5ー4
私は、このクラスにいる生田ナオが気になっている。
もう……ずっと前から。
「前園さん? どうしたの。さっきから、ボーとしてるけど」
心配そうに私の顔を覗きこむクラスメイト。
「あっ、ごめん! この問題の解き方だったよね。これは」
視線の先、窓の外を死んだ魚のような目で眺めている生田。彼には、恐い存在だと思われているに違いない。
昼休み。
いつものように、隣のクラスのナナが我が物顔で教室に入ってきた。そして、当然のように生田とご飯を食べている。
「……っ」
私は、この時間が一番苦痛だった。我慢出来ない。
ママが早起きして、せっかく作ってくれたお弁当。生田とナナが気になって、いつも味わう余裕がない。
放課後。
私は、勉強をするふりをして教室に一人残っていた。静かな教室。射し込む夕陽。
急に………。
……急……に……。
なんでかな。
悲しくなってきて、涙がポタポタこぼれた。
書いた文字が、滲んでいく。
「ぅ……ぅ…」
ガラガラガラ。
「っ!?」
突然、教室に誰かが入ってきた。私は、慌てて涙を拭くと教科書で顔を隠した。
「前園さん? 勉強してるんだ。すごいなぁ、やっぱり」
生田だ。
顔に熱が集中するのを感じた。
この情けない泣き顔を見られたかな。
「何しに来たの?」
「忘れ物。体操着をさ」
「そう……。勉強の邪魔だから、早く出て行って」
こんなこと言いたくないのに!
なんで、私はいつも………こうなんだろう。
「うん。邪魔して、ごめんね」
行かないで!
行かないでよ……。
「泣いてるの?」
彼が、ドアの前で振り返る。
「泣いてない。早く出て行ってっ!」
「えっ…でも。目が、真っ赤だし」
「目が乾燥したの。ただ、それだけ」
悩んだ様子の生田。急いで戻ってくると私の隣の席に座った。
「僕も勉強するよ。今度の模試は、結果出すから」
「………………じゃあ、離れて座って。気が散るから」
「悪いんだけど……分からないとこを教えてほしいんだ。特に数学がワケわからなくてさ。分からないとこが、分からないんだよ」
少しの間、一緒に勉強した。
それだけなのに乾いた心が、満たされた。
「えっ、こんな簡単な問題も分からないの?
塾で習ったじゃない」
「そ、そう? この公式……ツカイマスカ?」
「なんでカタコトなのよ。フフっ、ここはね」
この時間が、永遠に終わらないでほしかった。
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朝から雨が、降っている。
憂鬱で。頭も痛い。
それでも私は、学校に行った。生田に会いたくて。
今度の模試が終わったら、彼に告白しよう。もう待てない。いや……私は、待ち過ぎた。
学校に着いても、調子が悪かった。熱っぽい。風邪かもしれない。
生田は………いた。
今日も窓の外を見ている。
ねぇ、生田。
外には、何があるの?
アナタには、何が見えてるの?
フラフラする頭で、何とか授業を消化した。やっと、放課後になった。
はぁ……はぁ…ぁ……。
帰る生徒がいる中、逆に勢いよく教室内に入ってくる人物。隣のクラスのナナだ。
「ねぇ、ナオ。一緒に帰ろうよ。ほらっ、早く! 早く!」
「ごめん、ナナ。僕さ、勉強してから帰るよ」
「勉強~? ナオのヒヨコ脳なら、勉強してもあまり変わらないと思うよ」
「ひどいな……。いいから、先に帰ってて。僕だって、意地があるんだよ」
「ふ、ふ~ん。…………分かった。もう、いいもん。二度と誘わないから!! じゃあね、サヨナラ!!」
生田の悪口をわめき散らしながら、走り去るナナ。
はぁ、やっと静かになった。
いつものように、生田と一緒に勉強した。
でも熱のせいか、内容が全く頭に入らない。
「前園さん?」
はぁ……ぁ……。
ドサッッ。
…………………。
……………。
……。
気がつくと私は、保健室のベッドの上にいた。保健の末松先生が携帯ゲームをやりながら、チラチラ私を見ている。甘いリンゴ飴の匂いがした。
「あっ! 目を覚ましたのね。 気分は、どう?」
「はぃ……。大丈夫です」
壁時計で時間を確認する。あれから一時間半たっている。寝たせいか、気分はだいぶ良かった。
「熱は、少し下がったみたいだけど。帰れそう?」
「はい。先生、ありがとうございました」
立ち上がると、まだ少し目眩がした。
部屋の隅っこで、居心地悪そうに薬棚を見ている生田。
「倒れたアナタを彼が、ここまで運んだのよ。ふふ……若いって羨ましいな」
私は、慌てて保健室を後にした。
帰り道。
夜が、すぐそこまで来ている。
「大丈夫?」
「……うん」
「良かった。急に倒れたから、心配したよ」
「生田…………」
「何?」
アナタが、好きです。
「もうすぐ、模試だね! 頑張ろうね、お互い」
「うん。負けないよ!」
彼の背中が見えなくなると、堪らなく寂しくなった。
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今日は、運命の日。
塾の統一模試。やっと、終わった。
僕は、今までで一番の手応えを感じていた。前園さんのおかげだ。文句を言いながらも僕のバカな頭に真摯に向き合ってくれた。
お礼の一つでもしないとな。何が良いかな。う~ん。女子が、喜ぶもの。う~ん。
「生田……。一緒に帰らない?」
前園さんだ。最近、良く会うな。




