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第4王子は中途半端だから探偵することにした  作者: kkkkk
第9回活動報告:SDGs詐欺師を捕まえろ
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SDGs詐欺の手口を探れ(その2)

(2)SDGs詐欺の手口を探れ <続き>


 資産運用会社の説明をしていたら、すっかり長くなってしまった。ジャックの話に戻ろう。


 ジャックは俺たちをブラッドリーの会議室に案内した。その会議室は東洋の庭園をコンセプトに作られたようで、会議室の窓から小さな滝のようなものが見えた。


 ミゲルがポールに「すごいお金が掛ってそうだね」と小声で言っている。

 ジャックはミゲルとポールの会話に気付いたようで「当社は資産運用会社なので、顧客から見えるところはお金を掛けないと、顧客が安心してくれないんです」と言った。


 ジャックの言いたいことは分かる。資産運用会社は基本的に超大口の機関投資家しか相手にしないから、オフィスの内装にはもの凄いお金を掛ける。もし、見込顧客である機関投資家に「しょぼくれた会社だな・・」と思われたら資金を預けてもらえないからだ。


 俺はさっそく本題に入ることにした。


「内部告発ホットラインに連絡いただいた件で伺いました。上場企業の虚偽のESGと詐欺についてとのことですが、詳しく話を聞かせていただけませんか?」と俺はジャックに言った。


「まず、前提事項として、ジャービス王国ではESGに関して明確なルールが設定されていません。だから、会社によっては虚偽とは言い切れないまでも、かなり誇張して実績を公表している事例があるように思います」


「虚偽の開示をしても罰則はないし、グレーな開示事例が多いという意味でしょうか?」


「そうです。あくまで私の推測ですが、かなりの数の上場会社がグリーンウォッシングをしていると思っています」


「ESG評価機関がスコアを公表していますよね? チェック機能が少しはあると思いますけど」


「もちろん、ESG評価機関がESGスコアを付けていますが、あくまで定量的な情報に基づいて評価を行っています。それに、ESG評価機関は会社が公表する内容の真偽までは検証していません」


「ESGスコアを鵜呑みにはできない、そういうことですか?」


「そういうことです。だから、当社で運用しているファンドや投資一任勘定の投資先を選定する際には、ESGスコアを参考にするものの、会社の開示内容が怪しそうな先を除いています」


―― 怪しそうな先か・・・


 俺はまず、グリーンウォッシングをしている可能性が高い上場企業をジャックに聞いてみ有ることにした。


「グリーンウォッシングが行われている可能性が高いは、総論としては理解できます。実際に私もそう思っています。それで、具体的に怪しいと思う上場企業はありますか?」


 俺がそう言うと、ジャックは少し考えてから言った。


「そうですね・・・。この企業の統合報告書を見て下さい」


 ジャックはそう言うと、手許のタブレットに表示されている統合報告書の該当ページを、会議室のモニター画面に映し出した。俺は『でっかいモニターだな・・・』と思いながら画面を見つめる。


 モニター画面に表示された統合報告書には『2050年カーボンニュートラルの実現に向けて』と題して、その上場企業の環境問題に対する取り組みが紹介されている。

 この企業は工場や本社で使用している電力について、主に再生可能エネルギーの比率を上昇させてCO2排出量を削減することを予定しているようだ。具体的には、太陽光発電施設を導入することによって工場や本社で使用している電力使用量を徐々に再生可能エネルギーに切り替える計画、と書いてある。


「それで・・・、この会社の環境対策はどの辺りが怪しいのでしょうか?」


「例えば、この会社は太陽光発電施設を自社で保有していくことで、再生可能エネルギーへの切り替えを計画しています。そのためには、会社の消費電力から計算すると3MWの太陽光発電施設を作る必要があります。メガソーラー発電所です」


「そうですね。統合報告書には3MWと書いてありますね」


「1MWの太陽光発電施設はどれくらいの大きさかご存じですか?」


 数年前に総務省で太陽光発電施設への投資を検討したことがあったから、俺はその時の知識を思い起こした。


「1MWだとサッカー場2つ分くらいですか?」


「よくご存じですね」


「ええ、数年前に総務省で太陽光発電施設への投資を検討したことがあったのです」


「なるほど・・・。それで、1MWの太陽光発電所がサッカー場2つ分だから、3MWの太陽光発電所はサッカー場6個分の施設が必要です」


「はあ、そうですね・・・」


「この会社は保有する工場の屋根に太陽光パネルを設置していくことを計画しています。ただ、実際に現地に行って見てきたのですが、工場の屋根ではサッカー場1つ分の面積も確保できません。さらに、この会社の工場の敷地を足したとしてもせいぜいサッカー場1~2個分です。3MWの太陽光発電設備が設置できるはずがありません」


「つまり、会社は消費電力を切り替えるだけの太陽光発電施設を設置するつもりはない、そういうことですか?」


「設置するつもりがあるかどうかは分かりません。ただ、私が会社の担当取締役と面談した際に『工場の屋根に設置していけば、予定通り達成できると思っています』と言っていました」


「担当取締役は状況を知らない、そういうことですかね?」


「そう思います」


―― 雑な会社もあるもんだな・・・


 その時の俺は、それくらいの認識だった。


<続く>

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