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01 離婚1 寿羽 夫の浮気

現代日本ですが、法律や刑罰等が正しいのか解らないので、その辺りはふわっとした日本だと思ってください。m(_._)m

季節はずれています。

この話は11月半ばから始まります。

 昨日買った林檎が美味しくなくて捨てるのはもったいないし、何か使う方法がないか考えた。

 果汁はたっぷりあるけど甘みも酸味も全く足りないので砂糖とレモンを足すことが必須に思えた。

「お祖父様が送ってくれる林檎は美味しいのになぁ・・・」


 思いついたのがジューサーで実とジュースに分けることだった。

 けれど持っているのはミキサーだったので、ギュッと絞って絞りかすとジュースに分けた。

 ジュースの方にレモン果汁と砂糖、ゼラチンを入れて火にかけてゼラチンを溶かす。

 少し味見をして酸味がもう少し欲しかったのでレモン果汁を結構どぱどぱ足して、少し冷ましてから器に注いで冷蔵庫に入れた。


 絞った林檎の絞りかすはカレーの中に入れるくらいしか思いつかなくて、今晩はカレーにしようと決めた。ルウの買い置きがなかったのでカレールウを買いに寿羽(ひさね)は近所のスーパーへと出かけた。



 日常使いのスーパーに足を踏み入れると、知らない女性を連れた夫が笑顔でカートを押していた。

 仲よさげに二人で野菜の吟味をしている。

 ちょっと驚いた。夫は私と一緒にスーパーに行くようなタイプの男ではなかったから。

 相手が代わるとすることも変わるのかと妙に納得した。


 寿羽はそっと近寄って夫の正面に立ち塞がった。

 夫を見据えると慌てて言い訳をし始めた。

「なっ!寿羽!!どうして?!あっ・・・違うんだ!!」

「この後あなたはどうするの?」


「えっと・・・?」

「その人と買い物をしてその人と帰るのか、そのカートから手を離して私と一緒に帰るのかって聞いているんだけど?」


 私はスマホを取り出し二人が一緒にいる姿を撮影する。

 女性の顔のアップ写真も撮影しておく。

 夫は連れの女性をかばうことはせずにまだ私に言い訳をしている。


「も、勿論、寿羽と一緒に帰る、よ」

「そう・・・。貴方名前は?」

「あの、・・・」

「名前を聞いているんだけど?」

「その・・・高坂こうさか美来みらいです」


「そう、年は?」

「21歳です」

「ここで買い物しているんだから近所なのよね?連絡先教えてもらえるかしら?」

 連絡先を聞かれて不安が増したのか黙ってしまう。


「教える気がないなら色々調べる方法はあるから・・・」

 高坂と名乗った女はバタバタして一枚の名刺を取り出し私に渡してきた。

 プライベート用の名刺なのか仕事に関する情報は記載されていない。

 プライベート用の名刺ってかなり遊んでるんじゃない?


「じゃぁ私は買物してくるからその間に言い訳でも次の約束でもすればいいわ」

 夫から女へと視線を移す。女はビクッと震える。

 ちょっと意地悪な感情が湧いてしまう。

「次に会うときは裁判所になるかしらね。お世話様ね」

 私は夫と女に飛び切りの笑顔を披露して、カレールウが陳列されている棚へと足を運んだ。



 普段は安売りのものを買うけれど、ちょっと言いようのない感情が渦巻いていたので今日は高級なカレールウを二種類買うことにした。

 夫のことは視界に入れないようにスーパーから出た。

 夫は直ぐ後を追いかけてきたけれど私は自転車だし、一緒にノロノロ歩く気にはなれないので、夫を置いて私は自転車のペダルを踏みしめた。



 私が自転車を止めて家に入って、トイレから出てきたら夫が家の中にいた。

 肩で大きく息をしている。一応走って追いかけてきたのね。

 まぁ、普通なら及第点になるのかな?どうなのかしら?

 私は夫に声をかけることはせず、当初の予定通りにカレーを作り始める。


 キッチンの入口でウロウロしている夫が鬱陶しいと思ったけれど夫から声を掛けてこないし、こちらから声を掛けるのはなんだか違う気がして、夫をいない者として扱うことに決めた。



 玉葱、人参を薄切りにして・・・冷凍していたすじ肉を解凍していなかったことを思い出す。

 冷凍庫から下茹でしてあるすじ肉を取り出して冷凍保存袋のまま水に漬けた。

 

 玉葱と人参を炒めている間に南瓜のワタと種を取り分ける。ワタだけ少し刻む程度に包丁を入れる。

 種はどうしようかな・・・?

 夫をスーパーで見つけてしまったから、このまま何もなかったふりで主婦をしている未来は考えられないのよね・・・。

 もったいないけど今回は捨てるしかないかな。


 炒めた玉葱と人参にすじ肉と水を入れ、沸騰してから南瓜のワタの部分と林檎の絞りかすを入れて、圧力鍋で蒸気が出るまで火にかける。


 私の作業が一段落ついたことに気がついたのか夫が「話がしたいんだけど・・・」と言うので火の調整をして振り返る。

「ごめん・・・」


 何に対しての謝罪なのか解らない。

「とりあえず座らないか?」

 (うなが)されダイニングテーブルのイスに腰掛ける。

 夫も正面に腰を下ろす。


 夫は口を開くけれど何を言ったらいいのか解らないらしく、金魚が餌を探しているみたいに口をパクパクさせている。

 待てど暮らせど弁明も説明もされないまま、圧力鍋が蒸気を発している。

 立ち上がり火を止め圧が下がるまで待つ。

 座っていたイスに腰を下ろす。


 少し想像とは違う夫の態度に違和感を感じた。

 私の知る夫なら開き直るかと思っていた。

 典型的な釣った魚には餌はやらない人なので謝罪を一番に口にしたのもびっくりだし、何も言えず視線が彷徨っていることが不思議でならなかった。


 鍋の圧が抜けたので、何も言わない夫を相手にしていられなくてキッチンに戻る。

 野菜が煮えたか確認して粗熱を取るために鍋ごと水に漬ける。

 すじ肉だけ取り除いておく。

 粗熱が取れたところでミキサーに入れてスイッチを押す。

 ミキサーが回るのを何も考えず眺めていた。

 

 夫がキッチンの入口でウロウロしている。

 本当に鬱陶しい。


 ミキサーの中身を鍋に戻して火にかける。

 鍋の淵がフツフツとしてきたのですじ肉を戻してコンソメとローリエを入れて、トマト缶も入れて少し水を足す。

 沸騰したら火を小さくしてじっくり煮込む。


「寿羽」

 名を呼ばれたら振り返るしかなくて夫へと振り返る。

「座ろう」

 自分の分だけ丁寧に紅茶を入れてさっきと同じように定位置へと腰を下ろす。

 夫もさっきと同じように正面に腰を下ろす。


「本当にごめん」

 だから何に対して謝っているのから解らない。

 私が腹を立てているとでも思っているのかしら?

 なら見当違いなんだけど・・・。

 紅茶を一口飲んで自分が喉が渇いていたことに気がつく。

 もう一口飲んで夫へと視線を向ける。


「今日は有給を取ったんだ」

 私以外のためなら有給取るんだ・・・。

 私のために有給なんて使ってくれたことなんてなかった。


「信じてもらえないかもしれないけど今日が初めてなんだ。まだ何もしていない」

 それが本当ならため息を吐きたいくらいに鈍臭(どんくさ)い人だと思う。まぁ、そんな事信じないけど。


「彼女とはここに引っ越してきて直ぐの頃から電車で一緒になることが多くて、なんとなく会釈するようになったんだ・・・それから徐々に言葉を交わすようになって・・・」

 それって結婚直ぐからってこと?本気で落としに掛かってたってことなんじゃないの?


「いつの頃からか夜電車や駅で会うと駅前の立ち飲みに行って少し話すようになったんだ。それで昨日の夜も偶然会って、立ち飲みに行ったんだ。話している内に彼女が今日仕事が休みだと言ったから・・・俺も有給を取ったんだ」


 いやだ・・・。夫の恋愛話を聞かされるって何の罰ゲーム?

 それで今までずっと帰ってくるのが遅かったんだ。

 まぁ、薄々は感じていたけど。

 結婚して2ヶ月ほどで帰ってくるのが極端に遅くなった。それが当たり前になっていたから気にもしなくなっていた。


 新しい仕事を任されて忙しいと言っていたのに女のところに行っていたんだ。

 夫が帰ってくるまで何も食べずに待ってた私って馬鹿じゃない?

 もしかしたら結婚する前から関係があったのかな?

 だったら相手は21歳って言ってたから未成年よね?


 鍋が焦げ付くのではないかと、一度立ち上がって鍋底から混ぜる。

 夫は私が立ち上がると付いて来てそのまま話し続けた。


「今朝、駅前の喫茶店で待ち合わせして、少し公園を一緒に歩いて、ベンチに座って話をしていたんだ。そうしたら昼ご飯をご馳走してくれるって彼女が言ったから一緒に買い物をしようとあのスーパーに行ったんだ」

 

 この人、本当にどういうつもりなんだろう?

 家の近所で私と会う可能性を少しも考えなかったの?

 本当にこの人馬鹿なんじゃない?



 私は鍋をかき混ぜ続ける。

「寿羽!聞いてくれ!!」

 ケチャップとソースを入れて顆粒の昆布出汁を入れる。

 邪道だと言われようと私はカレーに昆布出汁を入れる。

 そのほうが私の口にあって、美味しいと思うから。


 茄子を厚めの輪切りにして、少量のオリーブオイルをフライパンで熱して茄子を焼く。

 大蒜と生姜をすりおろしてカレーの鍋に入れ、茄子も入れる。

 カレールウを入れて茄子を潰さないようにルウが溶けるまでかき混ぜる。


 溶けても暫くは火にかけたまま混ぜ続けて、味見をして満足のいく味になったので、火を止め鍋に蓋をした。

 洗い物をして流しを拭き上げる。

 することが無くなったので仕方なくまたイスに腰を落とした。


 夫も同じように座る。

「カレーでも手間が掛かるんだな・・・」

 何を言っているんだこいつと思ってしまった。

 ちょっと怒りが湧く。家の中で私が遊んでいるとでも言いたいのかしら?

 私が腹を立てていることに気がついたのか夫は口を閉じる。

 数分の時間が流れた。



「本当に今日が初めてだったんだ」

 もう、そんな話はどうでもいいんだけど・・・どっちみち何を言ったって信じられないし。

 冷静にならなくちゃ。私がどうしたいか考えなければならないわ。

 私はどうしたいんだろう・・・?


 このまま許す?

 許せないなら離婚しかないわよね?何もしていないという配偶者と離婚って普通では認められないんじゃないかな?

 離婚はありえない?!

 ああ、問題の先送りで別居もありかな。その先はやっぱり離婚よね?

 とてもじゃないけど許せる気がしないし、それ以前にこれは離婚する絶好のチャンスと思える。

 何もなかったかのように元の生活には戻れない。


 そうだ!


 勢いをつけて立ち上がり、通帳の隠し場所から夫名義の通帳を3冊引っ張り出す。


「付いて来て」

「え?どこ行くんだ?」

「銀行」


 3箇所銀行を巡って夫名義のお金を全額引き出す。

 勿論引き出すのは夫。

 残すのは5円だけ。ご縁はもう必要ないけどね!!

 おろしたお金をすべて私の通帳に入れて私は大いに満足した。

 どうせ夫は他に隠している通帳を持っているんだからいいよね。


 銀行を巡った夫の顔色は悪い。けれど文句は言わないから気づいていないフリをする。

 家に帰り着いて私は冷めた紅茶を一気に飲み、新しい紅茶を入れ直す。

 私は通帳の残高の分だけ気持ちにゆとりが出た。

 自分の単純さに笑いが漏れそうになった。



「で、離婚する?」

 夫は慌てて首を横に振る。

「しない!!」

「私は離婚したいかな。気持ちはハッキリ言って離婚に振り切れてる」


「本当に俺は何もしていないんだ!!」

「何もしなければいいってものではないでしょう?」

「・・・・・・」

「貴方の手口は私がよく知っているもの」

 手にすべきものは手に入れたし、あっさりと離婚したほうがいいと思う気持ちがどんどん大きくなってくる。


「さっきより離婚した方がいいと思う気持ちはさらに大きくなってきたわ」

「寿羽!」

「あなたはどういうつもりで浮気をしようと思ったの?離婚の覚悟は勿論あったんでしょう?」


「そんな、覚悟は・・・なかった・・・」

「でも他の人とうまく行けばいつかは離婚を考えるかもしれないでしょう?さっきの人と真剣に付き合ってみればいいんじゃない?」

「寿羽と別れたいなんて思ったことは本当にないんだ。愛しているのは・・・」


 愛しているのは寿羽だけなんて言われたくなかったので夫の言葉に被せるように言う。

「愛していたら浮気なんかしないわ」

「・・・本当にちょっとした出来心だったんだ」


「出来心で痛い目を見る事になったわね」

「離婚なんてしない!!」

「う〜・・・ん・・・・じゃぁ、別居しましょう。あなたは心を傾けている人と関係を続ければいいわ。うまく行けば貴方は幸せになれるじゃない」

「そんな事しないっ!」


 笑える!さっきまでしようとしていたことなのに。

「まぁ、好きにして。取り敢えず私は出ていくわ」

「寿羽!」

「だって許せる気がしないんだもの。仕方ないわ」


「許してくれ!」

 涙を溢す夫に呆れた。

 泣くくらいならバレないようにすればよかったのよ。

「彼女に連絡を取ってご飯を作ってもらったら?一応今日の晩御飯はカレーだけど」


 いつの間にか窓の外はオレンジ色の空に変わっていて、昼食を食べそこねたことに気がついた。

 いつものことを考えたら夕食には早い時間だけれどカレーを食べることにした。

 小鍋に1人分のカレーをよそって火にかける。

 食べるのは私だけだし簡単にレタスをちぎってお皿に盛る。


 レタスだけのサラダ何ていうんだったけ?

 確か・・・ハネムーンに関係あったような・・・。

 思い出せなくてスマホでポチポチ検索をかけるとそのままの名前だった。

 ハネムーンサラダ・・・ひねりも何も無いそのままの名前だった。

 サラダに手間を掛ける気がしなくてハネムーンサラダを用意する。


 カレー皿にご飯をよそって福神漬けを少し多めに盛る。カレーをかけて、スプーンをつかんでテーブルに腰を下ろした。

 夫はイスに座ったままだったけれど気にせずに私はカレーをすくって口に入れた。

 とっても美味しい。いつも作っているカレーとは当然味が違う。この味を知ったら高級ルゥやめられなくなりそう。


 眼の前には目の周りが赤くなっている夫がいて、吹き出しそうになったけれど、必死に取り繕った。


 やっぱりお値段が高いカレールウは美味しいわね。

 南瓜のワタが自然な甘みを出していて美味しい。

 最悪な1日だけどこのカレーには幸せを感じた。

 夫はもの言いたげにしているけれど、この場で口を開くことはなかった。


 お風呂に湯をためながら洗い物を手早く済ます。

 いつもは夫より先にオフロに入ったりしないのだけど、今日からは知らない。

 もったいなくて使えなかった頂き物のとっておきの入浴剤をぽとりと落とす。

 綺麗なローズ色になって薔薇の香りが広がる。

「う〜ん〜・・・贅沢」


 普段は夫の機嫌が悪くなるので長風呂はしないのだけれど、今日は1時間ほどかけてゆっくりお風呂に入る。

 これからは自分磨きをしなくちゃね。

 今度はいい男を探そう。

 ん?私、離婚する気満々?

 うん。離婚する気満々。


 はぁ〜〜〜・・・。結婚前はいい男だと思ったのになぁ〜。

 夫の教育方法が悪かったのかな?

 っていうか結婚してからは私の言うことなんか耳に入っていなかったけど。

 次は失敗しないようにしないとね。

 その前に離婚しなくちゃだけど。

 離婚できるのかな?妻としてはこれくらい許すべきなのかな?



 お風呂上がりに林檎ジュースで作ったゼリーを食べる。

 結構レモン果汁を入れたつもりだったけどもっと酸味が利いている方がよかった。

 夫もカレーを食べたみたいで量が減っていた。


 残ったカレーを一回分ずつに小分けして2食分だけ冷蔵にして、残りは冷凍にした。

 冷凍するために私の作るカレーにはじゃがいもを入れない。

 じゃがいもの入ったカレーが食べたいときは(ふか)したり、湯がいたりしたじゃがいもを後から入れる。

 洗い物をして炊飯器の中身を確かめてから、歯磨きをして自分の仕事部屋のソファーベッドで眠った。


 眠れないかと思ったけれど、びっくりするくらいぐっすりと眠れた。

 それにとってもいい夢を見た。

 仕事に復帰して、バリバリ働く夢。 

 結婚前には当たり前だった日常。

 はぁ〜・・・離婚したい・・・。

29話で完結予定です。

明日22:10 UPです。

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