表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第4王子は中途半端だから探偵することにした  作者: kkkkk
第6回活動報告:ハゲタカファンドと戦え
153/294

持ち込み企画(その2)

(1)持ち込み企画 <続き>


「それでは、私から始めます」そう言って、ミゲルが持ち込み企画について話し始めた。


「私の持ち込み案件は『おじさんへの意識改善プロジェクト』です」


ミゲルが言った瞬間にルイーズが×のプレートを上げた。


ミゲルはルイーズの×を一瞥いちべつしたものの、平静を保って話しを続ける。

どうやら、全員が×プレートを出すか、本人の心が折れるまでプレゼンし続けるルールのようだ。


「近年、ダイバーシティ(diversity :多様性)を重視する傾向が世の中に広がり、人種による差別撤廃、女性の地位向上、LGBTQ(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Questioning)の社会的地位も改善しています。会社に提出する履歴書には人種、年齢、性別を書かなくなりましたし、同性婚も認められるようになりました」


「知ってる!」と誰かが言った。


「その一方、おじさんはどうでしょうか?」そう言ってミゲルはメンバーを見渡した。


ロイが×のプレートを上げたが、ミゲルは見なかったフリをしてプレゼンを続ける。


「世の中には様々なハラスメントが氾濫しています。パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、モラルハラスメント、マタニティハラスメント。弱者を守るためにハラスメントへの対応は必要だからです」


「そうだ!」と誰かが言った。


「一方、おじさんは、怒られることはあっても、守られることはありません。例えば、誰かがおじさんに嫌がらせをした場合、何ハラスメントなのでしょうか?」


ミゲルはメンバーを見渡した。今度は×のプレートの数は増えなかった。

他のメンバーはとりあえず様子見だ。


「この世の中には『おじさんには何を言ってもいい! 差別してもいい!』という暗黙の認識があると思うのです。娘が年頃になってくると、おじさんの洗濯物は別に洗われるでしょう?」


「臭いからだよ!」どこからか野次やじが飛ぶ。


ミゲルは野次に負けずに話を続ける。


「おじさんは匂いが臭い。おじさんはいびきがうるさい。昔は親子揃って川の字で寝ていたのに、今は寝る場所も別です」


「臭いからだよ!」どこからか野次が飛ぶ。


「極め付けは熟年離婚です。今まで家族のために一生懸命に働いてきたのに、定年したら離婚届を突きつけられるのです。諺で『お金の切れ目が縁の切れ目』と言いますが、酷いと思いませんか?」


「ずっと離婚したかったんだよ!」どこからか野次が飛ぶ。


またミゲルはメンバーを見渡した。

スミスとポールは悲しい目をしたミゲルを見つめている。

この2人はミゲルの味方かもしれない。


「女性ばっかり優遇されていませんか? LGBTQばっかり優遇されていませんか?」とミゲルは言った後、少し間をおいてプレゼンを続けた。


「おじさんだって、チヤホヤされたいんです!」


※ミゲルの個人的な意見です。


「金払ってキャバクラ行けよ!」どこかから野次が入った。


ミゲルは野次に負けずに、話を続ける。


「若い時は人間としての尊厳はあったはずなのに、おじさんになると人間として扱われません。部長、今はいいですよ。でも10年したら、立派なおじさんです」


ついに俺はミゲルの話に巻き込まれた。いい迷惑だ。


「部長は『おおじ(王子)さん』と言われていますよね? でも、10年したら『おじさん』と呼ばれます。『お』が一つ無くなっただけですが、意味合いが全然違いますよね?」


※正しくは『おおじ』ではなく『おうじ』です。


既に俺は陰で「おじさん」と言われている。


俺は辛抱強くミゲルの話を聞いているのだが、企画の趣旨がよく分からない。

そろそろ、軌道修正するか・・・


「ミゲルの気持ちは分かるよ。大変だったよね。それで、ミゲルは何を調査したいの?」と俺は優しくミゲルに聞いた。


「おじさんを人間として認めてもらうための調査です。おじさんの尊厳を取り戻すための方策を調査によって明らかにし、実施すべきではないでしょうか?」


俺はついに×のプレートを上げた。

ガブリエルもつられて×のプレートを上げる。


この時点で過半数の反対となったため、ミゲルの持ち込み企画は却下となった。

だから俺は宣言した。


「却下!」


「どうしてですか?」必死に食い下がるミゲル。


「だーかーらー、金払ってキャバクラ行けよ!」また、どこかから野次が入った。


ミゲルは目に涙を溜めている。ついに心が折れたようだ。


「今の野次は俺じゃない。でもさ、おじさんの待遇を改善するのは、内部調査部の仕事じゃない。ミゲルが頑張っていれば、みんなも認めてくれるはずだよ」


俺はミゲルに優しく言った。

これ以上ミゲルに酷いことを言うと、本当に泣いてしまう・・・


― 持ち込み企画のプレゼンは人の心を破壊する


俺は今になってこの持ち込み企画の危険性を悟った。


メンバーの信頼にヒビが入ることは避けるべきだし、何よりも大人な対応をするべきだ。

それに、俺たちは有意義な会議をしなければいけない。

だから、俺はメンバーに言った。


「みんな、さすがに今の野次は言い過ぎだと思う。ミゲルも頑張って考えたはずだ。これから提案する人のためにも、野次を飛ばすのはやめないか?」


メンバーは下を向いて黙り込んだ。


それでも俺は、俺の願いがメンバーに通じたように感じた。


<続く>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ