表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第4王子は中途半端だから探偵することにした  作者: kkkkk
第5回活動報告:仮想通貨の詐欺集団を捕まえろ
98/294

ジャービット・コイン(その2)

(2) ジャービット・コイン <続き>


内部調査部のミーティングが始まった。

俺が部長なので、まず調査の方針をメンバーに伝える。

どうせ方針転換することになるだろうが、メンバー間での共通認識はあった方がいいだろう。


「今回は、暗号資産の調査をすることになる。まず、一般的には『仮想通貨』と言われているけど、国内の正式な文書では『暗号資産』の名称を使っている。だから、部内での呼び方は暗号資産に統一してほしい。それで、数年前から暗号資産取引が流行っているけど、いろいろ問題もあることは、みんなも知っているよね?」


「暗号資産を発行している会社が倒産したり、ハッキングで顧客からの預り資産が流出したり、といった件ですよね?」とロイが聞いてきた。


「その通り。一時期ほどではないけど、暗号資産に投資したい人はまだ大勢いる。何となく儲かるイメージがあるから。内部告発ホットラインに情報提供してきた告発者は『詐欺じゃないか?』と書いていた。世界中でいろんな暗号資産が発行されている。全部とは言わないけど、中には詐欺もあるんじゃないかな」


「あの、ちょっといいですか?」とミゲルが言った。


「何かな?」


「私は暗号資産のことをよく知らないのですが・・・・。そもそも何のために暗号資産が存在するのですか?」とミゲルが俺に聞いてきた。


「もともとは、世界中で自由に決済できる通貨を作りたかったと思う。米ドルやユーロなど信用力のある通貨は価値が安定しているから全世界で決済に使用できる。でも、ジャービス王国のような小さな国の通貨は価値が安定していないから対外的な決済で使用できない。他国の企業がジャービス・ドル(ジャービス王国の通貨)を受け取っても、使えないからね」


「そうですね」


「それに、もしジャービス王国内または周辺国で戦争や紛争が発生したら、一気にジャービス・ドルの価値は下がってしまう。つまり、弱小国の場合は、『自国の通貨を持っているよりも、暗号資産(仮想通貨)を持っていた方が安心』と考えるはずだ」


自分で悲しくなるような説明だ。弱小国のジャービス王国で暗号資産を保有する理由としては、間違ってはいないが・・・。


「じゃあ、ジャービス王国は国を挙げて暗号資産取引を推奨するのですか?」と今度はスミスが聞いてきた。


「そんな訳ないじゃない。暗号資産はどの国にとっても厄介者でしかない。自国通貨は国が管理できるけど、暗号資産を国民に保有されると国が管理できない。それに、国からキャピタルフライト(資本逃避)しようとする人が大量に発生すると、経済が立ち行かなくなってしまう」


「とはいえ、暗号資産は他国でも取引されています。ジャービス王国では、暗号資産の取引を禁止するだけの理由はないから容認している、ということでしょうか?」とスミスが再び聞いてきた。


「その通り。さすが、スミスは鋭い。本音を言えば、『暗号資産は何とかして潰したい』と思っている。だけど、潰すための積極的な理由がないから、手を焼いている状況だ。他国も同じだと思う」


「何か対策を採っているのですか?」と今度はロイが聞いてきた。


「微力ながら幾つかの対策はしているよ。一つは税率かな」


「税率ですか?」


「ジャービス王国では、個人の上場株式の譲渡所得と配当所得の税率は、源泉分離課税の場合20%だ。つまり、上場株式の売買や配当から、どれだけ利益が出ても税額は利益の20%で済む。でも、暗号資産の所得は雑所得に区分されるから他の所得と損益通算できない。更に、累進課税を採用しているから税率は最大45%まで膨らむ」


「20%と45%はかなり違いますね」


「そうだね。国としては暗号資産取引を広げたくない。だから、税率に差を付けているんだ」


「暗号資産は各国から嫌われているのですね」とロイが言った。


「そうだね。大きな声では言えないけど」


俺は暗号資産のことが好きではない。


説明に熱が入ってしまったようだ。


<続く>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ