屋敷に帰ってくるほうがいい」

「そうですか?」

「ああ。部屋も見たし、儂は先に帰っているぞ」

「解りました。遠いところをありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」

「お前たちが帰ってくるのを楽しみにしている」

 お祖父様は台風のように去っていった。


 

 榛原さんの部屋の荷物も全部積み終わって業者の車が出発する。

 榛原さんの家にはご両親が来ていて、ご両親が要らないものを業者の人に頼んで私の部屋に移していた。

 榛原さんの部屋の掃除を手伝おうとしたら「お祖父様のところに早く行ってあげなさい」と言われご両親に挨拶をしてマンションを後にした。


 私は胸にジュエリーBOXを抱えて車の中に乗り込んだ。


 


 お祖父様の屋敷に着くとお手伝いさんから庭師の皆さんまで、お祖父様と一緒に出迎えてくれた。

「お父様、ただいま戻りました」

「おう、・・・おう。お帰り。待っておったぞ」

「お世話になります」

「自分の家と思って暮らせ」

「はい。ありがとうございます」


 お祖父様が涙を浮かべて出迎えてくれる姿を見て、他の人たちも涙ぐむ。

 ここにいる人は全員私の味方でいてくれた人たちだ。

 母や祖母に酷いことをされないようにかばってくれた人たち。



 みんなに榛原さんを紹介する。

「榛原久哉さん。私の婚約者です」

 引っ越しの荷物が運び込まれているので個人の紹介はまた後でということになり、業者が荷物を運び入れてくれている場所へと向かった。

 キッチン用品など新しい家が建ってからしか使わないものは新しい家に近い部屋に一時置いておくことにして、普段遣いで必要なものだけが2階へと運び込まれる。


 仮住まいなのでそれ程荷物は広げない。

 内心、引っ越しは6月でも良かったのにと思っているのは誰にも言っていない。



 榛原さんの荷解きをしているとお祖父様に「時間だ」と言われて花柳へと連れて行かれた。

 榛原さんのヴェル◯ァイアを南さんが運転して行くことに。

 お祖父様のレ◯サスLMって4人乗りなんだよ。

 レ◯サスLM案外役に立たない。


 お祖父様はご機嫌で女将に榛原さんを私の婚約者だと紹介して6月に結婚することまでご機嫌に話していた。

 女将さんは「委細決まりましたら教えてくださいませ」と谷中さんにお願いしていた。

 榛原さんが来たらお祖父様に支払いを回すように伝えていた。

 勿論私が来たときも支払いはお祖父様だけど、お祖父様がいない時に来たことはない。

 だって一人で来ても最低でも2万円は飛んでいくようなお店においそれと来たりなんてできない。

 来たほうがお祖父様が喜ぶのは解っているんだけど、ちょっと無理。



「お父様、久哉さんはいつから仕事を?」

「3月4日からでいい。暫くは儂に付いて回るだけだな」

「解りました」

「お父様が無理しないでくださいね」

 お祖父様は嬉しそうに頷く。


「私はどうすればいいのですか?」

「どうしたい?」

「私、高卒だからお祖父様の会社では何もできないのと一緒でしょう?」

「儂も高卒だ」

「でも就職してくる人たちは大卒の人ばかりでしょう?実際私って役立たずなのよね・・・今更後悔してしまうわ。大学いかなかったこと」


「まぁゆっくりしてから、したいこと探せばいいんじゃないか?」

「そうね・・・どこか小さなデザイン事務所にでも勤めようかな」

「今度は子供ができて直ぐに休むか辞めることになるんじゃないか?」

「そう、かもしれないわね・・・私、何もすることがないわ」 

 ちょっと気落ちしながらも、先附にも蟹が使われていて最後のご飯まで蟹飯の蟹づくしを堪能して気分を持ち直して屋敷に戻った。





 お祖父様の時間に合わせて朝食を取る。

 調理場の手伝いをしようと思って顔を出したのだけれど、丁重に断られてしまった。

 いよいよ本当にすることがない。


 榛原さんとお祖父様を見送った後、手を付けていなかった荷解きをゆっくり始める。

 榛原さんの荷解きを優先させたので、私の荷物は手つかずのままだった。

 美世さんたちが手伝ってくれると言ってくれたのだけど、丁重に断った。


 荷解きをしながらふと祖母の四十九日はどうしたのだろう?と思い出す。

 階下に降りて美世さんか代田さんを探す。

 美世さんを見つけたので疑問を投げかける。

「お祖母様の四十九日はどうなったのかしら?」

「何もしておりません。遺骨はご実家に返したのでこちらでする必要はない旦那様がおっしゃられて」

「そうなのね」

 死んでからここまで存在を軽く扱われる祖母が少し可哀想だと思った。



 思考は色んな所へと飛んでいく。手も止まりがちだ。急いでいないから時間がかかってもいい。

 マンションからの住所変更は入籍の時に届け出ればいいと結論が出て2度手間を省くことになった。

 暇なので届け出してもいいんだけどなぁと考える。


 免許証の裏書きのスペースが無くなったらどうなるんだろう?

 ちょっとポチポチと検索をかけたら白い紙が貼られて変更事項が上書きされるとの検索結果。

 結婚したら白い紙貼られちゃわない?ぎりぎり書き込めるかな?

 今度は名字の変更はないしなぁ〜。


 白い紙を貼られた免許証を思い浮かべて、それはちょっと嫌だと思った。 白い紙が貼られた免許とごちゃごちゃと変更されたことが書かれた裏書きとどちらがいいか寝転がって暫く考えた。

 とにかく暇だった。

 荷解きを再開して飽きたら建設中の新居が建つ様を眺めて、それにも飽きたらまた荷解きをした。

 お手伝いさんの代田さんが「昼ご飯のご用意ができました」と呼びに来てくれたので階下に降りる。


 榛原さんとお祖父様が食卓に座っていた。

「帰ってらしたんですね。お迎えに出ずに申し訳ありません」

「出迎えなど必要ないぞ。今帰ってきたところだ」

「お疲れ様です」

「寿羽は何をしておったんだ?」

「聞きますか?荷解きをゆっくりしながら、飽きたら新居が建つ様を眺めて、それに飽きたら荷解きしていました」


「暇なんじゃな?」

「はい」

「そんな暇な寿羽に特別な仕事を用意した」

「なんですか?!」

 ちょっと身を乗り出した。

「披露宴の招待状の宛名を書くことだ」


 谷中さんからUSBメモリと大量のはがきと封筒、2種類の切手を渡される。

 がっかりした。

「お父様、今までの中で一番がっかりしましたよ。宛名書きって言ってもPCがやってくれるじゃないですか」

「まぁ、でもかなりの人数になるからそこは覚悟しておけ。芸能人も真っ青だぞ」

「最近の芸能人は入籍だけコソッとして終わっていますよ」

「そう言えばそうか」


「それに私、再婚なんですよ?あまり規模の大きいのは・・・」

「メインは儂と寿羽の養子縁組だからの。大きく派手にやる」

「もしかして本気で日本で一番高いところで結婚式するんですか?」

「そうだ。6月2日にムーンツリーを押さえた」

「えっ?本気だったんですか?!」

「うむ。披露宴はこっちでやるが、結婚式はTV局がニュースで取り上げる算段になっておる」

「算段って・・・苦労したんですね?」


「榛原兄がな、言うには350階での結婚式は前にやってるらしくてな、だから450階で結婚式をする。向こうに行ってウエディングドレスやら何やらを決めにいかないとならん」

「450階ってたしか床が所々ガラス張りじゃなかったですか?」

「らしいの。考えるだけで縮み上がりそうだ」

「そんな場所で結婚式なんかしないでくださいよ!」


「榛原兄がノリノリでの・・・酒の勢いもあって・・・つい・・・」

「おとうさま・・・。榛原さんは高いところ大丈夫なんですか?」

「・・・行ってみないとわからない。というのが正直なところだ」

「駄目だったらどうするんですか?!結婚式中止ですか?」


「決定だから意地でも笑顔を貼り付けておけ。寿羽を見ていたら高いところなんて怖くない。筈だ!!」

「久哉さんのご両親は大丈夫なんですか?仁輝(とよてる)君と愛花まなかちゃんは怖がるんじゃないですか?」

「駄目なときは子供たちだけ下ろすと言っていた。だから結婚式には美世を連れて行く」


「お父様・・・そこまでしなくても・・・」

「披露宴はまぁ、こっち?でやるから諦めろ」

「それは、まぁ、安心?です。普通にホテルですよね?」

「期待を裏切ってすまん」

「えっ?」

「船だ」


「船を借り切った。披露宴は6月30日になる」

「えぇ・・・結婚式からほぼ一ヶ月、間が空くじゃないですか?」

「休日の大安が他にないんだから仕方なかろ?まぁ、6月2日にTVで放送されたらそれからはあちこちが大炎上だな」


「お兄さんが言ってたんですか?」

「そうだ」

 お祖父様が満足そうに頷く。

「久哉さん・・・」

「会長と兄貴は混ぜると危険みたいだ」

「そうみたいですね」


 榛原さんはお祖父様のことを呼びあぐねて“会長”に落ち着いた。

 結婚すればお義父さんと呼べるけれど結婚までは呼べない。

「なんて呼んだらいいと思う?」

 なんて真面目な顔で相談されたときは吹き出してしまった。


 代田さんが珈琲を入れてくれて、お祖父様が飲み干したら慌ただしく出ていった。

 今度の休みに天空ムーンビルにでも行ってみようかな。

 高いところ巡りしてみないといけないかも。



 取り敢えず荷解きは一旦中止して、招待状の印刷を始めることにした。

 まだ余裕はあるけど、間に合わなくなったら大変だ。急がないと。

 お祖父様の仕事部屋には業務用の印刷機があるのでそこで内職をするように印刷した。

 招待客は約400人。同伴する人がいることを考えると少なくても600人にはなるのではないかと思った。

 ハッキリ言って知らない人ばかりだ。


 まさかの真川の小父様にも招待状送るんだ・・・。小母様も来られるのかな?離婚の時挨拶しなかったんだけど・・・。

 榛原さんに伝えておいたほうがいいよね・・・?

 二度目の披露宴の招待状。前回招待した人はほとんど招待されているよね?

 再婚なら披露宴なんかするなって言われそうだわ。


 離婚したことを知らなくて、披露宴の招待状を貰って首を(かし)げるんじゃないだろうか?

 そう思うとちょっと笑えた。


 印刷機が頑張っている間に、慶事用の切手をちまちまと切り分けて貼っていく。

 切手、切り分けるだけでも大変だよ。

『竹』が封筒『梅』が返信用はがき。

 谷中さんがやることは抜かりがないなぁ〜と感心する。

 インクが切れて、予備のものと入れ替える。


 真川との結婚式も結構盛大だった。今回ほどではないけど。

 一時期話題をさらうほどには大きな結婚式だった。

 その結婚式の最中に母が私に『寿羽は幸せになれないわ!不幸になればいいのよ!!』と大声で叫んでいた。

 

 お祖父様は当然母を毛嫌いしていたけれど排除しようとするようになった出来事だった気がする。

 結婚式後にお祖父様が父にお金を渡さなくなったと母が電話してきて私を罵っていた。

 馬鹿らしくて当然着拒した。


 あっ!今まで両親、兄姉から何の接触もないと思っていたら真川の一件で電話番号を変えたことを連絡していなかったからだと気がついた。

 なんていいタイミングだったんだろう!!祖母のことで連絡がないのはちょっと不思議だったんだよね。

 納得したわ。本当に電話番号を変えていてラッキーだった。


 招待状リストを見ても両親、兄姉の名前はなかった。

 それを知って嬉しく思う。

 真川との結婚式みたいなのは二度とごめんだ。

 今度はケチを付けさせたくない。幸せになって見せる。


 同じ作業を続けていて疲れを感じたので体を動かそうと思って庭に出た。

 カンコンバシュッと音が鳴る建設中の新居を眺めて飽きたら歩いて、続きの作業を思い出してちょっとげんなりして、招待客リストに名前がなくても招待していなくても両親は・・・母は私を罵りに来るのではないかとちょっと不安になった。


 あっ!だから船なのだと腑に落ちた。

 結婚式は家族だけの少人数で、その上特殊な場所。関係のない人は入ることが叶わない。当然両親には招待状もない。披露宴が30日だから2日の結婚式に関しては情報を手に入れようがない。

 お祖父様・・・ありがとう。

 お祖父様の愛が重いなんて思っていてごめんなさい。


 そして今も守られているのだと気がついた。

 跳ね橋が上がっていたから。

 私は退屈だ、暇だ、なんて呑気に思っている場合ではなかったのだ。


 退屈な日常をお祖父様が必死に守っていてくれているのだ。

 退屈なことに私は感謝しなければならなかったんだ。

 さっきはがっかりなんて言ってごめんなさい。

 私はこの退屈を心から楽しむことにした。



 守られていることに気がついてからは、朝起きてお祖父様達と一緒に朝食を食べて、2人を送り出す。

 それから庭をゆっくり長く走って腹筋や腕立ては・・・出来ないから膝をついて腕立てをする。

 結婚式の頃には膝をつかずに腕立てできるようになってたらいいな。

 教育番組でやっていたヨガを録画して見様見真似(みようみまね)で毎日やっている。

 今私にできることは結婚式に向けて引き締まった身体づくりを頑張ることね。

 胸は落とさずウエストを絞る!!



閏年であることを全面に出してみました(笑)


7月6日、22:10 UP 予定です。

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