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若かりし記憶(その2)

(2)第1号案件の成約


 私はアナンヤの話を聞いて、ネール・マテリアルの新規事業の概要をある程度は理解できた。

 ただ、半導体関連設備はジャービス重工では製造していなかったので、私にはネール・マテリアルの新製品に需要があるのかは分からなかった。

 ジャービス重工の取引先にも半導体テスタを作っている会社はあったから、その取引先が興味を持てばネール・マテリアルを紹介すればいい、と私は考えた。

 ジャービス重工の下請け企業同士が協業できれば、ジャービス重工の取引にもプラスに影響するとの打算からだ。

 アナンヤが作った新製品について、私は技術的なことが理解できなかった。だから、新製品の性能を数値で教えてもらって、私が幾つかの取引先に聞いてみることにした。


 その後、何件かの取引先にネール・マテリアルの新製品の性能情報を伝えると、そのうちの1社が興味を持った。社長にネール・マテリアルを紹介してほしいと言われたので、私は面談終了後、ネール・マテリアルに寄ってルイスとアナンヤに一緒にその会社に訪問してほしいと伝えた。


 後日、私はルイスとアナンヤを連れてその会社に訪問して、2人を社長に紹介した。

 その後何度かやり取りを重ねて、ネール・マテリアルの新製品は正式にその会社の新製品(半導体テスタ)に採用されることになった。


 偶然とは言え、ネール・マテリアルの新事業の最初の売上のきっかけを私が作った。

 これにはルイスとアナンヤがとても喜んでいた。

 ジャービス重工で褒められたことのない私は、純粋に嬉しかった。ただ、ジャービス重工の仕事ではないので、残念ながら私には何のメリットもなかったのだが・・・


 第1号案件が決まったのを祝して、ネール・マテリアルで打ち上げをすることになった。

 当然のように功労者の私は打ち上げに呼ばれた。


 参加した打ち上げで、私はアナンヤと話しをした。年齢は私の方が1歳年上だった。

 アナンヤと私は年齢も近いので、打ち上げが進むにつれてお互いにタメ口で会話をするようになっていた。


 話を聞くと、アナンヤはジャービス王立大学に通う大学院生で、ネール・マテリアルの職員ではなかった。

 大学院の研究過程で発見した製造方法を試すために、アナンヤは父親の経営する会社の新製品開発に関わったようだ。


 アナンヤは大学院を卒業後、ネール・マテリアルで働くかは分からないと言っていた。資金が潤沢にないネール・マテリアルでは新製品開発は限られる。銀行から新規事業資金を借り入れるのは、赤字体質のネール・マテリアルでは期待できないとも言っていた。多くの中小企業が抱える問題だ。


「ネール・マテリアルみたいな中小企業が資金調達するには、どうすればいいと思う?」と私はアナンヤに聞いた。


「そうね。うちのような赤字体質の中小企業は、銀行から大きな金額を借りるのは難しい。だから、やっぱり出資かなー」


「出資か・・・。上場していない中小企業に出資する人はいるのかな?」と私はアナンヤに聞いた。


「分からない。ジャービス王国では少ないけど、他の国では中小企業にベンチャーキャピタルが出資しているみたい。ベンチャーキャピタルが中小企業に出資する金額は少ない。だけど、銀行借入のように返済しなくてもいいでしょ」


「返さなくていいお金か・・・」


「ジャービス重工は中小企業に出資しないの?」


「自社製品の製造にその会社が必要な場合、子会社化するケースはある。でも、少額出資はしないかな。僕はそういう部署にいないから詳しくないけど」


「ベンチャーキャピタルの出資が増えてベンチャー企業が活躍できるようになれば、ジャービス王国の産業も飛躍的に伸びると思う。今すぐは期待できないけどね」とアナンヤは言った。


 私は大企業で働いていたから、ベンチャーキャピタルの知識はほとんどなかった。でも、アナンヤから聞いた『ベンチャー企業を活躍させる』というフレーズになぜか興味を持った。


 私はネール・マテリアルの打ち上げがきっかけとなり、ベンチャーキャピタルのことを調べてみようと思った。


<続く>

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