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若かりし記憶(その6)

(6)帰ってきたら、また会おう


 私はルイスに上場することを提案し、検討してもらうことにした。

 ルイスは『考えてみる』と言ったが、前向きな反応には見えなかった。

 あの様子だと結論が出るのに時間が掛かりそうだ。2~3日後にルイスに連絡して状況を聞くことにした。


 打ち合わせが終わったので、カルタゴ証券に戻ろうとしていたら、アナンヤに引き留められた。

 私はアナンヤの近況を知らなかったから、アナンヤにどう話しかけていいか分からなかった。その状況を見たアナンヤは私に言った。


「私が留学する時、ホセは『帰ってきたら、また会おう』って言ったよね。だから来てくれたの?」


 私はあの時『帰ってきたら、また会おう』とアナンヤに言ったのは覚えていた。

 でも、アナンヤがジャービス王国に帰ってきたことは知らなかった。

 事実に即した答えは『No』だ。


 でも、私は空気が読める。

 この状況で正解と思われる回答をした。


「そうだよ。あの時『また会おう』って言ったよね」


「ありがとう」とアナンヤは言った。


 私は内心ほっとした。

 もし、『私が帰ってきたのを伝えてなかったけど、どうやって知ったの?』とアナンヤに言われたらどうしようかと思っていたが、その質問はなさそうだ。


 私は去り際に「また、前みたいに連絡してもいいかな?」と聞いた。


 そうしたら、アナンヤは「どうでしょう?」と私に言ったのを覚えている。

 もう40年前の話だ。懐かしい・・・



(7)そして現在


 仕事が終わって総務省から自宅に帰ってきた。


 今日も疲れた・・・。

 風呂に入ってビールでも飲もう!


 今日はネール・マテリアルの『牛歩戦術』について部長と話していた。


 部長は私に「いいぞ、その調子だ! もう少しでダウラファンドの心が折れるよ」と言った。


 確かにその通りだと思う。

 ダウラファンドは投資家から資金調達しているから、契約で定められた投資可能な期間がある。

 ネール・マテリアルへのTOB(株式公開買付け)が長引くほど、投資可能な期間が削られていくからダウラファンドは不利になる。


 正直に言うと、初めに『牛歩戦術』を聞いたときは『何だ?このふざけた作戦は?』と思った。

 でも、今思えばこの作戦は有効だ。この上ない効果を上げている。


 私がネール・マテリアルへのTOBの対応を考えていたら妻が部屋に入ってきた。


「あら、早かったのね。飲み会は無かったの?」


「今日は何も無かったから、そのまま帰ってきた」


「そう言えば、部長は何て言ってた?」


「『今のまま牛歩戦術を続ければいい』と言ってたよ。『もう少しでダウラファンドの心が折れる』ってさ」


「はははー。あなたの部長、面白いわねー」


「そうだね。あの兄弟は、他人に嫌がらせするのが好きらしいよ」


 私はそう言って、冷蔵庫に缶ビールを取りに行った。


「アナンヤも飲むかい?」


「後にするわ。まだ仕事が残っているからね」


 アナンヤはそういうと、自宅の隣にあるネール・マテリアルに戻っていった。


<終わり>

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