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月ノ獣  作者: カラスヤマ
56/61

5ー4

私は、このクラスにいる生田ナオが気になっている。


もう……ずっと前から。



「前園さん? どうしたの。さっきから、ボーとしてるけど」



心配そうに私の顔を覗きこむクラスメイト。



「あっ、ごめん! この問題の解き方だったよね。これは」



視線の先、窓の外を死んだ魚のような目で眺めている生田。彼には、恐い存在だと思われているに違いない。



昼休み。



いつものように、隣のクラスのナナが我が物顔で教室に入ってきた。そして、当然のように生田とご飯を食べている。



「……っ」


私は、この時間が一番苦痛だった。我慢出来ない。



ママが早起きして、せっかく作ってくれたお弁当。生田とナナが気になって、いつも味わう余裕がない。



放課後。


私は、勉強をするふりをして教室に一人残っていた。静かな教室。射し込む夕陽。



急に………。


……急……に……。



なんでかな。


悲しくなってきて、涙がポタポタこぼれた。


書いた文字が、滲んでいく。


「ぅ……ぅ…」



ガラガラガラ。



「っ!?」



突然、教室に誰かが入ってきた。私は、慌てて涙を拭くと教科書で顔を隠した。



「前園さん? 勉強してるんだ。すごいなぁ、やっぱり」


生田だ。


顔に熱が集中するのを感じた。

この情けない泣き顔を見られたかな。



「何しに来たの?」



「忘れ物。体操着をさ」



「そう……。勉強の邪魔だから、早く出て行って」



こんなこと言いたくないのに!

なんで、私はいつも………こうなんだろう。



「うん。邪魔して、ごめんね」



行かないで!


行かないでよ……。



「泣いてるの?」


彼が、ドアの前で振り返る。



「泣いてない。早く出て行ってっ!」



「えっ…でも。目が、真っ赤だし」



「目が乾燥したの。ただ、それだけ」


悩んだ様子の生田。急いで戻ってくると私の隣の席に座った。



「僕も勉強するよ。今度の模試は、結果出すから」



「………………じゃあ、離れて座って。気が散るから」



「悪いんだけど……分からないとこを教えてほしいんだ。特に数学がワケわからなくてさ。分からないとこが、分からないんだよ」



少しの間、一緒に勉強した。


それだけなのに乾いた心が、満たされた。


「えっ、こんな簡単な問題も分からないの?

塾で習ったじゃない」


「そ、そう? この公式……ツカイマスカ?」


「なんでカタコトなのよ。フフっ、ここはね」


この時間が、永遠に終わらないでほしかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



朝から雨が、降っている。

憂鬱で。頭も痛い。

それでも私は、学校に行った。生田に会いたくて。



今度の模試が終わったら、彼に告白しよう。もう待てない。いや……私は、待ち過ぎた。

学校に着いても、調子が悪かった。熱っぽい。風邪かもしれない。



生田は………いた。

今日も窓の外を見ている。



ねぇ、生田。



外には、何があるの?


アナタには、何が見えてるの?



フラフラする頭で、何とか授業を消化した。やっと、放課後になった。



はぁ……はぁ…ぁ……。



帰る生徒がいる中、逆に勢いよく教室内に入ってくる人物。隣のクラスのナナだ。


「ねぇ、ナオ。一緒に帰ろうよ。ほらっ、早く! 早く!」



「ごめん、ナナ。僕さ、勉強してから帰るよ」



「勉強~? ナオのヒヨコ脳なら、勉強してもあまり変わらないと思うよ」



「ひどいな……。いいから、先に帰ってて。僕だって、意地があるんだよ」



「ふ、ふ~ん。…………分かった。もう、いいもん。二度と誘わないから!! じゃあね、サヨナラ!!」



生田の悪口をわめき散らしながら、走り去るナナ。



はぁ、やっと静かになった。


いつものように、生田と一緒に勉強した。

でも熱のせいか、内容が全く頭に入らない。



「前園さん?」



はぁ……ぁ……。



ドサッッ。



…………………。

……………。

……。



気がつくと私は、保健室のベッドの上にいた。保健の末松先生が携帯ゲームをやりながら、チラチラ私を見ている。甘いリンゴ飴の匂いがした。



「あっ! 目を覚ましたのね。 気分は、どう?」



「はぃ……。大丈夫です」



壁時計で時間を確認する。あれから一時間半たっている。寝たせいか、気分はだいぶ良かった。



「熱は、少し下がったみたいだけど。帰れそう?」



「はい。先生、ありがとうございました」



立ち上がると、まだ少し目眩がした。

部屋の隅っこで、居心地悪そうに薬棚を見ている生田。



「倒れたアナタを彼が、ここまで運んだのよ。ふふ……若いって羨ましいな」


私は、慌てて保健室を後にした。



帰り道。


夜が、すぐそこまで来ている。



「大丈夫?」


「……うん」


「良かった。急に倒れたから、心配したよ」


「生田…………」


「何?」



アナタが、好きです。



「もうすぐ、模試だね! 頑張ろうね、お互い」


「うん。負けないよ!」



彼の背中が見えなくなると、堪らなく寂しくなった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日は、運命の日。

塾の統一模試。やっと、終わった。

僕は、今までで一番の手応えを感じていた。前園さんのおかげだ。文句を言いながらも僕のバカな頭に真摯に向き合ってくれた。

お礼の一つでもしないとな。何が良いかな。う~ん。女子が、喜ぶもの。う~ん。



「生田……。一緒に帰らない?」



前園さんだ。最近、良く会うな。



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