5ー3
覚醒者を一人残らず、この世から消す。俺は、黒い風の中で誓った。
1ヶ月後ーーーー
俺は組織に雇われ、今は奴等のために働いている。俺に薬を提供した、あの男が所属する狂った組織。法律さえ、片手でねじ曲げる圧倒的な権力。本気になれば、大国と戦争することも可能だろう。ホテルで自殺を図る前から、組織のメンバーがずっと俺の行動を監視していたらしい。
今の仕事は、とてもシンプルだ。
覚醒者を見つけ、上司に報告すると50万。自分の手で覚醒者を殺ると200万が、現金で即支払われる。
俺は今、サラリーマンをしていた頃の十倍以上稼いでいる。
深夜2時。
俺は、ある会員制パーティーに参加していた。参加者は、男女合わせて10人程度。会場に入る前、厳しいボディーチェックをされた。覚醒者かどうかのチェック。
覚醒者だけしかこの中には入れない。
薄暗い会場。マイクを握る司会の大男。壇上にある巨大モニター。
血と獣の臭いを誤魔化す為のお香が、室内に何個も設置されている。俺は、配られた甘すぎるシャンパンを飲み干した。
「時間になりましたぁ!! それでは、皆さん。奮って、ご参加くださいぃ。まず最初の商品は、これですッ!」
モニターに映し出されたのは、冷たい床に横たわる少女。死んではいないだろうが、足枷をはめられて、罪人のような格好をしている。ちゃんと食事を与えられていないのだろう。ガリガリに痩せ細っていた。
「では、50万からスタートです」
俺たち参加者は、事前に赤色と青色のカードを主催者から渡されていた。
赤は、10万ずつ金額が増え、青は、50万ずつ増えていく。
この場所では、不定期に非合法の人身売買を行っている。参加者は、全員覚醒者で。しかも、有名人や政治家など。さまざまなエリートが集まっている。
「No.4様が、110万で落札です。おめでとうございます!!」
怒りを通り越し、絶望した。人の命をコイツらは………。
殺してやる………害虫のように。
俺は、殺気を必死に抑え、チャンスを待った。
「では~、これが最後の品となります。今後の開催は未定ですので、ぜひ皆様。本日の目玉商品を競り落として下さいッ!!」
巨大モニターに映し出されたのはーーー
俺たちがいる会場。そして、一人一人のアップ画像。
「っ!?」
「チッ………」
「ハハハハ」
それまで無言だった覚醒者達が、足早に会場の外に出ていく。もちろん、外には組織の狩人が罠をはり、待ち伏せしている。逃げることは出来ない。俺たちは、覚醒者を捕らえることに特化したプロ。
問題なのは、自分達がはめられたと気付きながらも、まだ逃げずにこの会場にいる者たちだ。彼らには、絶対的な自信がある。俺達を足下でうろちょろしている蟻だとたかをくくっている。
俺は、自分の心臓を思い切り叩いた。意識が飛ぶほど強く。次第に溢れ出す、この力。仕事仲間に聞いたら、あの薬で覚醒者と同等の力を得ることが出来たのは、俺以外にいないらしい。他は、すべて副作用で死んだ。
これ以上にないハイリスク、ハイリターン。
眠っていた力を爆発させ、相手に突進した。
まず、隣のテーブルで葉巻を吸っている爺さんの頭を掴み、思い切りぶん投げた。首から下だけが壁にめり込み、死んだことに気付かない間抜けな頭は、まだ俺の手の中に残っていた。
まず、1人………。
俺に向かってくる若い女の覚醒者。
「おそい……」
俺の目には、まるで静止画。アクビを噛み殺しながら、竹を割るように真っ二つにソイツの胴体を裂いた。悲鳴だけが、いつまでも俺の耳を不快にさせた。
残るは、1人……。
初老の男。見た目は、気弱そうで。人を襲う覚醒者には、見えない。でも俺には、今までの雑魚とは違う。
……何か特別な力を奴から感じていた。
「強いですね~。若いって良いなぁ。惚れ惚れする」
「……………」
俺は、奴の正面に立ち、殺すタイミングをうかがう。
「どうしました? 私も殺すつもりなんでしょ?」
「…………あんた………何者だ?」
「ハハハ、私はただの老いぼれですよ。掘り出し物があったら、可愛い孫の土産に買おうと思いましてね~」
「クズが」
俺は、左手に意識を集中させた。奴との距離をつめ、ソイツの心臓に突きさ……。
す………………。
「ほ~。なかなかの手刀。銘刀、銘刀」
枯れ枝のような奴の細腕に掴まれた左手。ビクともしない。
「お若いの。アナタは、確かに強い。強いが、ただそれだけだ」
ビュッッ。
床にめり込む顔面。
速すぎて、何をされたか分からない。
気絶する前に見た、俺を見下ろす奴の顔。
久しく忘れていた『絶望』の二文字を思い出した。




