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月ノ獣  作者: カラスヤマ
40/61

3ー5

腕を枕にして、既に寝息をたてている未来。彼の前世は、ナマケモノに違いないと確信する。それにしても、未来は異常なほど良く寝る。学校にいる時も大抵寝ている。教室にいない時は、学校の屋上で寝ている。三度の飯より睡眠をとる男だ。


ほんと、どうしようもない奴。しかし、こんな奴だが女子にはモテる。彼の顔は、モデルのように整っているし、背も高い。極めつけは、普段寝てばっかいるくせに学校のテストでは学年一位と信じられないような好成績を連発している。悔しいが、僕の頭では彼の足元にも及ばない。未来は、僕とは違い、塾にすら行っていないのに。


昼休みになって、隣のクラスのナナが昼食を持って僕の席に来た。最近、昼飯はナナと一緒に食べるようになっていた。正直、クラスの冷ややかな視線もあるし、僕は一人で食べたいのだが。勿論、そんなことは本人には言えない。



「ねぇ、ナオ。今日、一緒に帰らない? 帰りにさ、ゲーセン行こう。私さ、欲しいヌイグルミがあったんだよ。また、ナオに取ってもらいたいしさ」



はぁ、また小遣いがなくなる。ナナの家は金持ちなんだから、自分でお金出せばいいのに。毎回、僕がなけなしの金を使い、ナナの欲しいものを取っている。僕たちは、週に二回のペースで近所のゲーセンでUFOキャッチャーをしていた。



「放課後になっても先に帰らないでね。もし、いなかったらナオの家まで行くから。逃げるなよ」



「分かってるよ」



はぁ。ほぼ脅迫だし。


 


隣の席では、まだ未来が寝ていた。さすがに、昼飯抜きは可哀想だ。僕は、未来の体を激しく揺すった。



「う~ん、うん? あぁ良く寝たぁ。おはよう、ナナちゃん。今日も可愛いね」 



「なぜ、僕を無視する?」



「朝から寝てたのか、お前は。相変わらず、どうしようもない男だな。まったく」



「ハハ、そうだよ。僕は、どうしようもなくバカで一途な男さ」



「一途?」



「ナナちゃんに惚れてるってこと。あぁ、恥ずかしい」



自分で言ってて、何が恥ずかしいだ。はぁ、こんな男よりバカだなんて。世の中不公平だ。間違ってる。



「何度言ったら分かるんだ。私は、ナオしか好きにならない。お前じゃ、ダメなんだよ」



「そんな悲しいこと言わないでよ。はぁ、悲しいな。そして……眠ぃ」



「どこ行くの?」



「この悲しみが消えるまで、屋上で寝てくるよ。ナオ、僕は君が心底羨ましいよ。ナナちゃんの心を独占してさ」



独占するつもりは、全くないんだけどね。ナナ自身、好きって感情がイマイチ分かってないんじゃないかな。肩を落として、教室を出て行く未来。その背中が、ひどく小さく見えた。



「なんなんだ、アイツは。良く分からん。私の苦手なタイプだな」



「でもさ、未来は顔も頭もいいよ。女として、惹かれないの?」



「全ッ然! 冗談だろ。ミジンコほども惹かれないね」



「そうなんだ」



そのミジンコより成績悪いのか、僕は。


米粒を一つも残さず自分の弁当を食べ終わったナナが、買ってきたお茶と一緒にいつものように茶瓶から取り出した『赤いカプセル』を一粒飲み込んだ。僕は、何気なく教室を見渡す。ナナと同じように茶瓶から赤いカプセルを取り出して飲んでいる生徒が五人はいた。この中学に入学してからほぼ毎日僕は、この光景を目の当たりにしている。



「あのさ、その赤いカプセルって健康サプリなんだよね。ずいぶん長い間流行ってるよね。僕さ、気になって薬局やコンビニとかで同じものを探したんだけど、全然見つからなくてさ」



「これは、ナオには関係ないものだよ。だから、ナオは気にしなくていい。すっごく、苦くてマズイしさ」



「ふ~ん。それ飲むと体調良くなるんでしょ?」



「これについては、もうおしまいっ!」



「えっ、でも。みんな飲んでるし、僕も一度ぐらい試してみたい。一粒ちょうだいよ」



「何度も同じこと言わせるなっ! お尻ひっぱたくよ、いい加減にしないと」



ナナは、立ち上がると左手をブンブン鞭のように左右に振っている。この歳で、しかも教室でお尻叩かれたんじゃ、洒落にならない。本当にやりかねない、その行動力が恐いのだ。



「分かったよ。もう言わないよ」



僕は、仕方なく頭の隅にこの関心を封印した。



放課後。 


午後の授業を軽く受け流した僕は、教室で一人ナナが来るのを待っていた。


 


「遅いな、何してるんだろ」


僕は、ふと隣の空いた席を見た。未来の席は、もちろん無人で。今度は、窓の外を見る。雲行きが大分あやしくなっている。雨が降るのも時間の問題だろう。一度気になり出すと、もう自分ではその悪い予感を追い出すことが出来なかった。今も学校の屋上で寝ているであろう友達が、雨に濡れた姿を想像する。



「仕方ないな。起こしに行くか」



生徒は、立ち入り禁止となっている学校の屋上。そこへ続く階段は、薄く埃が積もっていた。未来の歩いた跡をなぞって僕も静かに歩いていく。



カツッ、カツッ、カツッ。


カツッ、カツッ。ギィィィィ……。


ガッシャンッ!



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